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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第44話「ホウライ伝説 神愛なるもの②」

 

「ヴィ、ヴィクトリア……?」



 それは恋縋る少女への問い掛け。

 過ちを犯し、そして、それを正そうとした時に発する、後悔の懺悔。



 好きで、好きで、素直になれなくて。

 からかって、睨まれて、怒らせて。

 気を引こうとして、無茶をして、泣かせて。

 頑張って頑張って、親を、友を、自分を犠牲にしてまで、頑張って。

 そして命を踏みしめながら進み、祈り、感謝し、その願いの帰結へ手を伸ばさなかった。



 後悔して、後悔して、拗らせて。

 大人びて、嘘を覚えて、自他を騙して。

 忘れようとして、無謀を超えて、笑顔を見つけて。

 取り繕って取り繕って、他者を犠牲にしてまで、取り繕って。

 そして命を踏みしめながら進み、祈り、謝罪し、その願いが終わっていなかったと知った。



「なんだよ、ビックリさせんなよ。……ははっ、イタズラにしちゃ長過ぎだっつーの」



 ホウライは笑った。

 それは心の底から――、いや、心の底に燻っていた悪意すらも無関係な、純粋な苦笑だった。


 愛する人が生きていた。

 狂わんばかりの歓喜に、打ち震えていようとも。


 愛する人に浮気がバレた。

 背筋を凍らせる恐怖に、打ち倒されていようとも。


 目の前にいる存在が『異常』だと、分かっているから。



「お前、ヴィクトリアなんだろ?なんだよその姿、ずっと昔のままじゃんか」



 か細い問い掛けは、幼く、弱く、困ったという感情を隠す事すら出来ずに空へ消えた。

 ヴヴヴ。と響く翅と機械の音。

 それと竜が空を掻き混ぜる音のみが、ホウライへと返される。



「なぁ、答えてくれ。何でもいいから……、声を聞かせてくれよ、ヴィクトリアッ!!」



 届いていないと思ったから、力の限りに声を張り上げた。

 それは舞台に立った神ですらも、傍観者へと引きずり降ろす慟哭。



「……ん」

「っ!!ヴィク――」


「カツボウゼイ、チトウヨウ。彼を此処から遠ざけて」



 耳に届いた声は、ホウライの記憶にあるものと同じ。

 されど、思い出と比較しようがない程に冷めきった無視だった。



「一応言っておく。絶対に殺しちゃダメ。皇の資格を回収できなくなる」

「尊き姫の御心のままに」

「御意」



 じゃあ行って。

 追加で発せられた声すらも、自分に向けられたものでは無くて。

 ホウライは向かってくる二匹の蟲よりも、その無視が何よりも怖かった。



 **********



「んー、いいね!ドロドロした男女関係の拗れって、どうしてこうも面白いんだろ!?」

「貴方の性格が捻くれてるから。ホーライちゃんをおもちゃにして……、許さない」


「鬼嫁発言、来たー!まさに修羅場とはこの事だッ!!」

「嫁じゃない。訂正して」



 声に含む愛を取り除いて研ぎ澄ました、殺意。

 ゴミを見る目で睥睨するヴィクトリア、その視線の先まで昇って来たのは……、唯一神。



「なるほど、なるほど。キミらの狙いは正確だ。この場に居る不可思議竜はもとより、那由他と蟲量大数にも感付かれているのは間違いない」

「……!」


「言い当ててあげよう。ボク()がこの剣で皇種を殺すと、その生物種は絶滅する。だから手出しが出来ないようにキミの中に保管する(・・・・・・・・・)

「……だから?」


「理屈の上じゃ最適解かもね。だけどさぁ、そんなキミを殺した場合、既に取り込んでいる種ごと全滅するんだけど。出て来ない方が良かったんじゃないかなー?」



 あぁ、まさに『愛は人を狂わせる』とはこのことだ!

 狐に誑かされた二人の女の愛憎喜劇ッ!!

 その行く末がバッドエンドというのも、最高にGood() luck(展開)だね!


