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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第78話「ホウライ伝説 終世 六日目 プロローグ・アンバランス①」

 


「唐揚げとー、やきとりとー、枝豆とー、ポテトにサラダ、パンに、スープに、ステーキも!これだけ用意すれば大丈夫でしょ!!」

「ヴィクトリア、発酵酒果実カブトムシトラップはどうした?」


「もちろんご用意しております。どうぞ」

「うむ、では早速」


「あっ、お求めの味になるまで、あと3日の辛抱です」

「ば、馬鹿な……。三日も掛る……だとっ……?」


「漬け込んだばかりですので」



 ヴィクトリアから渡された瓶を抱いた蟲量大数が、ひっそりと絶望した。

 容器越しに香る甘い匂い、それを賞味するまで3日も時間を要するなどとは思っても居なかったのだ。


 無色の悪意の影響下にあったヴィクトリアは、自身の願いである奉納祭で不備が発生しないように俸物を作っていた。

 特に、蟲量大数が渇望するカブトムシトラップだけは絶対に切らさないように管理していたのだ。


 だからこそヴィクトリアは、3日以上前に仕込んだカブトムシトラップを隠し持っている。

 だが、材料の調達をする前にこれを振舞ってしまっては、管理体制に異常をきたすのは必至。

 故に材料調達を優先し、街を訪れたのだ。


 そして……、現在のヴィクトリアは無色の悪意の影響から脱却した。

 深い絶望を抱かせて殺す為に金鳳花自身が仕掛けた洗脳解除ネタばらし――、そうして理知を取り戻した結果、ちょっとした意地悪を仕掛けている。



「ところで那由他ちゃん、ホットケーキも焼くけど食べる?」

「もちろんじゃの!」


「じゃ、出来るまでお話を聞かせて欲しいな」

「段を重ねるごとに、何でも一つ話してやるじゃの!」


「くすっ、生地をたっぷり用意しないと」



 蟲量大数が好む発酵酒果実カブトムシトラップの正式名称は、『蒸留酒果実ルムトプフ』という果実をラム酒に漬けこんだスウィーツだ。

 見た目はジャムに近く、パンやケーキに掛けて食すと美味。

 無論、ホットケーキとの相性は抜群だ。



「まず聞きたいのは金鳳花……、無色の悪意に関すること」

「うむ、それを話すにはカーラレスとシアンについて話さなければならんじゃの」


「その人って愛烙譲渡の?」

「初代・不安定機構の支配者。七賢人の長カーラレス・リィンスウィルと孫のシアン・リィンスウィル。小奴らが居なければ、今の人類文明は無かったからの」



 **********



『世界を存続させたければ、ボクを楽しませておくれ!!』


 それは絶対にして至高なる願い。

 唯一神が全ての生物に科した生きる意味であり、抗う事は決して許されない。


 そんな理由から始まったカーラレスノワルの対立は進み、後の世に不安定機構アンバランスと呼ばれるようになる。

 そして、その中心人物にシアンの名が上がるまで、長い時を要する事は無かった。



「お前がグリンの所に入門したノワルか。優秀だと聞いておるぞ」



 七賢人の一人・グリンに使える青年、ノワル。

 遥か頂きの施政者たる七賢人の側仕えとして世界に貢献を目指す、才能あふれる神官見習い。

 そんな彼へ声を掛けたのは、七賢人のトップ、カーラレス・リィンスウィルだ。



「か、カーラレス様ほどの御方にお褒め頂けることなどっ、まだ、何一つとして……!」

「謙遜は美徳ではないと儂は思っておる。褒めたグリンにも失礼というものだ」


「なっ、なんという無礼を……。どのようにお詫びを申し上げれば……」

「では、その反省も踏まえ、儂の可愛い孫に勉学を教えてやってくれんか。歳が近い方が畏まらずに済むじゃろう」



