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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第43話「ホウライ伝説 神愛なるもの①」

 



「――だから、《さぁ、終わりにしよう(エピローグ・ゴッデス)》」



 それはまるで、世界を掴み取るかのような光景だった。


 ホウライの前に立っているのは、ブルファム王付きメイド。

 彼女は見せつけるように天へ手を翳し、ゆっくりと掌を閉じる。

 そして、触れ合わせた人差し指、中指、親指に力を込め、パチンと弾いた。


 それは、世界終世の合図。

 そうして女は、野次を飛ばす為の仮初めの体(メイド)から、世界に干渉する為の肉体へ降誕する。

 現存している最も強力な神の因子を持つ人間――、ホウライが愛したラルバの姿へと成ったのだ。



「馬鹿な……。チャカス、お前は一体、何者なのだ……?」



 まったく匂いがしない未知の存在から、最も身近で愛おしい存在へ。

 その変化が外見だけでは無い事を、ホウライの嗅覚が告げている。



「くっくっく、まさにその名の通りだとも。世界を『茶化す(チャカス)』。これほど、(ボク)に相応しい名は無いさ」



 呼気から発する臭い、纏う衣服、そして、悪びれ無く笑う仕草までもが完全同一。

 目の前に居る存在は、ホウライが良く知るラルバそのもの。

 だが、彼の胸の中で眠るラルバが、同じではないと物語る。



「……神だと?金鳳花かとも思うたが……、なるほど、こりゃぁ膝が笑ってしまうわ」



 必死に思考を巡らしたホウライは、そんな苦言を呈した。

 そして、それを肯定するように、目の前の唯一神が不敵に嗤う。



「そう、(ボク)こそがボク()だ。無色の悪意(カラレス・ハート)よりも純粋悪なんて言われる事もあるけれど、金鳳花ではないね」

「……では、狐はルティンの方じゃったか」


「正解!と言っても、知った所で意味なんて無いけどね」



 もう一人の側近メイドの正体を当てても意味がない。

 そんな事は無いはずだと、ホウライは激情を刈りたてる。


 婚約者と教え子、世界で最も愛しい人を金鳳花の思惑の上で失った。

 もはや取り戻す術は無い。

 されど、敵を取ってやることはできると、アダムスを握る拳に力を込める。



「意味がないだと?例え神であろうとも、そんな言葉は吐かせぬぞ」

「じゃ、言い換えるよ。聞いた所で何も成し得やしない。その程度の実力じゃね」


「なんだと?」

「だってさ……、この世界の命は残り7日。その程度の実力じゃ、金鳳花の尻尾すら掴めない」



 ケタケタと腹を抱えて嗤い、目元に溜まった涙をぬぐう。

 面白い冗談がツボに入ったとでも言う様な態度、だが、それを咎められる者はいない。

 だからこそ彼女は、『唯一神』なのだ。



「その口ぶり、まるで強者の振る舞いだな。聞かせろよ、神。なぜラルバの姿を模した?」

「ふふ、気分が良いから答えてやろう。それはこの肉体が『神の器』……終世を成し得る力を持っているからだ」



『神の器』

 それは、世界を終わらすに足る肉体の総称。

 強力な神の因子を宿している人間の肉体を1つ選び、神はそれを器として使用するのだ。



「分からんな。なぜ、世界を終わらすなどとのたまう?」

(ボク)は余計な蛇足を好まない。キミ達の物語を最高に楽しんだからこそ、これ以上は無いと判断した」


「……楽しんだ?ラルバを、仮にも主従として時を分かち合った人の死を、こともあろうに楽しんだと言うのか?」



 恥を知れと、ホウライは叫び散らしたかった。

 だが、彼が持つ世絶の神の因子がそれを否定する。

 それこそ意味を成し得ない事なのだと。



「楽しんださ。それが世界の存在理由だからね。そして、唯一神たるボクは続編を望んでいない。終わりにするには十分過ぎる理由でしょ」

「それが傲慢だと言っておるのだ」


「傲慢?とんでもない。至って真面目だとも。……だってさ、この肉体なら蟲量大数や那由他を殺せそうなんだ」



 神の器の選定理由は『可能性』、どれだけ強力な神の因子を持っているかだ。

 事実として、肉体の強さはラルバよりホウライの方が強い。

 だが、神が選んだのがラルバであるように、現在の強さなど考慮するに値しない。



「世絶の神の因子を一つしか所持しておらず、その暗香不動だって力不足。それじゃ本気になった蟲量大数や那由他は攻略できない」

「……それは暗に、俺じゃ蟲量大数に勝てないと言っているのか?」


「出来る訳ないじゃん」

「で、ラルバならそれが可能だと?」


「そう。ずっと近くで見て来て、その利便性に驚かされる毎日だったとも」



 ホウライの脳裏によぎったのは、先程の戦いの結末。

 死するしか無かった自分と、生き残る術を隠し持っていたラルバ。

 その差は言葉にせずとも明確だ。



「ある日、お茶をしているラルバを見て、ふと思ったんだ。世絶の神の因子をランクアップさせたら、どうなるんだろう?って」

「ッ!!」


「で、実際にやってみた。その結果には大いに驚いたし、楽しませて貰ったよ!ラルバは本当に賢い子で、能力に振り回されること無く使いこなして見せた。金鳳花さえいなければ、那由他や蟲量大数に並ぶ世界の覇者になっていただろう」



