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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第57話「ホウライ伝説 終世 一日目①」

 

「すっす、すすっす……、復活すーーっ!」



 周囲一帯に広がる荼毘の上。

 新緑のような魔法陣に囲まれたアサイシスが、元気いっぱいにおどけて見せた。

 つい数分前まで瀕死だったなどとは微塵も思わせない、アホ丸出しの嬌声で。



「はぁー、マジ、死ぬかと思ったっすよー。なんなんすかあの黒いドラゴン。倒したら分裂した上にパワーアップとか究極に意味分かんないんすけど!?」

「……。」


「ま、バケモン具合はお師匠も一緒っすけどね。ウチが戦った奴より強いドラゴンを二匹も相手しといて無傷とか。あ、これが妖怪の力か」

「……。」


「にしても……、絶世美女アサイシスちゃんを振ったあんの金髪イケメン、生かしちゃおけねぇっす。絶対にとっ捕まえて、人生を雁字搦めに縛ってや……お師匠?」



 アサイシス一人劇場の観客席に座っているのは、たった一人の老爺・ホウライ。

 真っ黒に炭化した森は、さながら照明を落とした舞台のよう。

 ホウライの魔法によって治癒されたアサイシスがそうだと騒ぎ、敗北した恥ずかしさを隠す為に必要以上の明るさで振舞った結果が、この一人劇場だ。



「反応してくれないと面白くないっすよー。うわ!?なんだこのじじぃ、今にも老衰で死にそうっす!?!?」

「……まぁな」


「……ん、いつにも増してショボクれた顔してるっすね?らしくないっすよ」



 犯神懐疑レーヴァテインを覚醒させたホウライは、それがどんな能力なのかを理解している。

 さらに、皇となったことで過去の人間の皇種が使用したレーヴァテインの情報も手に入れた。

 当然その中には、ラルバが残した情報も含まれている。


 こうしてホウライは、アサイシスの死を嘘だと懐疑した。


 魔法陣の上で命を取り戻した彼女の状態は、半死半生よりも酷い何か。

 だが、魔法と肉体の融合を得意とするホウライは回復魔法を得意としている。

 身体の傷を治すなど造作も無く……、そして、心の傷のみが残ったのだ。



「ウチは負けたっすけど、お師匠は勝った。だからこうしてウチを助けることが出来た。そうっすよね?」

「生きている事が勝ちならばな」


「そりゃそうっすよね?随分とド派手に戦ったっぽいっすけど……、」



 アサイシスの目には、燃え潰された世界が映っている。

 ここは確かに森だったはず、だが今あるのは僅かに暖かい石炭の燃えカスばかりだ。


 彼女も分かっている。

 黒塊竜の群れと戦った軍人達の殆どが、僅かな抵抗すら許されずに殺されたという事実を。

 撤退できたのは多くて1割。1万人中、100人にも満たない極小数なのだと。

 アサイシスには、それ以外の死を悟ったホウライが気落ちしている様に見えた。


 責任を負うべきなのは部隊を預かったウチだから、馬鹿な部下でも見て笑うっす。

 そんな想いやりへ返されたのは、失笑。

 虚ろなホウライの顔に刻まれた深い皺、それを見たアサイシスはひび割れていると思った。



「お師匠……、何があったっすか?」

「……。」



 ホウライの堅い表情に浮かんでいるのは後悔だ。

 そして確かめるように手を握り、ぽつりと呟く。



「儂はこの手で、ラルバを殺した」

「ぇ……」


「ラルバだけでは無い。多くの命がこの一瞬で失われた。街も、人も、生命の営みがあったという名残ですら、跡方も無く吹き飛んだ」

「ちょ、いきなり何言ってるっすか」


「聞かれたから答えておるだけだ。儂が優柔不断だったばっかりに、世界を滅ぼさなければならんことをな」



 荒唐無稽な語り口で始まった懺悔、それに添えられているホウライの表情をアサイシスは見た事がなかった。

 別人だと言われた方がまだ納得できる程に酷い顔……、だが、アサイシスは話を聞くしかできない。


『列行軍計”半径10km以内に存在する生命の数”……”2”』


 彼女の疑問に答えられる者は、目の前のホウライしかいないのだから。



「世界って……、そもそも、何で竜が出てきたんすか?」

「儂ら人間が生態系を著しく破壊していたからだ」


「ラルバちゃんが何かしてたってことっすか?」

「竜を襲っておったようだ。今回の様に、儂らを陽動に使ってな」



 ホウライは語った。

 ラルバは実験の為に、生態系を破壊していたこと。

 その実験の真の狙いは、彼女が人間の皇となること。

 その為に、多くの人と動物の命が消費されたこと。


 そして狙いは成就し、こうして、取り返しがつかない事態に発展したこと。

 決してラルバの尊厳を傷つけないように言葉を選びながら、ホウライは静かに語り終えた。



「お前が敗北した後で、儂は黒塊竜に勝利した。次は白天竜。そう思い天を見上げた先にラルバが居た」

