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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第76話「ホウライ伝説 終世 六日目 モノローグ・ヴィクトリア⑩」

「……その腕、どのくらいで生えるんですか」



『奉納祭』はヴィクトリアの生きる意味だった。

 幼い頃は純粋な憧れ、そして、15歳を過ぎてからは、耐えきれない現実を見ないようにする為の口実として使っていた。

 例えそれが金鳳花に強制された感情だったとしても、ヴィクトリアを生かしていたのは紛れもない事実だ。


 そして、それを失ったヴィクトリアには、何も残っていなかった。

 この一瞬前の、蟲量大数が言葉をかけるまでは。



「どのくらいで腕が生えるかだと?……そうだな、自然治癒ならば3か月はかかるぞ」



 悔いたいのならば、生きろと言われた。

 憮然とした態度で、まるで揺らぐ事も無く、生きて良いのだと言われた。


 だから、ヴィクトリアは蟲量大数に問い掛けたのだ。

 失った腕を取り戻すまで……、それが叶わないのなら、この命が尽きるまでと。



「……たったの3か月?なにその、骨折みたいなノリ?」



 おーい、ヴィクトリアー!

 あ、おかえりホーライちゃーー、どうしたのその腕!?


 森でコケたら折れた。骨折ってマジいてぇ

 馬鹿なの!?じゃなくって、えっと、ぃ遺体の痛いの飛んでけー!


 遺体?さらっと殺すな。縁起でもねぇ。



 脳裏に駆け巡ったのは、幼馴染との記憶。

 懐かしくて、微笑ましくて、そして、もう二度と手に入らない大切な思い出。



「ふふ、なんですかそれ。腕ってそんなに簡単に生えないですよ」

「外骨格挫傷は脱皮しないと直りにくいからな。腕ごと生やした方が速いまである」


「なんでそうなるの?そもそも外骨格って?」

「我が輩たちの硬い皮膚は、人間で言う所の骨の役割を果たしている。人間も爪が割れた場合、治癒では無く新しく生え換わるだろう?」


「そうですね?」

「それと同じで、我が輩の外骨格にも治癒機能は無い。凄まじい回復力で瞬時に作り直すことは出来るがな」


「……うわぁ、どうしよう。常識が通用しない」

「始原の皇種に常識など通用するはずがなかろう。なにせ、偉そうに常識を語ってくる那由他こそが、この世界で最も非常識だと唯一神が太鼓判を押すほどだぞ」


「そういえば、那由他ちゃんと知り合いなんですか?」



 そもそも、腕を生やせる時点でまともではない。

 段々と明瞭になっていく思考能力で答えを導き出したヴィクトリアは、自分が付いていけそうな話題にすり替えた。

 だが、それは――。



「あぁ、知り合いじゃの。何度も何度も殺し合った仲じゃからのー」



 全知と全能、世界で最も強き生物の対峙、

 世界終焉へ繋がるプロローグだ。



「来たか、那由他」

「当たり前じゃの、蟲。身構えたということは儂らの協定を破ったという自覚はあると判断するが、の?」



 戦いを知らぬヴィクトリアでさえ、一色即発であると瞬時に理解する。

 それほどまでに研ぎ澄まされた殺意の交錯、いつの間にか生え揃った蟲量大数の腕が、それが本気であると物語っている。



「ちょ、ちょっと待って!!那由他ちゃん、蟲量大数様は私を助けただけなの、その、少しやり過ぎただけで……。だから許してあげて!!」

「愛烙譲渡か。随分とおねだりが上手くなったようじゃの」


「ぇっ」

「じゃが、儂には効かん」


「ぇっ?」



 それは、刹那の攻防だった。

 頬笑んだ那由他が中指を丸めて親指に引っ掛け、二本の指の間に力を溜めこんだ。

 そして、ふわりと風で舞うような跳躍でヴィクトリアの前に降り立ち、頭蓋へめがけて解き放つ。


 世界を叩き割るような、凄まじい炸裂。

 蟲量大数によって掴まれた腕が放ったデコピンは、そのままの意味で空を割った。



「何が目的だ?我が輩への挑発ならば、これで十分だぞ」



 ギシリと那由他の腕が軋む。

 そのままパキパキと肉と骨が砕ける音が鳴り――、蟲量大数の腕へ、那由他の回し蹴りが炸裂する。



「ほう、随分と弱っているようじゃの、蟲」

「……。」


「不可思議竜の命の権能は、その名の通り、生命力へ干渉する神の力。儂ら始原の皇種を神化させた時と同じの」

「それくらいは知っている」


「不可思議竜はそれを、自分自身へ神化する力として使っておる。そんな物を身体に宿せば、蟲から竜へ創りかえられても不思議ではあるまい」



 那由他が語った言葉の意味の殆どを、ヴィクトリアは理解できていない。

 だが、世界最強であるはずの蟲量大数が歯を噛みしめる程に追い詰められている。それだけは分かった。



「蟲量大数様……?」

「こ奴は協定破りをしたじゃの。儂、不可思議竜、蟲量大数の間で交わされた世界保持協定の」


「世界保持協定、ですか……?」

「儂ら始原の皇種は、他者から害意を向けられた場合のみ、その武力を発揮できる。無為に世界を壊さない為に定めた律じゃ」



 今回、蟲量大数が犯した罪は二つ。

 不可思議竜への襲撃。

 もう一つはヴィクトリア襲撃とは無関係な人間の殺害だ。



「ヴィクトリアを蟲量大数の所有物とした上で人間に害された。これなら街を滅ぼす理由にできんこともない」

「……だろう?」


「じゃが、不可思議竜にはどう説明する?完全に無関係じゃからマジギレしておるぞ」



 なんとなく見えてきた力関係。

 蟲量大数が世界最強、そして、それに次ぐのが不可思議竜と那由他。


 知らなかったとはいえ、ヴィクトリアは世界で3番目の強者への餌付けに成功している。

 そして、世界で一番強い蟲量大数も。

 なんとなく、不可思議竜もいけそうだと思った。



「あの、私のせいなので……、そのドラゴンにも謝らせて」

「その必要はない。キツネのせいにでもしておけばよかろう。奴がヴィクトリアに手を出さなければ、我が輩が出向く必要など無かったのだ」



 今度はキツネ?いっぱい動物が出てくる日だなぁ。

 だんだん動物園の様相になってきた会話、だが、元凶がキツネと聞き、その正体が金鳳花であると思い出す。



「事実、金鳳花がやった事ではあるが……、この那由他を納得させるにはちと弱いじゃの?」

「ならば貴様のせいだ。我が輩に美味い飯の自慢さえしなければ、ヴィクトリアと出会う事も無かったのだぞ」



 美味い飯……?

 それって、奉納祭の一年前に私が食べさせた料理のこと……?


 時系列が、ヴィクトリアの中で組み立てられて行く。

 そして、蟲量大数を呼び寄せたのはカブトムシトラップでは無く、自分の料理だったと理解した。



「言うにこと欠いて儂のせいにするとはのぅ……。ならば、世界を危機に晒すほどの価値がその飯にはあると示さねばならんじゃの?」

「ヴィクトリア、作ってやれ。我が輩と那由他を唸らせる最高の俸物を!」



 ここで、とんでもないキラーパスが廻って来た。

 かふゅっ、っと息を飲むほどの緊張、そして、必死になって思考を巡らし――。



「材料がありません」

「……。」

「……。」



 事実を告げた。



「作りたいのは山々ですが、昨晩、蟲量大数様が食いつくしました」

「……。」

「……ほぉぉぉ?」


「そして、材料を仕入れる為の街も蟲量大数様が木端微塵に破壊しました」

「……。」

「ほぉお?ほぉぉう?だそうだが?蟲量大数?」



 ごきごき。と那由他が指を鳴らす。

 さらに腹までも。

 それは全生命を絶望へと付き落とす、終焉の福音(アポカリプスサウンド)



「……待て、那由他。話せば分かる。貴様はこの世界で最も知恵ある者だろう?その口は何の為に付いているのだ?」

「無論、美味そうな蟲を噛みしめて味わう為じゃの。じゅるり」


「待て待て、少しだけ待っていろ!!食材を集めてくるぞ!!」

「はっ、儂の気が変わらん内に行くがよい」



 光速を超えて、蟲量大数が飛び立った。

 その余りにも速い動きは、台所に湧いた蠅を彷彿とさせる。



「という事でヴィクトリア、飯を作るじゃの」

「それはもちろん……でも、これっていいんですか?完全に私的な理由で他種族を襲撃してますけど?」


「よいよい。美味い飯の前では、そんなこと些事だからの」



 この瞬間、ヴィクトリアは理解した。

 那由他は不可思議竜の代わりに蟲量大数を殺しに来たのではない。

 ただ、飯をたかりに来ただけなのだと。



「くす……。って、あれ」

「鳳凰鶏か。煮るか、焼くか、揚げるのも捨てがたいじゃの」



 そんなやりとりを終える頃には既に、ヴィクトリアの前には見事な鳳凰鶏が置かれていた。

 え?っと声を上げる間もなく、身倒牛ミノタウロス豚火燃ブヒーモス、オレンジ、リンゴ、バナナ、塩なども追加されてゆく。



「……。えっと、じゃあ、塩やきとりから作ります!!」

「ならば香草が足りんじゃのー。おい、蟲ィ!」



 那由他が空に向かってつぶやいた直後、芳しい香りの草花が降ってきた。

 クミン、ハーブ、シソ、緑茶葉、イチョウ、紅葉、ラベンダー……。



「うわぁぁー!」



 空を埋め尽くす色とりどりの花吹雪、それを見たヴィクトリアが目を丸めて笑顔を溢す。




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