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第14話「英雄・ローレライ」

「じゃ次、『最後の夢枕(デス・トピア) 』。これはなに?」

「ん、一度使ったら最後、絶対に自然に目覚める事はない枕だね。本質は脳へ直接語り掛ける魔法暗示。その枕で寝ると気持ちいい夢の世界を訪れる事が出来るけど、8時間も寝れば脳が焼き切れて死んじゃうから気をつけて!」

「死んじゃうのかよッ!!怖くて使えないだろッ!!」


「暗殺用だしねー。なははははぁー」



 あぁ、俺は何をしているのだろうか。

 昼間までは幸せ溢れる日常を満喫していたはずだ。


 だが、俺が先ほどから手にしている品々は、殺伐としている一撃必殺な物ばかり。

 聞こえてくる説明は一つの例外もなく物騒で、どう考えても何人も闇に葬って来たであろう道具(凶器)達。

 俺が昼間にガラクタと言って捨てたこの店の商品達は、それこそトンデモナイ力を秘めていたのだ。


 英雄が綴ったとされる書物には、これらの商品についての本当の性能が記されている。



最後の夢枕(デス・トピア)

 ・幸福を見せる枕。しかし、使用後5時間で脳にダメージを及ぼし始め、8時間後には死に至る。


切れないナイフ(アン・カットレス)

 ・時空と世界軸を切り取るナイフ。触れたものに強制的に境界面を発生させ分け隔てる。自然界に存在する物でこのナイフに切れ無い物はない。


火の下で提灯(サン・フレア)

 ・700年前カサンドール王国の魔導師15人の命と引き換えに精製された決戦兵器。歴史上2度使用されているがどちらも何を破壊する事が目的だったかは、爆心地に何も残っていないため定かではない。


透明定規(スケイルトン)

 ・森羅万象、あらゆるものの残量を計る事が出来る。たとえそれが生命の灯であっても。



 ……ガラクタなんて言ってごめんなさい。


 少しだけいい訳を言っても良いだろうか。こんなボロイ店に国宝級の道具が無造作に置かれているなんて、誰が思うのだろう。

 それこそ、こんなボロイ提灯ちょうちんなんて村長の家にすらあったぞ?

 村長たちは月一収穫祭の際にはこんな感じの提灯に火を灯し、夜どうし飲み明かしていた。

 そういえば、結構デザインが似ているような……?



「どれも凄い品ばかり……。こんな効果を及ばす魔道具なんてそれこそ、価値が計り知れないと思う」

「でしょー!真面目に価値を考えていたらきりないし、ぱぱっとサイコロで、ね!」

「いや、サイコロはどうかと思うけどな……」



 たとえ面倒でも、人としてやっちゃけないような事の気がするんだが。

 この魔道具に殺された人たちも、ゲーム感覚で価値を決められたなどと思いもしないだろう。


 ……まぁ、いいや。ホーライが適当なのは今に始まった事じゃないだろうしな。

 そんなことより、俺は気になっている魔道具を手に取り、ローレライさんに話しかけた。



「なぁ、この『切れないナイフ(アン・カットレス)』 ってさ、世界中の刃物、それこそ伝説級の剣なんかよりもよっぽど凄いんじゃないのか?」

「んーその能力自体は凄いよね。なにせ切れない物はない訳だし。でもやっぱり、便利グッズ止まりかな―」

「それはなぜ?刃物としてなら最高峰だと思う」


「だってそれ、短いじゃん?」

「「あ。」」


「結局、効果を及ぼす刃にあたる部分が10cmと短い。だから一度に切れるのは10cmまでで、5mの岩を切り崩すには実に50回も刃を振らないといけないよね?」

「そうだな……。でも凄い攻撃力を秘めている事には変わりないだろ?」


「確かにそうだね。だけどその効果を持つのがそのナイフだけじゃないとしたら?」

「「!!」」


「そう。もちろんあるんだよ。いや、ありふれてると言っても良い。お姉さん達、英雄の世界には、ね」

「そんな剣が……?」


「あるさ。英雄を名乗るなら剣に限らずこのくらいの装備は必ず持っているものだからね。このナイフなんか玩具に見えるくらいの能力をいくつも備えた剣は、お姉さんの知る限り3本」



