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第15話「贈る想い」

「ふあぁー。結構遅くなっちまったな」

「うん。11時を回っている。もうお風呂に入って休もう」



 なんだかんだで楽しい時間を過ごした俺達は、ホテルに戻ってきて一息ついていた。

 あんな魔道具があるなんてと、興奮気味に語るリリンと話していたらあっという間に就寝の時間。


 俺としてもタイミングを見計らっていた訳だが、何とも難しいもんだ。

 だが、話がちょうど途切れたし、さっさと用件を済ましてしまおう。



「おっと、その前に」

「?」


「まぁ、なんと言うか色々あったが、これ、貰ってくれるか?」

「……あ……。」



 リリンは少しだけ声を高揚させながら、しかし、どこか諦めたかのような微妙な表情を見せ、黙ってしまった。

 俺が差し出したのは、二つの紙袋。

 言わずもがな、昼間購入したプレゼントだ。


 それを見るなり、リリンはちょっと予想外の反応を見せている。

 店でのはしゃぎ様からすると、大いに喜んでくれるかなと期待していたんだけど……?



「……もしかして、いらない?」

「ち、ちがう!!ユニクからのプレゼント、しかも憧れのホーライ所縁の品ならば、私の所持金の全てと交換でも満足するくらい!!」


「金取ったらプレゼントにならないだろ……。まったくもって、無償だよ」

「……。でも、私にはこのプレゼントを手にする資格がない」


「ん?」

「だって私は、ユニクの事を疑った。もしかしたらと、疑ってしまった……」



 あぁ、その事か。

 確かに最初はリリンに疑われたな。強盗してきたのなら返しに行こう、と。

 だけどさ、この件に関しちゃどう考えても、この価値ある品を意味分かんない値段で買ったのが原因だ。


 と言う事で、俺も悪くないし、リリンも悪くない。

 悪いのは唯一人、あの店の責任者、英雄・ホーライだ。



「まぁ、不幸な感違いだったな。でも、このブローチと指輪が合わせて16万エドロ。信じる方がおかしいから気にすんなって」

「……そうだけど、これは私の気持ちの問題。どんな事情があったとはいえユニクを疑った事には変わりない。プレゼントを貰うどころか、罰を言われても仕方がないと思う……」



 え?そこまでの事か?

 特に気にしていない俺からすると、罰を与える気なんて無いんだが。

 どう考えてもホーライが悪いし。

 うん。諸悪の根源はホーライ。不思議と妙にしっくりくる。


 だが、俺の気持ちとは裏腹に、リリンは沈痛な表情でじっ。とこちらを見つめてくる。

 まるで失敗がバレて怒られる前の子供のような表情に、意外とリリンが重く受け止めている事に気がついた。



「んーそうだな、罰か」



 ビクリとリリンの肩が揺らぐ。


 くくく、そうだなぁ。じゃあ、パジャマ姿でタヌキのモノマネでもして貰おうか!!

 ……。

 やめておこう。間違いなく殺される。

 鋭い牙でひと噛みだな。


 中々、さじ加減が難しい。俺としては何のお咎めもなく済ましたいところだが……。



「じゃあそうだな。このプレゼントは無しって事で」

「あ………………。うん、それでいい……。」



 うっ!!そんな悲しい顔をされると俺が悪い事をしているみたいで、心にグッとくる!

 俺が部屋に帰って来た時と同じか、それ以上の悲しそうな表情で、「私が悪いんだから……しょうがない……」と呟いていた。


 ごめん。無理。

 今日の所は切り上げて、明日にでも適当な理由をつけてもう一度贈ろうかと思っていたが、俺の良心が持たない。

 そもそも、俺はこんなプレゼントの一つや二つで貰った恩が返せるとは思っていないしな。



「じゃ、昨日装備を買ってもらった恩返しは帳消しって事で、改めて」

「…え?」


「日ごろから感謝してるぜ、リリン。これは俺からの気持ちだ。受け取ってくれ」

「え、えっ……で、でも!」


「一回くらい疑われたくらいで、俺の感謝が帳消しになる訳ないだろ?むしろまだまだ返し足りないくらいだな!」

「え、……と。じゃあ、これ…このプレゼントを貰っても……?」


「良いに決まってるだろ?むしろ、いらないって言われた方が困るッ!!」

「あ……う……」



 ん?どうしたリリン?

 なんで立ちあがったんだ?俺、なにかやらかしたか?


 テーブル越しに立ちあがったリリン。

 予想外の出来事に思考が追い付かず、その表情を確認する余裕さえなかった。

 なにせ、訳も分からず呆然としながらも、少しだけ身構えていた俺に向かってリリンが飛びかかって来たのだ。



「うおぉ!!ぐえッ!!」

「……。」



 確かに俺の目の前にいたのは、小柄な体躯の可憐な少女。

 だがしかし、ガッツリとバッファの魔法付きだった。


 ライコウ古道具店に向かう時に掛けた飛行脚フライトステップはしっかりと効果が残っており、俺の腹にリリンが突き刺さる。

 意図せず俺に抱きつくような体勢になったリリン。

 顔は俺の頭の横にあるので表情が伺えないが、怒っているようではなさそうだ。



「……。どうした?リリン?」

「ユニクぅ……。きっと私は世界一幸せなんだと思う」


「ん?」

「神託で定められたパートナーから、尊敬する人由来の最高のプレゼントを貰った。あまり幸運とは言えなかった私の人生にはもったいないくらい」


「喜んでくれるなら用意したかいが有ったってもんだな!」

「うん……。うん……。」



 なるほど、これは普通に喜んでくれているんだな。

 確か、三頭熊の群れと出会って絶体絶命のピンチの時に、澪さんが現れた時もこうして抱きついていたっけ。


 ………ただ、惜しむべきなのは、受け止める側の俺が不慣れだった事。

 現在進行形で、がっつりとリリンの膝が腹に食い込んでいる。

 ぐえっ。


 そして、別の事に気を取られていたせいで、リリンの言葉を聞き流してしまった。



「…………………………………大好きだよ。ユニク」



 は?……今なんて?

