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第12話「ライコウ古道具店」

「それじゃ、俺が入った店は英雄ホーライの店で、あの胡散臭……。商品は名だたる偉人達が使った道具だってのか?」

「そうだと判断したい。ユニクの話しを聞いた限り、英雄ホーライ伝説で語られていた情景にそっくり。………もし本物だとしたら……ホーライに会えるのだとしたら!!」



 それはもう、リリンは満面の頬笑みだ。

 どうにかいつもの平均的な表情の範囲内には収まっているものの、口元が緩みっぱなし。

 悪い事を考えている時の表情に近いが、もっと純粋に喜んでいるのだと思う。


 そんな訳で、俺達は今、ひたすら走っていた。

 リリンに早くと急かされ、部屋に着いて30分もたっていないというのに再び街へ戻る。

 なんでも、ホーライのライコウ古道具店は、一つの町で一人か二人というごく少数にしか商品を売らず、直ぐに町を立ってしまうらしい。

 小説の10巻から15巻にかけてそれなりに登場するらしく、胡散臭い売り方も小説どおりなのだとか。


 自分が気に入った人間を見つけては、価値ある品を破格の値段で売っていく。

 そして、その商品で名を上げたキャラクターの前にひっそりと現れて、こう言うそうだ。



「ほほほ、夢は見れたか?では目覚めの時間じゃ!」



 そして、才能のある人間は英雄へと開花していく。

 なお、リリンが言うには才能の無い人間は普通に死ぬという、一切容赦のない衝撃の展開が起こるそうで、ハラハラしながら読むのが醍醐味らしい。



 そんな訳で、俺達はライコウ古道具店へひた走る。

 その走る速さは、町の人々の目に止まる事は無いだろう。

 なにせ、バッファ魔法、飛行脚フライトステップを使い、疾風のように街を駆けているのだ。

 一応道筋はたどっているものの、この速さなら5分もかかるまい。


 俺は曲がり角を過ぎた所で見えてきた店を前に、想う。

 どうか、本物のライコウ古道具店でありますように、と。


 リリンは言っていたのだ。



「もし偽物だったとしたら、絶対に許せない。私のユニクを騙し、何よりホーライの名を汚した者に、人生を終える絶望を与えなければならない。無尽灰塵の名にかけて!」



 そんな事にはならないで欲しいと、深刻に思う。


 恐ろしい事に無尽灰塵の名前まで出ているのだ。絶対に碌な事にはならない。

 来週にはセカンダルフォートの名前が、『廃墟』に変わっていても不思議ではない気さえしてくる。


 そして俺達は店へと辿り着いた。幸いにして明かりは点いている。

 取り合えず誰かがいる事に安堵と恐怖を覚えながら、俺は店の扉に手を掛けた。



 **********



「まったく、お師匠の奴も勝手だよな―!やるだけやって片づけを押しつけるなんてさ―!!」


「なーにが、『ほほほ、ワシはついでの用事があるのでな。頼むぞ?』だよっ!面倒になっただけだろっての!!」



 その20歳くらいの女性は、栗色の髪に、翠色の瞳。煌めく魔道具を演舞させながら、一人愚痴をこぼしていた。


 誰も居ない部屋での一人作業。

 最近になって面倒を見ていた少年を手放すことになってしまった彼女は、訪れた寂しさも相まって、独り言を呟くのが多くなっていた。

 もっとも、それは少年と出会う前に戻っただけの話。


 誰からも共感されないが故の、孤独。

 元来、彼女と同じ目線に立てるものなど居なかった。

 溢れる才能に、幼すぎた倫理観。

 通常ならば同時に育っていくはずの常識や社交性が備わる前に、彼女の能力は開花してしまった。


 大人ですら、学者ですら、騎士ですら、魔導師ですら、国王ですら。

 彼女と同じ高みに立つことが出来なかった。


 溢れる才能を幼い思考で振りかざした幼少期の彼女は、ありとあらゆる人間から嫉妬と賛辞の視線に晒され、そして誰しもが、彼女の才能しか見てはいなかった。

 それゆえの孤独感がこうした独り言を癖として習慣づけ、一時の安息な暮らしを手に入れたことにより、一時的になりを潜めていただけなのだ。



 カランカラ――――ン



「ん?お師匠の奴……!」



 突然、入口の扉が開く。

 偶然にも扉に背を向けて作業していたが為に、誰が入ってきたかまでは分からない。

 が、ただ面倒だと彼女は思った。


 なにせこの店は、トンデモナイ能力を秘めた品ばかり。特に危険な道具の封印作業は終えているとはいえ、未だに使い方を誤ればその身を焦がすだけでは済まされない商品も残っている。