 神は親指を立て、二人の女へ称賛を贈る。

 遥か上から、まるで、読者がキャラクターを褒め称えるように。



「でも、ちょっと残念かも。王蟲兵を隠していたっていう情報アドバンテージは、キミの存命に使うべきでしょ」



 神の指摘は的確だった。

 ヴィクトリア達の狙いは、愛烙譲渡を持つ彼女の命が無ければ成り立たない。

 そして、それを理解しているヴィクトリアの切り札達の一蟲、ホウブンゼンが色めき立つ。



「愚かなり、神。そうさせぬ為に我らがいるのだ。タヌキまでいるのは不本意だがな」



 黄と黒の艶やかな外殻。

 金属のような光沢がある美しい姿で不遜に腕を組み、カチカチカチ……と怒りを隠さず警告を発する。

 針王蟲・ホウブンゼンの態度は、幾度となく世界を串刺し崩壊させた実力に裏打ちされている。



「……あ”ぁ”ん?事が済んだらテメェの番だもんなァ、蟲」



 そして、幾度となく世界を救ってきたタヌキも色めき立った。

 こちらも機神の腕を組み、ギュィィィン……と怒りの尻尾を鳴り響かせる。



「俺とホロボサターリャの恨みは、個体が違うくらいで晴れたりしねぇ。せいぜい、テメェも覚悟しとくんだな」

「人間の世界では串に刺したタヌキを焼いて喰うそうだが、お前は捨てる。あまりにも不味そうだからな」


「ほざくな、ゴミ蟲が」

「なんだ?クソタヌキ」



 タヌキと蟲は仲が悪い。

 特に、タヌキ帝王ソドムとホウブンゼンの仲の悪さは世界屈指。

 両者が出会ってしまった場合、5分かからずに世界大戦が勃発する。


 だが、今回ばかりはそうはならない。



「《こんな時に喧嘩しないで。》」


「……。我らが姫の御旗の下、協力してくれるよな?ソドム」

「……。神を倒すまでだが、テメェと共闘する日が来るとはな。足を引っ張んじゃねぇぞ、ホウブンゼンッ!!」



 **********



「邪魔だ。退け、蟲」



 遥か天空――、世界の上位領域へラルバ()は昇り、ホウライは取り残された。

 直ぐに後を追おうと四肢に力を込めるも、走り出す事は叶わない。


 その者は、疲弊している今どころか、万全の状態で戦ったとしても、互角以上。

 嗅覚を掻き毟られる濃密な匂い(殺意)を発する2匹の蟲がホウライの進路を塞いでいる。

 そしてその一匹、世界で最も速まる者、カツボウゼイが口を開いた。



「何者だ、貴様。なにゆえそんなにも、我らが姫に特別扱いされる?」

「――なに?」


「姫は賢い。貴様を肉塊にでもしておき、皇になった瞬間に殺す方が確実。わざわざ逃がす意味は薄い」

「何の話か分からんのぉ?まずはお主らの事情を話すのが筋だろうて」



 ホウライは、奉納祭を恥じ続けながら生きてきた。


 身体や武器・魔法を始めとする武力は、戦略によって数倍に乗算される。

 あの時点での身体能力は変えようがない。

 だが、感情のままに動くのではなく、冷静に対処できていたのならと己の愚行を恥じてきたのだ。


 だからこそ、ホウライは好々爺の仮面を被る。

 冷静に情報を集めて戦略を立て、一撃で勝敗を決す。

 世界で最も深き知識が、そうしているように。



「我らが姫は賢く、そして慈悲深い愛情を持つお方だ」

「そうじゃろう、そうじゃろう。で、可愛らしい顔で何をしようと?」


「『命の方舟(ノア)』。滅ぶ世界を救うのだ。その為には全生命を殺し、皇の資格を姫へ捧げなければならない」

「……なに?」



 世界が終焉に向かっていることは、ホウライにも分かっている。

 そして、自分は終世に加担していた側であり、竜を始めとする連合軍は神の降臨を止めようとしていた。

 その首領がヴィクトリアである事も分かっているのだ。


 だが、カツボウゼイがした説明の後半は理解できていない。

 皇種とは種族を統べる者。

 それを含む全生命を殺すというのなら、それは世界終焉と同じだと思ったのだ。



「神が持つ『神愛聖剣・黒煌』は愛烙譲渡を持つ姫に対抗する為の力だ。あの刃に殺されれば、その種族は断絶。以降、従える事は出来ない」

「ほう?だから儂と共にラルバの指が飛んだのか」


「だからこそ、発展している種が持つ『皇の資格』を回収し、我らが姫の身体に宿す」

「……宿すとは?」


「ヴィクティム様と神の決戦は想像を絶する。殆どの生物が死滅するのは間違いないのだと、姫は仰った」

「……それで、どうなるのじゃ?」


