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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第28話「ホウライ伝説 知らしめられる建国 ⑭」

「……殺したというのか、アサイシスを」

「あぁ、そうだ。我……、伯父上の剣で小虫みたく叩き潰してやったのだ!何の抵抗もできぬ、あっけない最期だったぞ、くわーはっはっは!」



 小ぶりに見える黒塊竜の朗笑、それに対して複数の思案が返された。


 何の抵抗も出来ず、か。

 漆罪咎を律する装飾(ゴルゴンティーナ)が発動した後で殺したのなら、しぶといという印象を抱くはず。

 それならあるいは……、いや、アサイシスなら必ず生き残っておる。


 少し待っておれ、すぐに迎えに行ってやる。



「ふぅむ、どうやら負け戦の様じゃな」

「まさしくそうであろうとも。人間など一人も残っておらぬわ!!」



 軽快に答える黒塊竜の横で、重い雰囲気を纏う黒塊竜も思案を終えた。

 そして、馬鹿丸出しな甥に尻尾で活を入れ、静かに語り出す。



「冥王竜、お前が殺したという女は死んでいない」

「ぐぇぇ、痛いっすよ伯父上ぇ、え?いまなんて?」


天王竜ホープが魂を回収できていないと言っている。この領域で死んだならありえぬ事態だ」

「我が師がっすか!?」


「エクスカリバーには死を撤回する能力はない。冷静に探してトドメを差して来い」

「えっと……、失敗したら?」


「トドメを差されるのはお前だ、愚か者」

「ごめんなさいっすーーーー!!!!!」



 目を白黒させながら空間をこじ開けた黒塊竜と、周囲に居た取り巻き、その両方が離脱。

 そうして再び、ホウライとオリジナル黒塊竜のみが残された。



「わざわざ情報を吐くとは、一体何のつもりじゃ?」

「我を殺した褒美だ」


「ほう?」

「戦いで命を落とすのなぞ、何百年ぶりであろうか。この歳になると好敵手を見つけるのも一苦労でな。これで憂いなく戦えるだろう」



 我を殺せば、その女を助けにいけるぞ。

 そんな誘惑は、黒塊竜の腕に灯った紫電に掻き消された。

 それは、高温になり過ぎた空気が融解したことにより発生する、核放射陽電子ポジトロン



「あまり強力な核炎を使うと、転生した小竜どもが自爆しかねんと思ってな」

「なるほどのぉ、つまり、手加減していたらそのまま殺されてしまったと」


「くっくっく、甥が馬鹿なら伯父も馬鹿であったのだろうよ。だが許せ、ここから先は手加減無しだ」



 鋼鉄に爪を突き立てるような音と共に、空間が掻き毟られた。

 その切っ先が到達したのは、次元の壁。

 本来触れる事が出来ないそれとの間に発生した摩擦が、さらなる熱を呼び起こす。



「《極天陽月爪フレアムーン》」



 それは、太陽を覆い隠す月の如き――、暗黒爪。

 臨界を超えた膨大な熱は物質のみならず、ついには光すらも引き寄せ離さない。



「再び触れられると思うなよ、人間。なにせこれは――」

「そんな必要など無い」


「な……、に……」

「散れい」



 その爪が、光すら逃さぬというのなら。

 光、程度しか捕らえられぬというのなら。

 始まりが存在しない、終わりの刃で斬り伏せば良い。



「持っていたのが……ッ、アダム、っス。竜殺しの……」

「尽きて逝け、竜よ。《絶尽の太刀(ZERO)》」



 そうしてホウライは、刀を鞘に納めた。

 パチンと鳴った音は、全ての事象が終えた証明。


『神話開闢・アダムス』

 起源と絶尽を指定するこの刃には、過程が存在しない。

 刃で心臓を斬るには、空気、鱗、皮膚、筋肉、骨、それらを断たねば到達できない。

 だがもしも……、斬るという事象が、心臓に触れる所から始まったとしたら?