 ちっ。


 と、ちょっとだけ口汚く舌打ちをした後、「戸締りすらできないとは……ついにボケたか」と暴言を吐きつつも、その声を来店しているであろう人に向けた。



「ごめんねー!!店はもう締めちゃったんだ。だから今日の所は、帰って――――」



 何となく気さくな声を出しつつも、来店客を帰らすために振り返る。

 そして、視線が交わされる前に、来店客である少年から返答が返って来た。



「あ、すみません。どうしても連れが見たいって、え……」

「ゆっっ!!《洗脳簒奪フュプノジャック誉れ高き賛美(フラワーブレイン)!!》」



 **********



「うおぉぉぉぉおッ!!眩しいぃぃぃぃ!!」

「!!《二重奏魔法連デュオマジック閃光の敵対者(ライトエネミー)ッ!》」



 うぉぉぉ!!なんぞこれぇぇ!!

 突然目の前が真っ白になり、何もかもが見えなくなった。


 店の中にいたのは、何やら片づけをしていた店員さんらしき人。

 一応の事情を話そうと、話しかけた矢先に視界の全てが塗りつぶされたのだ。


 訳も分からずなされるがままの俺と、何かしらの対抗手段を行ったリリン。

 だが、視界が失われたのは一瞬で、直ぐに視野が開け元に戻った。


 目の前にはこちらを見据える女性。

 不思議な事にその顔には仮面がつけられ、まったくの正体が分からない。

 ただ何となくだが、その声や仕草には親しみのあるような感じがする。


 彼女は、小さく「なははははぁー」と笑うと、先ほどの出来事の説明をしてきた。



「いやーごめんねー。急に来るもんだからびっくりしちゃってさ!思わず洗脳魔法使っちゃったよ!」

「「せ、洗脳魔法ッ!?」」


「そう。本当なら頭ん中がお花畑の廃人みたいになっちゃうほど強力な魔法なんだけどねー」

「ちらちら、ヤバそうな言葉が聞こえるんだが?」


「なははははぁー。上手く調整して、お姉さんをお姉さんだと、ついでのオマケにお師匠の事も、認識できないようにしただけだよ。だから、ね。気にしないで(・・・・・・)

「「はい。わかりましたー」」


「うむ。ばっちりキマってるね!!」



 まぁ、この人の言ってる事はよく分からないが、気にしなくていいというなら良いのだろう。


 そんな事より、この人は昼間には居なかったんだよな。

 だけど、片づけをしていたようなので関係者で間違いないはず。

 そしてリリンも同様に思っているらしく、目を輝かせながら、羨望の眼差しを送っている。


 ついに我慢が効かなくなったようで、リリンは店員さんに話しかけた。



「あ、あの!!」

「ん?どうしたの?」


「ここは英雄ホーライが経営するお店、ライコウ古道具店で間違いない……ですか?」

「ん、そうだね。経営というか、捕獲装置なんだけど、ホーライ師匠の直轄なのは違いないね」



 おい。英雄ホーライの身内から、捕獲装置という言葉が出てきたぞ?

 大丈夫なのか?

 俺が読んだホーライ伝説の8巻までに、結構な人数が運命を捻じ曲げられて死んでるんだが?


 何のための捕獲装置なのか。

 怖いので、それ以上は考えるのをやめた。



「間違いない!!それに貴方は英雄ホーライの事を『師匠』とお呼びしている!!」

「そりゃそうだね。弟子だし」


「すごい!!……英雄ホーライの弟子様に出会えてしまった。光栄です!!」



 というか、リリンが敬語を使っているんだけど。

 どんな相手にも傍若無人に振舞っていたリリンが敬語で話している。

 キラキラと憧れの眼差しを送り続け、対照的に店員さんは仮面越しでも分かるくらいに凄く嫌そうな顔をしている。



「ねぇ?この子、こんなだったっけ?」

「いつもとは違いますけど……ん、こんな?……何処かで会いまし――――」


「会ってないよ!気のせいだね(・・・・・・)!!」



 うん、そうだよな。昼間いなかったし、初めて会ったはずだよな。

 何言ってんだろ、俺。



「なははははぁー。それで今日は何しに来たの?昼間に商品は売ったよね?」

「それは私がお願いしたんです!!英雄ホーライに出会えるのならと!!」



 その問いかけにはリリンが答えた。

 顔の向き的に俺に言っているような気がしたが、待機状態だったリリンは俺が答える間もなく割って入って来たのだ。

 うん、いつも冷静なリリンが暴走している。

 そして店員さんも少し、むっとしたようだ。

 指を前に突きだし、リリンを咎めた。



「……お姉さんはね、敬語使われるの嫌いなんだ。だから、普通に喋れ(・・・・・・)

「こちらこそ謝罪したい。出過ぎた真似をしてしまった……」



 うわっ!!リリンを完全に手玉に取っている!

