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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第6章 神の試練

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96 全滅の真相とは

 商人たちが僕と顔をつなごうと群がってきたので、僕らはあわてて宿へと待避した。宿の位置もばっちりバレたので、ここも長く使えないかも……。

 いやそれはともかく、今は、


「全滅、ってどうやって知ったの?」


 宿の部屋。シンディに僕はたずねる。

 彼女は昨日の薄汚れた格好から、こざっぱりとした姿に変わっていた。さすがに宿に入れたおかげだろう。まあ、血まみれだったバッグは赤茶けた色を残してるし生臭いし大変なことになってるけど。


「セルメンディーナ様ですよ。ご存じですよね、当然」

「ああ、プライアといっしょにいたエルフだよね?」

「セルメンディーナ様はノロットさんが遺跡を脱出してから4日後に、グレイトフォール近海で発見されました」

「ん……ん、近海?」

「衰弱なさっていましたが今はお元気だとか。どうも遺跡内のトラップに引っかかって、外に転移させられたそうです」


 あの遺跡の外、全部海だからなあ……生きてただけ御の字、ってところだろうか。


「セルメンディーナ様は、私と同じようなマジックアイテムでプライア様と連絡を取っていたようです」

「ああ、魔導転写紙(コピーペーパー)

「そうです。もっと簡易ツールみたいですけどね。遺跡の外でもセルメンディーナ様はプライア様の無事を確認していたんですが、3日前、連絡が取れなくなったようです」

「いや……長くない? 遺跡に潜ってるの。僕らも同行した行程含めて、3週間くらい……」

「食料は4週間ぶんあったそうなので、それは問題ないそうですよ?」

「そうか。でも連絡が取れなくなったからってイコール全滅じゃないよね?」

「それはそのとおりなんですが、セルメンディーナ様は、連絡が取れなくなった――つまりマジックアイテムの破損などがあった場合、速やかに遺跡を脱出するようにとプライア様と事前に取り決めていたそうなんです。あと、それだけでなく……セルメンディーナ様によると、プライア様のパーティーメンバーはすでに半分以上が亡くなっていたとか……」


 沈黙が下りる。

 あの戦闘力の高いパーティーが……。

 半壊状態だったってワケか。

 それでもなおプライアは進んだんだろうか。撤退しようとしたんだろうか。


「……セルメンディーナは、遺跡のことをなんて言ってる?」

「それですよ! それを教えてくれないらしいんです」

「教えてくれない?」

「冒険者協会に、ダイヤモンドグレード冒険者を含む救助部隊の編成を要請しています。さらに、詳細についてはノロットさんが来るまでなにも話さないと」

「――――」


 そうか。セルメンディーナはプライアを助けたいのか。

 ダイヤモンドグレードの冒険者認定証でないと遺跡の扉が開かないと考えているんだ。

 でも……どうだろう。ふつうの冒険者認定証でも開く可能性はあるんだけど……まあ、念には念を入れたいのかな。あるいはプライアを救う確率を上げたいのか。


「ノロットさん、セルメンディーナ様の行動に心当たりがあるんですね?」

「んー……うん、まあね」

「教えてください!!!!」

「うわ!?」


 思いっきり身を乗り出されて僕は背後に転んだ。もう、さっきから転ばされてばかりだよ……。


「セルメンディーナ様、なにかとんでもない秘密を隠してますよね!? なんですか、なんなんですかー! それがわかればスクープ間違いなしじゃないですか!!」

「黙れ雌犬」

「ひっ……」


 リンゴに襟首つかまれて持ち上げられたシンディの喉から、小さな悲鳴が漏れる。

 ……うん、別のところからも別のなにかが漏れたような気がするけど、僕は知らない。知らないったら知らない。


「と、と、とにかくですよ! ノロットさんがグレイトフォールに戻らないとヤバイですよ! ただでさえノロットさんはプライア様を見捨てたって思われてるんですからね!」

「いや、それめっちゃ勘違いなんですけど……」

「真実かどうかなんて読者には関係ないんですよ!」


 うわあ、記者がぶっちゃけやがった。

 リンゴに襟首をつかまれたまま、シンディは窓から外に放り出された。ヒサシの上を転がって、1階に落ちた。その後に続いてバッグも放り出された。リンゴ……容赦ないな……。


「グレイトフォールはともかくも冒険者協会は面倒なんじゃないの、ノロット」


 エリーゼが言う。


「確かに。協力要請を断ることもできるけど、セルメンディーナさんがなにを言ってるかわからないからね。一方的に悪者扱いされてたら……面倒なことになるよね、絶対」

「羽虫のことなど無視すればよろしいのです」


 リンゴがさらりと冷たい。


「まあ……協力を断っても僕の冒険者認定証を取り上げるなんてことにはならないだろうけど。それより……そうか、プライアさんたちは失敗したのか。どんな遺跡だったんだろ……『女神ヴィリエの海底神殿』って……」

「ノロット様。ダメですよ。モラ様と約束したでしょう。伝説クラス以上は行かないと。ましてや神の試練なんて」

「あ、う、うん。でも……ちょっと情報を仕入れるのはアリだよね? 今のところ次の目的地も決まってないし。冒険者協会に言づてしておけば、モラだって僕らの行き先わかるだろうし」

「……ご主人様、すでに心は決まっているのではありませんか……」

「ごめん! でもやっぱり気になって!」

「ふふ。ノロットは遺跡バカだもんね」

「ちょっと好奇心が強いだけだって」


 いやほんと。




 一晩明けて、荷物をまとめた僕らはパラディーゾを発つ準備を終えた。出がけに冒険者協会に寄ったんだけど――。


「おい……あれってもしかして」

「間違いない。ノロットだ!」


 ものすんごい注目された。

 いやーははは。注目されてますな。受勲もされましたしな。


「アイツが他の冒険者を見捨てて帰ってきたノロットか……」

「ああ。ダイヤモンドグレードってのもそうやって手に入れたんじゃないのか」

「かもな」


 え?

