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78 検討と結果

 遺跡――ジラーフたちが暫定的につけていた名前「五大樹遺跡」について、僕らは検討を重ねていた。


「それじゃあ、やっぱり……」

「あァ、お前ェの考えのとおりだ。間違(まちげ)ェねェ。その遺跡とやらはアラゾアが創ったんだろう」

「どうしてそんなものを創ったんだろうね。僕を騙すため……なんてないよね。発見されたのは1カ月前だし。そのころは僕、パラディーゾに来るつもりなんてなかった」

「ご主人様、モラ様。ひょっとしたら魔女アラゾアはモラ様に憧れたのでは?」

「をん? なるほどなァ――そりゃァありそうだ。記憶を全部取り戻したってンなら『翡翠回廊』とおんなしような遺跡を造りたがるかもしれねェ」

「でもさでもさ、その遺跡を冒険者協会に登録するつもりなんでしょ? それって変じゃない?」

「ん、どうして? エリーゼ」

「モラの死体を安置してるいわばお墓代わりの遺跡だったら——」

「まだ生きてらァ!」

「あっ、そうだった。ごめんね、モラ。で、その大事なモラの身体を……晒すような真似するかな? 踏破されちゃったらモラの身体も見つかっちゃうでしょ?」

「ふゥむ……そいつァそのとおりだな。だが、アラゾアの性格を考えると『誰にも踏破できない』と思ってるんじゃァねェかと思う」

「それにしたところで、冒険者協会に登録する意味がなくない? 偶然バレたってこと?」

「あ、それなんだけど――アラゾアはかなり意図的に遺跡を出現させてるんだよね。“上”の五大樹に魔法陣を置くとか、目立つでしょ」

「ご主人様、確か魔女アラゾアは転移魔法陣のことを話していましたね」


 僕はうなずく。

 転移魔法陣は、特定の地点同士を結ぶものだ。魔法陣に地点同士の座標を書き込むことが必要になる。

 だけど魔法陣の経年劣化によって座標がずれることがあるんだ。

 そうすると、どうなるか――刻まれた魔法陣ごと、転移する。

 ただ“うろ”にあった魔法陣は、直接五大樹に刻まれていたからアラゾアの主張する「経年劣化」というのは当てはまらない。


「――というわけだけど、まあ、今ごろなんか修正してるかもね」

「しっかしノロット。お前ェ、よくそんなこと知ってたなァ。転移の魔法はかなりレアだぞ」

「うん。『黄金の煉獄門』でも入口に使われていたから、ちょっと調べたんだよね」


 長距離移動中はヒマだから。中継地点の町で本を買って、移動中に読んで、次の町で売る――みたいなことをやってたんだ。


「しかしなァ……アラゾアが転移まで使えるようになってるとは驚きだな」

「モラ様。ふつう、700年あるとどれくらいの魔法を修得できるようになるのですか?」


 そうか。アラゾアは、モラとの記憶がなくなったとはいえ、魔女として活動してたんだよなあ。

 モラはその間カエルだったけど……。


「ん~~~~~~(むつか)しいところだなァ。アラゾアは才能はあるが、めんどくせェことはやらねェ主義だ。なんせ魅了と召喚が得意なんだぜ? 楽しようッて魂胆が見え見えだろ?」

「は、はは……確かにね」

「いいなー。あたしもそういう魔法使いたい。……魅了!」


 ぱちこーん、とエリーゼが僕にウインクしてくる。

 ぱちこーん。

 ぱちこーん。

 ……え? なに?

 僕なんかリアクションしなくちゃダメなの?

 ぱちこーん。


「……気色悪いアピールをご主人様に向けるのは止めなさい」

「……は? あたしに言ってんの? 超絶かわいいあたしに?」

「超絶かわいいのならどうして21歳になるまで結婚できないのでしょうか?」

「あー。それ言う? 言うの? 死ぬよ? あんた――ああ、もう死んでんだっけ?」


 リンゴとエリーゼが立ち上がり、バチバチと視線が火花を散らしている。


「それで、モラ。僕の推測なんだけど――」

「お、おォ……お前ェ、このふたりをスルーできるたァ、成長したなァ……」

「モラが言ったこと、矛盾してるんだよね。アラゾアは楽がしたい。なのにアラゾアは街中にいる――おそらく王宮にいる」

「をん? なにが矛盾なんでェ」

「魔女は多くの人を不愉快にするんでしょ? その不愉快を相殺するために魅了の魔法を使う……面倒じゃないか。だったら最初からひとりでいたほうがいい」

「ふゥむ……そいつァそのとおりだな。するってェと、アラゾアはこの町に……王宮にいなきゃならねェ理由がある?」


 僕はうなずく。

 いつの間にかリンゴとエリーゼは隣のテーブルでチェスの勝負を始めていた。

 直接暴力のケンカをしたら「今後僕とはしゃべらせない」と一度厳重注意をしたことがあって――なんせそのときは宿の部屋を半壊させたからね――それ以来、口では暴力じみたことを言いつつも勝負はなにかしらのゲームになっている。

 仲いいんじゃないの? このふたり。


「で、さ。王宮にいなきゃいけないアラゾアは、かなり多くの人間に魅了をかけなきゃいけない。だよね?」

「まァ、そォいうことになるな。あるいは不愉快に思わせているのをシカトこくか」

「アラゾアはどっちを取ると思う? 面倒か、無視か」

「……アラゾアなら、シカトしそうだ」

「やっぱり」

「やっぱりィ? お前ェ、なに思いついたんでェ。(おせ)ェろ」


 突拍子もないかもしれないけど――と僕は前置きした。


「パラディ―ゾの、遺跡を使った“観光地化”」


 予想外だったようで、モラだけでなく、チェスをしていたリンゴとエリーゼも僕を見た。


 僕の考えは、こうだ。

 アラゾアは他人を不愉快にさせても気にしない。だけど、その状態が長く続くのも面倒だとも思っている。いくらゼノン王を手駒にしても――アラゾアが王宮にいるのならゼノン王は手駒になっているだろう――家臣全員がアラゾアに敵対したら、厄介だ。

 しかしアラゾアは魅了の魔法を使いまくるのが面倒だとも思っている。

 だったらどうするか?


 家臣たちを納得させる手柄を立てる。


 思いついたのが、「翡翠回廊」。アラゾアは、モラを手伝った自分も遺跡を創れると思った。

 パラディーゾ近辺にはめぼしい遺跡がないから、訪れる冒険者も少ない。そこへ遺跡ができたら――伝説級のものができたら、どうなるか。

 冒険者界隈で、話題になる。

 冒険者が多く訪れるようになると、冒険者に向けた商売も盛んになる。パラディーゾの税収も上がる。

 これは大きな手柄と言えるだろう。


「なァるほど……。遺跡を餌に、客を呼ぶ、か。アラゾアは自分の遺跡がそう簡単に破られやしねェと思っているってェわけか」

「モラの肉体を置く場所も考えなきゃいけないからね。さすがに王宮には置けなかった、ということもありそう」

「だがなァ、遺跡の先に俺っちの身体があるとは、必ずしもならねェンじゃねェか?」

「そう、そこが難点なんだよね……アラゾアが僕の才能を知っていた場合、実際にモラの身体がなくて、単にモラのニオイがする――たとえば髪とか、そういうのを置いておいただけっていうのもあり得る」

「だが、まァ……」

「そう……他に手がかりもないんだよねえ……」


 するとエリーゼが言った。


「散々検討した結果、やっぱり遺跡に行くってこと?」


 おっしゃるとおりです。


ちょっと風邪をこじらせていて、明日の更新はできないかもしれません。

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