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横着には

作者: ミチキミチト

 横断歩道の信号機が赤に切り替わったところを見計らい、両隣に立つ男女が携帯電話を取り出した。見慣れた光景は、現代人だからこそできる同時進行だった。

 片手で物事を進められるそれは、文字通り片手間には適していた。

 左隣の男を見る。男は熱心に画面に見入っていた。右隣の女を見る。女は熱心に画面を操作していた。私は交互に二人へ視線を向けるが、二人は気にも留めなかった。両隣越しの人々にも目を配るが、それでも私の視線に気付く者は誰一人としていなかった。

 人々の視線の先にあるのは携帯電話の画面だった。今という時間を共有することのない、各々が望む嗜好の時間。信号待ちという退屈な時間を無駄にしないための片手間なのだ。

 その曲芸に感嘆はするが、私は肩を並べるつもりはない。過去を巡らせて思い出されるのは、横着が招いた事故。自己の世界に集中し、その不注意を際限なく繰り返す人々。

 そこで私は、生き急ぐ人々への些細な教戒を考えた。俯きがちな現代人への目線越しの背景を利用した教戒を。

 一歩。私は一歩だけ、歩みを進める。

 そして、それに釣られて人々が歩き出す。視線は変わらずに。横断歩道の信号機は、まだ赤にも関わらず。

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