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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第106話「ホウライ伝説 終世 七日目 ⑥ 」

「悪食=イーターで処理できるのは、500年分の知識×3」

「……!」


「100年分と設定したのにも拘らず、あの手この手で拡張しまくってるのは、流石と言う他ないね!」



 使用している悪喰=イーターの知識リソースは、


 ・ヴィクトリアに掛ってる『時の権能』

 ・那由他が使ってる権能『音階の権能』『光影の権能』   

 ・蟲量大数が使ってる権能『風甚雷の権能』『空間の権能』


 ・悪喰=イーターをそれぞれに展開するリソース

 ・ヴィクトリアが愛烙譲渡を完全に使いこなしている以上、そこにも知識リソースを割いている。

 そして、那由他はグラムを悪喰=イーターで作り、覚醒までさせている。


 ……なんだ、ギリギリじゃん。

 さっさとフルルードを出さないのも、知識リソースが足りなくて出せないからか。



「段々見えてきたよ。お前らの考えている事が」

「なんじゃの?」


「知識リソースを使い果たしてジリ貧だろ、那由他。ぶっちゃけ、この場じゃ一番弱い」

「……ほぅ?そう思うかの?」


「ハッタリは止せよ。キミ程の記憶力は無くとも、動きに精彩がないのくらいは分かってるさ」



 那由他の作戦は単純明快。

 殺す順番をヴィクトリア→蟲量大数→那由他の順が最適だとボクに思わせ、行動を縛って罠に嵌める。


 コイツらはヴィクトリアに防御力を集中させ、絶対に失えない作戦の要だと誤認させた。

 だが実際は、ヴィクトリアがいると那由他も蟲量大数も本気を出せない。

 だからこそ、ボクにヴィクトリアをワザと討たせることで、悪喰=イーターの知識リソースを解放、一気に勝負を決めるのが狙い。



 余ったリソースで、那由他はフルルードを召喚するだろう。

 すると、蟲量大数の能力も大幅に上昇する。


 現在は、ボク100、那由他25、蟲量大数25、ヴィクトリア25となっている能力値が、ボク100、那由他120、蟲量大数25となり、那由他は世界最強の権能をサポートして再適用してくる。


 ボク100、那由他120、蟲量大数120。

 その後、神像平均を適応しても、それぞれ113ほど。

 そうなると二対一の戦いだ。瞬殺されるに決まってる。



「かなり無理してるだろ?顔色悪いぜ」

「そうかの。まぁ、確かに腹は減っておる」


「それはいつものことだろうがッ!!」



 やはりキミは判断ミスをしたようだね、那由他。

 ヴィクトリアがいる限り、キミらは命と時の権能でいくらでも再生できる。

 だから彼女を先に殺すしか、ボクには選択肢がない。


 ……そうボクが考えるって、思ってるだろ?


 両手に作った二本の神愛聖剣・黒煌。

 命の権能を費やす為に作った剣に対抗する為に、時の権能で補強してるようだが関係ないんだ。



「これがボクの本気。知識も過去も関係ない、前人未到の神の御技」



 神は引き絞りながら振りかぶった両腕に、複数の過去最強をインストールする。

 それは、かつての那由他が、蟲量大数が、神自身が行使した、世界を終わらせるに足る一撃。

 その掛け合わせ。



「くッ!!う”いッゃあ”あ”あ”あ””ッッ!!」


「やめてぇぇぇぇッ!!」

「やらせはせん。ぬぅんッ!!」



 悲愛を叫ぶヴィクトリアの声が差し込まれるまで、その蹂躙が止まらなかった。

 

 振り抜かれた神の双撃、それが向かったのは那由他の首筋。

 首皮を数枚切り裂いた所で、那由他が持つアナグラムの迎撃が間に合った。

 だが、押し返すどころか、現状維持すら、ままならなかったのだ。



「《那由他ちゃんを癒して、命の権能ッ!!》」

「う”ぃ、うぅぃた……ぃ」

「くっくっく、那由他の断末魔なんて始めて聞いたぜ。ちゃんとタヌキしてるじゃん!」



 首の中ほどまで進んだ刃を返し、神は頬笑んだ。

 思い通り以上の成果を得たからだ。


 愛烙譲渡を持ヴィクトリアに強く拒絶されれば、剣を振り抜く腕から力が抜ける。

 そこを蟲量大数の拳が押し返した。


 これが攻防の顛末。

 那由他の首に刃を突き立てるという、数千年ぶりの神の勝利。



「こぷっ……、儂を吐かせるとはの。その代償、高くつくじゃの」



 命の権能によって再生していく那由他は口から零れる血を拭い、忌々しそうに神を睨みつけた。

 那由他は何よりも食を重んじている。

 世界中の食材を食いつくし、新たな出会いを求め、別の世界へ渡って来てしまう程に。


 そんな彼女の口から、血液とはいえ、体外へ吐き戻させられた。

 これは食の否定という、那由他にとって絶対に許せない禁忌だ。



「口直しじゃの。《世界を齧れ、星噛=イロード》」

「待て那由他――!」



 ケーキを齧った後に残されるような、噛みちぎられた空間。

 それが幾つも……、数千、数万単位で同時に発生した。



「那由他、何を考えている。自ら権能の処理を圧迫してどうする?」

「状況を敵にばらすフルパワー馬鹿に言われたくないじゃの。回復せねば、どっちにしろジリ貧じゃ。複製した命の権能では神愛聖剣に対抗できておらぬ」


「ぬぅ……だが、我が輩の権能が消えたぞ?」

「欲しけりゃ自分で奪ってくるのが摂理。儂ですら、たまには自炊をするのじゃから」



 肩で息をする那由他の消耗は激しい。

 肉体は殆ど癒えているものの、フルルードを覚醒させられる程の魔力は残っていないのだ。



「おやおや、悪喰=イーターをヴィクトリアから回収した方が良いんじゃない?」

「ちっ」


「嫌がるかぁ。だよね、そうだよねぇ!!」



 ……さぁ、フィナーレといこう。

 お別れだよ、那由他。


 今握っている神愛聖剣・黒煌は変質していて、アナグラムと打ち合えば崩壊する。

 だからこそボクは、あえてこのままでキミを攻撃しに行くよ。


 壊れたら捨てて、瞬時に剣を作り直せばいい。


 ボクならそう考えると、お前は思ったんだろう。

 だから、作り直せないように大気中の金属粒子を喰らい、濃度を著しく下げた訳だ。


 蟲量大数の焦りも、これを隠す為のブラフ。

 ボクが隙を晒した瞬間にヴィクトリアを殺し、フルルードを覚醒。

 一気に形勢を逆転するんだろ。


 ……させないよ。



「死ね、那由他ぁぁぁぁ!!」

「喰らい尽くせッ、アナグラム=ヴァニティッッ!!」



 あぁ、黒煌が壊れた。

 だがね、ボクの手は止まらない。


 なぜなら……、この右手こそ、対那由他として創造した、絶対致死の魔道具。

 神愛聖剣・黒煌が対不可思議竜である様に、お前を殺す為に創り上げた右腕なんだから。



 終末の七日間で準備をするのは、原生生物だけでは無い。

 最大の障害を取り除く為、神は左右の腕に、蟲量大数と那由他を確実に殺す性能を付与していた。

 それぞれの権能の機能を停止させるそれは、抗う術を奪う、決死の一撃。



「かふっ……」



 神の右手が、砕いたアナグラムごと、那由他の胸に突き刺さる。

 グチャリと肉をかき乱し、肋骨を破壊。

 そして、権能の入れ物たる心臓に爪を立て――。



「くすっ」

「……!!殺し、損ねたッ!?!?」



 那由他の心臓は確かに裂かれている。

 悪喰=イーターの本体が、どこにあろうが関係ない。

 確実に機能を停止できる性能を、この腕にはインストールしてあるんだから。


 だが、目の前の少女(・・)は生き長らえ、笑っている。

 まるで予定通りだと言うように。

 偽愛あいを宿した、その声で。



「お前、那由他じゃな――ッ!!」

「やっぱり……、あなたは、世界でいちばんだね」



 神と対峙している少女は、神の腕ごと自らの『命』を抱き締めた。

 決して逃さぬように。

 想い人へ、全てを託すために。

 貰った命の権能の限りを燃やしつくして、癒着する。


 褐色の肌も髪も白く染まり、少女は本来の姿に戻った。

 神の背後に立った餓鬼ガキが良く知る、世界で最も愛らしい姿へ。



「《――尽きて逝け、神よ》」



 始まりの神話開闢・アダムス。

 終わりの犯神懐疑・レーヴァテイン。

 互いを尊重し合うように水平に進む刃が食い込んだのは、想い人へ伸びる神の右手。

 皮膚を、肉を、骨を裂き、その中に秘められた性能をも絶尽する。



「ホーライィィッッ!!!!」



 神話開闢・アダムスの能力は『始まりの絶尽』だ。

 過去のインストールも、能力の平均値化も、『始まり』がなければ行えない。


 そして、犯神懐疑・レーヴァテインの能力は『神化の疑心』。

 神が持つ全知全能性の否定は、世界を新たなる時代へ進ませる。



「ほーらいちゃん……」

「やっとだ。やっと……、お前を抱けたぜ。ヴィクトリア」



 激昂した神はヴィクトリアに癒着した右手をホウライへ叩き付けていた。

 奇しくもそれが、永遠の別れを覚悟した二人を添い遂げさせる。


 対那由他の性能が絶尽されていようとも、蓄えられたエネルギーまで尽くし切れた訳ではない。

 世界最強の力で振るわれた拳は、それだけで、人間の肉体を容易に破壊する。



「悪い、随分と待たせちまった」

「怒ってないよ。だって、約束を守ってくれたから」



 タイミングなど計りようがない、ぶっつけ本番だった。

 それでもホウライが剣を振るい神に手傷を負わせられたのは、ホウライの高い技量と、ヴィクトリアの愛が聞こえたから。


 全てはこの一瞬。

 ヴィクトリアが戦いに参戦したのは、この奇襲を成功させるため。



 **********



「ヴィクトリアを那由他に化けさせ、神と戦わせるだと……?」



 悪喰=イーター内を通じて交わされた作戦会議にて、蟲量大数が苦言を呈した。

 それは不可能と理解不能が混じった言葉だ。



「それくらいやらねば、今回の神は騙せんじゃの」

「貴様が言うのならそうなのだろうが……、ヴィクトリアは戦えん。ましてや相手が神では無謀にも程がある」


「何の為に儂がいると思っておる。アナグラムを貸し、惑星重力制御で身体を操作すればそこそこ戦えるじゃの」

「……だが、まだ疑問がある。神は造物の性能を見抜けるだろう。程度の低い偽造は見破られるぞ」


「じゃから、悪喰=イーターのリソースを殆ど使い、時の権能を可能な限り再現する。金鳳花でも、白銀比でもない、始原の皇種・金枝玉葉の権能をの」



 **********



「こんのッ!!タヌキがぁああああああああああッ!!」



 神の読みは当たっていた。

 ヴィクトリアの殺害こそ、那由他の叡智を結集させた、とっておきの罠。

 だがそれは、神の想定の上を行く邪知暴虐だったのだ。


 ヴィクトリアと那由他の姿を入れ替えたのは、時の権能の認識錯誤を駆使して、神に戦況を誤認させる為。

 リソース不足を演じジリ貧の戦いだと錯覚させたのも、那由他が悪喰=イーターを手放していると思わせたのもそうだ。

 さらに、愛烙譲渡の効果で声を、光影の権能で姿を、空間の権能で移動速度を変え……、この戦いで使用された能力の全ては布石。

 神の勝利(ヴィクトリア)を失わさせる為の仕掛けだった。



「なぁ、ヴィクトリア……」

「なに、ほーらいちゃん」


「カッコ良かったか、俺」

「うん。世界で一番、ね」



 落ちてゆく二人は頂きに君臨する、二匹の神獣を見上げた。

 彼らが最後に見たのは、十本の神殺しと悪喰=イーターを融合させた超大剣、『神飲=フルルード』を振るう那由他。

 そして、虹黄金に輝いた巨大な皇蟲だ。



「そっか。そりゃ……、よかっ……」

「おやすみなさい。でも、今度は私も、いっしょ……」



 抱き合う二人の姿が、温かな光の中へ飲みこまれてゆく。

 造物主で作った環境では、命の権能を持たないホウライは長く生きられない。



 これでいい。

 これこそが、世界の残された勝機。



 ヴィクトリアの最後の役目は、ホウライと共に自らの命を手放すこと。

 最も信頼する『世界最強』へ、勝機と未来を託すこと。



「……愛してるよ。ほーらいちゃん」



 白くて幼い少女が泣く。

 愛を宿した、その声で。


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