第81話「ホウライ伝説 終世 六日目 プロローグ・アンバランス④」
「星を操るだと?そ、そんなことが」
「できるのだ。……ただ、儂に許されているのは配置を変えるだけ。星そのものを生み出した唯一神様には遠く及ばぬよ」
それは果たして謙遜なのか?
全身から滴り落ちる汗を拭う事も出来ず、ノワルは自分の叡智を結集させる。
そうして導きだされる答えが、『確実な死』ではないと信じて。
台風、地震、雪、豪雨、渇水、地割れ、猛暑、極寒……自然現象は、星の自転によって引き起こされる。
そしてそれは、莫大な重力を持つ『太陽系』が発するエネルギーの副次効果。
潮の満ち引きは月の引力によって発生し、海が気化すると台風になる。
幾つもの街を飲み込こむ豪雨も、大地をひび割れさせる渇水も、地震も噴火も……、どうやって調べたのか分からない自然の常識、それを幾つも思い浮かべ、ノワルはついに答えに辿りつく。
「すまんな、シアン。どうやら俺の力だけじゃ、どうにもならない」
「私は何をすればよいのでしょうか」
「……深呼吸だ。お前はいつも、俺が出した課題以上の結果を出してきた。だから、気負わず思うがままに戦ってくれ」
祖父に鉾を向けさせる言葉がこれかよ、ホント、カッコ悪いぜ。
だけどきっと、これで良い。
絶対に俺達が勝つ、そんな保障は何処にもない。
されど、絶対の俺達が負ける、そんな保障もありゃしねぇ。
決まってるのは、これから先の展開は唯一神にすら見通せないってことだけだ。
「《五十重奏魔法連・原色を照らす太陽王ッ!!》」
「《五十重奏魔法連・原界に潜みし銀河王ッ!!》 」
タイミングを合わせるまでも無く、ノワルとシアンの声が重なった。
二人がそれぞれ展開したのは、炎と水、相反する二つの魔法十典範。
50の不死鳥と50の水蛇が螺旋を描いて交錯する。
「星導四日神盤」
カーラレスへ向けて動き出した魔法は、様々な炎と水の集合体だ。
決まった形を持たないそれらは、非常に自然現象の影響を受けやすい。
故に、人間の感覚では見落としてしまう僅かな環境の変化にすら顕著に反応する。
先行した数匹の水蛇が、カーラレスが起こした重力渦に絡め取られた。
当然の様に地面へ叩き付けられ……、そうして自然現象の挙動を理解し、ノワル達は確かな勝機を幻視する。
「落下速度に差があったな」
「影響は均一では無い?だったら!!」
相手は神の如き自然現象、だからこそ、他者へ与える影響にはムラがある。
それを理解する為の炎と水、さらに、不定形であるからこその再生力を使い、ノワルとシアンは活路を見い出した。
50もいた魔法の群れは十分の一と成り、すべて威力が減退している。
それでもカーラレスに肉薄するその魔法は、人間一人を塵芥へと還るには十分すぎる攻撃だ。
「見事、そして、愚かな」
「なん……」
「儂は七賢人ぞ。魔法なぞ、遠の昔に探求し終えておる」
コォーン。っと打ち鳴らされたのは、カーラレスが持つ杖『ルーンムーン』。
澄み渡った音色はまるで巨大な時報のごとく、決死の不死鳥と水蛇を飲みこんで。
「原形に戻りし時計王……だと?」
「……魔法なのですか?でも、詠唱も無しにどうやって」
戦槍杖を持つノワル達が、目の前で発生した魔法を見間違う訳がない。
だからこそ、理解が出来なかった。
唯一神から神具を与えられた自分たちですら出来ない、完全詠唱破棄。
それを容易に行えるなど、それこそ、神の領域に存在する何か、そう思わずにはいられない。
「ノワルよ、お前は唯一神様にこう言っておったな。『カーラレスは教鞭をとった事がない』と」
「孫の教育すら俺に押し付けている以上、それは事実でしかない」
「案ずるな、これは自責だ。儂の恥を認め、禊いでやろうというのだ。所詮は与えられた物を使うしか能がない愚か者に、魔法の真髄を教示してやろう」
一つ、魔法次元を開く最も簡単な方法は、声帯認証。だが、必ず音を介さなければならない訳ではない。
二つ、魔法とは形態変化が付与された高次元エネルギー。故に、それらのルールに則ることで別のエネルギーへ移管できる。
三つ、魔法陣の本質は、循環と保存。放っておけば僅かな時間で減退消滅してしまうエネルギーを円環の理で繋ぐことで、長期保存が可能となる。
以上の理を用いて作ったのが、この聖刻杖―ルーンムーンだ。
儂が解き明かした2000を超える魔法、それらがエネルギーとして保存してあるこの杖は、形は違えど、既に世界に現存する魔法。
ルーンムーンはもはや、儂専用の魔法次元に等しいのだよ。
ノワルとシアンを襲った焦燥は、圧倒的な武力差から生まれたものではない。
己の倍以上の年齢を生きた、『理知』
自分達の有利性であるはずのそれすら、カーラレスには及ばなかった。
だからこそ彼らは、絶望し、慟哭し、狂乱となって挑むしか無いのだ。
これこそが、彼らに与えられた役割。
例えそれが無策の特攻であろうとも。
唯一神を楽しませる事こそが、彼らの存在理由なのだから。
短くて申し訳ございません!
花粉で意識が朦朧としている僕は、賢い人の戦いを書くのに手こずっております!!
次回は区切りのいい所まで行きますので、どうかご容赦を!!




