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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第35話「ホウライ伝説 知らしめられる建国 21」※タヌキ無双」

 

 そうだよ。と、白くて小さな蟲が鳴く。

 ゴモラが愛した、その声で。



「う、ぁ……」



 ゴモラは打ち震えている。


 たった今、死力を賭して斃そうとした王蟲兵カツボウゼイ、最低でもそれと同等。

 いや、100%に近い確率で上位互換である最も古き王蟲兵、『鎧王蟲・ダンヴィンゲン』が目の前に居るから、ではない(・・・・)


 その肩に座している、真っ白い髪の少女。

 年齢は15歳ほど、大人と呼ぶにはまだ幼い顔立ち。

 人間のように見えるが、絶対にそうではないと言い切れる『何か』から投げかけられる声が、堪らなく愛おしく。

 そして、堪らなく恐ろしいのだ。



「シアンと間違えるなんて……。お前は、誰?ダンヴィンゲンに座るなんて、タダごとじゃない」



『鎧王蟲・ダンヴィンゲン』

団子蟲ダンゴムシ』『瓶蟲(カメムシ)』『竜蝨ゲンゴロウ


 それは、陸・海・空を統べた、昆蟲を超えし者の極致。

 ありとあらゆる環境に即座に適応して君臨する、あまねく生物の憧れ。

 どんな障害であっても抵抗を許さない『世界最強の物理力(マキシマム・ダイン)』を持つ、世界最強の王。


 そんな、抗いようのない蟲の王を、あろうことか椅子代わりに使う。

 ゴモラは、それが出来る事にまったく疑問を抱かなかった。



「那由他様の眷族なのに、私の事を知らないんだ」

「那由他……さま(・・)?蟲なのに敬称を付けるんだね」


「お世話になったから」



 心を掻き乱されるほどに愛くるしい、声。

 まったく敵意が含まれていない、万人を聞き惚れさせるほどに美しい音の羅列。

 愛烙譲渡スウィートマータは愛を謳った音楽の様に、ゴモラの心を歓喜で満たす。



「質問を変える。愛烙譲渡の使い方を貴女に教えたのは那由他様……?」



 お世話になったと聞いた時点で、ゴモラの中に二つの選択肢が浮かんだ。


 ① その言葉自体が嘘。

 ② 那由他はこの少女は隠していた。


 どちらの可能性も高く、そして、どちらであっても面倒な事この上ない。

 なんなら答えずにそのまま立ち去ってくれていいと、ゴモラは思っている。



「そう、なのかな?村に居る時に教えて貰っていたんだけど、覚醒自体は……」



 だが、その少女は会話を続けようとする。

 幼い顔立ちに思案を混ぜつつ、肯定とも否定とも取れる曖昧な返事をしようとして――。



「「んっ!?」」



 驚愕を含んだ二つの声、その原因が姿を現す。


 ボゴン。っと隆起した土暮れ、そこから伸びた屈強な腕がゴモラの足を掴んだ。

 そして、咄嗟に強化した防御魔法ごと一瞬で握り潰される。

 苦痛に歪む顔。

 だが、それを塗り潰す程の驚愕がゴモラを襲っている。



「カナ、ケラテン……ッ!?!?」



 大地を割りながら出てきたのは、黒褐色の甲冑。

 ゴモラでは傷つける手段がない相性最悪の敵の出現に、思わず思考が放棄される。


『削王蟲・カナケラテン』

金蚉カナブン』『螻蛄オケラ』『天道虫テントウムシ


 それは、切削、潜航を得意とする昆虫類の進化の果て。

 屈強な外殻を何重にも纏う、『世界最強の重力(マキシマム・モル)』を持つ、世界最重の王。



「姫を煩わせるな。タヌキ。」



 掴んで振り払うという簡素な動作ですら、世界で最も重き肉体が行ったのなら。

 大地に叩きつけられたゴモラは骨を軋ませ、意識を点滅させる。

 だが、そんな悠長な事を言っている場合では無い。



「……っっ!!なん、で……」



 目に止まってしまったのは、黄色と黒の警告色。

 ソドムとムーが最も忌み嫌う、かつて、世界の三分の二を喰らいし者。


『針王蟲・ホウブンゼン』

ハチ』『』『セミ


 それは、音と空気を支配する昆虫類の進化の果て。

 発せられる警告と同時に来る絶望、『世界最強の応力(マキシマム・パスカル)』を持つ、世界最深の王。



「ホウブンゼン……ッ!? それに、」



『縛王蟲・チトウヨウ』

蜘蛛クモ』『蟷螂カマキリ』『ハエ

 それは、命を糧とする行動に喜びを覚える昆虫類の進化の果て。

 決して逃げることが叶わない、『世界最強の粘度マキシマム・ニュートン』を持つ、世界最遅の王。


『光王蟲・ケイガギ』

(ホタル)』『』『アリ

 それは、熱と光を追い求める昆虫類の進化の果て。

 触れるどころか直視すら困難な、『世界最強の熱力(マキシマム・ジュール)』を持つ、世界最輝の王。



「チトウヨウ、ケイガギ……まで。はは、いくらなんでも、こんな……」



 たった一匹ですら、容易に世界を滅ぼせる蟲の王の羅列。

 六匹もの滅亡の大災厄。