 ローレライさんは指を三本立て、んふふと声を漏らしながら優しげな笑みを浮かべた。

 そして、指を折りながら神に由来する三本の神剣の名を唱えた。



「神が愛し、一振りでとある種族を断絶させたと言われる。破滅と淘汰の聖剣、『神愛聖剣しんあいせいけん黒煌くろめき』」

「神を騙し、移ろう姿は世界の具現化と等しいと謳われた。進化と疑心の魔剣、『犯神懐疑はんしんかいぎ・レーヴァテイン』」

「そして……。神の器を破壊する事を世界に許された唯一の刃。『神壊戦刃しんかいせんじん・グラム』」


「「……え?」」

「ま、君らにはまだ早い話だから、忘れちゃってね(・・・・・・・)―、なははははぁー!!」



 なんと言う事だ。この世にはここにある魔道具なんかより凄い物があるらしい。

 英雄が所持しているんだから、それはそれは凄いんだろうけど、ちょっと想像がつかないな。


 もしかして皇種を一撃で葬ったりするんだろうか?なにそれ、怖い。



「なははー、そのナイフ気に入っちゃったの?」

「んー。使いどころが結構ありそうだと思うんだよなー」


「じゃ、報酬の候補にしといて、次、行ってみよー!」




 **********



「こ、これは、ホーライが9巻で手に入れた、あの伝説の……!!」

「ん?」


「見てユニク! この杯は本当に凄い!!」

「お、どれどれ……?あ、サラマンドラの火杯か。温度を100度ちょうどにするんだよな」


「あの、英雄ローレライ。私はこれが欲しい!これ以外あり得ないと思う!!」

「「え?」」


「このサラマンドラの火杯は『英雄ホーライ伝説』にもよく登場するおなじみの品と言っても良い。もし頂けるのならこれがいい」

「まぁいいけど、その杯の能力は結構代替えが効くものだよ?他の唯一無二の品の方がよくない?」


「これがいい。何故なら……」

「「なぜなら……?」」


「これが有れば、チョコレートフォンデュもチーズフォンデュもいつでも食べ放題!」

「「なんだって!?」」



 おい、リリン。ちょっと待て。

 ここにあるのは商品は、まさに血塗られた品だぞ?

 それがどうなって、チョコレートフォンデュにつながるんだよ?


 俺が困惑の表情を浮かべていると、ローレライさんも同じような表情だった。

 互いに口元をヒクつかせ、乾いた笑いがこみあげている。



「……リリン?」

「あのね、その魔道具はバリバリの戦闘用だから……」

「でもホーライはこの杯で食品を温めて、それはそれは美味しそうに食べていた。本の中で何度も語られ、一部の愛好家では英雄ホーライ伝説はグルメ小説だったのではと噂になるくらい」


「……。」

「お師匠の奴、そんなことしてたのか……。」

「これを頂いても、いい?」


「あーもう!いいよいいよ!!お姉さんとしても、攻略に手こずったそれなんて見たくもないし、ちょうど良いね!!」

「ありがとう。大切にする!」



 うん。リリンが凄く嬉しそうだ。

 恐らくリリンは、個形のチョコやらチーズやらを入れて、一人フォンデュを楽しむつもりだろう。

 俺としてみれば、そんな血塗られた杯に食品なんて入れないで欲しんだが。

 

