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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第77話「ホウライ伝説 終世 六日目 モノローグ・ヴィクトリア⑪」

 

「はぁ……、はぁ……。ふぅむ。食材はこのくらいで良いだろう?ヴィクトリア」

「むしろ多すぎます。何年、私にご飯を作らせるつもりですか?」


「我が輩の気が済むまでだ。そんな時が来るとは思えんがな」



 木に寄りかかっている蟲量大数の額から、移動中に付いた結露の粒が流れて落ちた。

 明らかに肩で息をしているその姿は、何処からどう見ても疲れ切っている。


 蟲量大数は世界最強だ。

 事象として観測できるあらゆる力で最強であり、事実上、無限の身体能力を持つに等しい。

 だが、満身創痍と言ってしかるべき程に、ぐっだぐだに疲れ切っている。



「甘味だ。我が輩は甘味が食べたいぞ。ヴィクトリア」

「デザートはふつう最後ですけど……、そんなに疲れたんですか?世界最強なのに?」


「あぁ、それはな……」



 蟲量大数に求められていたのは食材の確保だ。

 それはヴィクトリアが取り扱える程度の……、蟲量大数が全力を出すに値しない弱小生物。

 だからこそ、こうして疲れきってしまったのだ。


 食材の確保である以上、獲物の肉体を変質させてしまう苛烈な攻撃は許されない。

 そうして蟲量大数は、移動は全力で、そして、食材を捕獲する時は最小限で捕獲を試みた。


 光と音を置き去りにする移動速度で、そーっと獲物の背後から忍び寄る。

 蟲量大数からしてみれば緩慢としか言い様がない動きで、そぉーっと捕獲。

 その後、認識不可能な速度での帰還、それを何百回も繰り返した。


 その中で最も手こずったのが、レベル200にも満たない海洋生物の捕獲。

 蟲量大数は生まれて初めて、手も足も出ずに獲物を取り逃がすという失態を起こした。

 超光速で水に突っ込んだ結果、そのエネルギーで周囲一帯を茹で上げてしまったからこその失敗だ。



「それにしても……、この魚はなぜ、こんなにも弱いのだ。大気摩擦で身が腐るなどとは夢にも思わなかったぞ」

「魚に弱いって書きますからね。扱いが難しい分おいしいです」



 那由他が創り出した七輪で鰯を炙りつつ、手早くレモンと酢橘を絞って混ぜる。

 そこに那由他が取りだした醤油と共に、さぁぁーと魚にひと垂らし。


 じゅわぁーっと広がった香ばしい匂いに、ヴィクトリアと蟲量大数が思わず鍔を飲む。

 そして、那由他が取りだした炊いた白米の上に載せ――、本日8品目の俸物が完成した。



「うむ!美味いじゃの!!」

「ふぅぅむ、果実の香りがたまらん、おかわりだ。果実多めで頼む」

「もぐもぐ……、ふぁい、どうふぉ」



 殺伐とした雰囲気など微塵も感じさせない、和やかな晩餐会。

 その出席者は世界最強たる全知と全能。



「それで蟲量大数様、いくつか質問があるのですが」

「デザートは発酵酒果実カブトムシトラップが良い」


「そういう事じゃなくて。金鳳花……、無色の悪意ってなんなんですか?」



 とりあえず、那由他ちゃんと蟲量大数様は和解できたっぽい?

