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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第41話「ホウライ伝説 最期の劇を【前篇】」

 

「あははっ!あははははっ!!楽しいですねっ、私はもう、こんなにも自由に貴方と遊べるっ!!ずっとずっとずっとずっとずっと……仰ぎ見る存在だった貴方を、こんなにも自由に見下してっ!!」



 その剣の舞は、見惚れるほどに美しかった。

 これは彼女の終着点。

 見目麗しい若き女王ラルバ、その人生の集大成が宿る剣先がまた一つ、大好きな想い人へ傷をつける。

 まるで、『私のもの』だと主張するかのように。



「叙情詩では時に、愛を傷や痛みと比喩することがありますね。真実の愛とは破瓜の痛みの先にある。なんて、お母様が持っていた本にもありましたし」

「ほっほっほ、お前が捻くれておるのは、教育に悪い本ばかり読んでおったからか?」


「それは生来からの性根です。知っていますよね?」

「心当たりはあるがのぅ……、子供の駄々と思って侮っておったわ」



 斬られたホウライの腕には、致命傷どころか、流れ出るはずの血液が一滴も付着していない。

 傷が浅い……、のではなく、そもそも血液や血管が存在していない。

 魔法化している四肢には、血液の代わりに魔力が循環しているからだ。



「仕草は子供そのもの。だが、ひとたび動き出せば達人のそれ……、か」

「現存する全ての剣の使われ方を、皇として受け継いだ性能にインストールしました。自分でも笑っちゃうくらいのチートですね」


「皇とは種を統べる者。儂が人である限り、その性能でさえも糧とするか」

「あはっ、気が付いちゃいました?そうです。私の中にはもう、ホーライ様が居るんですよ」



 自分で言った言葉の含みに気が付いたラルバは、僅かに頬を赤らめて無邪気に頬笑んだ。

 恥ずかしさと楽しさと、隠しもしない愛が混じったその表情は、なぜか寂しげで。



「でも、私は我慢したくありません。もっと貴方を感じたい。貴方の熱を、痛みを、心を」

「なにを……!」


「そして貴方にも、私を感じて欲しいんです」



 ホウライの静止を聞かず、ラルバはレーヴァテインに口付けをした。

 そうして唇が裂かれ、鮮血が刃を伝って落ちる。


 彼女の体に走る、身を焦がした『恋の味』。

 それと同じ痛みが、ホウライの口にも伝わった。



「神像平均はこんな事も出来るんです。痛みや苦しみまで二人で半分こ」

「自傷すらも武器とするか」


「健やかなる時も、病める時も、互いを愛し愛され、死が二人を分かっても、永遠に添い遂げることを誓いますか?」



 ラルバの言葉は冗談めいていて、されど、ホウライに取っては真理に近い何かだった。


 死に分かれた最愛の人、ヴィクトリア。

 彼女への想いがあったから、ホウライは今まで生きて来れた。

 彼女への贖罪をしなければと、何度も奮い立って来たのだ。


 数十年の時が経とうと忘れることは叶わない。

 ホウライの心にはいつも、黒く塗り潰されたヴィクトリアが頬笑んでいるのだから。



「聞かせてくれぬか、ラルバよ」

「はい、なんでしょうか?」



 ラルバ願い、それは『ホーライ』と添い遂げること。

 今更、『そんなこと』と軽んじたりしない。

 本当に似ている師弟だと、苦笑するだけだ。


 それでも、ホウライはラルバの想いを受け入れられない理由があった。

 普段は取り繕っていても、魔法化してしまった肉体は元に戻る事は無い。

 既に人間の肉体とは呼べず、ラルバを女として愛すどころか、ふとした次の瞬間に臨界を超えて崩れるかもしれないのだ。


 長くても5年、厳しく見れば今すぐにでも。

 それが、ホウライが自分で見積もった寿命だった。



「儂が死んだ後、お前は幸せになれるのか?」

「はい。幸せになりますよ。必ず」



 そう言って頬笑んだラルバの匂いが本心だったのなら、どれだけ良かったかと。

 否定と後悔まみれの見栄。

 そんな嘘を吐かせてしまっている事が、何よりも辛かった。



「儂は、我慢をさせ過ぎたのだな」

「……今更、後悔ですか?」


「老人とはこういうものじゃよ。何処で間違ったのか分からぬまま、それを挽回しようと足掻く。……取り戻せるはずがないのにのぅ」



 どうやら、ここまでのようだな。

 ラルバの傷は儂も負う。

 刺し違えることは出来ても、儂だけが生き残る事はない。


 ……いいや、したくねぇ。

 しちゃいけないんだ。



「なぁ……ラルバ。俺と遊ぶか?」



 懐かしさを思い出しながら、ホウライは自分の顔をよく揉んで深い皺を伸ばした。

 そして、出来うる限りの笑顔をラルバに向ける。



「それ、最初に会った時の……」

「なんだ、遊んでくれないのか?」


「……いいんですか?」

「ほっほっほ、もちろんだとも」



 ヴィクトリア。

 俺さ、結構、頑張ったと思うんだ。


 いっぱいの失敗と、ちょっとの成功。

 でもそれは、見方を変えれば全然違う意味になるものばかりで、もしかしたら、一個も正解がなかったかもしれなくてさ。


 だって、今がそうなんだ。

 女としては見ていなくても、愛していた教え子、ラルバ。

 彼女の為って言いながら色んな事を教え、教わり、そんで俺は楽しい人生を送ってさ。


 でもラルバは、こんなにも痛々しくなるまで思い詰めていて。

 それに気が付かなかった俺は馬鹿で、アホで、どうしょもなくて。



 もしも、天国があるのなら。

 もう一度、お前に会えたなら。



 絶対に不機嫌になるって分かってるけど……、

 ……俺が愛した子だって、ラルバを紹介しても良いかな?ヴィクトリア。



「ふふ、では……。ラルバとあーそんでくーださいなっ!!」

「ほっほっほ、ヒーローごっこでもするかのぅ!《暗香不動(イムバブルオーダー)、究極超奥義っ!!》」


「うふふっ、懐かしいです」

「《天空を統べし雷人王(zeus)ッ!!》 ふはは、かかって来い、勇者よ!この魔王ホーライを倒して見せよ!!」


「それではえーと……、民を苦しめ、人をあざ笑う諸悪の根源めっ!この勇者ラルバがめっ!してあげます!!」



 その遊びは、幼いラルバの数少ない楽しみの一つ。

 部屋の中から見るしかできない歌劇団の一幕、小さな女の子が主役だったヒーローショーごっこ。



 それから、『魔王ホーライ』と『勇者ラルバ』は思いきり遊んだ。

 一切の加減なく、互いに全力で。


 愛や恋とは違う形の、少女ラルバの願い。

『対等に遊べる友達が欲しい』


 黒い刃と雷光を煌めかせて、笑って、驚いて。

 ずっとしたかった遊びは楽しくて楽しくて――。


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