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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第39話「ホウライ伝説 知らしめられる建国 25」※真・タヌキ無双」


「此処で乱入とは、随分とお行儀が良いじゃねぇかァ……、ダンヴィンゲンッ!!」



 ギリリ。と犬歯を噛みならし、タヌキ帝王・ソドムが吠える。

 怪我一つない健常な体に収まらぬ怒気、それは戦いを邪魔されたからか、それとも、エゼキエルが大破されたからなのか。


 超位魔道具の複合体であるエゼキエルには、操縦者の命を守る安全装置が取り付けられている。

 その中にある漆罪咎を律する装飾(ゴルゴンティーナ)と同じ仕組みの魔道具により、絶命へ至るダメージはソドムの代わりにエゼキエルが負う。

 一方、致死級のダメージを負ってしまったエゼキエルは大破し、再起不能な状態となってしまっている。



「カツボウゼイ単体っつうのも変だとは思ったが、まさかテメェが来るとはな」



 だが、ソドムの戦いは終わっていない。

 最大最強の警戒……、その者を前に油断するなど、知識者として有ってはならない失態だ。


 ウ”ウ”ウ“と鳴る、二対の羽根音。

 隆起した筋肉を蒼白鎧骨格が覆い隠すも、その”力”は微塵も隠れていない。


『鎧王蟲・ダンヴィンゲン』

 団子蟲ダンゴムシ瓶蟲カメムシ竜蝨ゲンゴロウの特性を持つ、陸・海・空を統べし者。

 精錬淘汰された昆蟲を更に超えた存在であるこの蟲は、ありとあらゆる環境に適応して君臨する、あまねく生物の憧れ。

 世界で最も純粋な力の最果て、『世界最強の物理力(マキシマム・ダイン)』を持つ、最強の王蟲兵だ。



「……で、その右肩に居る白いのが黒幕で良いんだよなァ?」

「指示なくば、お前の様なクソタヌキを生かす殴り方などせぬ」


「あ”ぁん?」



 飛来したダンヴィンゲンが行ったのは、たったの一手。

世界最大の物理力(マキシマム・ダイン)』で空間巨竜を殴ったそれだけだ。


 この世界の物理力ダインとは、物質へ与える影響速度。

 物質を指で押した時にどのくらいへこむのか。

 この力の単位を『ダイン』と呼ぶのだ。


 そして、世界最強の物理力とは、過去に観測された物質へ及ぼした最大の影響力。

 理から逸脱している神すらも殺した……、神壊戦刃=グラムの『絶対破壊』を使い、ダンヴィンゲンは空間巨竜を一撃で破壊して見せたのだ。



「そこの白いお前、随分と可愛らしいの連れてるじゃねぇか?えぇ?蟲が誘拐たぁ、世も末だぜ」



 直ぐにでも戦いが始まりそうな張り詰めた空気は、主にソドムが発している。

 ただでさえ強い竜の筆頭眷皇種ホープとの戦闘中に、更なる格上が乱入。

 そして、追加される危機はダンヴィンゲンだけではなく……、妹のゴモラまで捕まっているとなれば、警戒してもしきれない。



「……おい、ゴモラ?」

「あぁぁぁー、助けてぇー、う”ぃ~太~~、モフられるぅ~~~~~」


「……。」



 ダンヴィンゲンに座る少女は、一匹のタヌキを捕獲している。

 小さい手でしっかりと抱き、毛皮の質感を堪能するように、モフモフぎゅうー。

 どの角度から見ても、少女とタヌキの可愛らしい触れ合い。

 真理究明の目を持つソドムですら悩むほどに、ゴモラはたっぷりと可愛がられている。



「……。おい」

「あ”ぁ”ぁ”~~、モフられるぅ~~、あ”ぁ”~~癖になってしまうぅ~~~~」


「……あっそ。好きなだけ拗らせてとけ」



 モフモフモフモフと効果音が聞こえてきそうなほどの激しい愛撫を受けているゴモラは、にっこりとろーん。

 正体不明の蟲に捕まっているというカツテナイ窮地なのに、緊張感などまるでない。



「だめだこりゃ。で、そこの白い黒幕。お前は一体、何者だ?」

「私の名前はヴィクトリア」


「ふーん。で、上手いこと隠してるつもりだろうがなァ、……お前、人を捨てて蟲になりやがったな?」



 真理究明を持つソドムの目に映っているのは、到底、人間とは呼べない異形すぎる混蟲。

 ただの可愛らしい少女の背に巣食う蟲、そのおぞましき形にソドムですら眉をしかめている。



「今の私は蟲。そうして貰ったの」

「誰に……、なんて聞くまでもねぇな。不可思議竜をブッ殺して命の権能を奪うなんざ、蟲量大数以外に出来る訳がねぇ」



 ソドムの脳裏にちらついたのは、魔導枢機霊王国の少女、ホロボサターリャの姿。

