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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第5章 魔剣士モラは復活する

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87 魔剣士モラは復活する

20時更新としていましたが、あまり意味ない気もするので、できたタイミングでサクッと公開するように変更します。

20時以降にはならないようにはします。

 みな同じ形の棺桶。

 いったいいくつあるんだろう……100じゃきかないよな。500以上……?

 灰色の花崗岩で造られてる。整えられた直方体。

 開けるだけでも一苦労だ。


「そォいうことか……アラゾアのヤツ、もし仮にノロットがここに駈け込んでも、俺っちの身体を見つけ出すのに時間がかかると踏んでたな。だから先に転移魔法陣にものったし、お前ェを置いて悪魔への対応へ出て行くこともした」

「そういうことだろうね。まったく……こんなに棺桶があったら、どこになにが入ってるんだか……」

「ふつうはわからねェよなァ……」

「うん……」


 僕とモラは、悪党みたいな笑顔を浮かべた。


「「ふ・つ・う・は・ね(なァ)」」


「行けノロットォ!」

「うん!」


 僕は右手へと駈ける。

 モラのニオイがどんどん濃くなってきてる。

 やがてひとつの棺桶の前へたどり着く。

 見た目は、他の棺桶とそう変わらない。

 ただ他の棺桶には中身が入っていないか、この数年以上棺桶を開いていないんだろう、まったくニオイが出てきていない。

 でも——これだけは、違う。これには中身が入っている。


「こ、コイツなのか……?」

「うん。間違いない」


 モラが震えているのがわかる。

 ……700年だもんね。

 700年もの間、戻ろうとし続けてたんだもんね。

 この身体に……。


「モラ、さっさと開けちゃおう。エリーゼたちが心配だ」

「おォ! さくっとやっちまおォや!」

「でも、どうやってこれを開けたらいいかな。僕の力じゃ石のフタは持ち上がらないと思う」

「なァに、こうすりゃァいいんでェ」


 するといきなりモラの身体が紫色に輝いた。


『――叡智を司る魔神ルシアよ、理を超えし力を俺っちに授けェ。神の起こせし業は奇跡、人の抗う跡は連理、仇敵を貫く矢よ、ここに至れ——』


 え……。

 魔法? って——。


「ちょ、ちょちょちょ、ちょっとモラ!?」


 直後、モラの身体から発せられた魔力の矢。マジックアローが至近距離の棺桶にぶつかるや、フタが爆散した。


「ぶほっ、げほ、がほっ……」


 白い煙が上がって僕の鼻と喉が痛い。

 むちゃくちゃだ。身体に傷がついたら——ああ、モラは傷が付かないと確信してたのかな。それか、多少の傷なら回復魔法でなんとかなるとか。


 そんなことより、棺桶のフタは七割ほど崩壊していた。

 欠片は散乱し、中に外に散らかっている。


 僕はそこに——見た。

 この小さな相棒の、本来の身体を。


 僕だってずっと想像していた。

 超美人と言われているアラゾアが惚れるくらいなんだ。きっと男前なんだろう。身長はすらりと高く、マッチョなのか、細身なのか……魔法剣士だから細身なのかな。

 だから、さ。

 目を疑った。


 そこに寝そべっていたのは——銀髪の女性だった。


 一糸まとわぬ姿の、僕より背の高い、女性だった。

 女性だってことくらいわかる。

 目元や口元が柔らかいし。胸が、ふっくらしていたし……。

 下半身はうまいことフタに隠れていたけれど。


「お、おおおおォ……」


 モラが震えている。感動している。

 やっぱり——これ、なの? この人なの? モラ? モラさん? モラちゃん?


『——時を司る精霊よ、我は凍りつきし刻の歯車を再度回さんとす。今ひとたび、現世の理をこの身に、魂の記録をこの身に与えよ——』


 詠唱とともにモラが跳んだ。

 ぺたり、と身体に触れた瞬間——。


 金色の光が満ちていく。


 温かでも冷たくもない、純粋なる光。

 まぶしくて見ていられなかった。



 光が収まったとき。

 そこにはひとりの女性が立っていた。

 こちらに背を向けていて——背骨が浮き上がっている。小ぶりなお尻は少女のものみたいだ。

 スレンダー美人、と言ったほうがいいんだろうか。

 モラ……の、はずだ。ニオイがモラだから。でもあのニオイは明らかに男だと思ったのに……。


「……今まで、ありがとうな。お前ェにまで付き合わせちまった……」


 モラがしんみりとつぶやいた。

 モラの手には、カエルが載っていた。しおれている、カエル。金色じゃない。緑色のカエルだ。

 もう死んでいる。

 カエルは、モラの手の中で銀色の光になって消えていく。


「俺っちの魂が抜けると同時に、このカエルには700年を超える歳月が一気にのしかかってきたンだ。せめて安らかに眠ってくれよ……」


 銀色の光は、浄化の光。

 モラがなんらかの魔法を使ったことは僕にもわかった。


「さて、ノロット」

「…………」

「ノロットォ」

「あ——は、はい」


 振り返った女性が、にやりと笑った。


「いつまで俺っちの裸をじろじろ見てるンでェ。さっさとそのマントを寄越しな」


 あ——。

 僕はあわててマントを脱ごうとして、布地が首に引っかかって窒息しそうになった。




 目をぎゅっと閉じたままマントを差し出すと、ひったくられた。


「ったくこのエロガキが」

「しょ、しょしょうがないだろ!? モラ、男だと思ってたんだから!」

「別に俺っちが男だなんて一言も言ってねェだろォが。これでアラゾアとなんの関係もなかったってことがわかったかァ? 俺っちァふつーの女だからよ。女同士ってのにゃ、興味がねェンだ。——おィ、もう目ェ開けていいぞ」


