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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第98話「ホウライ伝説 終世 六日目 プロローグ・アンバランス21」

ボクが如何にして那由他と蟲量大数に負けたのか。そんな事が知りたいのかい?」



 薄暗い部屋の中で点滅する光へ、少女が手を伸ばす。

 それにそっと指先で触れ、くるりと撫でるように手のひらへ。


 彼女にとってその光は、弱くて愛しい小さな命。

 愛玩動物に語りかけるように優しげな言葉で口を開く。



「シアンの姿を真似たボクは、その能力を駆使して、無抵抗のままに終わらせようとした」

「せめてもの手向けに、世界を幸福に包まれた状態で閉じようと思ったんだ」



『知れずに終わった』光へ語られたのは、物語の顛末。

 愛しい孫と世界のエピローグ。



「だが、愛烙譲渡は、心から他者を愛さなければ使えない」

「世界を終わらせようとするボクにとって、最も不適格な神の因子だった」



 遥か昔に過ぎた失敗のように、恥ずかしげに語る。

 例え自ら神と名乗ろうとも、年端もいかない少女の様に苦笑して。



「だから、蟲量大数や那由他に抵抗の余地を残してしまった」

「蟲量大数には愛烙譲渡を奪い取られ、那由他には知識を使われて愛を理解された」


「結果、ボクは二匹の神獣に後れを取り、敗北してしまったという訳だ」

「頭から丸かじりにされてね」



 少しだけおどけて、場の雰囲気を和らげる。

 そんな想いやりは、きっと、教えられたから。



「でも、ボクもタダでやられた訳じゃない」

「蟲量大数の簒奪には期限を、那由他の知識には制限を課した」


「双方共に、100年」


「蟲量大数が奪った能力を使えるのは100年間、那由他が同時に思い出せるのは100年分の記憶のみ」

「それぞれ任意のタイミングでリセットできるけどね」


「だって奴らはボクの想定外」

「ちょっとくらい意地悪しても良いだろ?」


 今度はイタズラに成功した悪ガキのように、僅かにも悪びれる事も無く。

 くすりと溢された笑みが、それが本心だと告げた。



「それに意味があるのかだって?」

「もちろん大有りさ。だってそうしないと、奴らは無限に強くなっていく。言葉通りの全知・全能に育ってしまうだろう?」


「そうなると、人類側の勝利の目は完全に無くなる」

「そう、ボクの人類側にね」



 キミらの為だとでも言いたげな満足顔で、少女が語る。

 此処までがエピローグ、そして今から語るのがプロローグなのだと。



「……ボクはね、本当に飽きていたんだ」

「ずっと前から、それこそ、この世界を作る前からね」


「だからこそ、ボクと同じ姿を持つ人間が支配者となる世界を作った」

「魔法詠唱という、唯一神が行使する全知全能を扱いやすいという特権を与えて」


「有史以降、暫くは興味深い歴史が紡がれた」

「同じ魔法を使っても、思考レベルの違いによって、こんなにも結果が違うのかと驚かされた」

ボクの思考レベルを平均的な人間のそれと同じにして世界を見ても、予測と同じ結果にならない」

「それにワクワクもしたんだ」



 衰えくたびれた老婆の様に、言葉に寂しさが混じり出す。

 そしてそれは、対話者にもっても理解できる言葉だった。



「だけど、人々は進化を止めた」

「いつまで待てども魔法次元を真の意味で使いこなせず、唯一神ボクに比肩する者が現れる兆候すら見つからない」


「キミに力を与えたのも、停滞した人間を焚き付ける為だ」

「最も進化した個体である、人間の『種を切り開く者』だったキミに力を与えれば、再び進化を始めると思って」



 並び立つ者がいない。

 そんな寂しいという感情に、自分は慣れてしまった。

 ……いいや、違うと相対者は思った。



「でも、そうはならなかった」

