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80 五大樹遺跡(1)

 深夜になるまで僕らは待った。

 宿の人たちも寝静まっているのを確認し、こっそりと宿を抜け出した。


「ほォ……ずいぶんと静かだなァ」


 木々に遮られて月光は入ってこない。

 見上げると、わずかに夜空がちらついている。


 ぽつりぽつりと立っている街灯代わりのかがり火以外は、光はなかった。

 ホー、ホー……とフクロウの泣き声が不気味に響いていた。


 かがり火を避けるために、路地裏を歩いていく。黒く塗られたような建物が左右に続いている。途中、大通りを渡るときには見回りの兵に見つからないように気をつける。


「……ここか」


 結局1時間くらいかかったっけ。

 僕らは五大樹のすぐ近く――転移魔法陣がある真下に来ていた。

 五大樹そのものは板塀によって囲まれていたけど、転移魔法陣は枝についている。つまり、幹からちょっと離れてるんだよね。

 その真下――そこは、雑貨屋だった。


 まずはリンゴが雑貨屋の屋根に飛び乗る。差しのばされた手をつかんで、モラを連れた僕がよじ登る。屋根がギィと軋んで、焦る。


「さて、行きましょう、ご主人様」

「……ちょっと、あたしは?」

「これ以上の人数が載ると重そうなので」

「ああ、そう? じゃあ叫ぶよ? いいのね?」


 ここでもまたふたりがケンカを始める。

 まったく、場を弁えて欲しいというか、緊張してなくてうらやましいというか。


 3人が屋根に載るとさすがにぎりぎりっぽい。

 もともとパラディーゾの家屋は強靱な屋根を持ってないからね。樹海にあるから、暴風もなければ豪雨もあまりない。

 全員が屋根に載ったところで僕は、道具袋からあるマジックアイテムを取り出した。


 黒く、細いチェーンである。

 前にも紹介した「ファーラの鎖」だ。

 もともと1メートル程度の長さで、最長で10メートルほどまで伸びる。これのいいところは、自由自在にうねうねと動かせるところだろう。


「よし、行けっ」


 僕が念じると、チェーンはするするする――と“上”へと伸びていく。

 転移魔法陣のある“うろ”まで、5メートル程度だから余裕で届く。

 だけど僕が目指したのはその少し上の枝だ。

 うまくチェーンが巻き付く。ぐっ、と引いてもびくともしない。ばっちりだ。


「先に行くね」


 もう一度念じるとチェーンが短くなっていく。

 僕の身体はどんどん上がっていく。

 暗くてよかった……昼間だったらめっちゃ目立つよね、これ。


 ちらっ。

 下を見た。


 ()っけぇー! 高すぎ! 怖い怖い怖い!


 見なきゃよかったよ……。

 僕は一番上まで到達すると、“うろ”に通じていた通路の屋根に降り立った。

 チェーンを一度放し、巻きつけた側をつかむ。

 もう一度念じると下へと伸びていく――。


「使い道なんてねェと思ってたが、意外と使えたなァ」


 リンゴが上ってくるのを見ながら、モラがそんなことを言った。

 うん。僕も使い道なんてほとんどないと思っていたのはナイショだ。


 全員が通路の屋根に載ったところで、


「シッ……何者かが来ます」


 リンゴが口元に人差し指を立てる。

 下の通路を歩く……足音。かちゃり、かちゃり、と音がするのは兵士の装備がこすれている金属音のようだ。


(なんでェ、見回りか?)

(たぶん)


 兵士は“うろ”までやってくると、


「……ったく、こんなんでうまくいくのかよ……」


 と、なにごとかをぶつぶつと文句言いながら遠ざかっていった。


(……やっぱりこの遺跡は“故意”っぽいね)

(だなァ。アラゾアもたいがい信用されてねェな)


 兵士が遠ざかってから十分時間が経って、リンゴが通路の屋根を剥がした。そのときベリッと結構大きな音がしたけれど、誰かがこれに気づいた気配はなかった。

 僕らは通路に降り立つ。

 明かりもない。

 ただ、“うろ”からはほんのりと青色の光が漏れ出ている——転移魔法陣だ。



   ■   ■   ■



「……あれは?」

「何者でしょうか。“上”に侵入していますね」

「ここパラディーゾでは“上”の連中は絶対だ。ウッドエルフではなかろうな……」

「我々でないとすると……」

「おそらくノロットたち」

「なんのために?」

「……わからん、だが——魔女に関することではないかという気がする」

「私もそう思いますよマークス殿」

「そうだろう。やはり魔女がらみだな」

「ええ。我ら白城騎士団(ホワイトナイツ)の目はごまかせません」

「すると、どうする?」

「……は?」

「どうするべきだ、我々は」

「そ、そうですな——マークス殿はどう思われる」

「む、むう? そ、そうだな——どうしよう」

「どうしましょうか」

「ううむ」

「ううむ」

「な、仲間と話し合おう」

「そうしましょう」



   ■   ■   ■



「僕から行くよ。中の様子をうかがってから一度戻ってくる」


 僕は先行して遺跡へと歩を進める。

 昼に来たときと違いは特になかったので、一度“うろ”に戻ってリンゴとエリーゼを呼び寄せた。


「ふーん。ここが遺跡か」


 そんなことをエリーゼが言った。感動は薄い。僕もまあ、感動は特にない。


「ご主人様。遺跡だというのにあまり乗り気ではなさそうですね」

「う、うん……遺跡っていうか、人造ダンジョンというか……」

「とはいえ、あらゆる遺跡が人造のダンジョンなのでは……?」

「それを言われてしまうとそうなんだけどさ。創った人物も、その目的もなんとなく透けて見えるとロマンがないんだよね」

「そういうものなのでしょうか」


 そういうものなんだと思います。



 僕らは歩を進めた。

 ジラーフが「第1のホール」と呼んでいた場所へと出た。


「さて、ここから左だっけ?」


 エリーゼが指し示す。

 僕は3つの通路の前に立って鼻を動かす。


「うん。やっぱり左だね。モラはなにか感じる?」

「いンや。まったくだ。お前ェがいてほんとに助かるなァ」


 珍しくモラが褒めてくれるなと思っていると、


「ねぇねぇ、モラのニオイってどんなニオイなの?」

「んー……そうだね。汗臭い。その汗も、おっさんみたいなのじゃなくて、なんていうか肉食獣みたいな……」

「さっさと行けェ!」

「へぶぁ!?」


 真下からモラのヘッドバットを食らった。アゴが痛い……。エリーゼは「汗臭いのか、モラ」なんて言ってけらけら笑っていた。


「おィ、ノロット」

「な、なんだよ」

「エリーゼは?」

「……え?」

「エリーゼはどんな体臭がすンでェ」

「え」

「ちょちょちょちょっと、モラ、変なことノロットに聞かないでよ!」

「うるせェ! 俺っちに恥じかかせやがったンだから、これでおあいこだろォが!」

「いーじゃないの! あたしはモラと違って箱入り娘なんだから!」

「……箱? 鉄格子つきのブタ箱ですか?」


 そんなことまでリンゴが言い出す。


「やれやれ……先を進もうよ」


 騒がしいパーティーになったもんだよね。

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