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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第89話「ホウライ伝説 終世 六日目 プロローグ・アンバランス⑫」

「ようやく見つけたぞ、恒河沙蛇こうがしゃじゃ

「……チッ」



 蟲量大数が放つ、ウ”ウ”ウ”ゥーンという重々しく『風』が軋む音。

 阿僧祇鳥を殺して命を奪ったことで、空気と呼ばれる物質は今や、蟲量大数の支配下となっている。



「まさか、別の次元に隠れているとはな。権能でどれだけ探しても見つからん訳だ」

「お前の脳みそが筋肉すぎて思い付かなかっただけ。餌を喰いながら餌を探すアホと一緒」


「? 我が輩には食道楽など無い。どの木の樹液を舐めても変わらん」

「舌までバカとか可哀そ。神に健康な体を願った方が良いレベル」



 阿僧祇鳥を殺した蟲量大数は熟考し、次の狙いを恒河沙蛇と決めた。


 自分と同格の力を持つ予感がする那由他や不可思議竜は、放っておいても生き残るだろう。

 だが、残りは他の始原の皇種に狩られかねないと判断した。

 実際、奪い取った風支配で世界を調べた結果、既に千載水魚は次代へ皇を継いでおり、神に直接願った力は奪えなくなっている。



「ふむ、貴様の能力は『異空間移動』と言った所か、是非とも欲しい。……が、そこから引きずり出さなければ話になるまい」

「弱点ばれてて出るわけねーだろ。永遠に彷徨い歩いてろ。しゅろろ^^」



 ぞりぞりぞり……と断片を削ぎ落しながら、蟲量大数の目の前の空間が波打つ。

 砂に書いた絵に指を這わせるがごとく、何もかもを書き混ぜて台無しにする、それが恒河沙蛇が持つ力だ。



「逃がす訳なかろう。《世界最強の大気圧(マキシマム・パスカル)》」



 ウ”ンッっと乖離した音を残し、蟲量大数が飛翔する。


 蟲量大数と恒河沙蛇の邂逅は深い森の中で行われている。

 周囲には木々が生い茂っており、戦闘に直接作用する物理的な障害が大量にあるという状況だ。


 それらは蟲量大数の移動の邪魔には成りえない、されど、ほんの僅かに余計な時間を消費させる可能性はある。

 そして、相対する恒河沙蛇が神に願ったのは『のびのび出来る場所が欲しい』という、別次元作成能力だ。

 全容を蟲量大数は理解できていないものの、物理的な障害を一方的に無効化できるのは分かっている。



「まずは見晴らしを良くさせて貰おう。ぬん!」



 遥か空高くで肉体を引き絞った蟲量大数が、強靭な四本の拳で『風』を掴んで装填する。

 それは、東西南北、四方向に広がる空気を凄まじい力で圧縮させた、空気砲。

 通常は1000hpaはある気圧が750hpaまで下がってしまう程に圧縮されたそれが四発、立て続けに地上へ炸裂する。



「――ッ!」



 結果、地上3mに存在するあらゆる物質が粉微塵になりながら、真横方向へ吹き飛ばされた。

 それは確かに、生きとし生きる者、否、無機物であっても無差別に崩壊させる攻撃。

 だが、神に力を与えられし者を害するには、あまりにも非力。



「貴様の能力は風だけでは見つけにくい。ならば目で直接見ればいい」



 吹きすさぶ風を観察し、小さな渦巻きを複眼で捕らえる。

 そして、蟲量大数はウ”ゥーーン。っと再び『風』を軋ませた。


 今回装填された空気砲弾数は、1。

 四本の腕がそれぞれ圧縮した風を更に一つへ握りつぶして完成する、本気の『殺意』。



「《無限累乗インフィニティ大気圧パスカル》」



 蟲量大数は感付いていた。

 恒河沙蛇の権能は戦闘向きでは無く、その真価は非常に簡単に逃げられる利便性にあるのだと。

 だからこそ、一度のチャンスで決着をつけるべく策を弄するのだ。


 空間に出来た小さな渦巻き、それは恒河沙蛇が出入りした直後の残滓。

 そんな閉じられた空間を拳で突き破り、内部で大気圧を炸裂させる。



「ぬんッ!!」

「……うろぼぼぼ……ッ!?!?!? 馬鹿ッ!!マジコイツ、馬ッッ鹿ッッッ!!」



 世界各地の至る所で同時に空間が叩き割られ、そこから長大すぎる蛇の胴が露出した。

 そして、蟲量大数によって別次元から押しだされた恒河沙蛇の頭部が怒りのままに咆哮する。