 ごめん。

 別の事を考えていてよく聞いていなかったんだけど。

 ………えっ?



「えっ?」

「すき、と言った………。このプレゼントも一生、大切にするから」



 ………お、おう。たったの数秒で表現が控えめになったな。

 だがまぁ、意味合いは変わっていない。


 好き。


 広く一般的には、何かしらに対して好意を抱くことだ。


 ………あれ?どうしてこうなった?

 客観的に見ると、愛の告白みたいなことになっちゃってるんだが!?


 いや、冷静に考えろ、俺。

 そもそも、リリンの様子がおかしかったじゃないか。


 英雄ホーライ伝説の、予期せぬ完結。

 俺が帰ってきた時には、まだ悲しみの余韻が残っていた。

 そこから俺の予想外の行動で動揺させ、続け様に英雄ホーライ所縁ゆかりの店に行くことになり、そしてホーライの弟子、ローレライさんに出会った。


 憧れの店で、これまた憧れの英雄の話を聞く。

 英雄ホーライについては殆ど語られなかったけど、それでもリリンは目を輝かせていた。


 なるほど。

 いつもクールなリリンといえど、想定外の事が連続で起こり舞い上がってしまったってことか。

 目まぐるしい程の衝撃が連続で起こったせいで、言動が大袈裟になっているんだろうな。

 ……分かるよ。その気持ち。


 だがまあ、勢いで言ったにせよ、返事はしておくべきだろうな。

 だってほら、万が一ってこともあるし!



「あぁ、俺もす――」

「すき………だらけだよ。ユニク」


「え?ぐ、ぐるぐるげっげぇぇぇぇぇッ!!」



 ぐ、ぐるげぇぇぇぇぇ!!首を絞めるな!首を!!


 無防備だった俺の首にリリンの細い腕が巻きついている。

 な、なぜ!?と思いつつも、どんどん事態は悪化していき……。


 そして理由は分からなかったけど、俺はとある事に思い当たる。

 今って確か、バッファの魔法中じゃなかったっけ……?


 ……あれ?……だんだん意識が……遠く……



「くす。冗談」

「冗談じゃねぇ!!!! 死ぬかと思ったわッ!!」


「でも、隙だらけだったのは本当。冒険者たるもの、いつでも油断せず冷静でなければならない」

「さっきまで、はしゃぎまくってたくせによく言うぜ!!」


「そ、そんなことない!演技……そう演技していただけ!!」



 ったく。今だって、慌てまくってるじゃねーか!


 リリンと出会ってから、だいたい一ヵ月。

 その平均的な表情の些細な変化でも、何を考えているか手に取るように分かるんだぜ?


 今はそうだな……。


 恥ずかしがりながらも、この状況を楽しんでいる、かな。



 **********



「あの、そのね……ユニク……」



 俺は今、風呂上がりだ。

 あれから何となく気恥かしい雰囲気になってしまった為、今日は休もうと言う事になった。

 もともと時間が時間だったので異論もなく、リリンに続いて俺も軽く汗を流してきたのだ。


 そして俺が部屋に戻るとそこには、フワフワのベットの上でもじもじとしながら頬を赤らめている可憐な少女がいた。

 未だ湿り気のある瞳を俺に向け、躊躇いながらも話しかけてくる。



「プレゼント……本当に嬉しかった。だからね、お礼をしたい。この身一つで出来る事ならなんでもする……から……」

「…………。」



 風呂上がりだからか、少しだけ憂いを秘めた表情でトンデモナイことを言い出している。

 それこそ破壊力抜群。たとえ世界を救った英雄でさえ、ときめいてしまう事間違いなしだろう。



「……えっと、ユニク……?」

「…………。」



 ……だが、タヌキだった。

 そう、その少女はタヌキだったのである。


 間違うことなき毛皮を身に纏い、頭の上には鋭い眼光を称えている。

 絶望を振りまく野獣。

 ……いや、このタヌキは魔法も得意だ。ならば、魔獣と表現するのが正しいだろう。


 俺は、未だベットの上でもじもじとしながら、陽動を仕掛けてきている魔獣、タヌキリリンに近づく。

 俺は臆しない。

 このタヌキリリンは野生のタヌキと違い、こちらから攻撃しなければ襲ってくる事はないはず。


 恐れず立ち向かうのだ!!



「そっか! なら、明日は一緒に鳶色鳥を探そうな!!」

「えっ!?」


「じゃ、おやすみ!!」

「あ、…………。」



 俺は足早にベットに向かい、目にもとまらぬ速さでベットに潜り込んだ。

 バッファの魔法中だけあって非常になめらかに体が動き、見事に成功。


 何となく殺気めいた視線を感じるが、気のせい気のせい。

 この部屋には最凶の魔導師リリンがいるからな。そうそう危険は無いと信じたい。

 だが、背後では確かに何かが蠢いている。

 この気配は……、くっ!間違いない、たぬ―――――



「えい。」

「ぐえッ!!」


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