 ご飯を食べさせておけば大人しいとか、変わらないなぁ。


 そんな感想を抱いたヴィクトリアは、気になっていた疑問を片付けることにした。

 金鳳花、そして無色の悪意カラレスハート

 自分自身の人生に多大なる影響を及ぼした存在について知りたいと、寛ぐ神獣に視線を向ける。



「奴は初代人間の長……、名前は何と言ったか?那由他」

「かりっさくさくさくじゅわぁーー、カァラアゲレスじゃの」

「唐揚げ、レス?……あ、ごめん!すぐ作るね」


「……。そうそのカーラレスの魂が取りついたのが、愚かにも我が輩に弓を引いた金鳳花だ」

「んー、とにかくすっごく悪い人?」


「奴らの目的は世界を不安定にすることだ。が、本来であれば我が輩たちが行うべき役割をしているという面では、完全なる悪とは呼べん」

「……どういうことですか?」



 神が始原の皇種を生み出した理由、それは、この世界を見ていて楽しい世界にする為だ。

 魔法を使いこなす人間を頂点にした食物連鎖図、それを根底からひっくり返す為、世界に皇種というシステムを与えたのだ。



「神が我が輩たちに願ったのは、与えた権能で世界を揺るがし、物語を生み出すことだ。喜劇でも悲劇でも面白ければそれでいい。これこそが神の本音なのだ」

「うわぁー。でもそれだと、蟲量大数様は世界の敵ですよね?」


「最初はそういう風にデザインされていた。だが、我が輩は強過ぎたのだ。同格たる始原の皇種ですら相手にならず、その結果、神は別の遊びを思い付く」

「遊び?」


「世界を不安定にするカーラレス、そして、それを阻止する人間『大聖母』。この世界は二人のゲームマスターによるボードゲーム、そうだったな?那由他」



 鋭い視線と共に放たれた突然キラーパスも、全知たる那由他にとっては朝飯前の日常茶飯時。

 今も、3杯目の焼き鰯丼に出汁を注ぎつつ、可愛いらしい口を饒舌に動かしている。



「そうじゃの。儂ら始原の皇種を除いた全ての生物は、ゲームマスターの持ち駒という扱いとなっておる」

「那由他ちゃんや蟲量大数様は違うんですか?」


「本来、儂らの相手は唯一神であり、言うならば別のゲームマスターじゃの。強力すぎるが故に、互いの陣営への直接的な関与を禁じておる」

「だから、蟲量大数様は金鳳花を殺しに行かないんですね」


「じゃが、奴はどうしても儂らを手駒にしたいようじゃ。恐らく、唯一神がそれを望んでおるんじゃろう。おかわり!」



 4杯目の焼き鰯丼に大量の薬味を投入した那由他は、満足そうに匙を握る。

 そして、ワサビ、カラシ、海苔、柚子胡椒、酢橘醤油……、レインボー色のどんぶりに差し込んだ。



「無論、持ち駒にも意思がある。どちらの陣営に利を与えるのかは、それぞれの価値観による。だからこそ、互いに有利になる持ち駒を確保したり、相手に渡る前に削除したりする訳じゃの」

「……なら、私が狙われたのって」


「愛烙譲渡は、初代大聖母であるシアン・リィンスウィルが持っていた世絶の神の因子じゃの。言うならば、無色の悪意の天敵じゃ」



 ただの寒村でしかないはずの故郷が狙われた理由は、『ヴィクトリアの愛烙譲渡せい』。

 それに勘づいていても、憶測でしか無かった答えの確定、それはヴィクトリアの心を締めつけるには十分すぎる現実だ。



「そっか。やっぱり私のせいだったんだ」



 分かっていても、信じたくなかった。

 自分のせいで家族が、友達が、そして、愛する想い人が殺されたなんて、知りたくなかった。


 それでも、ヴィクトリアの瞳から流れた雫は一粒だけ。

 ぎゅっと無理やり瞼を閉じて涙を切り、心の中で「ごめん」と謝る。

 そうして再び開いた瞳で、全知と全能へ視線を返す。



「教えて。金鳳花のこと。大聖母のこと。どうすればこれ以上の悲劇を止められるのか。那由他ちゃんや蟲量大数様、不可思議竜様のことも」

「儂の全知はタダでは無い。相応の対価を支払って貰うじゃの」


「対価……、何を作ればいいの?とりあえず、唐揚げはもうすぐできるけど」

「まだまだ夜は長い。長話には酒のつまみと相場が決まっておるじゃの!」



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