 死した彼女との約束を果たす為に蘇生を願い、そして、那由他は悪喰=イーター内に保存されていた彼女の魂の残滓を転生させた。


 その時に必要だったのは、喪失した魂でさえ復元できる、不可思議竜の命の権能。

 それを手に入れる為に那由他とソドムは不可思議竜に戦いを挑み……、命の権能を悪喰=イーターへの取り込みに成功している。


 だが、その力を完全に吸収する事は出来なかった。


 得ることが出来たのは、解脱転命に関する基礎知識と、その使い方。

 ほんの少し歪んだだけで全てが瓦解する魂の細工には、知識とは別方向の素質が必要だったのだ。


『命の権能』

 ソドムどころか、那由他ですら難しいと口にする秘術。

 それが完全な形で蟲に移植されている。

 信じられないほどの暴挙……、それを行えるのは世界でただの一匹、蟲量大数だけ。



「……そういうことかよ、それで、馬鹿みてぇに王蟲兵が居るんだな」

「ヴィクティム様に勧められたから育てたの。みんなすごく強いんだよ」


「はっ、俺程じゃねぇけどな」



 ちっ、トンデモねぇ化物が出てきたもんだぜ。


 悪喰=イーターに保存された映像を見る限り、ゴモラ一匹でもカツボウゼイに対処できた。

 だが、クソ硬くて刃が通らないカナケラテンには自滅は発動できず、遠距離から攻撃してくるホウブンゼンには予兆が届かねぇ。

 糸で動きを封じてくるチトウヨウはアップルルーンと相性最悪……、まともな勝負になるのはケイガギくらいだな。


 そもそも、ダンヴィンゲンが居る時点で勝てねぇ。

 コイツと真っ向からやりあえるのは、クソしぶとい天王竜ホープか、覚醒グラムを使うエデンくらいなもんだぜ。

 正直、俺も逃げ一択なんだが……、成功した未来も見えやしねぇ。



「わらわらと蟲を揃えて何するつもりだ?おままごとには過ぎた戦力だぞ」

「場合によっては世界を滅ぼすよ。貴方にはその邪魔をしないで欲しいの」


「……その場合とやらによるな。那由他様も噛んでいる以上、蟲量大数の気まぐれって話じゃねぇはずだ」



 ソドムは気が付いていた。

 目の前の存在の誕生に、那由他が絡んでいる事に。


 ……愛烙譲渡スウィートマータ。シアンの世絶の神の因子、か。

 懐かしい声だぜ。


 この神の因子の重要性は俺やゴモラだけじゃなく、カラレスハートとの戦いに参戦した那由他様も理解している。

 ポッと出の村娘が持ってるだけなら知らない可能性もあるが……、蟲と関係している以上、見過ごすはずがねぇ。

 どう考えても秘匿されてる訳で、世界にとって、放置するのが良いと判断したってことだ。


 そういう意味じゃ、王蟲兵の誕生も、那由他様の思惑の上か。

 俺達を殺せる状況なのに手を出してこないのが、何よりの証拠だな。



「このままだと唯一神による終世(修正)が起こると、ヴィクティム様がそう言ったの」

「ヴィクティムってのは聞かねぇ呼び方だな。蟲量大数で良いんだよな?」


「そうだよ、私が名付けたの。それで、今回の終世を乗り越える為には、神よりも先に世界を滅ぼす必要がある。これを言ったのは那由他様」

「なんだと……?」


「そしてね、その分岐点が今なんだ」



 神による終世。

 その最終局面が壮絶な戦いだという知識は、ソドムも持っている。

 なぜなら……、『足手纏いになるからの』。

 そんな理由によって、タヌキ帝王ですら悪喰=イーターの中に隔離されるからだ。



「終世……、那由他様にしか対応できない事態、か」

「そうなるかどうかは、ホーライちゃんの戦いによって決まるんだ」


「下で戦ってる奴だな」

「邪魔しちゃダメだよ。だからね、ソドム。ホーライちゃんが勝つ所を一緒に見守ろう?」



 ソドムの目には人と蟲が混じった異形が映っている。

 だが、差し出された手に感じる温かみは、遠く遠くに失った愛を感じさせるもので。



 蟲がタヌキをモフる。

 そんな光景を天王竜が眺めている。

 60万の竜軍から回収した黒塊竜の魂を一つに纏めて、復元しながら。


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― 新着の感想 ―
[一言] 蟲がタヌキをモフる。 そんな光景を天王竜が眺めている。 知ってるか? この世界じゃこの三種が頂点なんだぜ? 普通に考えたら卒倒物だよねぇこの絵面。 続きが楽しみですねぇ。
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