 そしてボク()は、垣間見た。

 ラルバの施政の下で続く、安定した未来。

 それは山場も谷間もない、本当につまらない物語になるのだと。


 悲劇は感動を生み出す。

 狂喜は熱望を、殺意は好意を、苦楽は安堵を。

 そうした感情の揺らぎこそが物語であり、失敗こそが、ボクが最も求める娯楽なんだ。



「そして、『過去最高の平均値』という破綻しようのない能力はこうして失敗し、物語を生み出した」

「……違うだろうが」


「それを見たボク()は大いに満足し、それと同時に、こうも思ったんだ。人間じゃ、これ以上の物語は生み出せないって」

「仕組んだのはお前だろうが。ヴィクトリアやラルバが死んだのも、その原因の無色の悪意が生まれたのも、お前が望んだからだ」


「それが?」

「余計な事をしなけりゃ、みんな幸せに暮らせたはずだ」


「みんなじゃないさ。少なくともボク()は退屈するし、そしてそれは何よりも優先して取り除かなければならない不具合だ」

「……聞いてた以上だったぜ。テメェは本当にどうしようもないくらいに『神』なんだな」



 奉納祭を終えられなかったホウライを救ったのは、世界最大の知識を持つ那由他だった。


 生きる意味と価値を見い出せなくなったホウライは那由他へ問い掛けた。

『幸せとはなんなのか?』と。

 そして返された答えは『自己満足』だ。


 愛も、食も……、情や戯れ、悪意や殺意、幸運も不運も、すべては捉え方次第なのだと。

 同じものを食べても感想が異なる様に、それが美味(幸せ)であるかは己で決めるしかないと教わったのだ。


 そしてその考え方は、神すらも同じ。

 結論、好きなように生きた者が幸せなのだと言う那由他の笑顔が、ホウライを救ったのだ。



「さっき終世っつったな。話せよ、含ませてる意味も全て」

「終世とは、七日間の終世猶予(エンドロール)だ」


「七日だ?」

「そう、その期間が終わった時、世界は綴じられる(閉じられる)。生命を含む全物質は一つの記録概念体メモリアへ統合され、世界は一冊の物語となって完結する」


「させねぇっつったら?」

「察しが良いね。完結した後はどうする事も出来ない。本の中のキャラクターが現実世界に影響しえないように。だからこそ、ボク()は七日間という猶予をキミらに与えるんだ」



 終世を止められるのはボク()だけ。

 だから、それを回避したいのなら、七日間の終世猶予(エンドロール)の最中に、(ボク)を思い留ませるしかない。


 やり方は簡単さ。

 ボク()を殺せばいい。


 そうしてボク()の想定を上回ることで、まだまだ面白い物語を生み出せると証明すればいいんだ。



 そんな神の宣言はホウライのみならず……、世界すべての生命の意識へ届けられた。

 全生命 VS 唯一神。

 その最先端で、ホウライが刀を構える。



「はは、いいね!! だけど当然、(ボク)もキミらを妨害する。例えば、七日目を待たずに生命を全滅させてしまえば、終世が確定するでしょ」

「つまりは全面戦争。テメェの真の狙いはそれか」


「注意すべきなのは『七日目までは生き残る』ではなく、『七日目に世界は完結する』こと。だからボクはそれまでに、最大の障害である蟲量大数・不可思議竜・那由他を殺す。七日間の終世猶予(エンドロール)はそういうゲームでもある」



