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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第31話「ホウライ伝説 知らしめられる建国 ⑰」※タヌキ無双

「残りの竜は殺せ。どうせ死なないけど」



 事もなさげに飛ばされた命令。

 なんてこともない、出来て当たり前という態度で放たれたソレに対して返された答えは、二通り。



「「「「「ヴィギルーン!」」」」」



 一つは単純明快な『殺意』。

 まるで問題ないとばかりの快諾。

 指示者と受領者が同じである以上、齟齬があるはずもない。



「「「「「……殺すだと?黒塊竜様の強き肉体を手に入れた、竜族の希望である我らをか?」」」」」」



 もう一つの返答も、単純明快な『殺意』だ。

 ただし、こちらは指示者に対する否定。


 タヌキ帝王・ゴモラを殺す。

 そんな竜の激情こそ、彼女の意図。



「オォォォオオオオッッ!!許さぬッ!!タヌキの分際で我ら竜族を愚弄するなど、お前の命だけでは償えぬぞ!!」

「グオォォォオオオオオオオオッ!!」

「グオォォォオオオオオオオオッ!!」



 一斉にいきり立った竜軍が、凄まじい咆哮を上げた。

 全長80mを超える巨体から繰り出される魔力を帯びた衝撃は、燃え盛る炎の大半を消し飛ばす程の威力。

 黒塊竜の肉体は、ただの咆哮すら他者を害す技へと昇華する。



「え、ちょま……、落ち着くのだッ!!こ奴は伯父上や我が師ですら警戒する相手なのだぞ!!」



 摂氏1000度を超える怒りを含んだ熱波の中、たった一匹だけが青ざめている。

 冥王竜は薄らと理解しているのだ。

 目の前のタヌキは黒塊竜軍を作り出した天王竜ですら手を焼く存在なのだと。



「絶対に単体で仕掛けてはならぬ!必ず10匹以上のチームで戦うのだッ!!」

「殺せ、殺せ、殺せぇッ!!」


「数の上ではこちらの方が上だッ!!我らの肉体は伯父上と同等、落ち着いて戦えば勝てぬ道理は無いッ!!」

「喰らってやるぞ、焼肉弁当タヌキがァアアアッ!!」


「鱗に核熱の炎を纏うのだ!防御寄りの陣形で確実に相手を……」

「突撃ィィィィッ!!」


「……。」



 永き歴史の中で、タヌキと竜は幾度となく戦いを繰り広げている。

 その勝敗は一進一退であり、種族としてどちらが秀でているかに答えは無い。


 だがそれは、個体同士の戦いには当てはまらない。

 敗北しても生きながらえる竜と違い、タヌキの敗北=死。

 たからこそ、生き残っているタヌキはすべて『不敗』となる。



「個別に戦っても勝てぬ、みんなで囲むのだッ!!」

「喰らえッ!!核熱の炎ッッ!!」


「やめるのだ!前衛が時間を稼いでいる間に、理想気体で温度を高めよッ!!そうでなければ貫通出来ぬぞッ!!」

「滅びよッ!!核熱剣ッッ!!」


「………………。ガン無視っすね?」



 伯父と師匠の七光で調子に乗っているとはいえ、冥王竜は眷皇種の一匹。

 他の竜の追随を許さぬ才覚があるからこそ天王竜の弟子となり、竜軍を任されたのだ。


 そして現在、その才覚は十全に発揮されていた。

 冥王竜の指示は的確であり、その戦略を取れたのならば十分に勝ち目がある戦いとなる。


 ……ただ、相手が悪かった。

 部下がまったく指示を聞かない憤怒なる混沌、それこそが、那由他から『大規模軍勢制圧・担当』を言い渡されているゴモラの戦術。



「何でみんな無視するっすか……?いつもなら、ちょっとくらいは聞いてくれるのに……」



 動揺が宿る瞳に映っているのは、苛烈にして撃滅な攻撃。

 黒塊竜が振り下ろした核熱剣を、カタストロフ・アップルルーンの爪が迎え撃つ。

 力の拮抗は一瞬。

 高密度エネルギーである核熱剣が異物を取り込んだことで熱量臨界を超えて有爆――、しない。


 獣形態となっているカタストロフ・アップルルーンの両腕は、アップルカットシールドが変形した巨大な爪だ。

 人間形態時にはエネルギー吸収ユニットとして使用するものであり、その能力は健在どころか強化。

 奪った核熱剣を推進力に繰り出される突撃は、全長5mのアップルルーンを赤き砲弾へと変貌させる。



「……。だから言ったじゃないっすか……。我らは伯父上の劣化でしか無いんだから、数で押すしかないんすよ……」



 皮肉交じりの警告も、砕け散る仲間の炸裂音に掻き消された。


 歯が立たないどころでは無い、勝利する手段が無い(カツテナイ)絶望。

 絶対だと思っていた伯父の鱗と共に、冥王竜の自信が木端微塵に砕け散っていく。



「数だけなら有利なのに……、1対1の戦闘能力だって、それほど差がない筈なのに……」


「何でこんなに一方的な戦いになるっすかッ!?たったの一機も壊せないなんて、そんな事、有る訳が……」



 ありえない。

 これは、第三者が見てもそう思う程の異常事態だ。

 その答えを知っているのは、楽しそうなゴモラの解説を聞いた事がある古竜のみ。



「私は軍勢制圧担当。大量発生した蟲の駆除とかよくやる」

「なんすかそれなのだッ!?!?」


「コツは一匹も逃がさないこと。その為の、神域浸食・ルインズワイズ」



 世界最強、十の神殺し

『神域浸食・ルインズワイズ』

 その能力は『予兆』と『自滅』。

 生物に思考がある限り、この槍の前では『予期せぬ事態』は訪れない。



「ルインズワイズは予兆を実現させる」

「予兆……?」