 そして、サラマンドラの火杯の使い方や魔道具に秘められたエピソードなどの話しを聞きつつ、片付けは進んでいく。



 **********



「終わったー!いやーお姉さん助かっちゃったな―!!」

「こちらこそ、貴重な品々に触れる事が出来てとても満足。それに報酬として、とても価値のある品を頂く事が出来た」

「あぁ、そうだな。有り難く使わせて貰うぜ」


「なははははぁー!埃かぶって蔵の肥やしになってるより、よっぽど良いんじゃないかな!」



 結局俺は、切れないナイフ(アン・カットレス)を頂くことにした。

 このナイフの凄い所は、防御魔法などを完全無視し、狙った相手に確実に傷を負わせる事が出来るらしい。

 そして、それは無機物にも有効で、剣を切りたいと願いながら振れば相手の剣を一方的に破壊しそれ以外のものを傷つけない。

 すなわち、間違って相手に当たっても怪我をさせないという事だ。


 しかも。



「ほら見て―!こうして、サビだけ落としたいって思いながら擦ると、サビ落としにも使えちゃう!便利でしょ!!」



 と、大変に便利そうである。


 さて、なんだか変な事になったけど、リリンに英雄のお店を見せるという目的は達成した。

 これで胡散臭かった俺のプレゼントも価値が証明された訳だし、来てよかったと思う。



「さて、リリン。そろそろ帰るか?」

「うん。とても堪能させてもらったし、もう手伝えることもなさそう。これ以上お邪魔するのはよくないと思う」

「あ、……。うん、そうだよね。二人ともいつまでもこんな店にいても仕方がないし……」



 なんだか、ローレライさんが寂しそうだ。

 意外と英雄と言うのは孤独なのかもな。

 寂しさから俺達につい優しくしてしまったのかもしれない。


 ちゃんとお礼を言っておこう。



「いろんな話を聞かせて貰ったり、貴重な魔道具を頂いたり、本当にありがとう」

「この思い出は大切にする。私達が強くなった時、恩は返したい」

「なははははぁー!お姉さんも久々に楽しかったし貸し借り無しだよ! それでね、少年の方にはもう一つだけお姉さんからプレゼントが有るんだ」


「ん?俺に?」

「そう。なんていうかな。お姉さんのプライドに関わるっていうか……」


「?だけど、何で俺だけなんだ?」

「…………。あ、それはね……」



 ローレライさんは俺だけにプレゼントをくれると言う。

 特に何かした訳でもなければ、気に入られるほどの長い時間会っていた訳でもない。


 疑問に首をかしげていると、ローレライさんは朗らかに笑った。



「あはは。今は分からなくても良いかな。これから先の未来で、このペンダントを見てお姉さんの事を思い出してくれるだけで良いんだ」



 そして俺の首に、神秘的な雰囲気の虹色に輝く石板の付いた首飾りが掛けられた。

 首元を見下ろせば、それがとても力を秘めた物だと直ぐに分かる。



「これは……?」

「それは、お守り。お姉さん自ら作った、運命に負けない為のお守りだよ」



 運命に負けない為の、お守り……?



「そう。ま、お姉さんの変わりだと思って大切にしてくれると嬉しいかな、なははははぁー」

「あぁ、もちろんそうさせて貰うぜ!」



 こうして、英雄ローレライからもプレゼントを授かった。

 これからは肌身離さず持っていよう。なんか幸運になる気がするし。



「じゃ帰ろうか、リリン。」

「うん。本当にありがとう、英雄ローレライ」

「なははははぁー!またのご利用をお待ちしておりまーす!」



 なんだかんだ時間が過ぎるのが早かった。

 最初訪れた時は逃亡を図ったっていうのに、店員が違うとこうも違うのか。


 そして、俺達は店の入り口から、外に出た。

 俺が後ろ手にドアを閉めようと、意識なく振り返ったそんな瞬間だった。



「《洗脳解除フュプノ・アウト》じゃあ、またね。ユニくん……」

「え……?」



 意識して見ていた訳じゃなかった。

 ただドアを閉めようとしただけで、それ以外は本当に無意識だった。


 しかし、懐かしい声色で名前を呼ばれたような気がして。

 そのまま慣性によって閉ってしまったドアになんだか名残り惜しさを感じた。



「ユニク?どうしたの?」

「いや、なんでもない。帰ろうぜ?リリン」



 振り返ってきたリリンの問いかけに、俺は反射的に答えた。


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