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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第67話「ホウライ伝説 終世 六日目①」

 

「はて……、此処が死後の世界か。どんなものかと期待してみれば、酷く味けない所だのう」



 ゆらりゆらりと眼前一面に広がるは、幾億万の命の灯火。

 温かみを帯びたオレンジ色の蝋燭火が、ホウライの足元を照らし尽くしている。



「はぁ、まったくやれやれ。アサイシスでも捕まえて愚痴でも聞かせてやろうかと思っていたのに、探すだけでも一苦労だわい」



 ホウライは近くにあった蝋燭を拾い上げ、その揺らめきを覗き見る。

 それはただの変哲もない、火。

 だけど何故か、見知らぬ人間の顔を想像させた。


 そうしてホウライは、幾つかの命を拾い上げては、それが誰なのかを確認していった。

 中には人間でない者……、いや、総数の割合から言っても、人間であるというだけで極小数。

 それでも人間ばかりを拾い上げていけるのは、炎から湧く煙に僅かな匂いがあるからだった。



「ん……、タヌキ?」

「疑問があるのは俺の方だ。何でここにいやがる?」



 幾億万の灯火の間で、タヌキがバナナを食いながらのびのびしていた。

 そのカツテナイくつろぎっぷりに、思わずしゃがみこんで確認するホウライ。

 そして、こんな珍妙な出会いも何もないよりかはマシだと、好々爺を装って語りかける。



「ほほほ、死んでしまった様なのじゃが、ここが何処だか分からなくてのう。何か知っておらんか?」

「……答えろ。”腹が減っては?”」


「”戦をするじゃの!”」

「あぁ、お前が。なるほど……」



 那由他と旅をしていた事があるホウライは、当然、その正体がタヌキだと知っている。

 だが、それを見やぶるまでに要した時間は10年以上。

 暗香不動を用いてもそれだけ掛った……、その訓練が、雷人皇ホウライへ至る道の基礎となったのだ。



「まぁ、座れ。ここは広いからな、闇雲に歩いたって意味ねぇぞ」

「そのようじゃのぅ。では、失礼して」



 体感時間で数十日以上も経過した気もするし、まだ、一分も経っていない様な気もする。

 そもそも時間の流れが存在しないのなら、道草を食っても問題あるまい。

 そう判断したホウライは戯れに腰を下ろし、近くにあった炎を覗きこむ。



「那由他様には世話になった。その時はまさか、老いぼれるまで生きながらえるとは思っても居なかったがのぅ」

「そいつは良かったじゃねぇか」


「好いていると言ってくれた女を二人も泣かしたのにか?」

「好かれてたんだろ?なら、少なくとも好かれていた時間は相手にとっては幸せな時間だったはずだ」


「……そうだったら良いな」

「このバナナと一緒だぜ。食うまでは楽しみで仕方がないのに、食い終わっちまったら寂しくてしょうがない」


「ほほほ、真理だな」

「だろ。それを理解した上で聞くが……、食うか?」



 すっと差し出されたバナナ、それをホウライは受け取った。

 常人の100倍は食い意地が張っている褐色少女、その涎を垂らしたあどけない顔を思い出しながら。



「まさか、死んだ後に食う供物がバナナとはのぅ」

「なんか思う事があんのか?あ?」


「故郷の村でよく食っておったんじゃよ。どうやら他の地域では栽培して無かったようでな、すっかり思い出の味だわい。……あぁ、美味い」

「ほう?見どころのある爺だぜ!」



 ホウライ達が育った村は、殆ど外部と交流がない辺境の地にあった。

 名前すら必要にならない程の錆れた村での甘味といえば果実、それも、酸味を全く含まないバナナはおやつに最適だ。


 ホウライはねっとりとした甘さに舌鼓を打ち、甘酸っぱい思い出に浸った。

 毎日の様におやつに出されて飽き飽きし、ある時、ヴィクトリアと一緒に文句を言いに行った。

 結局は取り合って貰えず、余ったバナナを使って釣りをしたり、虫を獲ったり。


 そんな素朴な思い出が、走馬燈のように――。



「……なんか、さ、急に眠くなっちまった、ぜ」

「だろうな」


「何か、盛った、のか……」

「言っただろ。”この”バナナを食ったら寂しくなるってな」



 ほーらいちゃんへ。


 頭の中に響いたのは、甘い甘い、スウィートマータ。


 物心ついた時には既に、一緒の部屋で遊んでいた。

 そこにはみんな居て、自分、ヴィクトリア、グンロー、フォルファ……、同年代の子供たちと、その面倒をみるちょっと歳が上の兄姉分たち。

 隣の部屋に行けば両親や妹分達が居て、日が昇ったら集まって遊び、日が暮れたら家に帰って寝る。

 そんな生活の中で、初めてヴィクトリアを意識したのは――。


 温かな思い出。

 幸せな記憶の追想も、その中の年齢が上がっていくにつれて焦燥感が募っていく。


 やがてそこに、涎を垂らした褐色肌の女の子が映った。

 今思えば、一年前のこの出会いこそが、激甚なる人生の始まりだった。


 映像の中で無邪気に騒ぐ自分とヴィクトリア。

 何も知らないからこその、笑顔。

 当時も『なんだコイツ』とは思っていたが、まさか、世界を丸ごと飲み込める危険生物だと思う筈も無く。


 そして――、あの日がやってくる。

 最愛の人を残して森へ立つ自分を、殴ってでも止めたかった。

 実際に殴ってみてもすり抜けるだけで何も変わらず。

 そこに残されたのは――。



「さぁ、奉納祭をしておいで。ヴィクトリア」

「はい」


「森にはキミの身体を欲し、待ち焦がれている生物が巨万と居るよ。なにせ、集めてきたからね」

「はい。分かりました。……金鳳花きんぽうげ様」



 見知らぬ女と、ヴィクトリア。


 






ユニクルフィン「死んだ後にもクソタヌキィ!」

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