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第16話「依頼者」

「ぐるぐる~」

「げっげー!!」



 俺達は今、不安定機構に向かっている。

 朝から大変にご機嫌なリリンに、昨日知った鳶色鳥についての情報を話した。

 そしたら、リリンはうん。と頷いたのち、諦めようと言ってきたのだ。



「これは諦めた方がいいと思う。鳶色鳥は足が速い。それこそ本気で移動されたら一日で何百キロ進むか分からない。町から出てしまった以上捕獲は絶望的」



 そうなんだよな。時速100キロを軽く超える速さで走るんじゃ、どこに行ったか分からない。

 失敗する可能性が高い以上、この任務はさっさと諦めて違う任務を受けた方がいいという結論になった。

 そして俺達は依頼の取り消しをする為に、不安定機構に向かっているのだ。


 やがて、不安定機構の建物が見えてきた。

 だが一昨日と様子がだいぶ違う。

 人は閑散としているのだが、その中に一人、大きな声で騒いでいる人がいるのだ。



「お願いです!!どうか、どうか、鳶色鳥を見つけてきて下さいませんか!?後生ですからぁぁぁ……」

「そんなこといったってなぁ……野生に帰っちまったんじゃどうにもなんねぇ。悪いな」


「あぁ……そんな……」



 うっわぁ……。面倒くさそうな事になってる……。

 チラリとリリンの方を見ると、やはり面倒そうな顔をしていた。


 うん。どう考えても事故案件です。本当にありがとうございました。

 俺は小声でリリンに耳打ちをし相談する。

 もちろん、この状況をどうするかについてだ。



「どうする?」

「凄く面倒。正直さっさとキャンセルしてこの町を発ちたかった」


「ん?この町を発つ?」

「そう。私達には大いなる使命が出来たから」


「は?大いなる使命?なにそれ?」

「かつての仲間たちに会いに行きたい」


「えッ!?、かつての仲間たち……。それって……」

「そう、ここから一番近いのはカミナの所。次にワルトナ、メナフ、最後にレジェという順番が良いと思う」



 うわぁぁぁ、なんてこった!!

 何がどうしてそんな事になったんだよッ!!昨日までそんな事は一言も言ってなかったじゃねぇか!



「へ、へぇ……ちなみに何でだ?」

「もちろん、このブローチと指輪を自慢する為!」



 俺が原因だったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 つーか、こっちもこっちで面倒な事になってるぅぅ!!


 見つからない鳥VS心無い魔人達の統括者(アンハートデヴィル)


 どっちもどっちだが……。



「なぁ、リリン。一応あの人の話を聞かないか?ほら、凄く困ってるみたいだしな」

「ん、ユニクがそう言うなら……」



 よし、やっぱり困っている人がいるなら助けるのは冒険者の本分だよな!


 ……うん。まぁ、正直なところ心の準備をする時間が欲しかったってだけなんだけどね。

 でも一応依頼は受けている訳だし、無関係って訳でもないしな。


 俺達は一人呆然と床にへたり込むその人に向かって進んでいく。

 近づいてきて分かったが、その人は若い女の人だった。



「あの……俺達一応、鳶色鳥の依頼を受けているんですが……」

「そう、ロクに探していないけど名義上は受領している」

「え、あ……あぁ!!本当ですか!ワタクシはこのセカンダルフォートの領主の娘なのですが!!」


「うん?領主の娘?」

「もしかしなくても、あなたが依頼者?」

「そうです!それで……いつ!いつ捕まりますか!?すぐにでも手元に欲しいんですが!!」



 え、何この人。だいぶグイグイ来るな。

 うなだれていた状態からいつの間にか俺の脚にすがりつき、懇願の体勢になっている。

 変な誤解を生むと面倒なのでやめて欲しい。


 そして、それを見たリリンの眉がピクリと動いた。

 うっわっこれ、面倒なやつだ!!