 これは避けようがない、絶対不可避の抜刀術。

 そして、この刃は、その者が持つあらゆる可能性すらも絶尽させる。



「がっ、がっは……、かっ……」



『解脱転命』とは、死した瞬間に持っているエネルギーを使い、新たな姿へ転生する力だ。

 だが、アダムスの刃は対象が持つ魔力《魂》を絶尽させる。


 神が行使する全知全能の権化、『魔法』。

 それを行使する為の魔力を奪う事こそが、唯一神を殺す為に必要な第一手だ。



「一呼吸、耐えたか。やはり、天王竜とやらを殺すのが先決じゃな」



 肉体が崩壊し散りゆく黒塊竜、その表情には笑みが浮かんでいた。

 一方、奥の手を引き出されたホウライには、焦りを含んだ汗が滴っている。


 アダマスを使って殺し損ねるとは、流石は命の権能を持つだけのことはあるのぅ。

 さて、分の悪い賭けになるが、本番へ行くとし――!



「誰じゃ?」

「うふふ、私ですよ。ホーライ様」



 空間の裂け方が、竜のそれでは無い。

 それを経験から導き出したホウライはアダマスに手を添え――、見慣れた顔の敵対者(・・・)へ視線を送る。



「そんな怖い顔をなさらないで、ホーライ様。らしくないですよ」

「仕組んだのはお前か。ラルバ」



 空間を転移してきたのは、天使のような純白のドレスに身を包んだ女。

 2代目ブルファム国王、ラルバ・ディアナ・ブルファム。

 そして、人懐っこい仕草で両腕を広げている彼女の瞳に浮かんでいるのは――、無色の愛憎(カラレス・ハート)



