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75 新たな遺跡?

 僕がモラたちの待つ宿へ帰ったのは夕暮れどきだった。


「……なにしてるの?」


 宿の部屋に入ると、大剣を担いだエリーゼ、仕込み刃を確認するリンゴ、そのリンゴの首からぶら下がっているポーチに収まったモラがいた。


「ご――」


 ご主人様ぁぁあああと叫びながら突っ込んでくるメイドがいたので僕は思わずドアをバタンと閉じた。どしん、とドア越しに伝わってくる衝撃と、そォいうのは俺っちがいねェときにやれェ! というカエルの声が伝わってきた。


 どうやら。


「僕の帰りが遅いから、監禁されたのではないかと思って襲撃の準備をしていた、と――」

「そーなのよ。このオートマトンが突っ走るもんだから……あたしは止めたんだよ? 常識的に考えれば王家がいきなり冒険者を拘束なんかしない、って」

「なにを言いますか。あなたこそ『ウッドエルフの連中、血祭りに上げてやる』と鼻息が荒かったくせに。言うに事欠いて『あたしのノロットに手を出しやがったら』などと付け加えて」

「落ち着けェ。お前ェらふたりとも早とちりが過ぎらァ」

「えーっ。一番動揺してたモラがそれを言うわけ?『この森を火の海にしてやる』って言ってたくせに!」

「モラ様。残念ながら一番突っ走っていたのはモラ様です」

「…………」


 は、ははは……僕の帰りが遅かっただけで、大騒ぎしてたみたいだ。

 確かに連絡できなかったからなぁ……王への謁見だけだったら昼前には終わるって思うよね。

 モラなんて腕くんでぷいっとそっぽ向いてるよ。モラの照れ隠しだ。

 なんだか、うれしいね。僕のことをみんなが心配してくれるのってさ。


「おィ、ノロット」

「ん?」

「ニヤニヤすんなィ!」

「ぶべっ」


 モラの跳び蹴りが僕の頬に突き刺さった。




「――で、僕の指摘は正しかったんだ。パラディーゾには遺跡がある。まだ冒険者協会にも報告していない」


 ゼノン王と会ってからのことを僕は説明した。

 遺跡のことを見抜いた――ただの勘だったけどね――僕は、ゼノン王に気に入られたみたいだった。

 昼食をともにしろと言われ、それからは僕がこれまでに行った遺跡探査の話をせがまれた。

 それからは、パラディーゾで発見された遺跡について、王宮内の探査班の班長と会議が設定された。

 現状の報告と僕の意見を聞くために。

 そうこうしているうちにこんな時間になった、というわけ。


「ふゥむ……ゼノン王は、お前ェから冒険のあれこれを聞きたかったってェわけか」

「そういう雰囲気だったよ」

「ね、ね、ノロット。それでどんな遺跡なの? ここで発見されたのって!」

「えっと――」


 僕はエリーゼに説明する。

 遺跡が発見されたのは、1カ月ほど前のことだ。

 発見したのは樹木医だという。


 ウッドエルフは樹上に暮らしているために、木がちゃんと大地に根付いているかを確認することが重要なんだ。

 だから樹木医は結構な数がいる。

 王宮の位置する五大樹を診る樹木医は、中でも一番の名医だ。


 毎月の定期診察で、その樹木医は五大樹のひとつに異常を発見した。

 今までになかった“うろ”が、枝にあったのだ。

 枝――と言っても、もともとがとんでもな大樹だから、枝もまたデカイ。

 “うろ”は数人が入っても大丈夫なほどの大きさだった。


「“うろ”にあったのが、転移魔法陣なんだってさ。飛んだ先は地下洞窟。洞窟の土質を見る限り、ここクリングリーン樹海のどこからしい」


 僕がそう話を締めくくると、


「そンで、お前ェはどう関わってくるんでェ」

「僕? 明日、その遺跡を見て欲しいって言われた。遺跡がどんなものか評価して欲しいんだってさ」

「評価ねェ……」

「あの、ご主人様。元々の目的であった魔女アラゾアについてはなにか情報はあったのでしょうか?」

「あ、それなんだけど」


 僕は思い出した。


「アラゾアが王宮にいるのは間違いないよ」




 ぽかん、とモラが口を開いた――と思ったら、


「それを先に言えェ!」

「いや、だってさ――いるだろう、と思って行ったんだし、驚きはそんなにないじゃん?」

「あるわァ!」

「ご主人様。どのようにして魔女を把握されたのでしょうか?」

「もちろんニオイだよ。ゼノン王から漂ってきたんだよね――白桃の香りが」


 それはアラゾアの香りだ。

 僕が「翡翠回廊」で嗅いだものと同じだ。断言できるね。


 アラゾアのニオイはかすかに漂っていただけだけど、隠すつもりもないのかなという感じで残っていた。


「……発見された遺跡、アラゾア、アレイジアという偽名、白城騎士団(ホワイトナイツ)……俺っちでもよくわからなくなってきたぜ……」

「全部がつながってるわけじゃないからさ。バラバラに考えたほうがいいんじゃない?」

「そォは言うがな、ノロット。この状況でどうやって動くかが難しいンじゃねェか」

「んー。とりあえず明日だよ」

「明日……にどォするんでェ」

「呼ばれたから行ってくる」

「誰に」

「ゼノン王に」

「をん? まァた王宮に来いってェのか?」

「ううん、違うよ」


 僕は最後にゼノン王から切り出された申し出をみんなに伝えた。


「新しく発見された遺跡を、僕に見て欲しいんだってさ」




 翌日、僕はウッドエルフたちの遺跡探査チームとともに遺跡に向かうこととなる――のだけど、その前に、夜半に白城騎士団(ホワイトナイツ)のマークスがたずねてきた。

 痛くもない腹を探られるのはイヤだったけど、こちらが情報を上げるだけなのもシャクなので、適当に話を伝えつつ遺跡のことはぼかした。


「そうそう。ウッドエルフは白城騎士団(ホワイトナイツ)のことを認識していましたよ。なんでも、近々排除しなければならない、とかなんとか……」

「なぬっ!?」


 マークスはあわてて帰っていった。

 気の毒ではあるけど、これに懲りたのならもう少しバレにくいようにして監視活動をして欲しい。


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