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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第62話「ホウライ伝説 終世 五日目 ①」

 


 《わたしの、あいを、欲すならば》

 《無限の果てを見せてー、欲しい》



 《この身体に唇を這わせたいの、ならば》

 《たったひとりに、なって欲しい》



 《私が愛す、その、”ひと” は、》

 《きっと、きっと、特別なひと》



 《融け合う様な、永遠の愛のゆめ

 《叶うことの無い、永劫の愛のゆめ



 《このちっぽけな愛を、たったひとりへ捧げましょう》

 《最も強い――、愛しき、私を愛したひとへ》




 終世・五日目の朝。

 その日、”始まり”の森の中で、愛の歌が奏でられた。


 混蟲姫・ヴィクトリアが口ずさむその歌は、世界を終焉へ導く鎮魂歌レクイエム

 愛烙譲渡スウィートマータを含ませた歌声により、僅かに残っていた生物種の全ては『愛』に恋焦がれた。

 そして、それを手に入れる為の行動を開始したのだ。


『至上の愛、ヴィクトリア』

 彼女こそ……、終わりゆく世界へ残された希望、最高にして最後の『俸物』。



 白くて愛しい蟲が鳴く。

 求愛あいを宿したその声で。



 生きとし生きる全ての生命が、欲して止む事がない。

 最期の奉納祭を、ヴィクトリアは願ったのだ。



 **********



「そうか。お前はそこで待ってるんだな。ヴィクトリア」



 終世・五日目の朝。

 生き残っている生命はもう、数えられる程度になっている。


 そして、音を介して世界に広がった愛烙譲渡の効果により、僅かばかりとなった生命体は、ヴィクトリアを手に入れる為の行動を起こした。

 ありとあらゆる手段を使い、一斉にヴィクトリアへ殺到するように仕向けられたのだ。


 これは世界を舞台にした『蟲毒の壺』。

 ヴィクトリアを手に入れられるのは、たったの一匹。

 世界で最も強きひと――、”ホーライ”。


 それを決める為の戦いへ、『名もなき老爺』が参戦する。



「ははっ、まるで夢の様じゃな。まさに願い焦がれたあの夜、そのもの。鼻に付く匂いも、淘汰精錬された化物揃いと来ておる」



 生き残っている生物は、種族の頂きに立つ強者のみ。

 平均値化された能力にいち早く対応し、それぞれの優位性を見い出す理知が必要不可欠。

 それが出来なければ、徒党を組んで押し寄せる世界絶食の使徒(タヌキ)に抗うなどできない。


 故に、奉納祭に参加する資格があるのは、皇種、眷皇種、超越者……、並々ならぬ尋常なる者。

 ホウライの行く手を阻むのは、腕の一振りで数万の命を奪える未曾有の化物だ。



「運命とは皮肉じゃな。よくぞ懲りずに出てきたと褒めてやろう、獅子の皇よ」



 アサイシスやエリウィスと別れた後、ホウライは己を見つめ直す事に時間を使った。

 己の出自、意思、願い。

 研鑽して秘めた力の全て、託された想い。

 それら全てと向き合い、理解し、一つにまとめて心臓に宿したのだ。


 そんな万全に整えたホウライに前に現れたのは、奇しくも、新しき獅子の皇。

 獅子水皇マーラディオの後を継いだ、『不動獅皇・シーサリオン』。



「人間が争う気か?我を誰だと思って――」

「争いになるなどとは、片腹痛い。この儂を誰だと思っておる」



 それはたった一秒の逢瀬。

 そうして獅子の皇は尽きて、逝く。

 ぱりっ……と振るわれたホウライの左腕によって、断末魔すら残せずに、塵芥へと炭化して。



「儂とて、皇ぞ。同格ならば、この手を阻める道理なし」



 ホウライの格好は、黒い着物の正礼装。

 黒羽二重・紋付き長着羽織と黒染めの袴で全身を覆っている。


 その姿は、今まさに婚姻をあげようとする新郎の姿そのもの。

 ホウライが知る最も格式が高い呉服屋へ赴いてあつらえた、一世一代の勝負服。



