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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第100話「ホウライ伝説 終世 六日目 終わりの次へ」


「……そうかよ、那由他様は知っていたんだな。ヴィクトリアの生存も、裏に何があるのかも。何もかも全て分かっていて俺を助けたッ!!」



 ヴィクトリアの記憶は、ホウライが抱いていた数々の疑問に答えを示した。


 なぜ、自分達の村に金鳳花がやってきたのか。

 その正体が誰だったのか、自分は何処で判断を間違ったのか。


 金鳳花によって狂わされた世界にも、村人を救う手段はあった。

 事実、世界の頂点に君臨する始原の皇種と関わらなくとも、エリウィスは生き残っている。

 自分が成しえなかった願いを成功させた親友(グンロー)を誇らしく思い、そして、その分だけ自分が不甲斐なくて、情けなくて。



「……アイツは助けただけだってのかよ。俺の代わりに、金鳳花からヴィクトリアを」



 それはただの偶然。

 蟲量大数が求めた『勝利者の果実(ヴィクトリア)』に少女がくっ付いていただけ。

 何か一つ言葉が違えば誤解は解け、それですべて終息していた。


 善悪の偶然の交錯。

 冷静に言葉を選べるだけの余裕があれば良かっただけの話だった。



「俺が立ち直ったのは奉納祭から2年後、突然消えた街の噂を聞く前。間に合ってはいたんだ、時期的には」


「……だけど。俺はまた、お前を助けられなかった」



 金鳳花の罠に掛り、命の灯火が消えようとする直前まで、ヴィクトリアは『ホーライ』の名を呼び続けていた。

『ホーライ』に助けを求めていたという事実は嬉しくて。

 それ以上に、心を深く抉られて。



「過去話にしたって壮大過ぎて、俺にはちっとも理解できねぇ。でもヴィクトリア、お前は全部聞いたんだな。こんなにも記憶に残るくらいにしっかり聞いて、受け止めていた」



 無色の悪意の出生は、ラルバから託された情報にも記憶されていない。

 おぼろげだった唯一神、そして、蟲量大数と那由他を筆頭にする理の埒外に君臨する始原の皇種。

 それらと人類が起こした終焉神話を聞き終えたホウライの目から、憧れと妬みが止め処なく流れ落ちる。



「どうしようもない。本当にどうしようもなかった……」

「何がだ?」



 いつしか目覚めたホウライは、耐えきれずに慟哭を漏らした。

 後悔、嫉妬、憧れ、歓喜、憐憫、憤慨、強欲……、ヴィクトリアによって見せられた映像の場面が移り変わる度に、抑えようのない感情がホウライの中に湧きあがったのだ。


 悪夢にうなされた少年は、温かな布団の中でそれが夢だったと理解し、安堵する。

 だが、ホウライには安堵が訪れる事は無い。

 今見た光景の全てが事実、揺るぎようのない――、後悔の証拠。



「……お前らタヌキが教えてくれりゃ、こんな事にはならなかったんだ」

「あん?」


「だってそうだろうがッ!!お前らが、那由他が、俺に教えてくれさえすれば、ヴィクトリアはあんな顔をしなくて済んだんだッ!!」



『あんな顔』には様々な意味が込められている。

 愛する人が、泣き、叫び、助けを求め、絶望する光景を誰が望むというのか。


 だが、ホウライを追い詰めるのは、ヴィクトリアの苦悶だけでは無かった。

 自分の知らない所で、笑い、怒り、拗ね、頬を膨らませる。

 ホウライのものだったそれを他者が得ている。


 ヴィクトリアが溢す笑顔が、耐え切れないほどに、悲しくて。羨ましくて。



「なぁ、俺なんかを助けるんだったら、ちゃんと最後までしてくれよ。どうして助けたんだよ、どうして、お前らは、『ヴィクトリアは生きてる』って、教えてくれなかったんだ……」