 人類の頂点に君臨する男が溺愛する、8歳の孫娘シアン。

 そんな幼い姫の教育者になる――、それは誉れ高きことである一方、失敗が即極刑を意味する超危険案件だ。


 当然、ノワルもその事に気が付いた。

 だが、18歳になったばかりの彼は神官見習いの経験も浅く、七賢人への憧れや尊敬をまだ失っていない。

 それに……、周囲の人間から避けられる辛さを知っている彼は、カーラレスの依頼を受けることにしたのだ。


 そうして、ノワルの執務の半分はシアンの教育となった。

 年頃の娘になったという理由で交流を禁じられるまでの5年間で彼が教えた『教育』は、シアンに多大な影響を及ぼすこととなる。



「ノワル様、演説の準備が整いました」

「おう、ありがとうシアン。俺達()の勝利まであと一手。それを確かなもんにしてくる」



 薄青の髪を結い上げ、円形状の神官帽子で覆って隠す。

 静謐、精錬、清浄、晴天。

 白と青を基調にする彼女の姿は、まさしく神官の理想。

 仕事中の彼女――シアン・リィンスウィルを知る誰もが、彼女こそ『次代の七賢人』だと謳う。


 そんな彼女に見送られながら、漆黒の神官服を着たノワルが壇上に立つ。

 左手には唯一神が市場で買ってきた聖書。

 右手には音声を届けるマイクという格好で。



「過ぎ去った吉日。神殿に降臨あそばされた唯一神様は、神託を我らへ与え賜った」



 シアンと再会したのは、接触を禁じられてから4年後のこと。

 教育に割いていた時間を使い、ノワルは七賢人に次ぐ地位を確保。

 やがて神の名の下にカーラレスに反旗を翻し、その正当性を確保する為の御旗としてシアンを欲する。


 それが誰の筋書きだったのかは、未だに判明していない。



「民よ、我らが長たる七賢人が起こした愚行を知っているか。唯一神様に反旗を翻し、私利私欲に溺れ、世界を破滅へと導いた大罪を」


「目覚めた瞬間に肉欲を揉みし抱き、酒で喉を潤し、なかなかベッドから出て来ない。これは淫蕩・貪食・怠惰なる原罪」


「不必要な金を身に纏い、知恵を見栄の為に使い、意図的に激する。これは強欲、傲慢、憤怒なる原罪」


「まして、この世に己より優れている者など存在してはならないという冒涜、これは嫉妬の原罪だ」



 世界各地で繰り返されているノワルの演説、その始まりは人間が必ず持つ七つの原罪を象った語り口。

 誰しもが必ず経験している罪悪感の上位互換こそが七賢人だと刷り込む為の政治誘導プロバガンダ


 そして……。



「俺達の手で七賢人を捕らえ裁く。これこそが、神の名の下に始まった聖戦だ!!」


「皆も理解しているはずだ!七賢人の醜く肥えた姿を!!スケルトン牢屋実況中継で見ただろ!?晩飯の魚を奪い合う醜い性根を!!」



 カーラレスを除いた6人の七賢人を捉えた今、その政治誘導プロバガンダは一大エンターティメントと化している。


 ノワルの勝利条件は、『彼を殺しに来る七賢人から逃げ続ける』こと。

 その期間は一生涯、だからこそノワルが設定した勝利条件は全ての七賢人の拘束だ。


 だが、ただ拘束するだけじゃ面白くないと、唯一神が神託を下した。


 なんとか脱出しようともがく七賢人の姿を24時間365日、牢屋実況生中継。

 7日に一度、国民アンケートによって選ばれる使えそうで使えない脱出アイテムを差し入れ、そのリアクションを楽しむという爆笑バラエティ番組『俗賢人の集い』。

 洗濯バサミの針金から作った鍵をタヌキに強奪された時の絶望顔が、国民全てを笑顔にした。



「残るは後一人、カーラレスただ一人!!タヌキ以上に弛んだ腹が目印だ!!」


「見つけたら蹴っ飛ばせ、あのデブを!!もう一回、牢屋に閉じ込めて吠え面かかせろ!!アイツ、国民の血税ちょろまかして逃亡、それで酒を飲んでんだぞ、許せんのかッ!?」


