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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第84話「ホウライ伝説 終世 六日目 プロローグ・アンバランス⑦」

「……何をしているんですか?」

「いや何これお前!?なんでバスケットに子タヌキはいってんの!?」



 声高らかに鳴いた、二匹の子タヌキ。

 その体長はあまりにも小さく、一目で生まれたてだとノワルに理解させた。


 だが、問題はそこでは無い。

 なぜ、食料品が入っている筈のバスケットにタヌキが紛れ込んでいるのか、もしかして、この子タヌキを食えというのか。

 大混乱に陥ったノワルは、とりあえず、元気いっぱいに動きまわっている方の子タヌキをつまみ上げた。



「タヌキ入ってんだぞ!?タヌキ!!これ飯なの!?ねぇこれ飯なの!?!?」

「何を馬鹿な事を仰ってるんですか。お食事はこちらですよ」



 ジト目なシアンが空間から手を引き抜くと、そこにはハンカチに包まれた包みが握られていた。

 見慣れた食事が出てきたことに安心する半面、じゃあこのタヌキはなんなんだよ!?という疑問が膨らんでいく。



「飯じゃねぇのか。ならいいや……、ってなるか!!何故タヌキがバスケットに入ってる!?」

「何って、保護したからに決まってるじゃないですか」


「この緊急時に何してんだって言ってんだよ!!」



 途方に暮れていた自分は棚に上げ、ノワルが叫ぶ。

 戦いの直後から生存者救出に奔走し、多くの人を救助してきたシアンだが、流石にタヌキを拾ってくるとは思っていなかったのだ。



「この子達はエーデルワイスとシュバルツワルトの子です。そして、彼女は最期の力を振り絞り、私に託したのです」

「なに、どういうこと?」


「私に七賢人様に会いに行けと仰ったのはノワル様ではありませんか」

「おう、それは覚えてる」


「では、国営放送『俗賢人の集い』、その守護者にタヌキを抜擢したのは覚えていらっしゃいます?」

「おぉう、あぁ、そう言えばそうだったな」



 国営放送『俗賢人の集い』

 それは、主要首都の広場に設置された国の有事を知らせる映像・音声通信魔道具を用いた、一大エンターティメント。

 七賢人をおちょくりつつ、神を爆笑させる為にノワルが考え出した、攻防一体の妙案だ。



「地下牢への正規ルートは完全に崩落し、熱による結晶化も見られました。掘り起こすには非常に時間が掛かる、そんな時です、私を呼ぶ声が聞こたのは」

「既に雲行きが怪しい」


「こっち、こっちにきて。そんな助けを求める弱々しい声が聞こえると同時、私の脳裏に新造された偽の脱出ルートが浮かびました」

「神を爆笑させる為に高位神官が悪知恵を絞って開発したアレか」



 24時間放送である俗賢人の集いのルールは至ってシンプル。

 ・転移や召喚を含めた全魔法は使用禁止。

 ・定期的に差し入れられるアイテムのみを使い、七賢人は脱出を試みる。


 そして、エンターティメント性を上げる為に、ノワルは脱出を妨げる七つの関門を作らせた。

 高位神官たちの悪意の塊である極悪すぎる罠、その第六関門は4匹のレベル99999カンストタヌキが率いるタヌキ軍団デスマッチだ。

 なお、グリンとカーラレスを除く七賢人のレベルは80000代である。



「七賢人の写真を飼育小屋の壁に貼って、この人達を捕らえた子は一週間おやつ食べ放題ですよってお前が言ったら、ヤル気に満ち溢れたっていう……。でも、流石にカーラレスの攻撃には耐えられんだろ」

「どうやら、危険を察知して逃げ出してくれたようなのです」


「賢すぎるだろ。で、成す術なく死んだ神官ん、お前らってタヌキ以下……」

「もう!言葉が過ぎますよ!!ですが、タヌキ達も無事ではありませんでした。脱出ルートの途中で幾つも崩落があり、その中でタヌキが亡くなっていたのです」



 カーラレスが放った攻撃は、文明を微塵も残さない程に苛烈だった。

 跳ね返された魔法による蹂躙は、魔法に耐性の無い地形を完全に破壊し、魔法耐性を持つ建物であっても廃墟へと変える。

 そして、魔法完全無効を施された脱出経路のみが原形を留める結果となったのだ。


 だが、完全に影響が無かった訳ではない。

 熱せられた空気による灼熱、地形変動による崩落……、そういった二次影響が唯一の生存ルートへ逃げ出していたタヌキ達も死へ誘なったのだ。



「こっち。こっちだよ。声が近いなと思い振り返ると、そこで二匹のタヌキが寄り添って亡くなっておりました。庇ったシュバルツワルトは即死、エーデルワイスも前足と頭に深い傷を負って」

「俺よりも強い疑惑があるタヌキ共、か」


「すでに事切れている、そう思いつつ確認すると……、二匹に守られたこの子達が居たのです。そして、私が抱きあげると『よろしくお願いします』と声が聞こえた。そんな気がしたのです」

