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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第90話「ホウライ伝説 終世 六日目 プロローグ・アンバランス⑬」

 

「シアン。時期にカーラレスが来る。覚悟はいいか?」

「……はい。情事をおじい様に見られた瞬間から、いえ、映像記録の魔道具に撮られたあの瞬間に、私の身も心も『あなた』のものと決まっております」



 瞳をうるうるさせ、頬を赤らめ、息遣いが若干荒く、指を搦めてもじもじとさせている。

 だが、真っ直ぐにノワルを見つめてくるシアンの表情には、一切の迷いも後悔も含まれていない。


 一方、ノワルは苦悩と混乱と恥ずかしさを隠すので精一杯だ。

 あろうことか七賢人を超える痴態を演じ、それをカーラレスをおびき寄せる餌にする。

 そんな手段を思い付いてしまったのは、師であるグリンと酒を交わしつつ今後の作戦を立てている時だった。



 **********



「カーラレスの弱点?ふん、シアンに決まっている」

「そりゃ、あんだけの顔立ちだ。さぞ可愛いだろう。だが、孫は他にもいるでしょう?」


「確かにアレの妻たちは美人揃いだった。だが、なぜ10人以上もいると疑問に思わない?」

「奴は右脳と左脳の他に、股間にぶら下がっている下脳があるからでは?」


「いや、ただの当て付けだ。カーラレスを振った初恋相手へのな」



 幼馴染に近しい関係のグリンは、カーラレスの少年時代を知っている。

 彼は、手加減を知らないカーラレスを相手にしていた数少ない友達の一人。

 そしてそこには、ヴァレンシアという少女もいた。


 彼女は負けず嫌いであり、絶対に勝てない相手であるカーラレスに毎日のように突っかかった。

 一度か二度負けただけで距離を取る者ばかりの中で、ヴァレンシアとそれに付き合わされるグリンは彼と交流し、次第に親友と呼び合う関係となる。


 その関係性が破綻したのは、彼らが思春期を終えた時のこと。

 決死の思いで告白したカーラレスを、ヴァレンシアはこっ酷く振った。

 それはもう、一切の擁護のしようがないほどに徹底的に、完膚なきまでに叩きのめしたのだ。



「そりゃなんでまた?あれが色情魔になる前なら優良物件の筈でしょう?」

「ヴァレンシアの家庭は亭主関白が強くてな、父と兄が偉く、母とヴァレンシアの立場は低かった」


「なるほど、カーラレスの妻になっちまったら、一生涯『下』になると思われた訳だ」

「あと、私に惚れておった。当時はイケイケでのぅ。告白の前の晩に、この指で骨抜きにしてやったわ」


「流石は俺の師匠。心の拠り所を寝取るとかクズ度が違う、クズ度が」



 下脳がぶら下がってるのはテメェの方だったか、グリン。

 これが、もっとも賢いと思われている奴のヤルことか。

 つーか、よく世界を滅ぼさなかったな、カーラレス様。



「そんな訳で見知らぬ他人の嫁になったヴァレンシアへ当て付けする為に、カーラレスは女を抱きまくった」

「……他人って所がヤバい。業が深すぎる」


「だってヴァレンシア重いんじゃもん。床も下手だし」

「クズ度を上乗せすんなァッ!!」


「で、問題は此処から。なにせ、シアンの母親はヴァレンシアの娘だ」

「うわーーッッ!?」


「そして、シアンは祖母であるヴァレンシアにそっくり。そりゃあもう、生き写しと言っても過言ではないくらいにな」



 シアンが閉鎖的な環境で育てられた理由は、愛烙譲渡を持っているからだけではない。

 彼女が無垢な笑顔をカーラレスへ向ける度に、酷く個人的な感情、『愛する人の寝取られ』が脳裏にちらつくのだ。


 祖父と孫の関係である以上、カーラレス以外の所へ嫁に行くのは当たり前。

 そうだと理性では分かっていても、決して受け入れる事が出来ない琴線だ。