「我らが姫さえ生きていれば、命は生まれ出ずるのだ。例え種が滅んでも、宿した皇種を産み、育て、世界を復元してくださるのだから」

「なん、だと……」



 ヴィクトリア、お前、何をしようとしてんだよ。

 ビビりながら赤ちゃんを触るくらいの心配性なのに、世界を生み出すとかできる訳ないだろ。


 ……で、ヴィクトリアにそんな無茶をやらせようとしてんのは、お前か。蟲量大数。

 ははっ、今ならテメェを100回殺しても、飽き足りない。



「なるほどのぉ、お主らのボスはヴィクトリアでは無く、蟲量大数ということか?」

「違う。我らは姫に仕えている。姫が奴を『ヴィクティム様』と呼び慕うから、ついでに従っているに過ぎん」



『ヴィクティム様と呼び慕う』

 その時間がどれだけの年月なのかは、ホウライには分からない。

 だが、ヴィクトリアと生きた年月よりも失った後の方が長いという事実が、彼の奥歯を軋ませた。



「姫が貴様を殺すなと仰ったのも、皇の資格が身体に馴染んだ後で殺す手筈だからだ。その女も邪魔さえ入らなければ、そうする予定だった」

「ラルバが完全に皇になるのを待っていたのか」


「人間の皇種は特別な意味を持つという。それに故に、神に結界を張られて邪魔されたのだ」

「特別な意味じゃと?」


「姫は人間の皇のことを『ホーライ』と呼ぶ。『世界で一番』という意味の愛称なのだそうだ」

「……っ!!」



 そうかよ、やっぱりお前、ヴィクトリアじゃねぇか。

 じゃあ、さっきの無視は意図的なもんか。


 ……ははっ、そうかよ!!



「ふぅむ、良い事を聞いたのぅ。あぁ約束は守らんとな。ヴィクトリアが儂の何なのかを教えてやろう」

「貴様、先程から姫を呼び捨てにしているが、そもそも不敬が過ぎるのだがね?」


「そんな事は無かろう。ヴィクトリアは儂の嫁じゃからな」

「なんっっっっ…………ッッ!?!?!?」


「蟲風に言うなら、交尾相手のメスと言った方が分かり易いかのう?」

「…………だとぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!?!?」



 空を揺るがすほどの大絶叫。

 遥か上空に居るカツテナキ兄妹ですら「え?なにごと?」と視線を向けたそれは、空前絶後の隙を伴っている。


 そうして生み出した時間を使い、胸に抱いた愛しい人へと手を伸ばす。

 そして、ホウライは「ありがとう、ラルバ」と謝った。



「《犯神懐疑・レーヴァテイン=”黎明の悪夢を(サクリファイス)息止める者(ラルバ)”》」



 彼の手に輝くは、二本目の神殺し。

 愛せし者の手から引き抜かれた漆黒の刀身、その中には強い輝きを発する暁光が煌めく。


 次の瞬間、ホウライが抱いていたラルバの姿は、もう、何処にも存在しなかった。


 彼の右手には、”勝利の剣(ヴィクトリア)

 彼の左手には、”黎明の剣(ラルバ)


 ラルバに託された皇の知識を参照し、ホウライはレーヴァテインの能力を理解。

 即座に覚醒に至った……、のではない。

 これは想い人へ贈る、ラルバからの最後のプレゼント。



 ” 大好きなホーライ様へ ”

 勝利が好きな貴方の事ですから、もしかしたら、直ぐに私を忘れてしまうかもしれません。


 そんな事は許しません。

 ”あなた”を想って創ったこの剣で、どうか、ヴィクトリアを勝ち取って。



「……ラルバ。お前は本当に良い女だぜ」



 ホウライは眼前に君臨する二匹の王蟲兵を侮蔑する。

 そして、両手で一匹ずつを指し示し、荘厳に口を開いた。



「退け、小虫。邪魔すんなら叩き潰す」



 皇の知識を得たホウライは、『カツボウゼイ』と『チトウヨウ』を知っている。


世界最強の加速力(マキシマム・ガル)

世界最強の粘度マキシマム・ニュートン


 それがどういう意味を持つのか。

 かつて、世界を滅亡に貶めたことすらも。



 だが、心に宿った激情は、その程度では止まらない。


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― 新着の感想 ―
[一言] 蟲相手に最高級の煽りをブチかます ホウライのジジィの肝の太さよ。 (まぁ、再開したのがデカいんだろうけど。) そんで、ふと思ったけど、 理に干渉する能力は多いけど 感情とかそういうのに…
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