表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1028/1329

第52話「ホウライ伝説 神愛なるもの⑩」

「ぬぅぅんッ!!」



 それは、一見して『ただの殴打』と評すべきもの。

 事実、迎え討った拳もまた、ただの殴打と評すべき挙動でしかなかった。


 ――世界が追い付いていない。

 蟲量大数、と、神。

 二柱の絶対君臨者による攻撃は、そのエネルギーが大気を伝達するよりも速く、結果が取り出されてしまうのだから。



「はっはぁ!いいね!!」

「ふぅむ。確かに」



 無数に続く、乾いた炸裂音。

 戯れに繰り返される攻撃は、ただの訓練(スパーリング)のように軽快で、軽率に、世界を抉る。



「お前と殴り合うこの瞬間が、(ボク)は楽しくて愉しくて、堪らない!!」

「同感だ。那由他以外に我が輩と互角に戦うものなぞ、終ぞ現れないと思っていたぞ!!」



 蟲量大数が称賛を贈っている相手は、神ではない。

 神が使っている器となった人間――、ラルバを褒めているのだ。


 蟲量大数を『無量大数』にしたのは神だ。

 極論を言ってしまえば、神は蟲量大数と同じ存在を簡単に生み出せる。

 当然、それらを使って蟲量大数や那由他を圧殺する事も、そもそも、歯牙に掛けずに世界を閉じることすら可能なのも、蟲量大数と那由他は理解しているのだ。


 だから始原の皇種たちは、自発的に大きな物語を起こさないようにしている。

 那由他が世界統治をタヌキ帝王に任せているのも、王蟲兵誕生に蟲量大数が関わっていないのも、作為的なもの。

 自分達の役割を神へ捧げる最後の物語(レクリエーション)として確立することで、同じ土俵で戦うように仕向けているのだ。



「神よ、貴様の感情は理解できる。同等の存在が居ないというのはつまらんものだ」

「だろ!」


「我が輩は”種を切り開く者”だった。己を、種を、進化させ続ける事に最上の喜びを感じる。だが、頂点には目指すべきしるべなど存在せん」

「知ってるさ!!だからこそボク()は人間を作った。姿だけでも同じ生物が居れば、何かが変わるかもしれないと願って!!」



 計り知れない攻防。

 蟲量大数と神が戦い初めてから、『10秒間』という途方もない時代が経っている。


 そうしてようやく、世界が全能と神に追い付いた。

 一手目に繰り出した両者の拳が衝突した位置、そこに白亜の渦が発生。

 それは、全てが破壊され尽くした、白なる虚無(ホワイトホール)



