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73 王宮への道

 パラディーゾの中で、地上エリアでも中空エリアでも、全域図に明らかになっていない場所があった。

 それが王宮のある場所であり、5本の巨木が、結界を組むように立っている場所だ。

 ここは「五大樹」と呼ばれ、ウッドエルフの信仰の対象でもあるらしい。

 正五角形の頂点に展開する巨木は、それぞれ直径20メートルほどもある。

 木々の間隔は30メートルほど。

 木と木は木製の壁によってつなげられており、“上”に至ってもその壁は高く伸びている。

 巨大タワーみたいな感じになっているのだ。


 五大樹の“上”のエリアが王宮になっているらしく、ここは地上でも厳重に警戒されていた。

 まだ「魔女の羅針盤」を持ち出していないけど、五大樹にアラゾアがいるのは間違いなさそうだった。

 ちなみに“上”は、五大樹を中心にかなり巨大な建物が展開しており、五大樹の根元は日も遮られて昼でも薄暗い。


 さて、アラゾア——おそらく偽名のアレイジア——が王宮にいるのなら、彼女はマークスの言うとおりウッドエルフの王宮を陰から操っている可能性がある。

 僕がパラディーゾにやってきたことだって情報が行っていてもおかしくない。

「魔剣士モラの翡翠回廊」を踏破した冒険者ノロットが、追いかけてきていると——アラゾアはすでに知っていると考えておいたほうがいい。

 尻尾をつかまれてると言っても過言ではないよね? ——というようなことをモラたちに説明した。


「ねえ……魔女が悪、ってマークスは言ってたんだけど、どういうこと?」


 白城騎士団(ホワイトナイツ)のマークスは、とんでもなく頭が悪そうだったけど、この話をしたときはやたら真面目くさった顔をしていた。


「魔女ァ悪魔と契約するからよ。地域によっちゃ絶対悪だとして問答無用で殺される」

「へぇ……」

「マークスとやらが本気でそう思ってるなら、ある程度白城騎士団(ホワイトナイツ)がどこの国の出身なのかわかりそうなもんだが、まァ、今回の俺っちたちにゃァ関係あるめェ」


 同感だった。


「そんじゃァ、白城騎士団(ホワイトナイツ)とはつかず離れずで行くか」

「うん。そうしよ」


 と僕がうなずいたときだった。

 コン、コン、と部屋の扉がノックされる。

 宿の主人が「来客がある」と僕に言う。

 連れられて食堂に降りていくと——そこには、金色の鎧を身に纏った、見るからに位の高そうなウッドエルフがいた。

 年齢はパッと見ではわからない。エルフはほんとうに年齢がわからないね。

 ただ、全身から自信があふれ出ている。


「——我はパラディーゾ王宮近衛兵団長ジーブラ=リィ=キルケイドである。貴殿が冒険者ノロットであるか」

「あ、はい」


 向こうの堅苦しい口調に対して、僕はどうも気の抜けた返事しかできなかった。


「我が王、ゼノン7世が貴殿に会いたいという。よろしいな?」




 よろしいな? という言葉に、こちらの拒否権はなかった。

 明日王宮に来いという——ほぼ命令を受け取る羽目になる。


「……いかがなさいますか、ご主人様」


 部屋に戻ってきてリンゴが聞いてくる。

 王宮に来いということは“上”に来いということでもある。マークスたちが打つ手のなかった“上”への道筋がいきなり現れたってことだろうか。


「行くよ。正攻法で行けるんだからラッキーじゃない?」

「……だがなァ、ノロット。危険な気がするぜ」

「モラ。まったくの危険もなくモラの身体を取り返せるとは僕は思ってないよ」

「うゥむ……」


 モラの心配には理由があった。

 ひとつは、行くのは僕ひとりということ。もちろん武装はすべて取り上げられるから最初から持ってくるなということだった。

 もうひとつは、アラゾアだ。アラゾアが王宮にいるとして——彼女が今回の僕の招聘になんらかの影響を与えたのかどうか? 与えたのならその理由は? その辺りがわからない。


「ねえ、モラ。こうなったら徹底的に対策を練っていこう。召喚と魅了が得意なんでしょう? 彼女がやってきそうなことの対抗策を全部立てておきたいんだ」

「……わァッた! お前ェに任せるぞ、ノロット!」


 最後はモラも納得してくれた。




 翌朝、宿の前にはすでに近衛兵——銀色の鎧を着た兵士がふたりいた。

 僕がふたりについていくと、近衛兵が珍しいのか、町の人たちがこちらを見てざわざわしている。

 うう。なんか連行されていく犯罪者みたいだ……。


 “上”へ行くルートは限られている。いくつかの大樹に螺旋階段がつけられているのだけど、そこはすべてウッドエルフの警備兵が目を光らせていた。

 僕もそのどこかから行くんだろう——と思って歩いていくと、なんと、五大樹まで連れて行かれた。


「客人だ! 通せ!」

「はっ!」


 偉そうに近衛兵が言うと、警備兵は最敬礼を見せた。ドアを開いて中へと入る——直前、遠巻きにこちらを見ている白マント(マークス)を見た。

 おーい、見過ぎ。すごい目してるよ。そんな顔したらなんか企んでるのバレバレだよ?

 案の定近衛兵たちが言った。


「あいつ……またこっちを見ているな」

「やっちゃいますか?」

「実害があるわけではないからな」

「目立ちすぎじゃないですか?」


 目立ったからシメるとか、チンピラみたいな会話だよ。

 ともあれ、白城騎士団(ホワイトナイツ)は王宮側にも把握されているみたいだ。


 “壁”の中は——ちょっと、驚いた。

 なにもなかったんだ。

 まあ、キレイなんだけどね。床はすべて板張りになってるし。

 ただなにもない。がらんとしたスペースだ。

 中央に大きな絨毯が敷かれているけど、その程度で。


「客人、靴を脱いでくだされ」

「え?」

「ここから先は、専用のサンダルを用意する」


 僕が泥だらけのブーツを脱ぐと、用意されたサンダルをつっかけた。

 おお、新品だ。

 そんなことをやっているうちに、絨毯が取りのけられていた。


「——まさか」


 僕は目を見開く。

 そこには光り輝く魔法陣が描かれていたのだ。


「“上”までは一瞬ですので、こちらへ」


 転移魔法陣なのだ。




 光った、と思ったら周囲の風景が変化していた。

 ずっと狭い部屋にいたのだ。

 僕は“上”へ来ていた。

 サンダル履きで外へと出る——。

 そこは、“下”とは比べるべくもない、清潔で、美しい場所だった。

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