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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第63話「ホウライ伝説 終世 五日目 ②」

 

「迎えに来たぞ。ヴィクトリア!!」



 そして、ホウライは笑った。

 子供ガキの様に、無邪気に。

 幼馴染の家を訪ねた時と同じように。



「……っ!!」



 45年の時を経た、幼馴染との逢瀬。

 焦がれて、焦がれて、叶ったこの瞬間は彼らにとって何物にも替えがたい一瞬。

 その思いは同じはずだと、ホウライは一人、拳を握る。



「……欲しかった、のに」



 長き沈黙の末、俯いたヴィクトリアが口を開いた。

 徹底的に感情を殺した、蟲の様な鳴き声で。



「……のに。なんで……」

「久しぶりなんだ。声をさ、もっとちゃんと聞かせてくれよ」


「つっ……!死んでて欲しかったのにッ!!」



 僅かに漏れ出た感情を悟られないように、精一杯に声を張る。

 そんなヴィクトリアの声ですら、ホウライにとっては愛おしく。



「おう、手厳しいぜ」

「なんで来ちゃうの……。あのまま、サヨナラで良かったのに。もう二度と逢いたくなかったのにッ!!そんな、そんなにボロボロになって」


「カッコ悪いよな。馬鹿みたいな蛇に噛みつかれちまってさ、このザマだ」



 にへらっ、っと力無く笑ったホウライは、擦り切れてしまった羽織を広げて見せた。

 そして、見事な意匠と赤黒い染みを見たヴィクトリアが息を飲む。



「結構いい値段したんだぜ。絵梨紫苑えりしおん工房っていう老舗の――」

「そんな話をしたいんじゃないッ!!」



 何度も何度も、練習したのに。


 無条件で愛させてしまう愛烙譲渡の制御の仕方。

 やっと使いこなせるようになってきたはずなのに。

 どうして、こんな……、こんな時ばっかり……ッ!!



