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74 ウッドエルフの王とノロットの疑問

すみません、旅行に出ていてちょっと短いです。

 王宮内、ということもあるのだろうけれど、とにかく美しい通路だった。

 足下は木目が美しく、塵ひとつ落ちていない。

 “下”がぬかるんだ泥っぽい町であるだけにこのギャップには驚く。

 木材の――僕の知らない木だ――かぐわしい香りも漂っている。清涼感がある空気。

 開けられた窓からは、中空から見下ろす“下”が見える。

 うわあ……これはまた、不思議な気分だ。

 道行く人はもちろん、屋根がやたら目に付く。

 雑な屋根だなあ……まあ、ここは土砂降りにはならないからなあ。


 通路に控えている王宮で働くウッドエルフたちも、優雅なたたずまいだった。

 着ている服も上等で、布地に光沢がある。身体にぴったりとした一風変わった洋服だった。


 木目の美しさを活かした通路を抜けると、絨毯の敷かれた階段に導かれる。


「わあ……」


 思わず声が漏れた。


 そこは大広間だ。

 巨木から削りだした柱が左右に並んでいる。

 中央は、光だ。

 木漏れ日が降り注いでいる――つまり、屋根がないんだ。

 雨降ったらどうするんだよ、と思っていると、


「雨の日には可動式の屋根が閉じます」


 案内役の近衛兵が解説してくれた。

 うわあ、僕、顔にばっちり出てたのかな? っていうかみんな質問するのかな、それ。


 大広間の先には巨大な両開きの扉。

 扉を開けるために近衛兵がふたり、左右に展開する。

 音もなく開かれたそこは、王座だった。

 かなり狭い。

 中型の会議室、といったくらいの広さである。


 王座に座っていたのは、かなり若々しい――人間で言えば20代くらいに見えるウッドエルフだった。

 足を組んで、肘置きにほおづえをついている。


「来たか! 入れ!」


 嬉々とした顔で言った――のだけど、僕は奇妙な違和感にとらわれていた。

 心の底から喜んでいないような……。

 だけどまあ、進まないわけにはいかないので中に入る。あとから知ったことだけど、外国の大使と面会するときは大広間を使い、僕のような小物と会うときにはこっちの部屋らしい。




「余がこの国を統べているゼノンだ。会えてうれしいぞ、ノロット」

「お招きいただき、光栄です」

「はははは。かしこまることはない。楽にしろ、楽に」


 できるわけないじゃん……。

 僕、こんな偉い人と会ったことなんて数えるほどしかないんだよ? 数えるほどあることもすごいのかな。まあ、経験しないで済むなら経験したくなかったよ。

 それにしても、ゼノン王はキンキラキンの近衛兵団長のジーブラを置いているだけで、他にこの部屋には誰もいない。

 不用心過ぎない? 僕が魔法使いだったらどうするの?

 あるいは――魔法を使われても大丈夫、という自信があるのかな……?


「ノロットよ、今、いくつだ」

「年ですか? 15です」


 来月16になるけどね。言う必要ないね。わかってます。


「ほお! 若いと思っていたがそれほどか。にもかかわらず伝説級の遺跡を立て続けに踏破したとな! ええと、確か――」

「王。『魔剣士モラの翡翠回廊』と『黄金の煉獄門』です」


 横からジーブラが口を挟む。


「左様左様。しかも最近はグレイトフォールにも行ったようだな」

「よくご存じですね。僕なんかのことを」

「謙遜するな! 余は知らぬが、ダイヤモンドグレードの冒険者というのは少ないのだろう?」

「王。パラディーゾにもふたりのダイヤモンドグレードがおります」


 あれ? いるんだ、パラディーゾにも。


「連中は魔物専門ではないか。しかも近衛兵団に組み込んでおる。余がおもしろがっているのは遺跡を踏破しているということだ」


 ああ……モンスターハンターなのか。納得。

 きっとすごく強いんだろうね。近衛兵団に登用しちゃうあたりが抜け目ないというか。


 でも、なんか変だ、やっぱり。

 ゼノン王は「おもしろがっている」とか言う割りに……声が空虚なのだ。

 ジーブラはわかってるんだろうか? 僕だけ? そういうふうに思うのは。

 やっぱりこれは……と思っていたときだった。


「して、ノロットよ。パラディーゾにはなにをしに来た?」


 きらり、とゼノン王の目が光ったように感じられた。


「パラディーゾへは、旅の途中に寄ったまでですよ」

「ほう、パラディーゾは“ついで”か」

「あ……お気を悪くされましたら申し訳ありません。名高いウッドエルフたちの町に、純粋に興味があったのは事実です」

「ウッドエルフは森に住まう。ゆえに遺跡を持たぬ」

「そのように聞いています——」


 と僕が言ったとき、ゼノン王の視線が宙をさまよった。

 なにかを考えているような——。

 そうだ……パラディーゾへ入る前の検問だ。あのとき警備兵たちは、意味深な笑顔を浮かべていた。僕が、この町にはたまたま冒険者がいない、みたいなことを言ったときだ。そう、パラディーゾには遺跡がないから……。


「……ゼノン王、もしやとは思いますが、ここには遺跡があるのですか?」


 にやりと笑う、王。

 おいおい。なんだか話がおかしな方向に転がり出したぞ……。

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