 目の前に居るタヌキは、知識の皇、那由他の眷皇種・ソドム。

 故に、ホウライが見た映像も余すことなく理解している。


 縋りつくようにホウライはソドムに手を伸ばした。

 お前らが、お前らのせいで、俺は幸せになれなかったんだ。と。



「離せ。俺は雑魚と群れるのは好きじゃねぇ」



 皺がれたホウライの手の中から、するりとソドムが抜け出る。

 それを視線で追ったホウライは、まるで希望が手から零れ落ちてしまったかのように絶望し、教え子から託された剣を握りしめた。



「やる気か?ホウライ」



 その手にあるのは、神へ抗う為の力。

 第十の神殺し犯神懐疑・レーヴァテイン。

『全てを偽り否定したい』という、人間の心。



「……しねぇよ。あんな昔話を見せられちゃ、逆恨みにしかならない」



 ホウライの力なく垂れさがった手が、事切れたように地面へ堕ちる。

 糸の切れた終えた操り人形のように力無く座りこみ、虚ろな瞳も地面へ落とす。



「金鳳花が悪いってのは理解してる。アイツが諸悪の根源だってのは」


「だけどさ……、俺が一番悪いじゃねぇか」



 絞り出した声は震えていた。

 ホウライ自身ですら驚いてしまう程に弱々しく、そして、皺がれていて。



「那由他様は俺にチャンスをくれたんだ」


「ヴィクトリアを取り戻せるように俺を助け、鍛え、生き抜く知識をくれた。直接的に教えてはくれなくても、ヴィクトリアへ続く道を用意してくれていた」


「失敗したのは俺だ。俺がもっと強くなっていれば、蟲量大数を倒せると自惚れるくらいに強くなって、奴に戦いを挑んでいれば、結果は違った」



 ホウライは那由他と別れる時に、これから何をするじゃの?と問い掛けられている。


 ……さぁ?


 それが彼が返した答え。

 振り返って歩いてゆく那由他の表情は今でも覚えている。



「勝手に決め付けたんだ。全部、終わっちまってるって」


「もっと注意深く周囲を見ていれば、エリウィスの生存に気付けた。そうすればヴィクトリアの痕跡にだって辿りつけた」


「激甚の雷霆ホーライ。この名をもっと広めていれば、ヴィクトリアの方が気づいて会いに来てくれたかもしれない」



 幾つもあった可能性、それを自らの手で閉ざしていた。

 那由他は中立だっただけ。

 金鳳花にも、ヴィクトリアにも、蟲量大数にも肩入れせず、ただ、一週間の飯のお礼にホウライを助けただけ。


 それ以上を望んではならない。

 だってそれは、俺が自分で見つけなくちゃいけないものだったんだから。



「結局、俺はいつも中途半端なんだ。惜しい所まで行くのに、あと一歩届かない」


「今だってそうだ、人類最強?人間の皇種?そんなもんになった所で、何の意味もない。もう既に、人間という種は滅んじまってる」


「此処が何処だか知らねぇが、俺は遅すぎたんだ。もう何も、たった一つの可能性すら残って――」




『諦めないよ』




「……えっ?」



 ホウライの耳に声が届いた。

 それは、白くて小さな蟲の声。



『私達は諦めない』

『例え相手が唯一神だろうと、絶対に生き残ってみせる』

『それが、命の権能を持つ私の願いだから』



 思わず頭を上げたホウライの目に、愛するひとの姿が映る。

 それは、ソドムが出現させたリアルタイムの映像音声。

 悪喰=イーターに保存されてゆく、現在の知識。



「なにを……」

「ちょうど始まるみてぇだな。終世の七日目が」


「ッ!!」



 目の前に映し出されている映像は荒廃した地上だ。

 それは、ホウライが生きた時代の終着点。

 白くて小さな少女と共に、世界最強の蟲が神と対峙している。



「……お前に見せろと言われたのは、ヴィクトリアの過去の記憶だけだ」


『全ての事実をホーライちゃんに見せて、諦めさせて』


「それが、俺がヴィクトリアから預かってきた、お前に向けた『愛』だよ」



 突然、目の前のタヌキが不遜な顔で、愛のキューピット的な事を言い出した。

 白い羽根の生えた天使どころか、茶色い尻尾が生えた毛皮はどう考えても悪魔寄り。

 思わずイラっとするホウライ。

 だが、言葉の意味を理解し、その目から揺らぎが消えた。



「だからこそ、こっから先は那由他様が見た映像で、お前の為のもんじゃねぇ」

「……あぁ」


「しっかり諦められたんなら隅っこの方でじっとしてろ。程なくして俺らの皇が神を殺す。それまで吠え面かいて後悔し、次の人生の計画でも立ててろ」



 次。

 そう、目の前の『知識の眷族(タヌキ)』が口にした。


『次』があるのだと、ホウライに告げて――。



……。

…………。

………………世界(悪食=イーター)の中心で、愛を語るタヌキ。


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