「今ここに神の名の下に命ず!!カーラレスをブチ転がせ!!」



 28歳となったノワルは、部下の真理掌握を完全に終えている。

 七賢人に反意を悟られぬ様に、無能な部下をヨイショ係に設定。

 いざとなった時に七賢人ごと切り捨てるようにデザインした部下の悪事がいい感じに効果を発揮し、市勢は完全にノワルの味方だ。


 そして、その最たる信奉者こそ、稀代の聖女と名高いシアン・リィンスウィルだ。



「演説お疲れさまでした。ノワル様」

「煽りまくった俺が言うのもなんだが……、お前にとっちゃ耳ざわりだったろ?」


「いえ。おじい様が私腹を肥やしていたのは事実ですから」



 幼いシアンは、祖父に抱き付いた時に香る甘い匂いが好きだった。

 日によって変わるそれを楽しみにしていたくらいに。


 だが、それが愛人から移されたものであると知った時、日によって変わる意味を理解して、尊敬と愛情は失望へと変化した。

 自分に祖母が居ない理由。

 好奇の視線に晒され続ける理由。

 その原因がカーラレスの好色だと知った時のシアンは15歳、思春期を迎えていた。



「仮にも賢いとされる人が、女性をとっかえひっかえ毎日毎日……、そんなのタヌキ以下です」

「そういや、奴らは一夫一妻制だって話だったか」


「清らかな交際をしていて微笑ましいですよ。だって、果物をオスに渡すとメスの所に一直線に持って行くんです。すごく可愛いくないですか!?」

「尻に敷かれるんじゃないか?それ」



 ほんと、七賢人とは真逆だな。

 こっちは女が手料理を持って行く訳だし。


 七賢人に抱かれたいっていう女は結構、多い。

 それぞれ事情があるんだろうが……、運よく妾にでもなれれば一生安泰。

 一回限りの逢瀬でも利益があるわけだし、生理的には受け入れられなくても納得できる話だった。


 ……が、お嬢様なシアンはそうじゃないらしい。

 カーラレス様もガッチガチに固めていた箱入り孫娘に毛嫌いされるとは、思ってもいなかっただろうな。



「そう言えば知っていますか?ノワル様。番いになったタヌキ達に子供が出来始めてるんですよ」

「そのせいで凶暴化したオスが上級神官をボッコボコにしたって聞いたが?」


「餌代をちょろまかしたのが悪いんです!」

「タヌキの餌を横取りかよ……。ちなみにボコったのは例のタヌキか?何故か俺よりもレベルが高くて白いアレ」


「エデンもエーデルワイスもお腹の赤ちゃんが大きくなってますので最近は大人しく……、その代わり、トウゲンキョウとシュヴァルツワルトが無双してます」

「上級神官ぼこれるのが4匹もいるのかよ。俺らの威信は何処に行っ――!!」



 ピン。っと張り詰めた感覚がノワルを襲った。

 それは、上空に張り巡らせていた侵入者探知結界による警告。

 5つ仕掛けた内の一つだけの反応、それが意味するのは、カーラレスの襲来。



「シアン!!」

「分かってます。が、おじい様は一体何を!?」


「奴の狙いは地下に捕らえた七賢人の解放……、まさか、神殿ごと地表を吹き飛ばして回収する気か!?」



 事態は一刻を争う。

 カーラレス程の実力になれば、感知結界に掛ってしまったことに気が付いているはずだと、ノワルもシアンも知っている。


 それを肯定するように、神殿の上空で膨大な魔力解放が起こった。

 空を埋め尽くさんばかりの大規模殲滅魔法陣の構築。

 阻止に乗り出したノワルとシアン、両者は結界が感知した場所へ転移し――。



「マジか!!」

「うそ……」



 そこにカーラレスは居なかった。

 あるのは小さな囮人形。


 そして、


 遥か遠くからカーラレスが放った大規模殲滅魔法『覇壊流星群メテオロニア』が、神殿を蹂躙する。


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