「そんなに死にてーのか、フルパワー馬鹿がァ!!《世屡無噛頭ヨルムンガンドッ!!》」



 この害虫を噛み潰さなければならないと、恒河沙蛇が牙を剥く。


 繰り出された空間外からの一撃、180度に開かれた巨大な蛇の顎が噛み潰すのは物質にあらず。

 その対象は空間そのもの。

 蟲量大数を含めた空間がゼロに向かい、急速に圧縮され――。



「触れたな、我が輩に」

「ッ!?」



 ゼロとなるべき空間が、急速に拡張してゆく。

 それは元々の恒河沙蛇の口内面積を超えても留まらず、やがて、耐えきれなくなった肉体までも膨張させ――。



「この力は使えるな。風で探し、空間で捕らえる。後は純粋な力比べで勝つだけだ」



 有爆した恒河沙蛇には目もくれず、蟲量大数が”先”を見据える。

 その複眼に映っているのは、『命』と『知識』。


 そうして戦いは、上位三者同士の戦いへと――。



 **********



「……マジ、ひでー目にあった。何あのフルパワー馬鹿。ホント始末に負えない。死ね。タヌキに喰われて死ね。死ね」



 のび~~~~~~と伸び切っている恒河沙蛇が、死んだ目で呟いた。

 周囲の環境は凄惨激烈の一言。

 頑張って作り上げた『蛇にとって最も快適な、絶景日向ぼっこスポット』は見るも無残な有り様となっている。



「まったく本当にね」

「あ、ぎょくよー。よすよす。どうやらお前も、ちゃんと死にぞこなえたっぽい?」


「えぇ、何とか。分かっていた事ですが、やはり時の権能と知識の権能の相性は最悪でしたよ」



 恒河沙蛇の始原の権能『第8空間次元(ウロボロス・オフィス)』。

 その真の能力は、新たな次元を作りだし、別の法則で動く世界を支配するという途方もないものだった。


 恒河沙蛇が作ったこの世界では、時間の流れ、重力、物理法則が違う。

 誰にも邪魔されない快適なのびのび空間を作るのが願いだからこそ、不要な要素を排除できる力である為だ。


 そして、どちらの世界の理が適応されるかは、その世界に存在している肉体が多い方となる。

 故に、恒河沙蛇は自分が作った次元の法則――、不老不死、肉体超回復、空気抵抗無視などを使い、蟲量大数の攻撃が直撃したように見せかけたのだ。



「鱗もボロボロ。マジかなしい。ぎょくよー、治してー」

「はいはい。《時の戯れ》」



 こうして、恒河沙蛇は生き延びた。

 そしてそれは、この場に居る極楽天狐も同じだ。



「ふぃー。よし、のびる。とりま100年くらい」

「伸びてても良いですが寝ないでくださいよ。話し相手がいないと面白くありません」



 恒河沙蛇の傷を癒したのは、どこからどうみても人間の青年。

 緩く着崩した袢纏に下駄、最近になって流行り出した片眼鏡も掛けているという、カジュアルなファッションをしている。


 だが、その正体は始原の皇種、序列第六位

 神に『永遠の遊び』を願った名のある狐、金枝玉葉きんしぎょくようだ。



「しゃーねー。うまくいったのお前のお陰だし。恩はちゃんと返す」

「そうでなくちゃね。ただ、少し懸念がございまして」


「懸念?」

「私達が別世界で生きている事が、那由他に感付かれている可能性があります」


「ダメじゃねーか!!馬鹿なのお前!?フルパワー馬鹿と同格なの!?」



 何あのフルパワー馬鹿。

 鳥が木端微塵にされたんだけど。


 そんな呟きから、蛇と狐会談は始まった。

 恒河沙蛇は戦いを面倒だと思っており、極楽天弧にとっての戦いとは遊びの一種。

 互いに殺し合いを好まず、両者が尻尾と手を交わしたのは必然だった。



「権能を使って、世界から私達の存在記憶を抹消しました。そして、こちらの次元の影響下となることで、皇種の資格すらも時代へ継承し、神の眼すらも欺いております」

「うん。予定通りじゃん?」


「時間とは世界の記憶、止める事も巻き戻す事も自由自在。ですから私は不老不死不滅。他者からの影響も世界に記憶される時間の流れである為です」

「しってんよ。で?」


「ですが、知識の権能を持つ那由他は、記憶を知識として定着させられる。本来ならば世界で発生した情報は全て神が持つ『書』へ記録されるのみですが、知識はこの世界の物質に保存される」

