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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第24話「ホウライ伝説 知らしめられる建国 ⑩」※挿絵あり

 


「これはこれは……、見事という他ないのぉ」



 空を駆け昇って来たホウライが、感嘆の溜め息を吐いた。


 果てなき雲海の上、宇宙そらと呼ぶべき天の下。

 まるで値打ちのある骨董品を見るような目で、屹立する巨体と対峙している。



「我が肉体を褒めているのか。人にも美しさを感じる感受性があったのだな」

「ほっほっほ、この儂を以てして、『見事』としか言いようがないほどに尋常ではないからのぉ。普通の人間ならば言葉どころか、意識を失っても不思議ではあるまいて」



 一般人にとってのドラゴンとは、『抗えぬ絶望』だ。

 それは経験を積んだ冒険者でも変わることなく、国が評した武勲を持つが始めて、戦いが成立する可能性を考慮される。


 だが、『激甚のホーライ』にとっては、猪もドラゴンもさほど変わらない。

 圧倒的に格下の生物であっても、油断があれば殺される。

 その理屈で言えば猪もドラゴンも同列に存在する相手であり、ホウライにとっては等しい『獲物』でしかないのだ。


 ……今、この瞬間までは。



「いくつ生きればそうなるのじゃ。確か、黒土竜は最弱竜などと呼ばれておる筈だが?」



黒土竜くろつちちゅう

 通称『モグラ・ドラゴン』という不名誉なあだ名を付けられてしまっているこの竜族は、非常に戦闘力が低い事で有名だ。


 他種族のドラゴンには備わっている強力な魔法攻撃を持たず、人間に見つかると即座に嫌そうな顔をする。

 襲い掛かってくるどころか、のっそりとした動きで空に逃げる者ですら少数で、大抵はその場に穴を掘って身を隠すほどに大人しい。


 性格的に戦いを好まず、日向で草や果実を食べるのを好む温厚な生物。

 あまりにも食い意地が張っているため、実は鱗と翼を持ったタヌキなのでは?と冗談を言う生物学者すらいる始末だ。



「年数の問題では無い。理想とする姿を明確に意識し、幾つもの生と死を繰り返して辿りつく境地。それが、我らのような『最上位王竜』だ」

「輪廻転生……。竜には擬似的な不老不死を可能とする秘法があると聞いたのぉ」


「死こそが竜の誉れ。殺せば死ぬ生物との比較が既におこがましい暴挙。そうは思わぬか?一度きりの命しか持たぬ者よ」



 遥か天空、ホウライの頭上80mの場所から嘲笑が響く。

 人間など足元にも及ばない存在なのだと、この竜は笑っているのだ。


 そして、それは事実だ。

 現実として、165cmほどの伸長を持つホウライが腕を上に伸ばしたとしても、その足首に手が届くか否か。

 それほど、目の前のドラゴンとの大きさは隔絶している。


 ホウライの目の前に有るのは体高80mの巨大すぎる、”要塞”。

 それは、二本の足で立つ姿勢であるからこそ。

 尻尾の先までの全長を計れば、その倍はあるだろう。



「確かに、命が複数あれば喜ばしいわい。人は死ねばそこで終わり、取り戻す術など無い。どれだけ力を付けようとも」

「戦いに敗れ、命を落とすのは竜であろうとも弱者だ。だが、我らは輪廻の中で進化する。リセットされるべき記憶をそのままに、生を歩み直せるのだ」


「……なるほどのぅ。じゃが、それほどまでに身体を鍛える必要があるのか?」



 暗香不動イムバブルオーダーをもつホウライは、物質が放つ匂いを嗅ぐ事で性質を理解できる。

 それが有機物・無機物かは関係なく、その強度や硬度などを経験に基づいて導き出せるのだ。


 だが、目の前の生物がどれほどの強度を持つのか、ホウライには理解できなかった。

 まるで嗅いだ事も無い匂い。

 国の重鎮となったホウライですら見た事がない、完全なる未知物質。



「強き肉体に上限など無い。可能な限り高める……、それが我の誉れよ」



 新月による夜闇を思い出させる竜鱗が、絶望と恐怖を纏う。

 星空を彷彿とさせる巨大すぎる大翼が、生きる希望を覆い隠す。


 筋骨隆々な四肢から生え出ずる獣爪に、耐えられる者は無く。

 クリスタルのような輝きを放つ獣角に、理知ありし者は見惚れるだろう。


 紅き月の残光が瞬く、魔眼。

 世界に這いずるがごとき長尾を携え、かの魔竜は世界に君臨し続けている。

 その名は――。



月希光を覆う黒塊竜(エグリプス・ムーン)