「まず、その手を話して欲しい。そんな体制だと話をする気が起きない」

「あ、すみません」


「そして、自己紹介」

「はい。ワタクシ、ミティ・ヌーイディーと申します。それで、その……いつ頃捕まりますか?」


「うん。鳶色鳥を捕まえるのは不可能。だから諦めて」

「えぇ、そんな……」



 あ、すごい。一切の躊躇なくバッサリと切り捨てた。

 俺にはできない所業。まさに心無き魔人達の統率者(アンハートデヴィル)かくあるべし、という感じだな。



「正直に言って無理だろうな」

「うん。どこにいるのか分からないんじゃどうしようもない。諦めて」

「それが、昨日森の中で鳴き声を聞いたという話を先ほど聞きましたのです!ですから、どうか、どうか……。でないと、あの方にどんな目にあわされる事か……」


「「あの方?」」



 どうやら訳ありらしい。

 逃げ出したのだからペットか何かだと思っていたんだが、違うようだな。

 だけど、逃げ出すって事は、なつかれていないって事なわけで。


 これはやっぱり断った方が良さそうだ。

 俺は自分の中の意見を変更し、リリンに視線を送る。

 リリンは待ってましたとばかりに嬉しそうに頷いた後、口を開こうとした。


 だが、リリンが声を出す前に、予想だにしない人物の名前が飛び出してきた。



「えぇ、あの方、レジェリクエ女王陛下は魔王と称えられ恐れられているお方」

「え"」

「え?」


「親愛の証として授かった鳶色鳥を逃がしたと知れたら、私…私…」



 ……まさかの超展開。

 リリンのパーティーメンバーの中でも一番悪名高そうなレジェリクエの名前が飛び出してきた。

 しかも、新たに『魔王』という、如何にもな称号が付くというオマケ付き。

 どう考えても関わらない方がいいと思うのだが、たぶん回避不可能だろう。


 突然の事にリリンもたじろぎ、言葉に詰まっている。が、その平均的な表情の奥には微かな興味があることが見て分かるのだ。



「え…と、レジェリクエ?」

「レジェとあなたと鳶色鳥はどのような関係?」

「えぇと、この町、セカンダルフォートは女王陛下の直轄なのです。光栄な事に大層気に入ってくださっており、日々の貢献の恩賞として鳶色鳥を授かりました」


「あーなるほど」

「その鳶色鳥を逃がしてしまったと?」

「えぇ。そうなんです。だってあのカワイクナイ鳥は私に蹴りを見舞ってくるのです!二・三日様子を見に行かなかったら飼育小屋から居なくなってました」


「様子を見に行かなかったって飼育員がいるだろ?」

「いえ、その飼育員が私なので、他には誰も」

「え、じゃあご飯は?」


「餌の容器には多めに入れておいたんですが、見たら空っぽでしたね……」

「自業自得じゃねぇか!!」

「ご飯ぬきとか本当にひどい。むしろ、よく逃げ出したと鳶色鳥を褒めてやりたい」



 いくら蹴りを見舞ってくる鳥といえど、餌抜きとは本当にひどい。

 しかも、その鳥が恩賞として与えられたというのだからタチが悪い。


 リリンも信じられないと言った表情で目を見開いているし、この一件に対する俺達の対処は決まったも同然だな。


 ……ほおっておこう。



「そっか。じゃ、頑張って探してくれよな!」

「頑張れ、鳶色鳥。無事逃げ切る事を祈ってる」

「そんなぁぁぁ!!」


「「自業自得って知ってる?」」

「声をハモらせて言わないでください!それよりも、もし見つけられなかったら、私、ぐるぐるげっげ―されてしまいます…… 」


「は?」



 え?何だって?ぐるぐるげっげーされる?