「ということで、カーラレスの弱点はシアンだ」

「花嫁衣装でも着せれば発狂しそうですね。使えるな……」


「せっかくじゃし、ここは……」



 この日、ノワルは酒を飲んでいた。

 そして、横に居るのは俗に賢しい人。

 男が酒と共に交わす話題など、下品な話題と相場は決まっている。



 **********



「ノワル様っ!い、今頃、全部見られてしまっているのでしょうねっ」

「おぉぅ。奴の秘蔵の本棚の中身を全部アレに変えたからな」


「妄想していたハジメテが現実になったばかりか、一生懸命勉強して、一昼夜を掛けて撮影した情事が……っ、ぜんぶっ見られてっ!!」

「……もしかして、変態って遺伝するのか?」



 明らかに興奮しているシアンの態度、それが三日経っても変化しない。

 色んなものを踏み外したノワルは、将来がとても不安になっている。



「グリン様の予想では怒り狂うって話だが……。あ。」



 遥か遠く、カーラレスの書斎を設置した場所で魔力が噴き上がった。

 その余りにも膨大な魔力に、シアンの近くで寝ていたう”ぃー太とルクシィアが飛び起きる。



「来るぞ、シアン!!」

「……この戦いが終わったら、またしましょうね、ノワル様」


「なにそのピンクな死亡フラグぅウううううッッ!!」



 色んな意味でトンデモねぇ事が起こっているノワルの前に、空間の裂け目が出現。

 だがそれは、虚無魔法が得意なカーラレスのものとは思えない程に杜撰な出来だった。



「くけっ……、」

「あ、やばい」


「クケっ、くけぇえええええええええッ!!」

「既に言語能力が失われてる。……ふっ。どうやら、人間を辞めたようですね。カーラレス様」



 ノワルが民衆へ向けたプロバガンダの中に、『カーラレスは人間を辞めた』というものがある。

 それは、『人間とは思えないほどに化物じみた強さ』と『人類の敵であり、仲間では無い』という意味を込めてのもの。

 決して、奇妙な鳴き声を発する妖怪じみた姿を野次る為では無い。



「きさっ、貴様ッ!!よくもぉぉぉぉおおおおお!!」

「……お陰さまで、新たな見識を得る事が出来ました。これで私も賢人と名乗る事が出来るでしょう。えぇ」


「コロすぅウううう!!貴様だけはぁあああああ!!」

「おじい様、私、ノワル様と結婚します!!」



 シアンのその言葉は、カーラレスの生涯で最も威力の高い攻撃だった。

 錯乱する魂すらも粉々に砕いてしまうほどに。



「くけっ……くけっ……、シアンよ」

「はい、おじい様」


「なぜ、ノワルなのだ。そ奴は唯一神様を裸に向いて、肥溜の上に吊るした男なのだぞ」



 地上へ降り立った唯一神はカーラレスが大切に育てている盆栽を勝手にいじり、可愛いリボンでデコった。

 それを知ったノワルは先んじて過激な罰を与えることで、周囲の人間に少女へ同情を抱かせて救おうとする。

 そうして唯一神はノワルを気に入り、この白と黒と呼ばれる戦いの発端となったのだ。



「唯一神様を、き、緊縛っ……!?それに……!!」

「やべぇ、変な扉が開きかけてるっ!?止めろッ!!う”ぃー太ーッ!!」

「ヴィィギルオーンッ!!」



 非常に優れた文官型の神官であるシアンの学習能力は、他の追随を許さない。

 更に、今まで遠ざけられていた情報は目新しく、知識として純粋に面白くもあった。

 そうして暴走するシアンとルクシィアを止めに入る、それがう”ぃー太とノワルが交わした契約だ。



「愉快な前座はもういいでしょう。真面目な話をしましょう、カーラレス様」

「そうだな。もう既に貴様への殺意はこれ以上ないくらいに高まっておる」



 ビキビキとカーラレスの額と空が同時に軋む。

 そこには遥か天高くに星、真昼間であるはずのそこで煌々と輝いて。



「わざわざこんな所に呼び出したという事は、儂を斃す算段でも付け終えたか?」