 流石は英雄ホーライの弟子って……ん?


 英雄ホーライって言うのは、村長じじぃの事だと思っていたけど、違うのか?

 俺はあの村長じじぃがどこからか、恐らく俺の親父辺りから情報を得て架空の『英雄ホーライ』を演じているものだとばかり思っていた。

 なにせ、妖怪じみた動きをするとは言えども、所詮はレベル9981。

 英雄どころか冒険者の平均にも届いておらず、どう考えても無理があるからだ。


 だが、事実としてここに弟子が現れた。ならば本当に英雄・ホーライは実在する?


 分からなくなってきたな……。

 素直に聞いてみようか。

 敬語は嫌いだっていうから俺も普通の言葉で話しかけた。



「俺達はここに英雄ホーライがいるかもと思って来たんだけど、いないのか?」

「今はどっかいっているよ。ま、いたとしても姿は見せない思うけどね」

「やはり、ホーライは神秘のベールに包まれている?」


「そんな大層なもんじゃないけどね。単にバレたくない・・・・・・・・だけさ。君らにね」

「「?」」



 ん?よく分からんが、実在はするらしい。

 ということはだ、英雄ホーライが実際に存在しているのにもかかわらず、村長じじぃが英雄ホーライの名を語り、本を出している?

 あの文体からいって直接の執筆者は村長じじぃで間違いない。これだけは絶対だ。


 だが、村長じじぃのレベルからいって、英雄というのはありえない。

 リリンがしていたようなレベル錯誤の魔法を使っていないという確証もないが、俺には村長じじぃと英雄ホーライは別人なのだろうと思えてくる。

 根拠こそない。ないのに、それが当たり前だと感じるのだ。


 ……俺も英雄ホーライ伝説を呼んで、ちょっとだけホーライの事をカッコイイと思ってしまったので、認めたくないのだと思う。



 じゃあ、どういう事か。


 俺の立てた仮説はこうだ。

 恐らく、じじぃは英雄ホーライが管理下に置く、文官か何かなのだろう。

 それならばあの口の悪さにも納得がいくし、さほどレベルが高くないのに妖怪じみた動きをするのにも納得がいく。


 そして、その繋がりで英雄の親父が俺を村長じじぃに預けた、と。


 ふむ、違和感がないな。まるで誰かに答えを貰っているかのようだ。

 村長じじぃはホーライの陣営だとして、もう一人気になっている人がいる。


 それは、俺の隣家に住む、レラさんだ。

 彼女は身寄りもなくナユタ村に住んでいた。

 もしかしたら、彼女も、英雄ホーライの関係者……ん?


 なんだこの心の底から込み上げてくる想いは。

 なんかこう、すごく大事な事を見落としているような、むしろ目の前に存在しているかのような……?

 えっと、

 なんだろうか、

 そうだ、確かにさっき見たはずだ。間違えようもない!!


 ……。

 …………。

 ………………。ぐるぐるげっげー。



「それでさ。お師匠も居ないし、キミらはどうすんの?」

「英雄ホーライ居ないみたいだけど、どうする?リリン」

「お許しが貰えるなら、この価値ある品々をじっくり見てみたい。英雄が集めたという伝説の道具に触れてみたい」



 リリンは真っ直ぐに店員さんの方に向き、相変わらずのキラキラした視線でおねだりをした。

 店員さんは少し身を引きつつも、んーそうだなぁとわざとらしく考えている様な素振りを返してくる。


 そして、そうだ!と何かの考えに至ったという声色で、俺達に視線を合わせながら言った。



「じゃ、閲覧がてら片付け手伝ってよ!!もちろん報酬は出すからさ」

「片付け?」

「もちろん良い。むしろ、こちらから願い出たいくらい」


「ん、ありがと!!じゃ、報酬、報酬はねぇ…… 」



 店員さんは仮面越しにも分かるくらい明るい笑顔で頷いた後、少しの間、思案した。

 そして、かなりの悪意が含まれたような、いい笑顔でこう切り出したのだ。



「今、棚にある商品の中から、一人に一個づつプレゼントしちゃおう!好きなのを選んでいいよ!!」


こんばんわ(こんにちわ)青色の鮫です。


実は、この話が記念すべき100回目の投稿となりました!

ここまで続けられたのも皆様の応援のおかげ。ありがとうございます!!



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