「人間はボクの複製体だからだ」


「唯一の存在であるボクの」

「孤独な存在であるボクの複製であるからこそ、人間は種族になったことで満たされた」


「誰かと会話し、頬笑みあい、豊かに生きて死んでいく」

「愛の譲渡しあいを続けている限り、人間は進化する必要がない。結果、ボクにはなれず、そしてボクは『唯一』のまま」

「そんな世界、飽きて当然だとは思わないかい?」


「……なぁ、愛されたカーラレス」



 暗い幽玄が漂う世界で、神は無為に手を伸ばす。

 ここは宇宙の様にも、深海の様にも、そのどれでもないようにも思える。


 そんな場所で魂に両手を添える神と、神に手を伸ばされた(カーラレス)は、互いの興味のままに言葉を交わし続けた。

 生涯を尽くしても手に入らなかった神の意思(答え)すら、題材の一つでしか無いほどに。



「結果、ボクは蟲量大数と那由他に負けた。それも完膚なきまでに完璧に」


「気付かされたよ、唯一神のままであろうと、悔しい思いはすると。怒りや嫉妬を抱いていいのだと」


「奴らはボクを殺し、そして示して見せたんだ。下位者キミら上位者ボクを凌駕する可能性はあるんだってね」



 いつしか、カーラレスと神は親しい友人の様に言葉を交わし合っていた。

 笑い、怒り、悩み、そんな何気ない日常が欲しかったのだと理解して。



「那由他と交わした盟約は3つ」


『始原の皇種がいる限り、ボクは可能性を否定できない。いずれ人間がボクと肩を並べる、そんな可能性を』


『物語を閉じるのは、その可能性が終えた時。『人類』が奴らを殺し、その上で、ボクに並び立つ者が居なかった場合、物語は終わりを迎える』


『逆に、ボクが敗北した後の100年間は、世界はどんな事があっても存続が約束される』



『人()』。

 そこに含みがある事をカーラレスは見抜いた。


 始原の皇種を『人類』が殺し、なおかつ、それが『人間』ではない。


 そんな未来が訪れるのは、少なくとも100年後。

 自分が知っている人間は一人も残っていないだろう。

 僅かに安堵し、そして――。



「そうかい。それがキミの答えなんだね、カーラレス」


「ノワルとの戦いはとても面白かった。だからボク()はキミ達へのイタズラとご褒美を兼ねて、新しい命をあげようと思っていた」


「孫と弟子の子になるなんて、最高に皮肉の利いたエンディングだろ?」



 カーラレスは賢い。

 神の提案が自分の利になると――、愛される人生が保障されている事に気が付いていた。

 なぜなら、その両親はカーラレスの自慢の『子』だから。



「それでも、キミの望みは変わらないのかい?」



 カーラレスの意思は変わらない。

 100年後、自分が存命している可能性があるから……、ではない。


 愛しい子らの子達が、永遠に愛を紡いでいけるように。

 世界を存続させなければならないと、決意して。



「キミが是とした七大罪……、七つの欲求は物語を生み出し続けながら、人を育ててゆく」



『傲慢』を『強欲』し、豊かになるべく努力する。


『嫉妬』で『憤怒』し、更なる発展を望む。


『色欲』し『暴食』し、消費された命よりも多くを産み出してゆく。


 そして後に『怠惰』し、省みて、やがて人間はボクに到達する。……か。



「この世で最も純粋に世界を案じた。そんなキミにピッタリの姿だね」



 そう呟いた神の手のひらには、無色のガラス球が乗っている。

 何処までも澄んでいて、見る角度によってはどんな()にも染まる、そんな玉魂。



「もう意識は無いか。……新しい命を諦めたんだ、せめてボクと一緒に世界を楽しもう」


「……ね、無色の悪意(カーラレス)



 解けゆく意識の中で、カーラレスは願い続けた。


 シアンよ、


 ノワルよ、


 世界よ、


 どうか、幸せであり続けてくれ。と



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