「埃一つ付けさせはせん。ヴィクトリアに笑われてしまうからな」



 己を見つめ直したホウライは、ラルバから託された皇の資格(想い)を理解した。

 それがどれほどのものであったのかは、その心臓に宿った皇の紋章の輝きが克明に語る。

 皮膚や服を貫通するほどの光輝、そこから湧き続ける激情がホウライを『世界最強』へと押し上げてゆく。



「……狼」


『日切狼皇・マーナガルム』

 八つの脚で獲物の万策を狩り殺し、その死者の肉で腹と感情を満たす。

 悠々と天に上って月を獲物の血で塗れさせ、太陽すらも喪失させる闇の皇狼。



「……鹿」


『贋魔鹿皇・グレイズュニール』

 その生を司る右角、相手の死を司る左角。

 それらが混ざり合流する頭蓋に穿たれた瞳に魅入られし者は、魔を司る皇鹿の周りで踊り狂う。



「……兎」


『月齧兎皇・アルミラカミラ』

 かつて竜の聖地と呼ばれた山麗は赤く紅く染め上げられた。

 その中に存在する黄一点、金色に輝く皇兎は戯れに、竜命が尽きるまで遊び続ける。



「……ワニ


『流船鰐皇・セベクテルベ』

 湧き出る川と呼び讃えられた、尋常ならざる巨体。

 一噛みで村を砕き滅ぼし嚥下する、異常にして異形なる鰐皇は飽きることなく喰らい続ける。



 どれもこれも、戦いにすらならなかった。

 僅かな差異として、ホウライが振るったのが、右手か左手かの違いしかない。

 後は皆、獅子と同じく塵芥へと炭化したのだ。



「……!」



 すん、っと小さく鼻を鳴らしたホウライは、直感に従って地面へ身体を伏せた。

 刹那、自身の頭が有った位置の空間が上下に開斬。

 その奥から這い出た長大すぎる黒鱗、見覚えがあるそれを睨みつける。



「……、あん時の蛇か」



 轟々と湧き出る蛇鱗、それが出現している空間の裂け目は一つでは無い。

 視認出来るだけでも十か所以上、それがホウライの行く手を堰き止めた。



「しゅろろ……。……タヌキめ、面倒そうなの育てやがって。後で絞める」



 放たれた怨嗟はお互い様。

 忌々しそうに鎌首を持ち上げた蛇、そして、ホウライも腰へ差した二本の剣へ手を伸ばす。



「今ならよく分かる。お主、黒塊竜よりも遥かに強いな?」



 ホウライの鼻を突く覇気は、先程までとは比べ物にならない。

 目の前に居るのは、明らかな格上。

 彼の脳裏によぎっているのは、蟲量大数や那由他と同じ始原の皇種――。



恒河沙蛇こうがしゃじゃ、死んだとされておるんだがのぅ。いやはや、儂は本当に運がないわ」

「……しゅるしゅるしゅる」


「が、今度は超えさせて貰うぞ」

「しゅるり……、《第8空間次元層(ウロボロス・オフィス)、解放》」




 **********




「来たようだな。お前を欲する者が」



 世界を染める鎮魂歌、その歌声を遮り告げる。

 蟲量大数・ヴィクティム。

 静かに歌を鑑賞していた世界最強が、生命淘汰を潜り抜けし強者が現れたと告げたのだ。



「……どの種族の皇ですか?」



 歌に全能力(・・・)を集中させていたヴィクトリアは、その存在を認識できていない。

 だが、歌を止めた今でも、自らの能力を使って正体を探ろうとしなかった。


 どんな種族が来ても、結末が変わることは無い。

 そう思っているが故の無関心。

 その声には愛が宿っている、されど、情など微塵も含まれていない。



「キツネの白銀比、もしくは、麒麟の―― ぇ」



 現れた老爺を見た瞬間、俸物は小さく悲鳴を上げた。

 愛情が宿った、その声で。



「……ようやくじゃわい」



 血塗られた姿のホウライ。

 破けて肌蹴た着物、露出した上半身、その姿はまさしく餓鬼ガキそのもの。



「迎えに来たぞ。ヴィクトリア!!」



 そしてホウライは笑った。

 子供ガキの様に、無邪気に。

 幼馴染の家を訪ねた時と同じように。



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