 僕のマントを羽織ったモラは、膝の上くらいまではなんとかその姿を隠していた。

 美人……美人なんだろう。

 年は20歳そこそこだろうか。エリーゼよりは上だよね。あ、700歳超えとかそういうことじゃなくて。

 きりっとしてカッコイイ。

 でも柔らかな銀の短髪は、すごくきれいで、男らしさはまったくなかった。


「まァ、今ンとこはこれでいいや。それじゃちょっくら——」


 じわり、と青色の光がモラの身体を包む。


「——悪魔狩りとしゃれこむ。お前ェは後から走ってきなァ」


 びゅうっ、と音がすると、もうそこにモラの姿はなかった。

 風が吹き抜けていった。


「……え?」


 魔法で身体強化をしたモラが走り去ったのだと気づくのに、3秒くらいかかった。



   ■   ■   ■



 最後の最後まで粘っていたリンゴは、吹っ飛ばされると壁に激突した。

 瞳に揺らいでいた魔法の輝きが、消えかかる。


『ずいぶんと時間をかけてしまったが、我の勝利以外の結果は最初からなかった』


 エリーゼが倒れてからずいぶん立つ。彼女の身体から血が失われていく。

 早く血を止めなければ命に関わる。人間は、自動人形(オートマトン)と違って脆い生き物なのだ。

 そうわかっていてもリンゴは動けなかった。動きたくとも動けなかった。

 身体を満たしていた魔力のほとんどは失われ、折れた両脚を無理に動かすこともできない。


『魔法で動く人形にしてはずいぶんと高性能だ。我が主君にお見せすれば喜ばれるかもしれないが……我に与えられた命令は、ここに至る者を排除すること。人形とて例外ではない』


 高位悪魔(グレーターデーモン)が右手を上げる。

 柱のように太い腕だ。

 爪は、エリーゼのショートソードほどもある。

 そのうち2本が折れていたが、これこそリンゴとエリーゼが戦った爪痕だ。


『……なんだ、その顔は』


 リンゴは動けない。

 グレーターデーモンの一撃で、修復不可能なまでに破壊される。

 にもかかわらず、彼女は微笑んでいた。


「わたくしの使命は十分果たせたということです。あなたがどれほどに強くとも——この魔力の大きさには勝てない。敵うはずがない」

『……? 血迷ったか、人形よ。構わん。迷ったまま滅びるがいい』


 グレーターデーモンの腕が振り下ろされた——瞬間、きぃん、と甲高い音が響いた。


『!?』


 悪魔は目を瞠る。

 それもそのはずだ。

 凶悪な爪が、リンゴに届く少し手前で止められていたのだから。


 しかもそれを止めたのが——剣だったのだから。

 剣……とは言っても、持ち手がいない。

 宙に浮いていたのだ。


「……こんなになるまでよォくがんばったな、エリーゼ……」

『!』


 振り返るグレーターデーモン。

 見た方向は、入口でも出口でもない。

 さっき倒したはずのエリーゼ——ホールの中央だ。

 そこに屈んでいた、マントを羽織った女。

 裸足の女だ。


 エリーゼの身体がほんのり光を放っている。

 治癒魔法だ。

 グレーターデーモンが見る限り、人間が扱うには相当に高度であるはずの術式。


「チッ、相変わらず俺っちァ治癒魔法がヘタで困る」


 女はひっそりと眉根を寄せたあと、グレーターデーモンに向き直る。


「さァて……てめェはやっちゃいけねェことをやらかした。なんだかわかるか?」

『…………』


 グレーターデーモンは答えない。

 この女に得体の知れないものを感じていた。

 パッと感じたところでは、たいした魔力量はない。

 にもかかわらずあれほど高度な治癒魔法を使った。

「治癒魔法がヘタ」と言っていたが、ハッタリであると見抜いた。

 他の系統の魔法で、あれ以上の術式を使うのであれば、大賢者レベルの高位魔法だ。

 先ほど妙なカエルが光魔法を使ったが、あれとて中位術式である。


 ふと——グレーターデーモンは、先ほどの妙なカエルと女が持つ魔法の波動に似たものを感じたが、気のせいであろうと考え直す。カエルと人間が同じ魔力を持つはずはない。しかも女のほうがカエルよりも魔力量が少ない。


「答えはナシ、かィ。そォだろうなァ、悪魔にゃわかンねェだろォよ。この気持ちは」


 瞬間——グレーターデーモンの背筋に、冷たいものが走った。

 そんな経験は、この2000年くらい、なかったものだ。


「……惚れた男にボロボロの姿を見られンのァ——女の恥なんだよ」


 女から発せられた魔力がホールを包んでいく。

 その魔力量は、グレーターデーモンの主君に勝るとも劣らない量だったのだ。


モラ復活。復活?

皆さんの予想通りだったでしょうか……。

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