「えぇ、救援に来たんです。でも、驚きましたよ。大勢の軍人を敗走させてしまうなんて、ホーライ様でも失敗する事があるんだなって」

「それを仕組んだのは、お前だろうと聞いておるのだ」



 ブルファム軍の本来の相手は、セフィロ・トアルテ――、人間だ。

 だが、彼らの知らぬ所で既に、人間は竜と敵対していた。

 それを知らせることなく、そして、ワザと逆鱗に触れるような侵攻を命じたのは、国王であるラルバに他ならない。



「何が目的だ?儂を殺したいのなら、寝首でも欠けば良かろう」

「それって、とても難しいですよね。薬を盛っても臭いで気が付いてしまうホーライ様?」



 感覚が鋭いホウライは、睡眠中であっても隙がない。

 それを作り出すには薬を盛るなどの工作が必要不可欠、だが、それすらも封じられている。


 愛おしい人の憎たらしい物言い。

 それもまた愛おしいと、ラルバは思った。



「寝込みを襲えるなら、話が早くて良かったんですけど。こんなことになったのって、全部、ホーライ様のせいですよ」

「な、に?」


「貴方が言ったんじゃないですか。儂が愛するのは勝利(ヴィクトリア)だけだ、と」

「それは……」



 ……違う。

 儂は、そんな事が言いたかったんじゃない。

 いつまでも、取り返し様がない過去に捕らわれておる儂など捨て、もっと幸せになりなさい。


 そんな想いは、ついに口から出る事は無かった。

 心の奥でざわめくのは、後悔と嫉妬。

 ”愛”を失い、色が抜け落ちた心(・・・・・・・)が言葉に歯止めを掛けていて。



「だから、私は勝利者ヴィクトリアになろうと思いました。そうすれば願いは叶うのだと、貴方が示してくれたから」

「っつ……!!」


「どうすればいいか考えたんです。世界の勝利者ってなんだろうって。その答えの一つがブルファム王でした」

「自分が何をしたのか、分かっておるのか」


「もちろん、一国の王では足りないのは存じております。だから、私は全人類を世界の支配階級へ押し上げた後、その頂点に立つ事を勝利者としたのです」



 国を発展させて、下位者を快楽におぼれた傀儡へと置き換える。

 人や動物、自然でさえも、邪魔者は死罪です。

 あぁ、資材として利用はいたしておりますよ。得意なんです、そういうの。


 無邪気に笑うその姿は、歳相応より幼く見えた。

 子供のままに快楽と本能を振りかざす行い、その決定的な証拠が、ぽたりぽたりと滴り落ちる。



「そしてついに、私は人類の頂点に立ちました」



 ラルバが纏う純白のドレスに、真紅の指が触れた。

 自らの胸に指を添え、愛を囁く。

 染み広がる鮮血は、当然、ラルバの匂いではなくて。



「陽動お疲れさまでした。お陰でスムーズに殺すことができましたよ」

「……その匂い、セフィロ・トアルテの翁か」



 漂う寂鉄臭、その正体を理解したホウライが奥歯を噛みしめる。


 セフィロ・トアルテの大公老は、卓越した魔法技術を持つ人物だ。

 ホウライよりも年上であり、その知識に助けられたのも一度や二度ではない。


 だが、わざわざ殺す必要をホウライは感じなかった。

 既に施政から引退しており、ラルバを脅かす権力を持っていないからだ。



「殺すなら、現・セフィロ・トアルテの施政者である息子や、世継ぎである孫だと言っておったではないか」



 それは、ラルバがホウライに指示した作戦の最終プラン。

 セフィロ・トアルテが降伏勧告を聞き入れずに戦争となり、幾度となく降伏を拒絶した後の最終武力行使。

 そして、それを望まぬホウライは自ら指揮官と成り、この地に赴いたのだ。



「勘違いなさってますよ。勝利者になる為に必要なのは、セフィロ・トアルテではありません」

「勘違いじゃと……?」


「ガラティン公の命をこの手で奪う、それが必要だったのです。なぜなら、彼こそが人の頂点……、人間の皇種なのですから」



 種族を統べる者……『皇種』。

 そんな存在が人間にもいるという知識は、ホウライも持っている。


 褐色肌の少女が戯れに交わした会話、それは、生きる意味を失ったホウライの指標となった。

 その中に登場していた、全人類の守護者『人間の皇種』。


 そして、目の前にいる存在がそうなのだと、ホウライは理解して――。



「奪ったというのか……、皇の資格を」

「えぇ、流石にインストールは出来なかったので」



 大した手間では無かったと、ラルバは頬笑んだ。


 警備の魔道具に干渉して屋敷に忍び込み、世絶の神の因子の効果範囲内に入るまで接近。

 そして、ガラティン公の着ている服の性能を操作して拘束し、即死の毒物を塗ったナイフを胸に突き立てれば、はい、お終い。



「実に簡単な仕事でしたし、褒めて貰えないですよね。残念です」

「私欲の殺人を褒めるなどと……、恥じるべき行いだ」


「何がいけないのですか?人は皆、自分の欲求の為に生きているのに」



 本当によく分からないと、ラルバは首を傾げた。

 家畜を殺して食べるのと、何が違うのかと。