 正真正銘の絶体絶命。


 カツボウゼイが言っていた『群れ』とは……、それぞれが持つ配下の群棲のことでは無い。

 王蟲兵同士の群れという、有史以降、決して存在する事が無かった空前絶後だ。


 こんなの、勝てる訳がない。

 そんなゴモラの呟きですら、それらを統べる姫には届かない。



「……なにしてるの。カナケラテン」

「姫に仇成す輩に、罰を」


「そんなの頼んでないよ。ねぇ、ケイガギ。あなたも何をしようとしてるの?」

「いやだってさー、ヴィク様にむかつく態度取るとかさー、殺されて当然じゃない?」



 へらへらと笑うケイガギの伸長は150cmほどと低く、人間の子供を想像とさせる。

 だが、秘めた狡猾さと残忍さは比べるまでも無い。



「いいじゃん、殺しちゃえば。たかがタヌキ一匹。自爆する馬鹿がまた出るかもだし?」

「そういうのいいから」


「ヴィク様の手を煩わせたりしないって。さくっと……」

「    《余計なこと、しないで》   」



 生物が最も恐れる恐怖とは……、『喪失』。

 所持していた幸せ、向けられていた愛。

 それらの喪失は、何物にも耐えがたき恐怖だ。


 僅かに、けれど、確かな怒りと不快感が込められた少女の言葉。

 それを向けられた王蟲兵は深々と頭を下げ、心の底からの陳謝を奏上する。



「ごめんなさい、ゴモラ。これ以上、貴女に危害を加えるつもりは無い」

「言いたい事は山ほどある。けど……、とりあえず信じる」



 この状況では、少女の言葉に同意するしか生き残る術は無い。

 けれど、ゴモラが信じると言った理由は違う。


 ゴモラにとって、愛烙譲渡スウィートマータは何よりも勝る信頼。

 彼女が人類の守護者をしている理由、そのものだ。



「ソドムのと違い、この悪喰=イーターは真理究明に特化していない。だから、貴女の正体も朧げにしか分からない」

「うん」


「愛烙譲渡を持つ元人間というのは分かる。でも、不可思議竜の『命の権能』まで持っているのはどうして?」



『混蟲姫・ヴィクトリア』

 それは『人間』と『昆虫』の成れの果て。

 願いを失い、命を捧げ、与えられし『世界最強の生命力インフィニティ・ライフ』によって生まれた、世界最愛の姫。



「この力はヴィクティム様に貰ったの」

「ヴィクティム……?」


「貴女達が蟲量大数と呼んでいる御方で、私の全てを捧げた主様だよ」



 真っ直ぐに向けられた言葉にも、当然のように愛が含まれている。

 だが、それは世絶の神の因子によるものではないと、ゴモラは思った。


 憧れ、信頼、尊敬、恋慕。

 複雑に混じり合った感情を隠そうと、少女は僅かな恥じらいを見せたのだ。



「本題に入っても良い?実は、貴女達にお願いがあるんだ」

「私に?」


「ソドムとゴモラ、人類を守る双子のタヌキ。貴女達には邪魔をしないで欲しいの」



 訳が分からない。

 だが、ガラティンの殺害と無関係ではないだろう。

 肯定とも否定とも取れる頷きを返し、ゴモラはヴィクトリアへ話を促す。



「これはまだ懸念でしか無いけれど……、このままだと、世界が滅ぶ可能性が高い」

「……っ!!それは、神による終世が行われるということ?」



 神の降臨、終世の発動。

 唐突に行われることも、段階を踏んで発生することもある。

 そして、今回は後者の条件を十二分に満たしてしまっている。

 その結論は既に、ゴモラとソドムも出していた。



「仮にそうなるとして、貴女が何をするというの?それが分からないと話にならない」

「神よりも先に、世界を滅ぼす」


「ッ!!そんなこと――」



 出来る訳がないとも、させる訳が無いとも、ゴモラは言えなかった。

 たった二匹のタヌキでは、六体の大災厄に抗う術など無いのだから。



「まだ決まった訳じゃないよ。全てはホーライちゃん次第」

「……?」


「でも、そうなってしまったら一刻の猶予も無い。すごく短い戦闘時間すら惜しくなる」

「……くっ」


「もしも貴女達が後の障害になるというのなら、ここで憂いを断つことになる。けれど、私はそれを望んでいない」



 驚くゴモラに向けて、頬笑んだヴィクトリアが手を差し出す。

 それは、明らかな友好の意思。



「どうか、私達に協力して欲しい。……こっちにおいで、ゴモラ」



 白くて偉大な蟲が鳴く。

 愛烙譲渡あいを宿したその声で。


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― 新着の感想 ―
[一言] ※ソドム・ゴモラ・ホーライの生存は確定しています。多分。
[一言] 愛烙譲渡タチ悪ゥ………。 洗脳したい放題ヤンケェ………。 駄目だ博愛とかそういうワード アレルギーなワイこの能力が気持ち悪過ぎる。 無条件で好かれるとか怖気が走るゥ……。 心閉ざしたとか、天…
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