「つまり?」


「那由他が管理している知識となってしまった事象には、影響しえない」

「だから戦っても勝てない。逃げ一択。最初からそう言って無かった?」



 金枝玉葉の説明はあらかじめ聞いていた内容と同じ。

 もしかして、知能レベルが蟲量多数と同程度と思われてる?

 そんな懸念を抱き、恒河沙蛇はシュルシュルと舌を出す。



「どこら辺が予定外なのか詳しく説明はよ」

「なんというか、やけにあっさり事が済んでしまったというか」


「うん?」

「もうちょっとねちっこく面倒臭い感じになると思っていたんですよ。拍子抜けというか、逆にワザと見逃されてるような気がして」


「考え過ぎじゃね?飯食う事しか眼中にねーアホタヌキだぞ、あれ」



 まともに戦っても勝てないが、蛇と共謀して別次元への逃亡は可能。

 そう判断したからこそ、恒河沙蛇と極楽天弧は一世一代の大芝居を打つことにしたのだ。



「そんなことより、ぎょくよー。お前、娘に押し付けてよかったん?88-88888(ハナ)と違って、仲悪くないはず」

「ハナ?」


「八個ある世界の内、三番目が使用不能になった。だから8×7でハナ。お前だけ名前あるのズルイから名付けた」

「あぁ、そういう。使用不能と言っても貴方はまだ出入りできるでしょう?出す部分を半分以下にすればいいんですから」



 金枝玉葉の権能により、両者の存在は抹消されている。

 だからこそ、再び世界に戻れば不具合が発生しかねない。

 それがどういう形にあるにせよ、蟲量大数と那由他に存在が露見するのは確実であり、この二匹は肉体の半分以上を元の世界に出す事が出来なくなっている。



「めんどくせ。この世界に飽きるまでノビノビする。そういうお前は未練たらたら?」

「まぁ、ありますよね。私の望みは永遠の遊楽です。だからこそ、娘には期待していますけれども」



 金枝玉葉の実の娘、『白銀比』。

 幼いながらも賢く、金枝玉葉を遊びで負かした事もある程に知能が高い。

 だが、恒河沙蛇にとって皇種を継がせるのは、愛娘に死ねと言っている様なものだと思っている。



「蟲はともかく、タヌキに殺されんじゃね?」

「いえ案外、庇護下に入るかもしれませんよ。一度、顔を見せてますし」


「……。それ、洗脳っていうの知ってる」

「効いててくれると良いんですけどねぇ」



 知識の権能と時の権能、その相性は互いに最悪だ。

 故に、金枝玉葉の洗脳が那由他に有効な可能性も高い。


 策を弄し、弄され、結局は知能が高い方が勝つ。

 この狐とタヌキ、どっちが賢いんだろ。

 そんな事を考えた蛇は、やがて考えるのを止めた。



「しゅろー。しゅろろー。あ、果物食べよ」

「それよりも、約束を果たして貰いましょうか。世界を観戦しながら、私と対局して頂きましょう」


「将棋だっけ?しゃーねー。ルール教えろ」

「こうして山の様に積んで一個ずつ取り、崩した方が負けですよ」


「……文字とか書いてあるし、絶対違うだろ。馬鹿にしてんのなら締めるぞ。しゅろろ」



 伝統的な遊びの一つ、駒崩し。

 主に将棋のルールが分からない子供向けのゲームだ。


 そもそも、全長数十kmの大蛇と普通の人間、身体の大きさが違いすぎる。

 子供扱いされつつも、圧倒的有利な勝負を仕掛けてくる理不尽、なるほど、コイツもクソキツネだな?


 そんな事を考えながら、恒河沙蛇は舌で駒を一つ弾き飛ばした。

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