「なんで……、来ちゃったの……」

「愛しているからだ」


「っ!!いまさら、こんな時になって言う事じゃない」

「俺とお前が二人揃ってここに居るんだ、おかしい事じゃないだろ」


「もうおかしいんだよッ!!」



 隠しきれなくなった感情を、せめて悟られないように。

 白くて小さな蟲が鳴く。

 愛憎あいを宿した、その声で。



「私と貴方はもう、一緒に居るべきじゃない」


「種族も違う、価値観も違う、力も、考え方も、持っている能力だって何一つとして同じものはない」


「私はもう、貴方の知ってるヴィクトリアじゃないんだよ」



 その声はまるで、自分に言い聞かせているように。


『”ホーライ”ちゃんと、ずっと一緒に』

 それが幼いヴィクトリアが抱いた将来。


 だからこそ、確固たる意志を以てヴィクトリアはホウライに示す。

 もう、一緒には居られないのだと。



「何だそれは、お前はお前だろ、ヴィクトリア」

「……。」


「黙るなよ。お前はヴィクトリア、そうだよな?」

「違うよ、今の私は、”混蟲姫”ヴィクトリア」


「混蟲姫?」

「もう、私は人じゃない。蟲になったんだよ」



 かさり。と、空気が軋む。

 それはヴィクトリアの背後、何もない空間から発せられた音。



「……おい、そっちのお前」

「我が輩に言っているのか?」


「決まってんだろ。お前がヴィクトリアをおかしくしたのか?」

「ふぅむ、お前だなどと呼ばないで貰えるか?我が輩にはヴィムティムという名があるのだ」


「んだと?」



 世界を旅してきたホウライは、地方で使われる方言にも詳しい。

 その記憶の中にあるヴィクティムの意味は……、犠牲。

 それも、人間を生贄に捧げる時に使う隠語だ。



「何が犠牲ヴィクティムだ。それを強いられているのはヴィクトリアの方だろうが」

「ふぅむ?良く分からんな。この名はヴィクトリアから贈られたものだぞ」


「なに……、んな訳ないだろうがッ!!誰がテメェなんかに名前を」



「やめて。」



 発せられたそれは、害を成した虫を躊躇なく殺す時の冷ややかな声。

 今まで聞いた中で、いや、ホウライの人生の中で最も冷たい音の羅列、それを口にしたヴィクトリアは表情までも冷めきっている。



「ヴィ、ヴィク、トリア……?」

「ヴィクティム様を馬鹿にしないで」


「何で庇うんだよ。そいつはお前を攫った奴だぞ」

「違う。攫ってなんかいない。守って貰ったの」


「守った、だって?」

「そうだよ。貴方の代わりに守って貰ったの。だから御礼に名前を贈ったんだ。永遠に仕えるという意味を込めて」



 今までの暴走が嘘のように、ヴィクトリアの声は澄んでいる。

 そこには愛も情も含まれていない。

 酷く無機質な、怒りで上書きされた声。



「我が輩は永遠という言葉を好んでいる。ヴィクトリア、自身の口から出したからには嘘にはさせんぞ」

「はい。ヴィクティム様。私がこの世にある限り、その名は不変です」



 膝付いて頭を下げ、恭順を示す。

 誰が見ても理解せざるを得ない上下関係、納得できないのは世界でただ一人、ホウライだけ。



「何してんだよ、なんでそんな奴に礼を尽くす?そいつはお前をそんなに(・・・・)した奴なんだぞ……?」



 かさりと、空気が軋む。

 今度はヴィクトリアの周囲全体から、幾つもの瞳が睨み付けているように、鋭く。



「侮辱しないで」

「侮辱じゃないッ!!だって俺は知っているんだ、奉納祭でそいつがお前を攫った所をこの目で、見て……」



 しまったと、ホウライは思った。

 失敗の言い訳をする、それは幾度となくホウライが通ってきた敗北フラグ、ヴィクトリアの逆鱗。



「そんな近くに来てたんだ」

「そうだ」


「でも、何も出来なかった」

「つぅ!!」


「出来る訳ないよ。だってこのお方は、世界最強。正真正銘のホーライなんだから」

「そいつが、遥か彼方の頂きに居るのは分かってる。俺じゃ並び立つ資格すらない事も。だけどそれはお前も同じだろ!?そんな化物に関わること自体が……!」



 ギシリ。と空気が軋む。

 ヴィクトリアが噛みしめた奥歯と同時に、6本の亀裂が背景である森に穿たれて。

 その音がホウライに届く頃には既に、そこは砂漠と見間違うほどに崩壊していた。



「……何度、ヴィクティム様を馬鹿にしないでって言えば分かるの?」



 苛立ちに任せて、激情を発散させる。

 そんな子供じみた癇癪を起こしてなお、ヴィクトリアの怒りは収まらない。



「私の夢は、世界で一番強くてカッコイイひとに全てを捧げることだった。心も、身体も、全て委ねて奉納して、愛して、愛されて。そういうのに憧れていた」

「知ってんだよ、それは。だってそれは……ッ!!」