「……タヌキ共め、最後の最期まで俺の心を揺らしやがる。感動的な意味でも、怪談的な意味でも」



 ノワルが抱いているのは、ちょっと目が潤んでいるシアンとは別の感情だ。

 脳裏に浮かんでいるのは『神の知識』を自称する、理不尽タヌキ。

 人語を流暢に話すどころか、何処からどう見ても愛らしい人間の幼女なそのタヌキは、ノワルに必ず飯を作らせるほどに強か過ぎる。

 そして、レベル99999タヌキ共に眷皇種疑惑がある以上、どんな事を仕出かしても不思議じゃないと判断した。



「エーデルワイスは今際の淵に立たされてなお、最期の力を振り絞って子を産み私に預けたんです。保護するのは当たり前じゃないですか!!」

「理由は分かった。が、なぜ受け入れられる?だってそれ、死に掛けたタヌキが唐突に喋ったってことだろ?」


「?いえ、エーデルワイスとエデン、シュバルツワルトとトウゲンキョウは普段から喋りますけど?」

「なんで!?いや、タヌキが喋るのも大概におかしいが、何でお前は平然と受け入れてんの!?」



 少なくとも、神殿で飼ってるタヌキが喋るという報告を聞いた覚えはない。

 キョトンとするシアンの表情に、ノワルは根本的な何かが間違っている様な気がした。

 シアンの中では動物が喋るのが特別ではない様な……、そんな雰囲気に違和感を抱く。



「ちなみに、残りのタヌキはどうした?」

「見かけませんでしたので、恐らく生き残ったんじゃないかと。七賢人様と一緒か自分で転移魔法を使って逃げたんだと思います」


「後者じゃないと信じたいが……、前者は前者で問題だ。七賢人に神獣・那由他との繋がりが出来ちまう」



 崩落して効果が弱まっていると言えど、魔法妨害が残っている経路だぞ。

 それを突破するにはランク8以上の虚無魔法適性が必要なはず。

 七賢人なら余裕で使えるだろうが……、タヌキも使えるのかなぁ。こえー。


 ノワルは遠い目になり、やがて思考を投げ捨てた。



「飼っても良いですよね?ね?ノワル様」

「色んな情勢を考慮した結果、それが最適解な気がする」


「やった!!ご主人様の許可が下りましたよ、う”ぃー太!!」

「ヴィィィ!」



 ノワルがつまみ上げていた子タヌキが声高らかに鳴いた。

 なるほど、それがお前の名前か。

 ノワルは納得し、ついでにシアンのネーミングセンスも褒めておく。



「ヴィータ、良い名前じゃねぇか。命、生涯、暮らし、活力、存続、あまり使われない言葉をよく知ってたな」

「へー、そんな意味もあるんですね!」


「ぇ?」

「ヴィ?」


「名前の由来は鳴き声から取りました。ヴぃーっと鳴くから『う”ぃー太』です!!」



 大体のタヌキはヴィー!って鳴くだろッ!!

 むしろそれ以外で鳴かないでくれッ!!

 転移の魔法とか切実に勘弁してくれッッ!!


 ……そして、おい、う”ぃー太。

 なぜ、お前までショックを受けている?



「可愛くないですか!?ねー、う”ぃー太ー??」

「ヴぃ、ヴぃぃ……?」



 うわぁ、すげぇ嫌そう。

 さっきまで嬉しそうにしていたのは、もしかしてお前も『ヴィータ』だと思っていたからか?


 ……。

 …………。

 ………………いやまて、それはおかしいだろッ!?

 優秀な文系神官のシアンですら知らなかった言い回しだぞ、ヴィータは!!

 どうして生まれたてのお前が知っている!?


 つーか、お前、そもそも人間の言葉を理解してるのか……?



「シアン、ちょっとソイツ貸せ。俺も抱きたくなった」

「ちゃんと優しくですよ、そーっと持ってくださいね」


「……おい、お前、俺の言葉が分かるのか?」

「……?」



 レベルカンストしてるタヌキが人語を話すのは、百万歩譲って良いとしよう。

 だが、産まれたてまで理解してるのはヤバいだろ。

 どう考えても、那由他が何かしてるってことだし。



「おい、分かるんだろ?言葉が。何が食いたい、何でも好きなもん作ってやるぞ、ほら言え!!」



 とりあえず、媚を売っておいて損は無い。

 そう判断したノワルはう”ぃー太を仲間に引き入れることにした。


 だが、う”ぃー太は首を傾げ、無言で見つめ返してくるのみ。

 まったく言葉は通じていない、そう判断したのは、思い付く限りの果物の名前を並べた後だ。



「何してるんですか?う”ぃー太は赤ちゃんなんですから、お乳が良いに決まってます。ねー、う”ぃー太?」

「ヴぃ!」



 ……コイツ、シアンには返事しやがった。

 この短時間で俺だけ嫌われたのか、それとも……、シアンの言葉のみ通じている?



「そう言えばもう一匹いたな。そっちは何て名前なんだ?」

「えっと、まだ決めてないんです。その、もし良かったらノワル様に名付けて頂けたらなと」



 ここでおねだりの上目遣いかよ。

 カーラレス様、貴方のお孫さんは、男好みの良い女に育ってますよ。えぇ。



「あっ、嫌でしたら大丈夫です!!ノワル様は動物を愛でるイメージとかないですし……」

「んー、ルクシィアでどうだ?」


「え!?るくしぃあ……?可愛いですが、意味は?」

見る(ルック)騎士(ルーク)という意味の『ルク』に、シアンの『シア』。お前を守れるくらいに強くなって欲しいからな」


「私の守護騎士……?貴方の名前が決まりました。よろしくね、ルクシィア!」

「ヴぃぃるん!」



 バスケットからもう一匹の子タヌキを抱きあげ、シアンが笑みを溢す。

 あ、ルクシィアも嬉しそう。

 一応、カッコよさも踏まえて付けた名前だからな、気に入ってくれて何よりだ。

 ……俺に抱かれてるう”ぃー太は、あまりの格差に絶望してるが。


 なんとなくう”ぃー太を不憫に思ったノワルは、ポケットに残っていたビスケットを取り出した。

 そして悲しみにくれている、う”ぃー太の前に持って行く。



「あ、喰った。流石はタヌキ。食欲に忠実すぎる」

「う”ぃ~あ~~」



 喰わなきゃやってらんねぇ。

 ノワルには、う”ぃー太の鳴き声がそんな意味に聞こえた。


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