「えぇ、ご推察の通りですよ。此処は天龍嶽、世界で最も高い山の頂上で戦うことで、世界中の人々に行く末を見て頂こうと思いまして」



 今から行われるのは、世界存亡を駆けた最期のエンターティメント。

 全ての人間が注目する、白と黒の決戦だ。



「再び、貴方以外の七賢人は捕らえております」

「報告を聞いた時には耳を疑ったが……、どうやら、愛烙譲渡を使いこなせるようになったようだな」



 僅かに訝しげな態度のカーラレスを見たノワルは、「はい、俺も目を疑いました」と返事したくなった。

 なぜなら、七賢人捕獲の顛末はノワルの想像を絶する形で行われている。



「そこの子タヌキ同様に森のタヌキ共を使役し、襲撃させるとな。だが、悪くは言うまい。タヌキなんぞに後れを取るなど、七賢人の恥さらしに他ならぬ」



 やるせなさを隠しもしないカーラレスとは違い、ノワルは捕らえられた七賢人に多大なる同情を抱いている。

 その事件は、草原でノワルと一緒に出掛けたシアンがう”ぃー太とルクシィアと遊んでいた時に発生した。



 *********



「ヴィギルアイテル!」

「あれ、この子は……!エデン!!エデンじゃないですか!!」



 すたこらさっさと軽快なステップで近づいてくる、白いタヌキ。

 変な鳴き声を聞いたシアンは懐かしさのあまりに掛け寄り、そのままぎゅっと抱き締めた。



「心配していたんですよ!!え、あ、この子はもしかして貴女の!?」

「ヴィルクヴィル!!」


「へー!!エルクレスって言うんですか、この子!!」



 こうして、う”ぃー太、ルクシィア、エルクレス……、後の世に『歴史に名だたるクソタヌキ』と評される者達は出会った。

 その後、シアンの所にちょくちょく遊びに来るようになったエデンによって、亡き親友エーデルワイスの子供達はタヌキ的英才教育を施されることになる。



「あ、もう一匹来たぞ。シアン、あれも知ってるタヌキか?だよな?レベル99999(カンスト)してるもん」

「トウゲンキョウですね」


「ん、何か引きずって……。おいアレにんげ……。七賢人じゃねーかッ!?!?」



 遊びに来るエデンとトウゲンキョウは、ノワルの想像を絶するお土産を持参する。

 それはかつて、七賢人と呼ばれし者。

 タヌキ達は覚えていたのだ。

 飼育場に貼られた顔写真と、「この人達を捕まえたら、一週間、おやつ食べ放題ですよ!」というシアンの言葉を。



 **********



「ま、俺から言う事は何も。ただ、貴方達は強かった。今はそう思っていますよ」

「ふむ。侮りが消えたか」


「えぇ。どうやら俺はまだまだガキだったようで、恥ずかしい限りです」



 先程の情事をネタにした会話とは違う真面目な雰囲気で、ノワルは言った。

 七賢人は、真の意味で人間(私達)の師だった、と。



「すみませんね、師の意図に最後まで気付かなかった愚かな弟子で」

「構わぬ。期待は裏切ってくれぬ様だからな」



 誰にも届かないように、声を狭めた会話。

 たった一言のそれを以て、師弟が決別する。



「ここで決着をつけます。貴方との戦いも、人類の行く末も」

「同感だ。この語に及んで逃げられると思うてくれるな。ノワル、シアン」



 空に翳したカーラレスの掌の中に、聖刻杖―ルーンムーンが顕現する。

 それに相対するノワルの手には漆黒の手甲と剣。



「卑怯だとか言わないでくださいね。なにせ貴方は、神さんに人類最強と言わしめた存在だ」



 ノワルの背後でシアンが杖を構えた。

 その足元には2匹のタヌキ。

 鋭い視線を害敵に向け、殺意を宿した爪と牙が口開いている。



「ではもう一度、唯一神様にお褒め頂くとしよう。ついでに恩賞を賜り、世界存続を願えれば重畳か」



 空を切った、二発の魔法弾。

 互いの位置の中心で炸裂したそれが、開戦の合図となる。


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