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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第73話「ホウライ伝説 終世 六日目 モノローグ・ヴィクトリア⑦」

「直ぐに戻る。それまで耐えろ。ヴィクトリア」

「……行ってらっしゃいませ、私の主様」



 返された言葉を背中で聞きながら、蟲量大数が顔を上げた。

 サングラスの様な複眼に映っているのは、白一色。

 灰燼と化した砂漠のその先、そこにいるであろう『命』を探る。



「ふぅむ。《世界最強の加速力(マキシマム・ガル)》」



 小さく思案し、ようやく出した答えは――、直感。

 こっちに竜が居るような気がするという雑な戦略、されど、それを行使する者が世界最強であるならば。


 蟲量大数が発揮したのは、この世界で観測された過去最高の加速力。

 速度0の状態から徐々に移動を開始するという常識を覆して発揮する初速は、もちろん神経速だ。



「居たか、不可思議竜」



 弾丸のごとく螺旋を描いて上昇する蟲量大数、その複眼に、呑気な顔の竜が映りこんだ。

 体長45m、ファイナル・炎・ドラゴンの中でもごく普通の大きさであるこの個体のレベルは、99994。

 ギリギリの所でレベル最大値に達していないという、平凡と評するべき竜だ。


 なんだべーー、なんかあっちの空が光った気がするぞぉ~~?


 何の不自由も無く森で暮らしていたこの竜は、理解しがたい現象が起こった事に気が付いた。

 だが、やはりそれは中途半端。

 未知の現象だというのは分かっても、その正体が世界最強による攻撃だとは思えない。


 それ故に抱いてしまった好奇心により、この竜は翼を広げて空へ飛び立ったのだ。



「《物理力(ダイン)応力(パスカル)加速力(ガル)》」



 上空1万フィートまで達した蟲量大数は、4本ある腕の一本を空間に叩き付け、その身体を止めた。

 そして、それと同時に残る3本の腕に宿したのは、系統の違う『世界最強(MAXIMUM)』。



「《無限累乗(インフィニティ)》」



 目の前の空間に、まず、『世界最強の物理力』を振り下ろす。

 刹那、その爆心地へ向かって『世界最強の応力』を叩きこみ、今度はそこへ、世界最強の加速力をねじ込み混ぜる。


 瞬きの間に繰り返された、幾重にも重ねられし暴虐。

 それらの相互作用が引き起こすのは、エネルギーの無限累乗。


 黄金色に輝かせた腕を従え、蟲量大数が降下する。

 今まさに飛び立った何も知らぬ竜へ向かい、一直線に、世界を二つに切り分ける様に。



「人間の街がある方だっぺなー、まぁた同胞がやらかしたか~~?」


「こげな平和な世でも、若気の至りって奴は減らねぇなー、やべぇ事になってたら、火星竜様に報告しねっと~~」



 竜は知らない。

 自分の寿命が残り1秒を切っている事を。


 蟲量大数は知っている。

 目の前の”それ”が目的であることを。


 そして、不可思議竜は知っている。

 天から迫り来る絶命の一撃が、真の意味で自らの命を脅かす事を。



「あれ、町がなくなってるぺぇ―――――――――――――――――。。。。。。。。。。。」



 この世界の上に存在することの証明は『色』だ。

 色彩を持つ事こそが、物質として存在していることの証明。

 故に、『白』は特別な意味を持つ。


 白こそ、全ての色に染まることができ、全ての色を排除した後に残る、原初の色彩。

 だからこそ、世界で唯一『白』を名乗れるかの竜は、全ての命の中に内包され、また、全ての命の後に残りうる。


 始原の皇種・『不可思議竜』。

 唯一神に見惚れられし初代・不安定機構の大神父、ノワル・リンサベルが見出した、白天竜の神化の果て。


 燃え尽き逝く竜の命が、最期を超えた息吹を発する。

 全ての竜は不可思議竜であり、不可思議竜は全ての竜でもある。


 だからこそ、全ての竜は不可思議竜の意のままに輪廻転生が可能となり――、依り代たる竜が偉大なる竜頭蓋アギトとなって生まれ変わる。



「……何用だ?蟲量大数」

「命の権能が欲しくなった。悪いが奪わせて貰うぞ、不可思議竜」


「賭かっている代償が己の命であること、忘れた訳ではあるまいな」



 竜頭蓋へ手を伸ばした、蟲量大数。

 牙を剥き出しにした、不可思議竜。

 両者の接触は、ほんの一瞬。


 ありとあらゆる物理法則上限値、それを累乗させた拳による絶対絶命か。

 ありとあらゆる神理法則を無視、輪廻転生システム脱却による絶対絶命か。



「《TNT(トリニティ)Gt(ギガトン)》」

「《解脱転命・漆白失墜》」



 竜頭蓋に蟲量大数が触れた瞬間、世界最強の肉体がドクン。と脈打った。


 不可思議竜による命の解釈は、幾重にも色を塗り重ねた絵画。

 生命活動とは、真っ白なキャンバスに色を足していくような行い。

 そうして描かれた絵画は生を終えると同時に、不可思議竜によって白へと戻される。


 全ての生命の根底にある原初の色、白。

 不可思議竜が行使したその喪失は、絵画がキャンパスを失うようなもの。


 例え、それが無量大数以上も色を塗り重ねた、見事な絵画であろうとも。

 いや、無限に等しい色が重なっているからこそ、その帰結は――、()


 世界の存在証明たる色の埒外……『黒』。

 そこへ堕ちた蟲量大数は、もう、”世界”最強は使えない。



「貴様も大概に頭が悪い。だから那由他に喰われるのだ」

「……。」


「我が輩の腕が触れた時点で、勝ちは揺るぎようがない。なぜなら……《神奪》」

「……かっ、は……」


「我が輩こそが、この世界最強の簒奪者。『世界最強』など、第一の権能(この力)で神から奪った副産物に過ぎん」



 それは、唯一神を以てしても想定外の出来事だった。



『……ノワル。先に言っておくぞ。今からここに生まれる生物は正真正銘の化物だ。当初の予定よりだいぶ、強い』

『さっきの、死んで生き返った白天竜よりも強いんですかい?』


『あぁ、そうだ。なにせ(ボク)が能力を与えた瞬間、この虫は、その力をすべて、ボク()に干渉するために使ってきやがった。そのおかげで、だいぶ多く”力”を持ってかれたよ』

『神さんから力を奪った、だと……』


『見事という他ないね。あぁ、流石は(ボク)が見込んだ世界最強の生物だ。ほら、怒らないから早く出てきて、顔をみせておくれ!』



 始原の皇種が生まれた日。

 蟲量大数が願った権能こそ、後の世に唯一神を殺戮し尽くす『神奪の権能』。


 神の力を、命を、奪い己が糧とする。

 それこそが、蟲量大数の真なる権能。



「さらばだ、不可思議竜。貴様から奪った命の権能(この命)、有効に使わせて貰うぞ」



 確かに、蟲量大数は己の存在根底である白いキャンバスを失っている。

 だが、それと同時に、不可思議竜から奪い取った命の権能を、己が存在根底へと置き換えた。



「……ふぅむ、時間を掛け過ぎたか?ヴィクトリアとの約束は、命を与えるまでで1分だからな」



 目的を終えた蟲量大数が、白亜の砂漠へ向かって翅を広げる。

 刹那秒という表現ですら不適格な時間の後、ヴィクトリアの前に降り立つだろう。


 此処までに要した時間、僅か……、31秒。

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