 そんな皮肉めいた例えを混じらせながら、彼女は己の行いを称える。



「皇種は王様の上で有る筈なのに、こんなにも簡単になれてしまう。王位継承の方がよほど大変でしたね」

「なぜ、そこまでして儂に固執する……?自らの母を殺してまで、なぜ……?」


「それも貴方が言った言葉ですよ、ホーライ様。『もう、我慢する必要はない』んだって」



 ラルバは恋に落ちていた。

 ホウライに抱きあげられ、『我慢は今日の午前中でお終いじゃ!』と告げられた瞬間、彼女の心は染まり切ったのだ。


 純粋無垢。

 生物として最も根源的な欲求に。



「皇種とは、種の中で最も強い個体が持つ資格。本来なら、私では手に入れる事は叶いません。ホーライ様がいる限り」

「同族の皇を殺せば成り変われるのは知っている。だがお前が何故、皇を殺せた?ガラティン様は魔法の達人であったのだぞ」


「くす、その様子だとしっかり隠せていたようですね。これも勝利の一形態でしょうか。……神化してるんですよ、私の世絶の神の因子」

「なんだと?」


「物質主上と四則平均は、ある日突然、自らを最適化して神化したのです。このことは、侍従のルティンとチャカしか知りません。お茶会の最中でしたから」



 人生初のイタズラが成功したとでも言うように、ラルバが満面の笑みを溢した。

 それが引き起こした凄惨な結果など、些細な支払いであるとでも言うように。



「今の私は、物質に触れずとも性能をインストールできます。それも、参照した過去の中から任意の状態を選択して」

「馬鹿な……、そんなはずが」


「できるんですよ。手のひらサイズの魔道具を対象にすることも、国を丸ごと対象にする事も、思いのまま。貴方に気付かれない様に不便を装う方が大変でした」

「竜を襲撃したというのは……」


「実験をするのに手頃ですから。適度に強いじゃないですか」



 激甚の雷霆ホウライの性能をインストールした、兵士500名。

 装備は神殺し以外、全て同等。

 そして肉体性能も、ほぼ99%です。


 告げられた事実は、ホウライには理解が出来ないものだった。

 肉体性能の99%。

 それは不可能であるはずなのだ、歩んできた人生の結果が肉体なのだから。



「疑問に思うのも当然でしょう。ですが、ランク3となった神像平均(アヴァタレージ)が可能にしたのです」

「相当強化されておるようだな」


「殆ど別物ですよ。神像平均は対象が人間だろうが、魔道具だろうが、獣がろうが、竜だろうが……、神の創造物『神像』として扱います」

「それではッ!?」


「この指に伝説の刀の切れ味を持たせることですら、可能でしょう」

「ありえん、そんな事をすれば肉体の方が保たぬ……、まさか」


「えぇ、力を与えるのは死刑囚に限定しています。ただ捨てられる死罪より、有効活用される資材の方が幸せでしょう?」



 500名という、ラルバの私兵。

 軍から秘密裏に引き抜くには多く、そして、外法を使ったのだとしたら少なすぎる。

 その答えは……、『消費されたから』だった。



「最初は阿鼻叫喚でしたよ。貴方の様に魔法を身体に宿そうとして、殆どの方が自死してしまったんです」

「なんということを……」


「でも、肉体に薬物や金属を混ぜたりして、色々している内に耐えられる人が出て来て」

「お前は、人の」


「副作用とかもありますが、可能な限り対策すると、そうですね、だいたい20日前後は使えます。竜の住処を潰させるのにも、十分に運用できます」

「命をなんだと思っておるのだ……、それは道具などでは無いのだぞ」



 絞り出した声は弱々しく、まるで覇気が籠っていない。

 それが、ホウライが行ってきた教育の結果なのだと、理解できてしまっているから。



「なぜそんな顔を……? 有機物と無機物、そこに差があるとは思えないのですが」

「生命には魂がある」


「魂とは魔力です。では、魔力が注がれた魔道具は?」

「道具に意思など無いッ!!何故それが分からんのだッ!!」


「では、意思がなければ道具だと、そういう事で良いのですね?」



 よかった。

 そう呟いたラルバは安心したように息を吐きだし――、おぞましい未来を口にする。



「そんなに怒らなくても、これ以上、資材を消費することはありませんよ」

「意思がなければ道具だと言ったか、まさかお前、」


「私の手で育てている肉体達が、そろそろ使えるようになるんですよ。まだ2歳ですけど、体格的には貴方と同等です」

「産ませた赤子を取り上げ、世絶の神の因子を……」


「あとは性能(記憶)をインストールすれば、副作用も消費期限も無いホーライの完成です」



貴方(ホーライ)』も、『(ラルバ)』も、これで永遠。

 互いに不老不死なのですから、共に手を取り合って生きて行くしかないですよね?



 永遠の愛を貴方と共に。

 無色の愛憎が創り出す未来は、何処までも狂っていて。




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