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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第87話「ホウライ伝説 終世 六日目 プロローグ・アンバランス⑩」

「……見ろよこの歯。コイツら絶対肉食だぞ」

「エーデルワイスもシュバルツワルトも果物好きーでしたけど」


「うるせぇ、知ってんだぞッ!!そのタヌキ共はゴーヤだろうが、スイカだろうが、パイナップルだろうが皮ごと貪り食うつうのはなぁッ!!」



 ウマレタテ・タヌキ共の襲撃を受けたノワルは無傷で戦慄した。


 高位神官であり、戦時下にある現在は最大限の防御魔法を張っている。

 それなのに感じた痒み、それが痛みに変わるのは、あと何カ月後のことだろう。

 そんな未来を考えながら、そっとバスケットを差し出した。



「おら、タヌキ共。昼寝の時間だ」

「……。」

「……。」


「やっぱり俺の言葉は通じねぇか。ちなみにだが、バスケットの奥にはビスケットを入れてある」

「ヴぃー!」

「ギルーン!」


「……ぇ?」



 ノワルが持っているバスケットの蓋は開いている。

 だからこそ、ビスケットの香ばしい匂いにタヌキが反応したと考えるのが妥当だ。

 だが、うっきうきな足取りでバスケットに飛び込んだタヌキを見て、ノワルの背筋に冷たい物が流れ落ちる。



「話を戻すぞ、シアン。余りにもアホな質問だと思ったが、よく考えると悪くねぇ。グリン様、性癖や趣向に直接作用する神の因子に心当たりは?」

「他者の意識へ影響を与えるものならある。そもそも、神の因子は全て、他へ干渉する力だ」


「他へ干渉?確か、足が速い神の因子が存在するという話では?」



 足が速くとも、他者には影響しえない。

 そう思ったノワルだが、グリンの表情を見て考えを改めた。

 もっと深く思考を巡らせ、そして――。



「足の速さとは、物体の移動速度。そしてそれは、大地を蹴る力や空気抵抗などの要因が複雑に絡み合っている。つまりは、世界に干渉している訳ですね」

「そうだ。唯一神とは完全無欠なる存在であり、その因子も自らの進化性を有しない。故に、他者からの影響――、物語を追い求めておるのだろう」


「だから神さんは口癖のように……。神の因子に心は宿らない。では、それを知っている貴方は見えている訳ですね?」



 決意を秘めたノワルの瞳、それに映っているのはただ一人。カーラレスのみ。

 最大限の畏敬と軽蔑を抱く師が望む、最期の願い。

 それが何なのかを理解したノワルは、自分に課せられた役割を全うするべく口を開いた。



「質問は一人一つと言った筈だが?」

「なお、接収した鍵付きの本棚は貴方のだけじゃありません。そろそろ扉をブッ壊して中身を改めようと思っております」


「ふむ、閲覧に制限が掛っておる禁書があるやもしれん。確かな見識眼を持つ儂も同席しよう」

「世界を統べし七賢人様の叡智えぃちが詰まった禁書です。タダという訳には行きませんね?」


「私は『普遍詩篇ステーブルコンテンツ』という世絶の神の因子を持っておる。これは、目の前にいる人物が24時間以内に使用した神の因子の経歴を見れるというのものだ」



普遍詩篇ステーブルコンテンツ

 効果が発揮された神の因子名と経過時間が見えるだけという、非常にシンプルな神の因子だ。

 だが、それが齎す情報アドバンテージは絶大。

 本人ですらも理解していない才能を一方的に把握できる――、だからこそグリンとカーラレス達は世界の支配者と成り得たのだ。



「シアンが他者に話しかける際には大抵、『愛烙譲渡スウィートマータ』は発動しておる」

「大抵……、ですか?」


「親しい者に無意識に語りかけた場合、例えば、朝の挨拶などでは発動せん。だが、初対面である場合は発動する」

「……?その差が『意識しているかどうか』だというのですね?」


「好意、もしくは嫌悪を抱いている者には、誰だって身構えるものだ」

「なるほど、ではノワル様との会話では発動しないんですね」


「常時発動しておるが?」

「えっ」


「以前は発動せんかったが、ある時を境にそうなった。その現象をなんと呼ぶか知っておるか?」

「え。そ、そもそも神の因子という概念ですら知ったばかりなのに心当たりなんて……」


「くあっはっは……。それはな、初恋というのじゃよ」