 何言っているんだ、コイツ。



「ぐるぐるげっげーされる?どういうことだ?」

「実は……」



 そう言って彼女は語りだした。

 なんでも、女王レジェリクエは気にいった領主に、親愛の証として鳶色鳥を配っているらしい。

 あんな地味な鳥を配るなんてどうかと思うが、貴族の中で流行っているらしいのでそう言うもんかといったん保留。


 そして、逃げ出してから一週間。

 たっぷりと領主たる父親から叱責されながらも、面倒だった飼育をしなくて良い事に解放感を感じていた矢先、悪魔のような書状が届いたのだとか。

 そして、彼女は懐から絢爛な意匠が散りばめられた手紙を取り出し、見せてくれた。




『親愛なるの隷属臣民へ』


 近況を告げる必要などないわぁ

 余に忠誠と隷属を捧げし臣民には繁栄と安寧が続いている事でしょお


 毎日を淡々と繰り返すのも飽きている事を察し、余は舞踏会を開催しようと思いついたわぁ。

 絢爛豪華な衣装と宝石を持参し、己が意を余に示して欲しいと願うのぉ。


 そしてぇ、今回の目玉は余とあなた達ぃの親愛の象徴、鳶色鳥の品評会よぉ。

 きっと余が授けた時より大きく美しく育っている事と思うわぁ

 もちろん、品評会には順位を付けてぇ、好成績を残した領主には特別な、すごぉいご褒美ぃを授けるわぁ


 ちなみにぃ、いないと思うけど欠席したり品評会に参加できないなんて事があったらぁ、本当にぃ残念だけれど、三個師団相当の査問軍団が領地に遊びにいくわぁ。

 それが嫌なら、『ぐるぐるげっげー』してもらうわぁ。

 あぁ、とても楽しみねぇー。



 隷属女王・レジェリクエより




 何この、頭の悪い文章。

 とても一国の女王がしたためたとは思えない酷さ。

 無意味に語尾が伸びているし、句読点が付いていないとこすらある。


 しかも、俺に続いて手紙を覗き見たリリンでさえ、「これはひどい」と感想を漏らしている始末。

 なんと言うか、リリンの仲間って言うから完璧超人みたいな人なのかと思っていたが、ぶっちゃけてしまおう。


 こいつ、アホだろ。



「リリン?なんていうかこの手紙はあまりにも酷くないか?」

「うん。これは酷い。レジェが本気でふざけてる。こう言う時のレジェは本当に始末に負えない」


「ん?どういうこと?」

「この文体は遊んでいる時のもの。しかも、適度に嘘を仕込んでいて、意味が反転している」


「は?嘘が仕込まれてる?」

「見て、文末の句読点がない文がある。この『。』が無い所は全て嘘で、言葉の意味が逆」



 は?句読点の無い所が嘘?

 てことは……。半分が嘘じゃねえかッ!!



「……これはひどい。半分が嘘の上に、『特別な凄い報酬を与える』という文にも嘘が含まれているみたいだ」

「レジェの性格を考えて解読すると、こうなる」




『親愛なる我が奴隷たちへ』


 最近、近況報告がないけど、どういうことかしら?

 それとも、連絡を寄越す暇もないくらいに忙しいのかしら?どちらにせよ、奴隷の義務を怠っているわね。


 そのおかげで、余も暇を持て余す始末。だから退屈しのぎに舞踏会を開催しようと思いついたの。

 絢爛豪華な衣装と宝石を余に献上し、楽しませて欲しいものね。


 そして、余に忠誠を誓っている証として、鳶色鳥を持参し品評会に出しなさい。

 ちゃんと死なせずに育てているか確認してあげるわ。

 もちろん、タダでは無い。貧相な物を展示した人には懲罰が待っているから覚悟をしておいてね。


 ちなみに、不参加や鳶色鳥を持参しないなどという不義理は、貴族身分剥奪の上、領地を軍の管理下に置くのであしからず。

 それが嫌なら、『ぐるぐるげっげーの刑』に処されるか選ばせてあげる。


 あぁ、とても楽しみね。


 あなた達の飼い主、レジェリクエより




「と、こんな感じの意味となる」

「とんでもねぇッ!?脅迫じゃねえかッ!!」


「そう。でも女王だから許される。権力は力だよ。ユニク」



 ……ナメてた。俺、リリンの仲間をナメてたよ。

 正直ヤバそうな肩書を持っていようとも、実のところ心優しい少女なのだと何処かで思っていた。

 まぁ、戦闘力はリリン並みだと思うから怖かったけど、話せば分かりあえる普通の人だと。


 これは無理だ。関わり合いになったら間違いなく不幸になる気がする。

 ……関わり合いになるどころか敵対している奴がいた気がするが、気のせい気のせい。



「ちなみに、リリン。この『ぐるぐるげッげ―の刑』って何だと思う?」

「レジェの性格からいってロクなことではない事は確か。んー、簀巻きにして(ぐるぐる)水攻め(げっげー)?」


「……。リリン。難しいとは思うけど鳶色鳥を探さないか?」

「まぁ、レジェが関わっている以上、私に拒否の意見は無い。だけど、条件をつけたい」


「条件?」

「探すのは、3日間だけ。それで捕まえられなければもう不可能だから」


「だ、そうだ。それでいいかな?ミティさん」

「え、あ、……はい。捕まえていただける事を祈っています……」



 まったく。トンデモナイ事になったもんだ。

 俺はうなだれている彼女、ミティさんに視線を向ける。

 よく見れば17~18歳といった年頃の彼女。

 悪どいと評判高いレジェリクエ女王の毒牙にかかってしまうのは、自業自得であっても可哀そうだと思う。


 まぁ、町の外を探すにしても俺のやる事は変わらない。

 声高らかに、鳴くだけなのだ。



 ぐるぐるげっげぇぇぇぇぇ!!


4章各話のサブタイトル「第4章XXXXXX」の第4章という部分を削除しました。


……なんで付けてたのか自分でも分からない……。

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