「貴方のものになる筈だった。私の世界で貴方が一番強くてカッコ良かったから。あの日(奉納祭)までは」



 でもね。

 そうヴィクトリアは続けた。

 愛を宿したその声で。



「無色の悪意に首を絞められながら、何度も何度も助けを呼んだ。助けて、ホーライちゃんって。でも、貴方は助けてくれなかった」


「金鳳花に植えつけられた知識は、私の価値観を変えた。ホウライちゃんは一番じゃないんだって」


「それを知った時、凄くがっかりしたし、どうでも良くなった。神の因子が覚醒して分かってしまったから、大体の生物は、私の下なんだって」


「だから、出会った生物に聞いた。貴方は最強なのか。だったら私を食べて、その最強で終わらせて、と」


「皇種じゃない生物は、絶対に最強だと名乗れない。だから、私の奉納を受け取る資格が有るのは皇種だけ」


「失望しながら森を進み、目の前に大きな『熊』が現れた時、私の始めてを捧げる相手はこの子なんだと思った」


「口を開けて私の身体を望んだ熊皇。だから、帽子を脱いで顔を晒して、その時を待ち焦がれて。でも、それは永遠に来なかった」


「私は熊皇のものにはならなかった。蟲量大数・ヴィクティム様が全てを奪ってくれたから」



 愛おしそうに語るその声に含まれているのは、愛情あい

 紛れもない好意、かつて、少年ホーライが得る筈だったもの。



「熊皇を一撃で倒したヴィクティム様は、我が輩こそが世界最強だと言った。だから私の主になって貰って。その証明に、ヴィクティムって呼ばせて貰ってるの」

「それが犠牲と何の関係があるんだよ」


「そんな意味じゃないよ。ヴィクトリア(ヴィク)支配者(テイム)。世界最強『蟲量大数』であらせられるヴィクティム様に、私は全てを捧げたの。身も、心も。人に見切りを付けて蟲になってしまうくらいに」

「……人をやめたって言うんだな、あろう事か、人間の皇になった俺に」


「そうだよ。嘘付きのホウライちゃん」



 約束を守れなかったのは、嘘と同じ。

 助けて欲しい時に来なくて、興味が無くなった後に出て来て、騒いで。

 あの夜に愛は失っていたけど、最低限の好意すらなくなっちゃった。



「もういいよ。死んでくれて。貴方が居た所で役に立たない。むしろ邪魔なの」

「……あぁ、確かにもういいな。お前の下手な嘘はウンザリだ」


「ん、」

「言葉を止めても遅ぇよ。俺は分かるんだ」


「何が?」

「嘘を吐く時のお前から、どんな匂いがすんのか」


「におっ……!?」

「別に嘘だけじゃねぇぜ。嬉しい時、悲しい時、怒ってる時、どんな匂いだったのかを俺は覚えてる」


「なにそれっっ!?そんな変態みた……」

「ははっ、本音でいうなし」


「つぅ!?!?」

「なぁ、謝るチャンスをくれよ。ヴィクトリア。お前にそんな辛い思いさせてる馬鹿に、最期のチャンスをさ」



 頼む。

 そう言って、ホウライは手を差し出した。

 許して欲しいと、切実に願いながら。



「……ううん。ダメだよ」

「なんでだよ」


「人の皇が蟲と一緒に居るのはおかしいよ」

「関係ない。これは人の皇と蟲の姫の話じゃなく、俺とヴィクトリアの話だ」


「じゃあ、なおさらダメだよ」

「なん……っ!!」



 そこにあったのは、濃密な死の匂い。

 たったの一匹ですら容易に世界を破壊する、滅亡の大罪。

 揺らぐ6つの蟲のアギトは、ヴィクトリアから伸びていて。



「だってもう決めたから。私の一番ホーライはヴィクティム様だってっっ!!」



 傲慢 強欲 嫉妬 憤怒 色欲 暴食。

 あらゆる負の感情は、愛の裏返し。


 自分を愛し、傲慢に。

 物品を愛し、強欲に。

 利益を愛し、嫉妬に。

 評価を愛し、憤怒に。

 異性を愛し、色欲に。

 快楽を愛し、暴食に。


 そして、それらをヒトに与え続けたヴィクトリアには、怠惰が残った。

 他人を愛し与え続けた彼女には、諦める事しか許されなかった。



「もうすぐ世界は終わる。私達が終わらせる」

「何を……!!」


「だから、私が貴方をこの手で殺す。そして……ッ!!」




 白くて小さな蟲が鳴く。

 愛情あいを宿した、その声で。


皆様こんにちは(こんばんわ)、青色の鮫です!

本日で今年最後の更新……、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます!!


ホーライの物語、いかがでしょうか?

シリアス展開多め(タヌキを除く)をしていて、今までとは作風がだいぶ違うように思えますが、楽しんで頂けているのなら嬉しい限りです!



それでは皆様も、お体に気を付けて年末年始をお過ごしください。

来年も、応援よろしくお願いいたします!!

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