 黒土竜は、他者に決められた弱者なのではない。

 自ら弱者を演じている――、そうしてなお、生き残るだけの強き肉体を持つ竜。


 強靭な肉体を鍛え抜いた『武装鱗』で覆い隠し、あまねく敵対者を輪廻転生から断滅させた『核炎剣』を握る。

 かの竜は、僅かばかりの希望でさえも、『酷悔』へと置き換えし者。











挿絵(By みてみん)











「ふぅむ……、いくつか質問をしても良いかのう?」

「なんだ?」


「ホープとはおぬしの事か?怒っていると聞いたが、儂らの何が気に触れたのじゃ?」

「我が名は月希光を覆う黒塊竜(エグリプス・ムーン)天王竜ホープでは無い」



 ホウライの前に立つ黒塊竜は、明らかな戦闘態勢だ。

 ブルファム軍を襲った炎もアサイシスに任せた冥王竜では無く、この黒塊竜の仕業だとホウライは見抜いている。


 だが、そもそもがおかしい。

 ホウライ達が敵意を向けているのはセフィロトアルテであり、ドラゴンの尾を踏んだ覚えは無い。

 それゆえの疑問をホウライが口にし、そして、黒塊竜が答えた。



「『牙鍛峰(がりゅうみね)』、『遠翼山とおよくざん』、『喉笛岬のどぶえみさき』に続き、今度はこの『鳴腹ノ森(なかはらのもり)』を襲おうとはな。かくも、人間とは強欲な生き物だ」

「竜独自の地名か。確かに儂らは開拓をしておる。……が、高位竜がおる場所になど手を出しておらぬぞ」



 黒塊竜が言う場所が何処なのか、ホウライには分からなかった。

 だが、高位竜が住む場所の開拓自体が行われていない。

 何度かラルバから開拓の提案をされているが、『奉納祭』を経験しているホウライは忌避感が強く、断固として受け入れなかったのだ。



「人間よ。お前は町を襲った竜の個体名が分かるのか?せいぜい、種族で区別するのが関の山だろう」

「それはそうじゃな」


「我らとて同じだ。攻め入ってきた人間どもの区別など付かぬ」

「攻め入っただと?」


「そして、多くの命が奪われた。まだ、解脱天命の秘法を理解せぬ幼子まで分け隔てなくだ。到底、許せる事では無い」



 黒塊竜が言っている事が全て本当なのだとしたら、非は人間の方に有る。

 だが、ホウライはどうしても、それが事実の全てだと思えなかった。



 多くの命か。

 口ぶりからして10や20じゃあるまいて。

 なら、それだけの竜を殺せる戦力を持つ人間がいたということになる。


 ……どこにそんな戦力がおるのだ?

 現在、この大陸の国家間軍事力のほぼ全てが、ラルバの管理下にある。

 物質主上と四則平均で性能を引き上げた武具はもちろん、他国から接収した強力な魔道具も全てエヴァグリフォス宝物殿に封印されておる。

 そうやすやすと持ちだせぬ以上、その武力とやらは、儂らの管理下に無ければおかしい。



「人間ども、と言っておったな。その犯人は複数なのか?」

「なに?」


「なんなら儂が捕まえてやろうと思ってな。どうじゃろうか?」



 人間に害を及ぼされたから、人間を殺すというのは分かる。

 事実、人間の生存権でドラゴンを見かけた場合、どんな存在なのかを調べること無く殺そうとするのだ。


 だから、ホウライはこの提案をした。

 犯人の情報が出てくれば良し。

 出て来ないのなら、黒塊竜側に別の思惑がある。そう思ったのだ。



「くぁっはっはっは……、愚かな」

「何がじゃ?」


「見え透いた嘘を吐くなと言っておるのだ。我らを襲ったのは貴様らだというのは分かっている」



 足元で繰り広げられている戦闘、その様子をホウライ達は理解している。

 その内容は蹂躙……。人間側の圧勝だ。



「先の一撃で人間共は全滅に等しい損害を出した。そして、力あるお前や冥王竜を斃した女などがこの場に残り、仲間を逃がす時間を稼ぐというのなら分かる。だが、結果はどうだ?」