「遊びに来たんじゃないっすよね?」


「ラルバは儂を欲しいと言った、愛していると。そして儂は、それを断った」

「頑張ったんすね、二人とも」


「ラルバは怒った、己の過ちを鼓舞してしまうほどに。ホーライはいらないとワザとらしく声を荒げてな」



『過ち』という言葉に含まれた意味は、アサイシスでは計りしれない。

 だが、並大抵のことでは動じないホウライが明らかに声をひそめた。

 その行動だけで、許されざる大罪だったと当たりを付ける。



「恋人にはなれぬ、そんな資格がある筈もない。ならせめてもの償いに刺し違えてやろう。そう思った」

「間違ってるっすよ」


「そうだ、何もかも間違いだった。ラルバの演技を見抜けず、互いの心臓に剣を刺し合っても気がつかんかった」

「何でそうなっちゃうんすか!?お師匠のこと大好きだっただけっすよ!?」


「儂が悪いのだ。何も出来んかったくせして粋がって、取り繕って。間違った判断ばかりを選び、あげく、こうして生き恥を晒すしかできない」



 互いの剣が心臓を射止め、あとはもう、人生の幕を下ろすだけ。

 そんな状況から、儂だけが生き残った。

 ラルバが最後の魔力を蘇生に使い、真実を告げてくれたからだ。



「真実ってなんすか、ラルバちゃんはいつも本気だったっすよ!!」

「嘘吐きはラルバではない。すべてはチャカスとルティン、神懸りな悪意が原因だ」


「神、がかりな悪意……す?」



 この世界には、無色の悪意という永遠の悪が存在する。

 その意義は世界存続を騙る、歪んだ正義。

 人を、心を、世界を不安定にする、究極の疑心猜疑。


 ホウライやラルバ、そしてアサイシス……、ブルファム王家に関与する殆どの人が無色の悪意に捕らわれていたはずだと、ホウライは言った。

 無色の悪意は、互いが分かりあえないように心情に細工をする。

 神に捧げる物語を面白くする為に、多くの人生を簡単に使い潰す、そんな存在がチャカスとルティンの正体だった、それを聞いたアサイシスは言葉を失い、ただただ驚いている。



「それを教える為に、ラルバは自身の命を捧げた。皇種というシステムを利用することで無色の悪意の影響を取り除き、儂に情報を残したのだ」

「ウチ、役立たず以下っすね。そんな状態のラルバちゃんを思い詰めさせちゃったんすから」



 アサイシスの胸に刺されたレーヴァテインを、ラルバが持っていた。


 大切な友の死を告げたラルバは、惜しいと言った。

 それにもきっと、嘘が含まれている。

『惜しい』程度じゃなかったらいいなと、アサイシスは思った。



「神が現れて儂に言ったんだ。面白い物語だった、満足したって」

「世界は神を楽しませる為に存在している。不安定機構の壁に飾ってある文言っすよね」


「だから、世界を滅ぼす。これ以上の続きはいらないと仰ってさ」



 そんな横暴な言葉も、それを口にしたのが唯一神ならば逆らい様がない。

 いや、儂には出来なかったのだと、老爺の仮面が吐かれたホウライが嗤う。



「ラルバになり変わった神は七日で世界を滅ぼせる。そんな者に立ち向かえると思うか?」

「それは……、やんなくちゃいけないっすよね」


「強いな、お前は。儂は始めから無理だと諦めてたんだと思う。怒ったふりをして、取り繕って、時間を稼ごうとしてさ」

「誰だってそうするっすよ。相手が強いなら、逃げて、生き延びて、万全な状態でも勝てないって分かっちゃったら、逃げ続けたっていいんす。だって、お師匠を咎められるのは神と対峙できる人だけっすから」



 アサイシスは、その存在を知らない。

 だからこれは慰めのつもりの言葉。

 それが何故、ホウライを傷つけてしまったのか、その答えに辿りつけない。



「お師匠、泣いてるっすか?」

「いるんじゃよ。世界でただひとり、ホーライを咎められるひとがな」


「ウチじゃないっすよね……?」

「ほほっ、馬鹿を言うな。ヴィクトリア……、俺の幼馴染だよ」



 ホウライは語った。

 己の出自、いかにして激甚の雷霆ホーライが生まれたのかを。



「再会したヴィクトリアは昔のままだった。好きで好きでたまらない幼馴染の姿のまま、何もかもが変わっていた」


「ヴィクトリアは神と対峙しても揺るがなかった。俺よりも何倍も強い奴を引きつれて、神に刃向かって見せた」



 ポツリポツリと、大地に雫が染み込んでゆく。

 ぐちゃぐちゃになった顔、それでも、ホウライの言葉は止まらない。



「ラルバを見捨てた直後にさ、死んだと思っていた女が出て来て、……簡単に乗り変えようとしちまったんだ」


「普段のアイツは抜けてるけど、肝心な所を外した事がない。俺が調子のいい事を言ってるって分かってて、凄く怒ってた」





 それが本当に不甲斐なくて、さ。


 俺はもう、ホーライなんかじゃない。


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