蟲量大数フルパワーバカとは良く言ったもんじゃの。まったく、これでは土台となる世界が壊れてしまいかねん」



 傍観していた那由他が、面倒くさそうに指を弾く。

 刹那の瞬きの間に用意されたのは、複数の銀色に輝く剣。

 加速度的に増えて行く白なる虚無を刺し貫かんと、一斉に矛先を変え――。



「それもボクの狙いだぜ、那由他」



 同じく指を鳴らした神が、剣をガラクタへと変えた。

 材料が魔法物質であろうとも、それが造物である以上は神の意のままに支配できる。



「儂は蟲ほど戦闘狂では無い。じゃが、この腹に収まる程度の食事すら消えてしまうのならば、牙を剥かねばならんじゃの」

「その口で良くほざいたね、タヌキ!!」


「世界を齧れ《星噛ホシバミ=イロード》」



 カチン。と那由他の歯が鳴った。

 そうして口の中に広がったのは、白なる虚無の中で凝縮されていた『世界味』。


 蟲量大数と神の攻防によって発生した白なる虚無は、両者の拳の間に有った物質・空間が極小レベルまで圧縮された事による現象だ。

 何も存在しない虚無は、世界にとって異常。

 それを埋める為に大量の物質が流れ込み、やがて、圧縮された物質と衝突することになる。


 引力と斥力、相反するエネルギーは周囲の空間を巻きこみ、すべての分子結合を解いて、原子へと帰化。

 一瞬にして半径10kmを消し飛ばすエネルギー破、それを朱色の球体『星噛=イロード』が残さず全部、噛み砕いて嚥下して。


 1000を超えるそれを、那由他は味わい尽くす。

 パチパチと弾ける飴玉でも舐めるように、ころり。と舌の上で転がした。



「これは中々の味じゃの!」


「……蟲量大数、ぼくらの攻撃、喰われてんだけど?」

「アイツの悪食は今に始まった事では無い。気にするだけ無駄だ」



 蟲量大数へと生まれ変わった直後、蟲が抱いた感情は二つだった。

 一つは全能感。

 そしてもう一つは、ヴィ~~ア~~と鳴きながら涎を垂らしてガン見してくるタヌキへ向けた、恐れ混じりの困惑だった。



「我が輩と貴様が発揮する性能は互角。対消滅を繰り返すばかりでは、進展がないな」

「余波も喰われてるしねー。だけどさ、7日というタイムリミットを考慮するなら、キミらの負けじゃないのかなー?」



 神が指定した期日は7日。

 その超過も敗北判定の一つだ。


 だからこそ、蟲量大数と那由他には余裕がある。

 期日を定めた遊びをたった1日で終わらしてしまう、そんなつまらない結末を神は望まないと知っているから。



「ふぅむ、確かに進展がないのならば、我が輩たちの負けだろう」

「だよねー?」


「だが、逆に聞きたい。なぜ、我が輩たちが貴様を超えられないなどと思っているのだ?」

「な――っ!」



 ヴゥン……。と残像を残すほどの急制動。

 大きく振りかぶった拳を神へ叩き付け、10mの距離を取る。


 そうして翅を羽ばたかせた蟲量大数は、そこそこのスピードで空を駆けた。

 超光速程度……、光よりも速いが、神経速よりも遅いという絶妙な速度で。



「なっ!」

「我が輩は、搦め手を狡いなどとは思わん」



 空を殴ってしまった神の拳の真横を、蟲量大数の拳が過ぎ去っていく。

 そして思いきり、神の顔面へ突き刺さった。


 蟲様大数が発揮した速度は、世界最強の加速度(マキシマム・ガル)では無く、されど、一瞬の遅れも許されないという領域。

 正確な速度を認識する時間は無く、故に、神は世界最強の加速力(マキシマム・ガル)で対応するしかない。


 蟲量大数は自身の能力を意図的に落とすことで、神の想定を超えた。

 存在するべき位置に蟲量大数の拳は無く……、遅れてやって来た攻撃が、晒してしまった無防備を容赦なく破壊する。



「ごぱっ……!!」

「《物理力(ダイン)応力(パスカル)加速力(ガル)無限累乗(インフィニティ)》」



 拳が頭蓋を穿つ感触を鑑みた蟲量大数は、これでは足りないと判断した。

 即座に戦略を切り替え、押さえていた世界最強を解放する。



「やっb……ッッ!」

「《TNT(トリニティ)Gt(ギガトン)》」


「《魔法創神典(オリジンビリーフ)・”神座に侍る者(メタトロン”)ッッッ!!》」



 亀裂が走った頭蓋の隙間を埋め尽くしたのは、36万5000もの魔法陣。

 ソドムのエクスカリバーですら勝利しきれなかった神の防御、それを蟲量大数の拳が砕き終え――、



「……痛ってぇなぁ、おい」



 深手を負った神の挙動を、三名の最上位者は驚愕を宿した瞳で見据えた。

 圧壊した顔の下から、パラパラと頭蓋が零れ落ちる。

 だが、その奥にあった暗黒の脳髄には傷一つ存在していない。



「ふはは!見たか、那由他。我が輩の本気の攻撃を耐えきってしまったぞ」

「厄介じゃのー。防御魔法もそうじゃが」


「あぁ、あの黒い物質(ダークマター)がやたらと堅い」

「肉体部位によって付与している性能を変えておる。あれには世界最強の重量(マキシマム・モル)も含まれておるじゃの」



 手応えから察した答えを、那由他が肯定する。

 ふぅむと頷いた蟲量大数、その複眼に映っているのは、痛みを発する自身の拳。



「それだけでは無い」

「……じゃの」