「儂らの方が強いみたいじゃのう」


「人間どもが持つ異常な力はなんだ?下の凄惨たる光景こそが証拠ではないか」

「証拠じゃと?」


「我らが出向き潰した人間の軍も、まったく同じ経歴だった。最上位竜王以外は惜敗、いや、歯が立たなかった」



 黒塊竜の言葉からは嘘の匂いがしない。

 人間でない以上、絶対の指標になりえないが、それでも、その言葉が嘘だと思えない。



「こともあろうに、竜の秘法の真似ごとを我らに向けるとはな」

「その竜の秘法とやらは、人間の能力値が一時的に引き上がっている事を差しているのか?」


「それしかあるまい」

「だとすると……、これは困ったのう」



 ホウライの知らぬ所で、ラルバが軍を動かしている。

 滴り落ちて行く彼の汗に含まれている匂いは、確信だ。



「既に逃げ道が断たれている。セフィロトアルテを落とせと命じたのもワザとか」



 主人であり、教え子であるはずのラルバの裏切り。

 100万の軍を儂に預けたのも、真意に気が付かせぬまま、儂を処分する為か。


 ……いや、セフィロトアルテの侵攻が成功したら、それはそれでいいのか。

 今までの行軍もこうなる可能性があったというだけの話だな。



「ふむ……、いつかはやられるかと思っていたが、ここでか。想定外じゃのぉ」



 ホウライは、常に、裏切りの可能性を考慮しながら生きてきた。


 彼自身が意図的な不義理を働いた事は無い。

 だが、人間は不要となった強すぎる力を手元に置き続けることを恐れる。

 その力が意思のある人間である以上、自分の手から離れてしまう可能性を考えてしまうからだ。



「我らとしても、まったく想定していない事態だ。さぼりが得意な我が親友が真面目に働いてしまうくらいにな」

「ではアレが、お前が言う所の親友……、天王竜ホープか?」



 ホウライが見上げた先、直視困難な太陽の威光を借りるようにして、白亜の巨竜が隠れている。

 天使のような八枚の翼を翳し、複雑な魔法陣を構築してく様は、ホウライを以てしても感嘆すら湧き起こらない――、畏敬。

 彼の人生に出現した……、『MAXIMAM』『3番目』に近しい、何か。



「あっちの方がお前よりもヤバそうな匂いがするのぉ。もしや、アレが竜の皇種……、不可思議竜なのか?」

「良い読みだが、違う。奴の名は『希望を戴く天王竜ウィル・ホープ・ウラヌス』。真なる意味で不可思議竜様の権能を受け継ぐ、唯一の存在だ」



 不可思議竜ではなかった。

 されど、その力を受け継いだ存在。

 その差は一体どれほどあるのかと、ホウライは思った。



「さしずめ、お主は天王竜の護衛か。それにしてはおかしいのう?」

「あぁ、天王竜ホープは強いぞ。だが、我とは強さの系統が違うのだ」


「儂を放っておく訳にも、放っておかれる訳にも行かない。そうじゃな?」

「無論だ。元凶を見つけたのに見逃す馬鹿が何処にいる。貴様らは一匹残らず根絶やしだ」



 1万のブルファム兵を指差し、黒塊竜が告げる。

 この場に居る人間全員を皆殺しにするのだと。



「当然じゃな。儂がお前の立場でもそうするじゃろう。して、その後はどうするつもりじゃ?」

「我らは貴様ら程、鬼畜ではない。分別がない子供と、子を育てる飯炊き女は残す。それ以外の人間は全滅と決めた。その為に我と天王竜ホープが出向いたのだ」



 ホウライの脳裏に浮かんだのは、先程の即死魔法だ。

 太陽という光源を利用して構築している魔法陣、その影響力は如何ほどなのか。


 考えるのですら馬鹿馬鹿しい程の甚大な被害が出る。

 それを止める為には、まず、目の前の――。



「竜は殺しても死なん。それはつまり、生き残っている竜は皆、敗北者だということじゃ」

「……なに?」


「一方、生き残っている人間はすべて勝者じゃ。……死してないのなら、生き残ったのなら、それは勝者なのじゃと儂は教わった」

「何が言いたいのだ?人間」


「分からんか?儂が勝者で、お主が敗北者になると言っておるのだ」






皆様、こんにちわ(こんばんわ)、青色の鮫です!


今回の更新でなんと……、1000話となりました!!

これも、応援をくださる皆様のお陰です。

本当にありがとうございます!!


連載開始が2016年の8月16日……、約6年。

長くお読みになってくださっている読者様、

最近、読み始めてくださった読者様、どちらにも感謝を申し上げます。



今はホーライの番外編を書いておりますが、ネタ切れで仕方がなく……、という訳ではなく、ユニクとリリンの物語はまだまだ続いて行きます。

本当は、1000話は本編の重要なシーンを挿絵付きでと考えていたのですが、なぜか黒塊竜の出番となりました。

((ラフしか描いてなかったコイツにお盆休みを捧げました。予定外ですが、満足しております!))



此処からが、ホーライ伝説・第二章の山場。

本編で語られている通り、ラルバとホウライを中心に物語が加速して行きます。


そして……、裏側に居るのは、無色の悪意を宿した金鳳花。

第一章の『奉納祭』と第二章は関係ないように見えて、すべて、一本の線になるように繋がっております。

((白銀比、ノウィン、神とレジェリクエが対談した話が大筋となります))



なお、リリンが読んでたホーライ伝説でエクスカリバーをソドムに盗まれているアサイシスですが……、こっちはホウライが面白おかしく改変しています。

この伏線も拾いますので、どうぞお楽しみに!!


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[一言] 1000話おめでとうございます! 次のタヌキを楽しみにして待っています!
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