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97 再び、海中都市へ

時間的に早いですが、今日は一日バタバタしそうなので

 僕らはグレイトフォールへ戻ることにした。シンディもここまで来ると多少はおとなしくなっていたけど、やっぱりついてきた。

 移動途中の駅や町で新聞を買う。そこにはプライアパーティーが全滅した記事に結構な紙面が割かれていた。

 ダイヤモンドグレード、それも戦闘に特化したパーティーが謎の全滅……というのはニュースバリューがあるのかもしれない。


「ゲオルグはどうなったんだろう」


 汽車での移動中、前の町で買ったクッキーをつまみながら僕が切り出すと。

 ゲオルグのことは書いてあったりなかったりだ。


「気配を完璧に消すマジックアイテム雪豹の幻影(スノー・ファントム)がありますからね。アレがあって、彼が死んだということは考えにくいんですが……」

「シンディさん、ナチュラルに会話に入ってきますよね」

「あ、私、これでも誇り高き新聞記者ですからね。こんなクッキーじゃぁ買収されませんよ!」

「その割りに食べてるじゃない。ねえノロット。この人にあげなくていいよ」

「うん。あげるつもりはまったくないんだけど……」

「まあまあ、記者と友好的な関係を築くことも冒険者には必要なスキルですよ」

「そんなスキルを磨くヒマがあったらやるべきことは他にいっぱいあるって……」


 僕のバイブルである「いち冒険家としての生き様」には新聞記者のことなんて書いてなかったしね。最近また読み返してるんだ。モラが帰ってきたらどこに行こうかな、って考えながらね。

 初心忘るべからず。

 忘れるほどキャリアが長いわけじゃないんだけど。


「ゲオルグさんのマジックアイテムは有名なんですか?」

「んー。そうですね。グレイトフォールの冒険者界隈では有名だと思いますよ? ただ弱点もあるんですけどね」

「ほう、弱点」

「罠に弱い」

「あー」


 そりゃそうだ。姿を隠せても罠を踏んだら意味がない。

 プライアもそんなことを言ってたんだよね。モンスター的な危険だけの「63番ルート」。これを含む、自然の遺跡である「青海溝」はゲオルグと相性がよかったって。


「……執事さんはなんて言ってるのかな? ゲオルグさんのところの、セバスチャンさん」

「ゲオルグさんのことについてはほとんど情報が来てないですね。そもそも情報源がセルメンディーナ様だけですから」

「行ってみるまでわからない、かあ」


 僕らは移動の旅を続けた。

 案の定、と言うべきか、日を追うにつれて新聞ではプライアの美談が書かれ始め、もうすでに故人であるかのような扱いだった。で、僕のことも名前が出てきた。プライアを置き去りにした卑怯者だと。


「…………」


 ぱぁん、と音がしたからなにかと思うと、リンゴが新聞を真横に引っ張って引き裂いていた。紙ってそんな音するのかよ……?


「ご主人様がこのように不当な扱いを受けることは許されません」

「い、いや、僕が行って話をすれば誤解は解けると思うんだけど……」

「今この瞬間、ご主人様がバカにされていると思うと、それだけではらわたが煮えくりかえります。


 リンゴさん、はらわたないですよね?


「え、えっと、『グレイトフォールタイムズ』はノロットさんのこと、バカにしてませんからね! ちょっといじったりしましたけど!」


 必死でシンディはフォローを入れたけど、彼女が陰で本社に連絡を取っていることを僕は知っていた。一応僕の名誉にも気配りをしてくれたらしい。僕に名誉なんかあるのかどうかわからないけど。

 とはいっても他の媒体、特にゴシップ誌は僕のことをだいぶ面白おかしく書いてくれた。まあどうでもいいっちゃいいんだけどね。


 そんなこんなで途中地点であるリンキンの町に着く。

 前回は汽車の乗り換えがうまくいかなくて一晩待つことになったけど、今回はかなりスムーズで、1時間待つだけで済みそうだ。

 ナナにラッキー、ルーフェ、サムの4人と洞窟に入ったのは2週間程度前なんだよね。もうここに戻ってくることになるとは思わなかったよ。

 とはいえ1時間なら会いにも行けないだろうけど——。


「いたああああ! おい、ナナ! いたぞ! ノロットさんだ!!」


 え?