「頭蓋に刃が仕込んであったぞ。ふはは、これの何処が人間なのだろうな?」



 キラリと光る拳に指を突っ込み、内部に埋まっていた刀身を引き抜く。

 医療目的の自傷であれど、痛みは必ず発生する。

 それが予告もなしに行われた那由他は、鋭い視線を蟲量大数に向けた。



「いたっ。抜くなら先に言え。吃驚するじゃの!」

「我が輩が受けたダメージを那由他と不可思議竜も負った。だが」


「儂が自分の傷を治しても……、お前らのは治らんか。黒煌の効果は、神の序列に従って適応されているようじゃの」



 出血した拳を舐めて治療した那由他は、忌々しそうに神へ視線を向けた。

 それに返されたのは、イタズラが成功したかのような満面の笑み。



「で、こっちも即座に回復するかの。まったく、神の癖に消耗戦を仕掛けるとはの」

「挑発には乗らないよ。いくら(ボク)が全知全能でも、お前らを完全に理解するのには時間を要する。焦りは禁物さ」


「……随分と気合を入れているようじゃの?」

「だからこそ、お前らの配下を焚きつけて試した。分かってんだよ、蟲量大数、那由他。お前が強いって事は」



 神は言った。

 どれだけの年月、お前らを殺す手段を考えてきたと思っているんだ?と。



「例え、ラルバが失敗しなくても、(ボク)は終世をしただろう」

「なに?」


「造物主と神像平均。この二つの世絶の神の因子が揃う肉体を、(ボク)はずっと待ち焦がれていたんだ。《神像平均アヴェレーション》」



 神は自分自身の頬に指を差し込み、そのまま頭蓋へ触れた。

 そこに付着しているのは、蟲量大数の血液。



「――!マジ、かのッ!!」

「あぁ、本気マジだよ」



 交差したのは、神の拳と那由他の蹴り。

 真っ直ぐに突きぬかれた神の拳を妨害するように、那由他が蹴りを見舞ったのだ。


 そんな攻防の結果、蟲量大数と那由他は右腕に深い傷を負った。

 肩から二の腕の大半が吹き飛び、ぷらぷらと手首が揺れている。



「手札を切る順番が逆だっただけさ。お前が緩急をつけた戦い方をしてくる事も、ボク()は読んでいた」

「我が輩の権能を上書きしたようだな。まったく反応できんかったが、他の生物とはこれほどに弱いものなのだな」



 蟲量大数は深手を負った右腕の体細胞を活性化させ、その上を繭で覆った。

 包帯を巻いた様な姿は一瞬、直ぐに削げ落ちたそれの下から出てきたのは、健常な腕。


 それでも、以前との差は歴然すぎた。

 蟲量大数は拳を握りしめ、数億分の一になった膂力を確かめている。



「下がれ、蟲量大数」

「ふぅむ」


「お前からパワーを取ったらバカしか残らん。儂が前に立つくらいにはピンチという事じゃ」



 全てを理解した那由他は一瞬の間も無く、星噛=イロードから剣を引き抜いた。

 その剣の名は『神壊戦刃グラム』。



「《神壊戦刃・グラム=”さぁ、晩餐を始めよう(イーティングゴッデス)”》」



 揺らぐ右手に手を添えて、那由他は食へ祈りを捧げる。

 生きとし生きた全ての命に感謝して、その全てを味わおう。


 金に輝く合掌椀――、万食礼讃は終えた。

 これより始まるは、那由他なる食事。



「あれ?それ本物じゃん」

「嫌な予感がしての。不安定機構深部からパクっておいたじゃの」


複製品(ヴァニティ)ではボク()に害を成し得ない。それを瞬時に見抜くとは、流石は全知のタヌキだね!」



 **********



「みんなの腕が……!」



 回収した王蟲兵を癒し終えたヴィクトリアは、その時が来てしまう事を恐れていた。

 だが、同時に吹き飛んだ王蟲兵達の右腕を見て、覚悟を決める。


 此処までの展開は、那由他の読み通り。

 蟲量大数が手傷を負う。

 幾つかあった想定の中でも最悪のシナリオ、だがそれ故に、対応策も念入りに準備されている。



「姫よ。我らに()を与えたまえ」



 一斉に傅く王蟲兵、その最先端たるダンヴィンゲンが願いを奏上した。


 これは、姫に仕える騎士なりの想いやり。

 優しいヴィクトリアの苦悩が僅かにでも和らぐようにと、王蟲兵たちは言葉に出して望んだのだ。

 世界の破滅を。



「……結局、こうなっちゃうんだね」



 白くて小さな蟲が鳴く。

 愛を宿した、その声で。



「ごめんね、ホーライちゃん」



 ヴィクトリアに与えられた最も重要な仕事。

 それは、神の終世を待たずして、この世界を滅ぼすことだった。


 神が目を付けた能力が『平均値』だった場合、即座に世界を滅ぼさなければならない。


 那由他がそう言って、蟲量大数が肯定した。

 後になって竜も賛同し、それこそが最適解だと誰もが頷いた。



「私が全部、食べちゃうね……」



 ヴィクトリアの手に握られているのは、血を溢したかのような真紅の悪喰=イーター。

 借りものであるそれを握りしめ、涙ぐんだ少女は世界へ終わりを告げる。



「みんな……、世界を滅ぼしてッ!《最大超過成体ッ!!(マキシマム・イクセス)》」



 白くて小さな蟲が鳴く。

 生命いのちを愛した、その声で。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