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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第1章 トレジャーハントには調査と仲間が必要(凶暴なメイドを含む)
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8 人気者は疲れる

「公文書館への紹介状を欲しがっていたと聞いてね、であればこういった書店か専門店に来ているのではないかと考えたんだ」


 タレイドさんは言った。

 マジか。鋭いわ……。


「君たちはきっと“ノロットの仲間”だ。そうだろう?」


 う~~ん、そこ。

 そこ、ねえ。

 急に鈍くなっちゃってません?

 まあ、僕がノロットだとバレていないならそれでいいんだけど。


「えっと違いますよ? 僕は、僕とこっちの――“用心棒”とふたりで行動してますから」

「そ、そうなのか……? 私はてっきり冒険者ノロットの……」

「そんなことより公文書館への紹介状を書いて欲しいんですが」

「おお! それはもちろん。明日、ちゃんとしたものを用意する。君の名前を教えてくれないか?」

「ノロッ」

「ノロ……?」

「じゃないですよ。ノロットじゃないですよ」

「え? ああ、うん、君が言ったじゃないか」


 危ない。自ら告白するところだった。やー実は僕が大冒険家ノロットなんですー。


「リンゴです」


 僕が言うと、横のリンゴがぴくりと動いた。


「リンゴ……変わった名前だな」

「そうですか? 僕は素敵だと思うけど」


 余計なことを言った。

 リンゴがめっちゃ目をきらきらさせてこっち見てる。


「失言だった。人の名前をとやかく言うのは礼を失する。それに君の言ったとおりだ。私はギルズとタラクトのパーティーに……肩入れしていた。あわせて非礼を詫びたい」


 タレイドさんは人通りの多い往来だというのに深々と頭を下げた。

 こちらを見て「あれひょっとして冒険者協会の……」みたいにしてる人がいる。

 だから、ね、そういう目立つことは止めてっての!


「あの、頭を上げてください」

「ちゃんと謝らないと気が済まないんだ。させてくれ」

「謝罪はもう十分受け取りましたから!」


 僕がしつこく言ってようやく顔を上げてくれた。

 まったくもう。


「――ときにリンゴくん。今夜は予定が空いているかい?」

「空いていません」


 来ると思った。

 こういうタイプは、「謝罪」の後は「お礼」と相場が決まってる。


「そうか……では明日なら?」

「明日もダメです」

「では明後日――」

「ずっとダメです」

「なっ……」


 ちょっときつかったかな。

 でも、しょうがないよね?

 冒険者協会の専務理事がお礼のために冒険者を会食に招いた――ってさあ、目立つよね?

 目立ちまくるよね?

 トウミツさんの耳にも入るだろうし昏骸旅団も気づくかもしれない。

 ダメダメ。お礼絶対ダメ。


「僕ら、先を急いでいるんですよ。だから滞在時間を無駄にできないんです」

「し、しかし君も言っていたじゃないか。お礼が欲しいというようなことを」

「紹介状ですよ。場合によってはもう少しお願いするかもですが……まずは紹介状ですね。そして僕らのことは他言しないでください」


 タレイドさんの目に疑惑が点る。

 やだなあ、この人。そういうところ鋭いよね。


 人がなにかを隠すのはやましいからだ――当たり前と言えば当たり前だけど。


「あのですね、石化治癒ができる僕らはすごいと思いませんか?」

「もちろんだとも」

「僕らのウワサが広まったらどうなります?」

「……そうか。患者が殺到するだろうな。石化じゃあない。石化は致死率が高いから、他の病理だ。流行熱、毒、マヒ……」

「先ほども言ったとおり、僕らは急いでるんですよ。紹介状が欲しいからあなたに手を貸しました。それだけです。ちなみに、治癒魔法は得意じゃなくて毒とか石化とかマヒは治癒できるっていうだけです」


 これもほんとのことだ。

 モラは治癒魔法が下手くそだ。


 僕は聖人君子じゃない。トレジャーハンターでありたいと思ってる。

 モラという相棒が見つかって、僕は料理店での下働きという境遇から脱出できた。

 目的が一致しているから他の遺跡にもチャレンジできる。

 この、夢にまで見たすばらしい時間を邪魔されたくないっていうのが正直なところなんだよ。

 それにさ。

 病気の治療はトレジャーハンターじゃなく、医者や治癒魔術師の仕事だよね。


 納得してくれたのか、してくれてないのか、タレイドさんは沈黙した。


「それじゃ、明日うかがいます。紹介状よろしくお願いします」

「うむ……」


 微妙な返事だった。




 宿「砂漠の星屑」に戻ってきた。

 タレイドさんやトウミツさんや昏骸旅団(いないと思うけど)に尾行されていないかを確認しながら戻ったから結構時間を食った。

 やれやれ。

 “人気者”は疲れる。


「ご主人様。ひょっとして夕食の招待を断ったことには“もうひとつ別の理由”があるのではありません?」

「……ないよ?」

「左様ですか。わたくしはてっきり、モラ様の容態が気になって早くお帰りになりたいのかと」

「ないよ?」

「左様ですか。先ほど買われた果実はモラ様が好んで食していらっしゃったものでしたね」


 リンゴの表情が崩れている。笑顔を抑えきれないといったふうだ。


「……もう、早く入るよ。僕は本が読みたいんだ」

「本でございますね。ええ。入りましょう」


 このオートマトン、生意気である。ニヤニヤして、もう。


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