「予兆には色んな意味が含まれている。『この力が有れば勝てそう』『この武器なら殺せそう』そんな予兆は揺るぎない自信となって、冗長という結果を産む」

「なんだと……、では、皆がおかしいのは」


「ルインズワイズのせい。冷静な判断なんて許さない、知的であるのは私達(タヌキ)に与えられたアドバンテージなのだから」



『予兆』

 己が有利だと判断した相手は『勝利の予兆』を信じ、冗長した戦いを行うようになる。

 反撃される。敗北する。殺される……、そんな未来を考慮しない攻撃は、苛烈にして単調。

 勝ち敗けという根底にあるはずの戦略の崩壊、それが第四の神殺しの能力だ。



「確かに、アップルルーン単体の戦闘能力は月希光を覆う黒塊竜にやや劣る。一対一の戦いでは負け越す」

「くっ、ならば……」


「勝てる?それは浅墓という他ない」

「なぜだッ!?我らの方が数も多い、個で勝るのなら勝てて当然であるはずだッ!!」


「単純な話。貴方達は60万の『個体の集まり』。一方、私が一匹で管理しているアップルルーンは5000機で『一個体』」

「ッ!?」


「60万匹いても、結局は『戦闘力1』の個体でしかない竜が、『戦闘力5000』の個体である私に勝てるはずがない」



 統率や連携が失われた竜軍の攻撃力や防御力は、黒塊竜の一匹分しかない。


 そして、アップルルーンの操作をしているのは、ゴモラただ一匹。

 常に状況を把握し、損傷すれば即座に後退、控えていた別機が戦闘を引き継ぐ。

 ルインズワイズの予兆により冷静さを失っている相手は深追い出来ず、修復された機体は控えとなって――、そうして延々と、無傷の機体と戦う事となる。



「ひ、酷過ぎる……」

「酷いのはここからだよ?」


「えっ」

「みっともない阿鼻叫喚。知ってる?死なない竜の殺し方」



 予兆とは、必ずしも良いものであるとは限らない。


 吉兆、勝機、予感、それらが正の予兆であるならば。

 凶兆、焦燥、憂患、それらは負の予兆であるだろう。



「ぐ、ぐおぉぉ……、死ん、でも……生き還れる。何度でも生き還ってしまう、だから……またッ!!」

「殺さ……」

「ひっ、いやだ……、何度も何度も殺されるのは、もう、いやだぁあああああああッ!!」



 天王竜が発動した解脱転命がある限り、竜は絶対に死ぬことはない。


 解脱天命・遷移転体が指定しているのはドラゴン単体では無く、セフィロトアルテの森。

 この地で世界に還元される魂は解脱天命の中に隔離され、残された物質は、気化、昇華、凝固、凝結……、どのような状態となっていても天王竜の管理下に置かれている。


 望んだ姿への進化という解脱天命の真髄を省略しているシステムだからこそ、転生に必要なエネルギーは減退しない。

 質量保存の法則の強制。

 この地に存在する物質の生殺与奪を掌握する、それが不可思議竜の権能だ。


 だが、タヌキはそれを知っている。

『知識』

 それこそが、那由他タヌキが持つ権能なのだから。



「竜殺しの答えは単純。身体を殺せないなら、心を殺せば良い」



 その予兆の名は『恐怖』。


 手傷を負った獣は、剥かれた牙に死を垣間見る。

 腕を失った者は剣に、恋を失った者は異性に。

 そして、命を失った者は希望に、強い恐怖を抱くようになる。



「愚直な冗長からの絶命を心が死ぬまで繰り返す。意図的に対象から外している貴方以外は、ね」



 魔王シリーズに搭載されている恐怖機構は、ルインズワイズの『予兆』の簡易版だ。

 相手に戦略的撤退という選択肢を取らせない。

 ルインズワイズを見たソドムが便利そうだとムーに相談した結果、恐怖に特化した能力が付与されたのだ。



「そんな……、逃げる事すら許さぬなど……」

「竜はすぐ逃げる。天王竜とか光速。その為の能力」


「我が師対策ぅ……」



 冗長が強制された無謀な進軍の後に続くのは、恐怖を植え付けられた心神喪失。

 死んでも死んでも、終わらない死の恐怖。

 やがて、竜は健常な肉体のまま、その精神が死ぬこととなる。


『タヌキ=絶望』


 希望の象徴である天王竜の能力ですら、タヌキの掌の上。

 これは絶えなき希望がことごとく殺され続ける『輪廻する死の恐怖』。


 この時に始めて、竜は涙を流しながら真実を知った。

 死は救いであったのだ。



「全員の心がへし折れるまで、何分掛るかな?ソドムが決着を付ける前には終わって欲しい」

「ひぃっ、逃げ――」


「どこに?寝床を荒らされたトウゲンキョウが激オコでエデンを呼び出してた。天龍嶽って所に行ったらしいけど、大丈夫?」

「ひえっっ……」


「天王竜と黒塊竜はここに居るし、木星竜も不可思議竜も何処かに行ってるだろうし……、土星竜イデアノウトだけで耐えられると良いねー」

「そ、その、トウゲンキョウとエデンというのは……」


「私の三つくらい格上だよ」

「……。そうっすか……」



 あ、そうだ。

 コイツの心もへし折っておかないと。


 ゴモラが冥王竜に話し掛けている理由は、心をへし折った冥王竜から情報を得る為。

 リンサベル家に仇を成した輩を、ゴモラは決して許さない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 哀れドラゴン。 この世界のドラゴンはとても残念なのだ。 タヌキがヤヴァいのもあるんだろうけど(目逸らし)
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