 祖父達に恋心を見抜かれていたと理解したシアンの頬が、見る見る内に赤くなってゆく。

 一方、ノワルの顔色は青くなるばかり。

 その『愛烙譲渡』が持つ危険性に気が付いたからだ。



「……グリン様。貴方達はシアンが孤立するように仕向けていましたね?」

「ぇ?」

「そうだ。他ならぬカーラレスの願いでな」


「無条件で人から愛される神の因子か。傾国の姫といえば聞こえはいいが……、だからこそ、カーラレス様は俺達を御旗に選んだんですね」

「あの、ノワル様。話が見えないのですが」



 シアンは優れた文系神官であり、座学で類稀なる成績を残している。

 だが、神官になって間も無く、その実務の殆どがノワルの秘書という偏った経験のみ。

 互いの性格を理解し、言葉の裏側を読みながら交わすノワルとグリンの会話には付いていけない。



「始めから仕組まれていたんだよ。俺らとカーラレス様の対立は」

「神の降臨を予期していたというのですか?」


「神はただの引き金に過ぎない。いずれ他者への虐欲の噴出は起こる。だからカーラレス様は人間同士の争いをコントロールする舞台装置を用意していたんだ」



 幼いカーラレスが神に願ったのは、『遊び』という名の競争だった。

 他者が皆、何かしらの『秀でている才能』を持っていれば、きっと、毎日が楽しくなると。

 そうして、カーラレスは数え切れないほどの敗北を喫し、そしてそれに挑み勝つことで、数多の充実感を得た。


 だがそれは、最終的に勝つ強者の視点でしかない。

 一度の敗北で命を失ってしまう本当の弱者には、次の勝利など存在しえない。

 それを理解したのは、カーラレスが始めて戦争に参加した時の事だった。


 幼い少年が願った『競争』は、神が求めし『争い』へ。

 その力を用いた戦争は、たった1秒で数多の命を奪う。

 戦いに参加する意思を持たない幼子であっても平等に。


 人々は理解してしまったのだ。

 言葉を話し始めたばかりの子供であっても、神の因子を使えば大人を凌駕できる。

 故に、殺される前に殺すしかないのだと。


 そうして人は運命づけられた。

 上位者への勝利……、他者への虐欲を。



「カーラレスには分かっていたのだろう。いくら、他の欲求にすり替えたとしても、いずれまた、他者への虐欲が蔓延る時代が来ると。他者を喰わねば生きられぬ世界、生物種的に見れば、それを抑えている人間種が異端だと」



 ノワルは羞恥肉林の限りを尽くすカーラレスへ、思いの丈をぶちまけた事がある。

 その時に貰った言葉は、失笑混じりの「幸せと知らぬことこそが、最も幸せなことぞ」。

 未経験を笑われたと思った幼いノワルは激怒し、芽生えた殺意に手を震わせた。



「聞かせてくれ。もしも俺があの時に、その考え方を理解していたら、今回の虐殺は起こりえなかったか?」

「人名と時代が変わるだけだ。運命は二択の繰り返しだと私は思っている。神によって力を与えられたカーラレスは、世界の混乱と安寧、その二択を迫られた」


「そんな重いもんをガキの時代に」

「今回もそうだ。カーラレスは『神による終世』、もしくは、『戦い』の二択を迫られた。あ奴は選んだのだ」


「この廃墟が神に強いられた選択の結果か」

「もう分かっておるだろう。それが”ひと”に残された唯一の道であると」



 あぁ、分かっちまったんだよ、俺は。

 だからこそ悩んでたんじゃねぇか。俺のせいだってな。


 他者への虐浴、その最も簡単なコントロールの仕方は、勝てない敵へ挑みつつけることだ。

 人類が一人残らず決して終わることのない他者への虐欲を抱いた時、その矛先が存在する限り、別の誰が虐げられることはない。


 そして。

 寿命を持たず、圧倒的な力や知恵を以て世界に君臨すると運命づけられた神獣を、俺は生み出してしまった。




『蟲』 量大数

 不可思議 『竜』

 那由他 『狸』

 阿僧祇 『鳥』

 恒河沙 『蛇』

 極   『楽天狐』

 千載  『水魚』



 奴らは超常の埒外。

 言葉にすらできない言外の化物だ。



「戦いはもう始まっている、ひとの理知の外側で。そして俺はそれに触れちまってる」



 ノワルの脳裏に浮かんだのは、正しく神々の戦い。

 蟲量大数 VS 阿僧祇鳥

 その様相を想像し、思い果てる。



俺達ひとが倒すべき敵は貴方の先に居る。……そうでしょう?カーラレス様」


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