 現在は不完全ではあるものの、ホウライは皇の資格を有する者だ。

 だが、神は人という種を歯牙にもかけていない。



「あぁ、何度も言うけど、キミじゃ話にならないよ。なにせ今回は、蟲量大数と那由他に勝つ自信があるからね」

「その力の由来はラルバだ。自惚れが神の特技であるならば、これほど嬉しい事は無いがな」


「分かって無いなぁ。この身体は人間で一番優れている。だから選んだんだよ」



 キィーン。と響く金属音。

 それは唯一神の首筋の手前で、ホウライが振るったアダムスが静止した音だ。



「《絶対相殺》。ほらね、ボク()を切り開く刃であるアダムスでも、触れる事すらできやしない」

「馬鹿な……、能力を付与する道具など、どこにもないではないか」


「空気ってさぁ、複数の元素の化合物。となれば当然、造物だ」

「……暴論を」


神像平均アヴァタレージ造物主マスターアーティクル、せっかくだからこれも平均値化して……。『神造創者(リクリエーション)』。うん、いいね!」



 優しく合わされた唯一神の掌、そこに光が灯る。

 それが左右に分かれ、その軌跡に一本の黒い線が残された。



「《”神造創者(リクリエーション)あぁ、皇を黒火に(ゴッデス)”》」



 その長剣の名は、『神愛聖剣しんあいせいけん黒煌くろめき』。

 神が世界を効率よく殺す時に愛用する、終焉の剣だ。



「なん――ッッ!!」



 無造作に振られたその剣を、ホウライは迎え撃とうとしなかった。

 何らかの確証があった訳ではない。

 それはただの勘。

 蟲量大数と渡り合う為に研ぎ澄ましてきた見識が、ほんの僅かな違和感を感じただけ。


 結果、回避を選んだホウライの右手は小指を失い――、それと同時に、胸に抱えるラルバの右手からも小指が消失する。



「なんだと!?」

「黒煌はね『黒火で皇を臥す』剣だ。この刃が傷付けた存在の下位に存在する物質に、同様のダメージを与える」


「それでは……」

「そう。黒煌で皇種を殺した瞬間、その種族は一匹残らず絶滅する」



 それは、余りにも強大な力だった。

 たったの七日で世界を滅ぼす。

 そんな世迷い事に現実性を持たせてしまう程に。



「じゃ、少し遊ぼうか」

「ぬっ、魔力が――!」


人の肉体(神の器)だって造物だ。過去最大の魔力をインストールするなど造作も無いってね」



 ホウライの全方位360度を埋め尽くす空へ、魔法陣が刻まれた。

 連鎖的に放たれる光の刃は、奇しくも、ホウライが得意とする『雷人王の掌』から派生させた魔法。


 指に触れ、掌に触れ、拳に触れ、肘に触れ、腕に触れ、首筋へ。

 幾万回、迎え撃とうとも減らぬ甚雷、それがついにホウライの命へと。



「おっと。キミを此処で殺すのは勿体ない。皇種として完全に覚醒した後じゃないと二度手間だし」

「かふっ……」



 皇の継承とは、皇種が持つ記憶の引き継ぎの他に、種を導くに相応しい肉体への進化も含まれる。

 そして、記憶すら定着していないホウライは完成した皇種では無く、行使できる能力にも制限が掛っているのだ。


 だからこそ、神はホウライを殺そうとしない。

 皇種となった後で黒煌を使い殺せば、その時点で、人類を全滅させる事が出来るからだ。



「はぁ、はぁ……。くっ」

「さてと。ホウライ、キミにとっておきの神託を授けてあげよう。少しでも速く皇種に覚醒できる様に」


「なに、を……」



 パチンと鳴らされた指、それを合図にして張られていた空間結界が砕け散った。

 そして、遮断されていた外界から、尋常ならざる匂いを持つ者たちが飛来する。



「これは……白天竜のみならず……。なんじゃあの機械と蟲は?」

「ロボットの方は帝王枢機っていうタヌキの決戦兵器。ま、神殺しみたいなもんかな」


「まさしく奇怪」

「で、蟲は蟲だよ。ただし」


「理解ならざる……。も、の……」



 そこに居るのは、天空に渦巻く竜軍。

 一匹の白き王竜を中心に、無数に黒塊竜が湧き続けている。


 そこに在るのは、真紅と黒金の機神。

 理知の外側にあろう存在、それが放つ匂いは正しく神殺し。


 そこに織るのは、尋常ならざる蟲群。

 圧倒されてなお余りある力場、薄らと見える途方も無いエネルギーは想定すら難しく。



「いいね!!エンドロールは、並々ならぬ強者が名を連ねないと締まらない!」



 だが、最頂点の蟲に座して君臨する者を見た瞬間、ホウライの全思考が放棄された。

 あり得るはずがない。

 されど、世絶の神の因子を持つホウライが間違えるなど、それこそ、神を否定する行いで。



「ヴィ、ヴィクトリア……?」



 ホウライの口から出たのは、恋縋る少女への問い掛け。

 何十回、行ったのか分からない温かな思い出。


 そして、それに返されるのはいつだって……、冷酷な無視ムシだった。




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[一言] 俺って、アカシックレコードは 色んな世界の設定集みたいな物って認識なんすけど、 それと似た、一人の人生を綴った本を集めた図書館が あればこの神さん狂喜乱舞しそう……… いや、しねぇか。 自分…
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