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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第1章 トレジャーハントには調査と仲間が必要(凶暴なメイドを含む)
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6 ストームゲート冒険者協会

 外の明るさに目が慣れていたから、協会の内部に足を踏み入れると一瞬、なにも見えなかった。

 暗い。

 でも、それだけじゃない。

 漂っている濃密な紫煙はこの大陸特有のタバコによるものだ。

 うぇー。けほけほ。

 ここを出るころには身体に染みついてそうだなあ……やだなあ。


 入ってすぐはロビー。だだっ広いだけのスペースで、奥に掲出された張り紙の前には冒険者が群がっている。

 ほんとに多くの依頼が寄せられているんだよね。

 捜し人もあれば、モンスター退治もある。届け物や「すべての詳細は会ったときに」なんていううさんくさい(しかも報酬は高い)ものまで。

 絶対ヤバイやつだよ。そういうの。

 臭うね!


 右手にあるカウンターでは、冒険者協会が行っている事業の受付だ。もう、アレですよ。あらゆる受け付けです。依頼もそうだし、請負もそう。手続きやらなんやらなにからなにまで。

 受付は1階で、事務仕事はきっと2階とかだろうね。2階建ての建物だし。


 左手はカフェになってる。カフェ……って言っても昼からお酒を出すみたい。

 煙の原因はこれだね。

 にぎやかで柄の悪い笑い声が響いていた。


 通常、町の治安は軍や自警隊、警察組織が守る。

 じゃあ、冒険者協会はなにが違うのか?

 答えはシンプルで、「公的機関がやらないこと全部」である。


 そのため「公文書館への紹介状を書いて欲しい」とかいう頼み事もできるんだよね。

 冒険者協会にできないことは、できる人への仲介としても動いてくれるんだ。

 便利!


「おい……」

「なんだありゃ……」


 入ったときから僕らは浮いていた。

 僕と同じくらいの年齢である冒険者は見たところいないし、実際のところ、僕はほんの少し実年齢よりも若く見える。ほんの少しだよ?

 浮いているのを確認しにきたわけじゃないから、僕はリンゴを連れて足早にカウンターに向かう。数人からの視線を感じるけれど、無視無視。


 カウンターの向こうにいたのは受付のお姉さんだ。

 ブラウスの下にエプロンをつけてる。

 書き物をしていたようで、羽ペンを持つ手がインクの黒で汚れていた。

 胸元はリンゴと比べるのはかわいそうだけど、ちょっと残念な感じね。でも、ショートカットで、人の良さそうなお姉さんだ。


「あら、なにかご用?」


 完全に子ども向けのスマイルをありがとう、受付のお姉さん。

 僕はほんの少し実年齢より若く見えるからしょうがないね。ほんの少しね。


「えっと、公文書館への紹介状を書いて欲しいんですけど」

「…………」


 このときのお姉さんの顔はなんて言ったらいいのかな。

「またか」「呆れた」「坊や、ここは遊ぶところじゃないの」

 この辺を混ぜたやつかな。

 だから僕は15歳だし、冒険者になれる14歳という年齢をちゃんと超えているんだよ。


 お姉さんは両手の人差し指をくいっと右側の壁へ向けた。

 そこには1枚の張り紙――。


『黄金の煉獄門を目指す方へ

 公文書館への紹介状は1通800ゲムです

 ただしストームゲート冒険者グレードでアイアン以上の方のみ

 ※黄金の煉獄門行き観光馬車の割り引きチケットございます』


「あのね、坊や。遺跡へ挑戦したいっていう希望者はすっごく多いの。でもあたしたちだってむざむざ命を散らせたくはないじゃない? だからこういった張り紙をしてるってワケ」

「そんなに『黄金の煉獄門』への挑戦者は多いんですか?」

「ええ。と言っても最盛期ほどではないけどね。今じゃ1週間か半月に1パーティー程度。もちろん、いまだ踏破されてない」

「行った人たちは全滅?」

「――するときも。たいていは1人か半分くらいが亡くなって、這々の体で帰ってくる。というわけであきらめなさい。あそこに書いてある『冒険者グレードのアイアン』って言ったら、数年はキャリアを積んでないとダメよ」


 ふつう、冒険者グレードは駈け出しの「ニュービー」から始まって、グレードが上がると金属(メタル)グレードになる。

「カッパー」、「ブロンズ」、「アイアン」、「スティール」「シルバー」、「ゴールド」って続くんだ。

 その上級は宝石(ジュエル)グレード。

「ルビー」、「サファイア」、「エメラルド」、最上級の「ダイヤモンド」だ。


 冒険者って言ってもいろいろあって、僕みたいに遺跡を狙う冒険者もいれば、モンスターを専門的に討伐する人もいる。希少な植物や昆虫を探す人もいる。

 冒険者は、冒険者協会からの依頼を通じて経験を蓄積する。

 そうして協会が認めてくれるようになると、グレードアップってわけ。

 グレードが上がるとさらに報酬のいい依頼を請け負うことができる。


 ただ、冒険者協会は各地にあるからそれぞれ基準が違っていて――。


「というか認定証持ってる? 他国のものならそのままじゃ使えないわよ。都市スケールを基準に減点されるから」


 これ。

 都市スケール。

 冒険者認定証は協会が発行するんだけど、その冒険者協会は国や都市など、運営母体が違う。

 僕が持っているのはムクドリ共和国冒険者協会のものだね。国が出してるヤツ。


 で、都市スケールなんだけど。

 こいつは冒険者協会同士が決めた取り決めだ。

 冒険者協会は、同じ「協会」を名乗っていても、母体がひとつじゃないわけでしょ? 国によってまず違うし。

 当然ながら、敵国同士の冒険者協会が友好関係を結ぶわけにもいかない。

 そこで出てくるのが都市スケール。

 これは各冒険者協会が自由に決められる。


 つまりね、ムクドリである程度有名でも、ストームゲートじゃ無名ってことはよくあるだろ? だからムクドリで発行されたグレードを減算するわけ。

 敵国同士だとかなりきつい減算が加わるし、同一の母体が発行している冒険者認定証なら減算ナシってこともある。


 ただ共通しているのは、減算されても、その冒険者協会で実績を残せばすぐに元のグレードまで引き上げてくれるんだよね。

 僕の場合だと、ストームゲートで実績を残せば、ムクドリと同じグレードにしてくれる。


「えと、ムクドリ共和国のものがありますけど……」


 僕がお姉さんに言うと、「あったんだ?」というふうな、ちょっとだけ驚いた顔を浮かべる。

 だけれど次の瞬間には、


「残念だけど……ムクドリ共和国の都市スケールだと、ストームゲートは減算2グレードになるのよ」


 つまり、ムクドリ共和国で「シルバー」以上の冒険者認定証を持っていないとストームゲートでの「アイアン」グレードとして認めてくれないというわけ。

「シルバー」は、専業の冒険者として10年くらい続ければ到達できる……かなー?

 でも僕は「ダイヤモンド」だからね。

 余裕でクリアしてますよ。へいへい。

 さて、それじゃあ認定証を出そうか――。


「おいおいおい、こんな小さいガキまで『煉獄門』行きかあ? ったく、『煉獄門』の敷居も下がったもんだぜ」


 柄の悪い声がすぐ背後から聞こえてきた。

 振り返ると、明らかに酔ったふうな男が、ふらつきつつも立っていた。その隣にはいっしょに飲んでいたらしき男がふたり。


「この俺、ゼルズほどの冒険者でなきゃアイアングレードは持てねぇよ。どうだ? ガキ、余計に金を払うってんなら俺が代わりに公文書館への紹介状を書いてもらってもいいぞ」


 ほう……?

 確かに、「ノロット」の名前をここで出すくらいなら、余計にお金がかかっても書いてもらったほうがいいかもしれない……。

 そっちのほうが目立たないもんね。

 もともとはちらっとダイヤモンドグレードの認定証を見せて(名前を隠しつつ)、協会のお偉いさんを呼び出して、きっちり口止めしてから紹介状をもらおうかなと思ってたんだけど。


「それはいいかも――」


 と、僕が言いかけたときだ。


「8万ゲムでいいぞ!」

「――え?」

「ぎゃっははははは!」

「ぶふっくくく」

「はは」


 3人の男たちが笑い出す。

 ははーん。なるほど? 完全にからかう気だったな、これ? 100倍の金額ふっかけるとか。


「ゼルスさん、そういう挑発は止めてもらえます? 出禁にしますよ」


 と、受付のお姉さん。


「カッ。誰にでも開かれてるのが冒険者協会だろうがよ。酔っ払いがイヤなら最初から酒なんて飲ませるんじゃねえや」


 ぺっとツバを吐く男。うわー、汚ったねえ。僕はこういう大人にならないようにしよう。

 決めた。無視だ無視。無視が一番!


「――貴様、ご主人様に向かってなんという口の利き方だ」


 冷たい――そう、砂漠のストームゲートでは想像すらしなかった氷のような、冷たい声が聞こえた。

 ぎくりとして僕が見上げると、リンゴが大きく開いた目で男を見据えていた。


「ああ? ご主人様? こんなガキが? なにバカなこと言ってんだ」

「言ってもわからぬなら、こらしめるしかないな」


 ぎゅうううと拳を握りしめる音まで聞こえる。

 みしみしみしみし……って、


「いや、いやいやいや! なにやってんの! ケンカ腰になるの止めて!」

「ご安心ください、ご主人様。ケンカなどはしません」


 急ににっこりとした顔を見せた。


「そ、そうね、うん、落ち着いてくれればそれで」

「一方的にわたくしがこやつをぶちのめすだけです」


 だからそれがダメだっての!


「ナメてんじゃねえぞ! 表出ろ!」


 一方的にぶちのめすとか言われて、かちーんと来たのだろう。酒のせいだけじゃなく、男も顔を真っ赤にした。


「だ、ダメだって!」


 僕がなんとか止めようとしていると、


(……おィ、ノロット。やらせてやろうぜ)


 モラのささやき声が聞こえた。


(え? どうしてさ!)

(リンゴの実力を見ておきてェ。いい機会じゃァねェか)

(で、でも……それはそうかもしれないけど……)


 と僕が納得しかけたところだった。


(くゥ~ッ! いいねェ、ケンカ! 俺っちもケンカしてェなァ!)


 モラはただの騒ぎ好きのバカだった。

 そうこうしているうちにふたりは外に出て行くし、男の連れであるふたりもニヤニヤしながら出て行く。「なんだなんだ」「ケンカか?」と他の冒険者たちも好奇心丸出しの顔でついていく。


「……坊や、どうするの?」


 カウンターに肘をついてお姉さんが聞いてくる。


「えーと……行ってきます!」


 僕もあわてて外へ出た。




 外に出ると、大通りの真ん中、向き合うふたりを中心にぐるりと人垣ができていた。「ケンカらしいぞ」「まぁた冒険者か」「いいねえいいねえ」と通行人までギャラリーに加わっている。


「す、すみません、通して~~!」


 人垣をかき分けて進む。なんとか最前列まで出たときだった。


「そんじゃあぶっ飛べや!」


 すでに始まっていた。

 ゼルズとかいう男は、さっきまでの酔った空気はどこへやら、かなり鋭い踏み込みを見せた。

 冒険者としての実力はちゃんとあったのだ。

 握り込んだ拳は真正面にいるリンゴの元へと突き進む。

 どごぉっ。

 鈍い音が響く。観戦していた女性なんかは「ひっ」と思わず声を漏らすほどの直撃。


「――――」


 リンゴは倒れなかった。

 どころかピクリとも動かなかった――根の生えた木のように。


 衝撃でつば広のハットがはらりと後ろに落ちる。リンゴの赤い髪があらわになる。


「なっ――」


 ゼルズの目が驚愕に染まったあと、


「いってえぇええええええええ!?」


 殴った腕を引っ込め、抱えて叫ぶ。


 ああ……これは、あれだ、機械の部分を思いっきり殴ったんだ。ご愁傷様。

 リンゴの表情は涼しいものだ。血なんて流れないし、腫れもしない。

 痛みに涙目になっているゼルズへと一歩踏み込んだリンゴは、


「ご主人様への無礼――悔い改めなさい」


 身体をひねる。

 びゅおうっとマントが回転する。

 リンゴの拳がゼルズの腹に突き刺さる。


「お、お、おおおおおおお――――」


 飛んだ――。

 人の身体って、飛ぶんだ――。


 みんなの目が点になっている。大の大人であるゼルズの身体は――人垣を飛び越えた向こうに、どさりと落ちた。

 落ちるのを確認もせず、リンゴは落ちたハットを拾い上げると目深にかぶり直した。


「――こりゃ、めっけもんだったなァ」


 モラがうれしそうに言った。



 それからは大騒ぎだった。

 ゼルズは担架で運ばれるし、腕っ節に感動した冒険者たちがリンゴに群がって酒をおごると言って聞かないし、わずかな隙に見えてしまったリンゴの素顔を美青年と勘違いしたうら若き女性たちが群がるし、僕は僕で、


「君、ちょっといいかね」


 にこやかながらも額に青筋を立てた冒険者協会のお偉いさんに肩をつかまれたからね。いやほんと、目立ちたくなかったんだけど……。

 僕だけでなくもちろんリンゴも協会職員に囲まれていた。反撃を恐れたんだろう、おっかなびっくりって感じだったけど。


 僕はリンゴに「ついてこないでおとなしくしててね」とお願いしつつ、僕がリンゴのご主人様であることは間違いないので「リンゴは抜きで話がしたい」と申し出ると、苦い顔をしながらもお偉いさんはうなずいた。

 たぶんリンゴがついてきたら話が進まないと思うからね……。

 リンゴは他の冒険者に酒場へと連れて行かれ、僕は協会の2階へと連れて行かれた。


 2階は想像していたとおり事務室だった。

 机や書棚が並んでいて、職員たちが働いている。

 その奥にある「役員室」。僕はそこに放り込まれると、


「君……どういうつもりだね。協会内での暴力が厳禁だってことを知らなかったのかね」


 早速聞かれた。

 あ、あれー? お茶はー? お茶とか出ないのー?

 出るわけないですよね。スイマセン。


 そこは執務机と応接セットを置けばいっぱいになってしまうような部屋で、質素な造りだった。

 僕を連れてきた人は、ごま塩の頭からあごひげまでつながっていて、二重のまぶたの下にはブルーの瞳がのぞいていた。

 体つきはがっしりしている。元冒険者、と見受けられる。

 ストームゲートではよく見かける、白い布を重ねたガウンを着ていて、内側には赤茶色の肌着が見えていた。

 全体的に仕立てがいいし、物腰も上品だった。冒険者のときからそうだったのか、協会職員になってからそうなったのか……どっちだろうね。


「えーと、規約は知ってます」


 協会内では暴力厳禁。当たり前と言えば当たり前なんだけど、これには重要な理由がある。


 回りくどい話になっちゃうんだけど――冒険者協会の存在意義は「依頼の達成」にある。

 国からのモンスター討伐依頼、家出人捜索依頼、貴重な薬草の納品依頼……冒険者協会はこの「依頼」があるからこそ成り立つわけで。

 裏を返すと、認定された冒険者たちにとっても「依頼」がすべてなんだ。


 中には高額報酬の美味しい「依頼」もある。だけれど「依頼」は一番最初に受注した冒険者が達成「義務」と達成「権利」を得る。どうしても達成できない場合は「依頼」を譲ることができる――けど、このシステムはリスクを持っているんだ。暴力に任せて、達成直前の依頼を譲ってもらえるわけだろ?

 だからこそ冒険者同士での「暴力厳禁」が重要なんだ。


 一歩間違えるとごろつきになりかねない冒険者を組織化しているのが冒険者協会。信頼は薄氷の上に成り立っている。暴力が日常化すれば、あっという間に解体へまっしぐらだ。


「だったらどうしてあんなことをしたんだね」

「それは……あっちの冒険者が、からかってきたんですよ」

「君の用心棒の実力を考えれば、一方的な勝利になることはわかっていたんだろう? あれは実力五分の決闘ではない。単なる暴力だ」


 用心棒。たぶんリンゴのことだろう。

 彼女の実力は知らなかったんだけど、言っても理解してもらえないだろうなあ。


 ため息とともにおじさんが言う。


「……ゼルズは『黄金の煉獄門』に挑んだ、一番最近のパーティーなんだ」

「えっ、そうなんですか?」

「9人のパーティーのうち、4人が死亡した。2人は重傷を負って治療院にいる……『黄金の煉獄門』のことについて、彼らは敏感になっているんだ」


 え? あれ?

 いやいやいや、なんかあっちに同情的な発言だけど、ケンカ売られたのこっちなんですけど……。


「このストームゲート出身のパーティーとして『黄金の煉獄門』に挑むのは数年ぶりだったというのに――」


 ちょっとイラッときてしまって僕は口答えした。


「ああ、なるほど。地元のパーティーだから肩入れしているんですか」

「なにっ! 肩入れだと? 誤解を招くような物言いは止めなさい」

「冒険者は自分の責任で行ったんですから、おじさんが責任を感じることはないと思いますよ」


 遺跡に挑戦して犠牲が出るのは、自業自得だ。

 とはいってもさ。

「アイアングレード以上で公文書館に紹介状を書く」っていうのは、とりもなおさずここの冒険者協会は「アイアングレード以上なら『黄金の煉獄門』に挑んでもいい」と言っているようなもの。

 僕はこの人が、ゼルズ立ちの挑戦失敗に責任を感じているのかもしれないと思ったんだ。

 それは当たらずとも遠からずだった。


「……タラクトは私の甥なんだ」


 誰ですか、それ?


「ゼルズのパーティーのひとり。重傷を負って帰ってきた」


 ああ……なるほど。

 身内も「黄金の煉獄門」に挑んだのか。

 そりゃあ、感情的になるし、ゼルズに肩入れしちゃうよな……理解はできるけど、そんなの僕に関係ないんですけどって感じだけども。


「重傷って言っても帰ってきたんならいいじゃないですか」


 すると力なく首を振った。


「重傷、と言えば治りそうな雰囲気だが……無理だ。身体の1/4以上が石化している」

「!」


 石化。

 呪いの一種で、肉体が石へと変わっていく。

 早く治癒しなければ石化は進行して、石化範囲が1/3を超えるとほとんどの人間は死ぬと言われている。

 治癒の方法にはいろいろあるが、一番手っ取り早いのは、


「切らなかったんですか」


 切除だ。石化の始まった場所を切り落とせばそれ以外に影響はしない。


「ダメだ。腹から石化が始まっているからな。もう、食事も喉を通らない。ただ死を待つだけの状態だ。今日明日には死ぬ……あの子が治るなら、私は自分の命ですら差し出したいくらいだ」


 ああ、なるほど、この人は自分の身内もやられたからