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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第104話「ホウライ伝説 終世 七日目 ④ 」

 

「愛ねぇ。愛する者は主の元に召されるって言葉を知らないのかな?」



『――ひとを愛し、ひとを利する者は、天必ず之に福す。《愛玩信憑(スウィートマーダー)》』



 愛烙譲渡の神化体、『愛玩信憑』

 それはかつて、世界を一纏めにしたシアン・リィンスウィルが残した愛。


 死してなお世界存続を願い続ける祖父・カーラレスへ愛を返す為、彼女は、自身の神の因子を愛玩動物達(ペット)に託していた。

 いずれ生まれる愛烙譲渡の所持者が、再び、世界を救えますように。

 そんな願いが込められた魔法は、う”ぃー太とルクシィアを通じて那由他へ献上され、ヴィクトリアへと受け継がれたのだ。



「それは人の言葉。神が語っていいものじゃない」

「おー怖い。愛を欠片も感じやしない」



 愛とは、他者と結び付きたいという感情だ。

 故に、愛烙譲渡の真髄は、様々な境遇で育まれた心すらも一つにする。


 愛玩信憑を発動したヴィクトリアの支配下にある生物は、互いに絶対なる信頼を抱く。

 発せられた意思をそれぞれが好意解釈し、その作戦を上方修正。

 さらに、命の権能を併用することで魂を連結、0.0001秒のタイムラグすらも生じさせない超高速意思疎通が行われるようになるのだ。


 それは、軍勢にして完全なる、個。

 束ねられた『全知全能全命』が、唯一神へ牙を剥く。



「仕掛けもバレたようだし、我が輩も混ぜて貰おうか。支援ばかりは性に合わん」



 ボッと空間が弾け、神の腹部に蟲量大数の拳が突き刺さる。

 右と左、両側から発せられたのは同一エネルギー量の殴打。

最強の物理破壊力(マキシマムダイン)』の4分の1であるそれが、神の肉体の中心、脊椎を駆け昇る。



「がっふ、腕の空間移動……ッ!?こんな――」



 空間の権能

三界次元転送枠(ウロボロス・ゲート)


 蟲量大数が使ったのは、強力な空間転送能力だ。

 使用者の体積よりも小さい物質を、摂理法則に無視して、あらゆる場所への転送を可能にする。


 これは、異空間ゲート作成に特化している、幾億蛇峰・アマタノの権能。

 神より遅い那由他の動きをサポートしていた蟲量大数は、その戦闘支援能力を自分の為にも行使する。



「我が輩好みの良い能力だ。気に入ったぞ」

「じゃからと言って、無意味に弱むし蛇を襲撃などしてみろ。次の餌食はお前じゃからな」


「ぬぅ、この権能では我が輩自身を逃がせぬか。しつこいお前相手では分が悪い」



 空間を超えて神へ降り注ぐ殴打の豪雨に、軽口が混じる。


三界次元転送枠ウロボロス・ゲート』は、通常の転移魔法と同じく転移魔法陣を作成する能力だ。

 だが、特質すべきは、転移時におけるエネルギー保持性。

 転移時に摂理法則が無視される為に、エネルギーも時間も経過減退しないのだ。



「くッ……!!調子に」



 物質が衝突する殴打攻撃は、互いの位置関係によって破壊力に雲泥の差が出る。

 それを最も適した状態へ整えるこの権能は、直接戦闘に於いて、尋常ではないアドバンテージを生み出す。



「乗るなァッ!!」



 だが、蟲量大数の両拳は受け止められた。

 血管が浮き出る程に強く握りしめ、苛立つ神が口を開く。



「がっかりだ。こんな小細工がお前らの策か?」



 神は傷一つ付いていない。

 数え切れないほどの殴打を浴びせようとも、四倍の強度を持つ肉体に仇なせるはずもなく。



「これでもダメかのー?」

「煽るな、タヌキ。お前も愛の真似ごとか?」


「……。」

「分かってんだよ、ダークマターに対抗する為のアナグラムだってのは」



 様々な手段で神を殺してきた那由他だが、神殺しを一本しか使用しないのは稀だ。

 それが十の手段で神を殺し切る設計である様に、複数の神殺しを使用するのが定石だからだ。


 だが、那由他の手にあるのはアナグラム一本。

 その役割が『神の器の破壊』であろうとも、役不足に他ならない。



「グラムは神の器……、というより創造物の破壊に特化している」

「何をいまさら」


「そしてお前のアナグラムはダークマターすら変異可能、しかも、命の権能も混ぜて生物の肉体に作用させているときた」



 神は語る。

 確かに、アナグラムはボクを切れる剣だと。

 ダークマターと同等の肉体を別の物質に変異させ、性能をリセットできるんだから当然だと。


 そして、それがどうした?と付け加えた。



「アナグラムを振る速度はボクの4分の1。それを届かせる為に蟲量大数に空間の権能を譲渡した」

「ふむ?」


「だが、肝心の空間の権能の性能が弱過ぎる。戦いを好まず、日向ぼっこしかしない蛇の権能だから当然だ」



 三界次元転送枠には重大な欠点がある。

 それは、転送できる物質が自分の体積未満であること。

 故に、蟲量大数は自身を転移させる事も、自身より巨大な物質を転移させる事も出来ない。



「戦える不可思議竜ではなくヴィクトリアを選んだのは、万が一の時に転移させて逃がす為。愛烙譲渡が消えれば戦線が崩壊するもんね」


「だが、その結果、御荷物が増えてしまった。選択を誤ったんじゃないのかい?那由他」



 神の目が捕らえたのは、ヴィクトリアの胸の中。

 彼女の中に納められた深紅色の球体、悪喰=イーター、それこそが複数存在している悪喰=イーターの本体なのだと『造物主』が告げた。



「ヴィクトリアが那由他の悪喰=イーターを持っているのは、エネルギー量を見ればバレバレ。そりゃそうだ。この全生命を飲み込むなんて、ただの人間にできる訳がない」



 ヴィクトリアの命の権能を那由他が使い、那由他の知識の権能をヴィクトリアが使う。

 確かに、それが可能な状況だ。

 だが、何の条件もなく、それができるはずもなく。



「悪食=イーターが同時に使用出来るのは、100年分の知識」


「そして今、那由他が命の権能を、ヴィクトリアが知識の権能を、そして、蟲量大数が空間の権能を使っている」


「そんな無茶を通す為に、どんだけ知識を斬り捨てたんだろうね?」



 無駄な情報を抜いて圧縮したとしても、その知識は膨大な量だ。

 権能は歴代の皇種が受け継いできたものであり、数千年の歴史の積み重ねであるからだ。


 だからこそ、那由他達が使用している権能は不完全。

 戦闘に関する全ての知識をコピーできておらず、それが三つに分けられているのなら尚更だ。


 4分の1の肉体性能で、3分の1以下の権能を駆使して戦う。

 コレのどこか全知全能なのだと、神は笑った。



「情報を精査する時間もなく、雑に斬り捨てるしかできなかった権能で、どうやってボクに勝つって言うのさ?」

「さての?」


「そうかい。お前が悪食=イーターの本体を持ってないんじゃ、『フルルード』も使えないだろうに」



 神は思想する。

 何か企んでいるであろう那由他、その手の内を見破る為に。



 ヴィクトリアの役目は、この場に居ることだけ。

 全知全能であり、数千年も戦いを繰り広げてきた蟲量大数や那由他に混じれるはずもない。


 だからこそ、ヴィクトリアを狙えば仕損じる。

 愛烙譲渡は戦線維持の要、それを知っている那由他は、もっとも強固な防御を彼女に張っているはずだから。



「そうか、……時の権能か」

「!!」


「くくく、なるほど、それはボクへの意趣返しかな? 金鳳花と同じ権能でボクを騙そうとした訳だ」



 神は戦いに参戦しないヴィクトリアを注視、そこに偽りがあると認識した。


 時の権能で認識錯誤を仕掛けておき、ヴィクトリアを殺し損ねたボクの隙を突き、造物主を簒奪する……か。

 確かに、ボクはヴィクトリアを最初に殺そうと思っていた。

 命の権能がある限り、蟲量大数も那由他も、簡単に蘇生されるからだ。



 でもさ……、悪食=イーターを経由して譲渡している権能は、これで4つ。

 命の権能、知識の権能、空間の権能、時の権能。

 それらを扱う為の知識の容量は、合計100年分しかない。



「平均値25年の研鑽。そんな不完全な権能でボクに届く?……思い上がりも甚だしい。《造物主》」



 那由他、蟲量大数、ヴィクトリアの心臓の真上へ、剣の切っ先が食い込む。

 そして、反応出来た那由他と蟲量大数によって無理やり引き抜かれ……、三名の胸を大きく裂いた。



「「「くッっ!!」」」

「言っただろう。この世界はボクの造物。神愛聖剣だって、空気中から生み出せるって」



 それぞれへ向かう追撃は剣10本ずつ。

 漆黒の剣舞の大半は回避され、付けられる傷は、ごく僅か。


 だがそれは、3倍に拡大する。

 神愛聖剣・黒煌は、傷つけた物質の下位にも同じダメージを発生させる。

 そして、神は序列を平均値化し、相互干渉状態へ変えていた。


 振りかざされる剣筋は、かつての那由他が振るったもの。

 知識によって最適化されたそれは、過去の神を何度も葬った救世の刃。



「それなりに回避できてるって事は、権能以外にもリソースを割り振ってるのか。だが」

「あうっ!!」


「ほら御荷物だ。自前で戦闘能力を持たないヴィクトリアじゃ、知識の補完が出来ない」



 悪喰=イーターに蓄えられている知識は、極限まで削られて最適化されている。

 ……那由他に合わせて。


 神と戦ってきた蟲量大数や那由他は、悪喰=イーターに頼らない戦闘勘を持っている。

 だが、ヴィクトリアはそれがなく――、命の権能と時の権能をフルに活用してなお、全身に生傷が絶えない。



「か、ふっ……」

「うわぁ、痛そう。命の権能で生き長らえるってのも考えもんだね」


「はぁっ……、はぁっ……」

「しぶとさを生かして耐えて、那由他と蟲量大数に助けて貰うしかない。それがキミの愛の限界」



 転移してきた那由他によって、ヴィクトリアを襲っていた神愛聖剣は取り除かれた。

 だが、ヴィクトリアが負った傷は那由他と蟲量大数にも受け継がれている。



「時の権能を重ねた結果、再生能力が凄まじいことになってんね」

「ほんと、よく喋る神……」


「あとがきって奴かもね。……で?」



 再び剣を創造し、ふと、神は違和感を抱く。

 既にヴィクトリアの傷は完治し、那由他と蟲量大数と軽傷となった。

 100年の知識を分割しているにしては、早過ぎだと思ったのだ。



ボクの方が優勢だが……、お前ら随分と深く権能を理解してるね?」

「あぁ、それはの……」



 ゆらり。っと那由他の存在がブレる。

 ヴィクトリアと蟲量大数も同様。

 強烈な認識錯誤の中に身体を沈ませ、神の首筋へ手を伸ばす。



「……ぇ!!消えっ!?」



 神を襲ったのは、確かな戦闘技術だった。

 それも、数十年で身に付くものではない、逃げ隠れる術に全力を注いでいる金鳳花の暗殺技術。



「そんなんにもまでリソース裂いてさぁ、ボクをどうやって害――ッ!!」



 神の指先が宙を舞った。

 切断されたそれは変異していない。

 アナグラムによる切断ではなく、蟲量大数の仕業だからだ。



「空間魔法による断裂!そんな高等技術を!?」



 これは神の想定を超えた事態だ。

 だからこそ、神は焦りながら――、笑う。



「ははは、いいね!!そうこなくっちゃなァ!!」



 何らかの形で、那由他達は100年以上の知識を習得している。

 そう判断した神が思い至ったのは、帝王枢機に搭載されている情報管理システムだった。


 帝王枢機の元である魔導枢機ヴァーズマキナは、神が別の世界から持ち込んだ兵器。

 そこは超高度情報文明……、魔法の代わりにネットワークが発達した世界だ。



「山場じゃの、蟲!!《光影の権能》」

「心得ている!!《風甚雷の権能》」



 那由他と蟲量大数、その手に別の権能が宿る。


 存在証明である色彩を破壊する、光影の権能。

 大気中の電荷を操作し、自然雷を発生させる風甚雷の権能。


 どちらも強力な力だ。

 だが、神はそれに対応してみせた。

 取り除けなかったのは、驚愕という感情のみ。



「まったく系統の違う権能まで……?いくらなんでも、そんなはずは」

「本当に心当たりがないのかの?」


「なに……?」

「知らんのかと聞いたのじゃの」


「……もしかして、悪喰=イーターをサーバーに見立てて管理してる?」

「YESじゃの!!」


 ……。

 …………。

 ………………唯一神、絶句。


 サーバー管理という、この世界には存在しないはずの単語を理解し、肯定された。

 タヌキに。


 もはや何をしていたのかを忘れるほどの驚愕が、神を襲っている。



「その概念はこっちの世界に持ちこんでないんだけど!?」

「クラウド管理は便利じゃの―」


「クラっ!?何で知ってんのお前!?」

「調べたからじゃの。通信器官ポートでの」



 那由多の額に薄紅色の紋章が輝く。

 それは皇の紋章に擬態させた、この世に存在しないはずの臓器器官。



「ぽっ……。まさか、自力で渡ってきやがったってのか、別の世界からッ!?」



 その世界は統合情報円盤(レコード)と呼ばれる世界維持システムに、生命が連結されている。

 生物は通信器官と呼ばれる臓器を持ち、生まれながらに世界と交信できるのだ。


 そんな、情報秘匿が許されない世界で生まれた一匹のタヌキは、あらゆる知識を用いて食を堪能した。

 獣を喰らう為に、世界で最も効率的に地を駆け、

 鳥を喰らう為に、世界で最も効率的に空を飛び、

 魚を喰らう為に、世界で最も効率的に海を泳いだ。


 やがて、そのタヌキはひっそりと世界の頂きに立った。

 くだらない機械戦争に興味がないから、目立たないだけ。

 されどその知識は、別の世界に渡れてしまう程に深く。



「食い物が豊富な餌場を探していたら辿りついた。それだけじゃの」

「嘘だろお前ッッ!?」



 その世界では情報は秘匿できず、見られたくないものは暗号化処理を施される。

 だからこそ、暗号を解ける知能があるのなら、神の理すらも利用可能となるのだ。



「タヌキ帝王に与えておる悪喰=イーターは、いわば大規模サーバー。それぞれが100年分の知識を保存可能じゃの」

「んな……!馬鹿なッ!?!?」



 悪喰=イーターで処理できる情報は100年分と、神は上限値を定めた。

 だが、知識の保存上限は設定していない。

 そして那由他は、悪喰=イーターの負荷を減らす為に、それを5つの階層に分けて処理させていたのだ。


『万物破壊』……知識の収拾を担う、入力機関

『分解吸収』……知識を仕分ける、分別機関

『形態変化』……知識を最適化する、変換機関

『真理究明』……知識で計算する、処理機関

『万物創造』……知識を活用する、出力機関


 それぞれが連携し、互いに100年分の一時記憶メモリを持っている。

 絶えず情報をやり取りする事で、那由他は神が定めた上限を超える知識を有しているのだ。



「ありえねぇだろ……?配下に似たような能力を持たせたとしても別個体、この世界じゃ、完全同期などできないはず」

「そうじゃのー、この世界では無理じゃのー」


「な……っ。まて、ヴィクトリアが持っているのって……、星噛=イロードか!?」



 くすっ……と頬笑んだヴィクトリアが、自身の胸をはだけさせた。

 そこに埋め込まれていたのは、惑星を象った美しい球体。



「星噛=イロードは儂の戦闘用の悪喰=イーター。今もその中では、儂の可愛いタヌキ帝王たちがせっせと情報を処理しておる」



『星噛=イロード』

 その名の通り、星噛=イロードは星を飲み込めるほどに強大な悪喰=イーターだ。


 儂らが戦えば文明崩壊は必至、後で直すくらいなら最初から隔離する。

 かなり無理をしておるから、他に大したことができなくなるのが弱点じゃの!!というのが、那由他の持論だった。



「真っ赤な嘘じゃねーかッ、数千年も騙しやがってこんのタヌキがッ!!」

「化かすのはタヌキの誉れ。ほら、そうこうしている内に別の権能の解析が終わったじゃの 《音階の権能》」


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