 待合室に向かおうとした僕を指差したのは、いい年したオッサン——ナナのお父さんだ。


「うぇ!? ほんとだ! ノロットだ!」

「うお、マジかよ」

「ぁ、この間の……詐欺師……」

「……ふっ」


 リンキン少年冒険団の4人が現れる。

 ていうか詐欺師って……僕の誤解は解けたでしょうに。……解けたよね?


「ノロットさん! グレイトフォールに行くんですよね!?」


 で、そのリンキン少年冒険団よりも先にナナのお父さんが僕のところに走ってくる。


「え? ええ、まあ」

「読みましたよ新聞! あいつらノロットさんのことを知らないから好き勝手書いてますけど、私はノロットさんの味方ですからね!」

「ちょっとお父さん! お父さんだってノロットのことなんにも知らないじゃない! どいてよ邪魔!」

「ああ、ああ……」


 娘たちに突き飛ばされたナナのお父さんが名残惜しそうな顔でこちらを見ている。


「それでノロット——」


 再会を喜ぶナナの顔が——一転して暗くなる。


「……プライアさんって美人だって話だけど、ほんと?」

「へ?」

「セルメンディーナさんもすごい美人なんだよね? ほんと?」

「…………」


 これは……この質問はどういう意図なんだろうか? 僕がエリーゼを見ると、リンゴもエリーゼも興味津々という顔で僕を見ている。


「よーよーノロット! ナナはよー、“しんぶん”にエルフが美人ってことばっか書いてあるから、ノロットがでれでれしてるんじゃないかって怒ってたんだよ!」

「はあ!? ラッキーなにウソばっか言ってんのよ!」

「ふぇ……ナナちゃん、顔真っ赤……」

「ふっ」

「ち、ちがっ、違うからノロット! あたし別にノロットがでれでれしてようが気にするわけないし! もう大人だし!」


 エルフは確かに美形ばっかりだ。そして僕はでれでれなんてしていなかったよ。

 と言いたかったけどいまいち自信がないので言わなかったよ! でれでれしていた可能性も、あくまで理論上は存在するので。理論上は。


「っていうか……もうそんなに書かれてるんですね。新聞に」


 僕はシンディに非難を込めた視線を向けようと思ったけど、すでに危険を察知したシンディは遠く離れた売店で果実水を買っている。あんにゃろう。

 ナナのお父さんが子どもたちの頭の上から食いついてきた。


「ええ。あれからというものノロットさんの出ている記事を切り抜いて溜めているんですがね、この3日くらいは必ず毎日どこかしらにお名前が出てますよ」

「あ、そ、そうなんですか……」

「ノロットさんはきっとグレイトフォールに行くだろうと思いましてね、こうして毎日張っていたんですが……ほんとうは私もいっしょにグレイトフォールに行きたいところなのですがどうしても外せない仕事が……」


 怖い。なんか僕がきっちりマークされている気がする。


「代わりにあたしが行く!」

「ダメだ、ナナをひとりで行かせるなんて……はっ! そうだ、ナナに私の仕事を代わってもらえば!」


 はっ、じゃないよ。はっ、じゃ。

 この人、リンキンでも偉い人なんだよね? 大丈夫かなここ……。


「ノロット、そろそろ汽車が来るみたいだよ」

「あ、うん」


 エリーゼに言われる。慌ただしく他の乗客が移動を始めていた。


「えーと……それじゃ、皆さんお元気で」

「やだー! あたしも行くー!」

「違う、行くのはお父さんだ!」

「じゃあ俺も行くぜ!」

「……ふぇ、お腹空いたよぉ」

「ふっ」


 なんか混沌としてきたけど、彼らを振り切って僕は汽車へと乗り込んだ。

 汽車が走り出しても、ホームで彼らはわいわい言いながら最後はこっちに手を振っていた。


「……なんか、すごかったな」


 でも、不思議と心が軽くなったのを僕は感じていた。




 汽車から船に乗り換える。

 そうして僕らは戻ってきた——海の中央、ベこりと凹んだ場所。

 海底炭鉱と遺跡の町、海中都市グレイトフォールに。


「お待ちしておりました、ノロット様」


 どこで連絡がついていたのか、冒険者協会の人が船着き場で僕を待っていた。

 僕らは彼に先導されて向かう——騒動の中心地へ。

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