 なに、なに、なにが起きてるの? なんか敵意が感じられるんだけど。


「冒険者ノロット様ですね?」


 戸惑っている僕のところへ、受付の男性がやってきた。


「グレイトフォール支部から出頭命令があります。速やかにグレイトフォール支部へ来るようにと。来ない場合は、ダイヤモンドグレードの適格審査を本部に請求するとのことです」


 え、ええ~~~!?


 どうも男性が言うには、僕がプライアを遺跡で見捨てて帰ってきた可能性が高いと。協力を前提としたパーティーで、相手の同意なしに置いてきぼりを食わせることは人道に反する行為であり、ダイヤモンドグレードの適性に疑いがあるということだった。僕が、「63番ルート」から戻るとすぐにグレイトフォールを発ったのもよくなかったらしい。


「いや、それは誤解なんですけど……」

「私の使命はノロット様に内容をお伝えすることだけです。では伝えましたので」


 僕にそれを伝達するだけじゃなくて、すでに口を滑らせてますよね? この辺の冒険者が知ってそうな顔してますよね?

 とは思ったけど、まあ、それはいいや……よくないけど……。


「あ、あのー、ひとつお願いがあるんですけど」

「なんですか」


 すごく迷惑そうに言われる。うう、そんな顔しなくたって。

 僕は冒険者協会に頼んで、モラ宛のメモを掲示板に残した。




「しっかしひどいよねー。よくノロットもブチ切れなかったね!」


 冒険者協会を出たところでエリーゼがあっけらかんと言う。そういうふうに軽く言われると、たいしたことないのかなという気がするけどたいしたことないわけがないよなあ。これからグレイトフォールに行くのなら、近づくにつれて風当たりがどんどん強くなりそうだ。

 ちなみに冒険者協会でも魔導転写紙(コピーペーパー)のようなツールを使って情報のやりとりをしているらしい。


 僕は考えた末、


「やっぱり、グレイトフォールに行こうか」

「……ご主人様、どうしてですか。このようにバカにされて、行く必要などありません。冒険者協会に加入せずとも冒険はできます」


 リンゴの言うことにも一理ある。

 冒険者協会に加入してていいことは、資料の閲覧ができたり、公的機関の窓口になってくれることだ。

 でもそれがなくても、冒険はできる。


「なんか……気になるんだよね。セルメンディーナさんのことが――」


 言いかけた僕は、ずずいっ、と近づいてくるエリーゼとリンゴに、のけぞった。


「え、え、なに?」

「……もしやだけど、ノロットって、ああいう人が好みなの?」

「……ご主人様、お気を確かに。あやつはエルフです」

「いやいや、意味わからないよ! 違うって。別にセルメンディーナさんが好きだから戻るとかじゃないって!」

「じゃあ、どーして?」

「や、変じゃない? セルメンディーナさんってプライア命なわけでしょ?」

「だから救援に行きたいってことでしょ」

「うん。でも、僕が行かなきゃなにも話さないという理由にはならない。むしろ『神の試練』について話したほうが、耳目を引くよね。冒険者集めやすいよね」

「あっ……」

「なにか……あったんじゃないかな、って。セルメンディーナさんが、僕を呼ばなきゃいけない理由が」


 それがなにかはわからないけど。

 まあ、それだけでなく、単に今僕らがすぐやらなくちゃいけないこともないっていうのもあるけどね。モラがいつ帰るかわからないし。


「『神の試練』……?」


 ぼそり、と声が聞こえた。


「今ノロットさん、『神の試練』って言いましたか!? なんですか、なんですかその美味しそうなネタはー!!」


 騒ぎ出したシンディの襟首をリンゴがむんずとつかんだ。


「あわわわわわわすすすすみません! もう騒ぎません、騒ぎませんから!」


 涙目で謝ってきたので、僕はリンゴに彼女をつかんだままついてくるように命じた。


「の、ノロットさん? どこへ、どこへ行こうと!?」

「シンディさんの宿に」

「宿……? 私の宿、反対方向ですけど……」

「いやだなあ、あるじゃないですか、常宿が。ずっと泊まってたところが。大木を利用して、鉄の棒が挟まってる……檻が」

「イヤアアアアア!? ノロットさん、虐待ですよ!! 亜人虐待反対ー!」


 そう言えば、氷付けになったマークスはどうなったんだろう。

 僕はシンディを脅す意味も含めてマークスが凍っていたはずの場所に行ってみた。そこにはなにも残っていなかったし、近くを通りがかった警備兵に聞いてもそんなヤツは知らないと言っていた。亡くなった警備兵6名のために、手向けられた花束だけが痛々しかった。

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