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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第75話「ホウライ伝説 終世 六日目 モノローグ・ヴィクトリア⑨」

 


「ん……」



 目覚めたヴィクトリアを出迎えたのは、目の前いっぱいに広がる満天の星空だった。


 周囲は眩い月明かりが照らす砂の海、建造物はおろか、草一本生えていない。

 背中の下にあるのは、ごつごつした岩礁だろうか。


 ヴィクトリアは、ちょっとだけロマンチックな、けれど、この状況がどういう経歴で出来あがったのかを思い出す。

 そうして息を飲むのと、岩礁の役を演じていた蟲量大数が息を吐き出したのは、ほぼ同時だった。



「目覚めたか。ヴィクトリア」

「……蟲量大数さま」


「ひとまず、会話が出来る程度には意識はあるようだな?我が輩は暫く星でも眺めていよう。その間に、身体に不具合が無いか確かめるがいい」



 ザリ。っと音を立てながら、蟲量大数が身を投げ出す。

 砂浜で寛ぐ若者の様な姿勢、だが、その上に少女を乗せているとなれば、別の何かに見えても不思議ではない。

 それに想い当たってしまったヴィクトリアは無言で立ち上り、3歩離れた所に座った。



「……。」

「気分が優れないのか? 命の権能は問題なく定着しているように見えるが」


「……ううん」

「背中が気になるようだな?だが、不可思議竜の権能を人間の肉体で扱う事は出来ん。その為の補強だ、許せ」



 顔を赤らめている暇はなかった。

 急速に明瞭になっていく意識と記憶が、この砂漠が街だったと思い出させてしまった。

 そして、それを引き起こした原因が自分であると、分かってしまったから。



「……違うよ。感謝してるの、あなたに」

「そんな顔には見えんがな?」



 現在のヴィクトリアの背中には、昆虫関節が生えている。

 それは、蟲量大数の五本の指と手首が変化した部位。

 人間にはない器官が、彼女の感情に合わせて揺れ動く。



「……。全て教えて貰ったんだ。金鳳花に」

「やはり神の先兵だったか、お前をやったのは」


「それでね、聞いたんだ。今までの私は正気じゃなかったこと、ずっと貴方に守って貰ってたこと」



 本音で言えば、突然増えた肉体器官が気になってしょうがない。

 ただ、それよりも気にするべき事案が目の前にある、だからこそ、ヴィクトリアの上げた視線には涙がいっぱい溜まっていた。



「……聞いちゃったんだ。村が、全滅したこと……、みんな、お父さんもお母さんも、フォルファも、グンローも、エリフィスも……、ホーライちゃんも、みんな死んじゃったこと」

「その件は心の整理が済んだと思っていたのだがな?」


「気が付かなかった。……ううん、見ないようにしていただけ。たぶんね、そうなんだ」



 現実感の無い表情で、ヴィクトリアが笑った。

 それは本当に困った時の、幼馴染に良く見せていた顔。



「……私の、せいだったんだって……」


「私のせいで、みんなが死んだ。殺されたんだって」


「痛い痛いって言いながら、涙を流して、絶望して、私を恨んで死んじゃったんだって」


「……ごめん。ひっく、、ごめん……、ごめんなさい、お父さん、お母さん、」


「ぐすっ、ほ、ホーライちゃん……」



 ぽたりと落ちた雫が、乾いた砂に染み込んでゆく。

 一粒、二粒、永延と。

 ヴィクトリアの涙が枯れるまで。



「……最低だ。最低だよ。私のせいでみんな死んじゃったのに、本当は、私も死ぬはずだったのに、い、生き残って」


「その結果、今度は無関係な人まで大勢、死んじゃった」


「本当に最低。ひっく、ひっく、これじゃ、ホーライちゃんに合わせる顔がない……」



 夜空に陽が昇り始めた頃、泣き疲れたヴィクトリアに残されたのは、絶望だった。

 奇しくも、今際を彷徨うヴィクトリアを追い込む為の仕掛けは、生き長らえたことにより、その効果を何倍にも膨れ上がらせている。


 愛した家族、愛すると誓う筈だった幼馴染。

 愛を譲渡するべき相手の喪失、その事実が彼女に重くのしかかる。



「もうやだぁ……。死にたい……」

「ダメだ」



 ヴィクトリアの口から出た本心、それに否定が返された。

 憮然とした態度で、そして、微塵も揺らぐことなく。



「ヴィクトリア、お前の役目はなんだ?」

「知らない。分からない。私に役目なんてないもん。だって私は――」


「貴様は我が輩に捧げられた供物だ。騙されていたとはいえ、自分で言った言葉を覆すのは許さん」

「……っ」


「少なくとも、我が輩の損失……、この腕が再び生えるまでは仕えて貰わなくては、割に合わん」



 突き出された蟲量大数の右腕、その肘から先は失われている。

 ヴィクトリアの感覚で言えば、それはあまりにも痛々しい光景。

 だが、蟲量大数は僅かな苦悶すら見せない。



「我が輩が貴様を助けたのは、此処に有った町よりも価値があると判断したからだ。この腕も貴様の命と等価交換なら惜しくない。そう思ったからこそ、くれてやったのだ」

「私には、そんな価値なんてな――」


「それこそ愚問でしかない。価値とは人それぞれ違う、我が輩が欲したのは街や腕では無く貴様なのだ、ヴィクトリア」



『価値』など、所詮は他人向けのステイタス。

 己が満足できたのなら、それこそが何物にも勝る価値じゃからの。


 蟲量大数の脳裏に浮かんだのは、褐色肌の女の子の言葉。

 非常に目障りな存在である彼女が、この世界で最も智慧のある存在。

 その事実を思い出した蟲量大数は、まるで見せつけるように肩を竦めた。



「最適化や効率化されている文明で暮らしている人間は失念しがちだが……、生とは、相手から命を奪う行為だ」

「……。」


「我が輩が好む俸物にも、たった一品で数十以上の命が使われている」

「……。」


「人間の文明ではそれが毎日数回発生する。貴様の村が捧げた感謝は、それに向けたものだったはずだ」

「……ん」


「悔いたいのならば、祈り感謝しろ。そして、俸物となった命を無駄にしないように生き続けろ。それが贖罪になると我が輩は思う」



 圧倒的な力を持つ蟲量大数であっても、後悔や失意を抱く時がある。

 過去には世界を滅ぼそうとする程の喪失感に見舞われた事すらあったのだ。


 だからこそ、蟲量大数はヴィクトリアを欲した。


 神の先兵の物語に介入し、

 那由他との協定を破り、

 不可思議竜を殺害する――、そんな極大のリスクを無視してまで、たった一人の少女を救出したのだ。



「蟲量大数さま」

「なんだ?」


「……その腕、どのくらいで生えるんですか」



 そして、その言葉を聞いたヴィクトリアの泣き腫らした目に光が戻る。

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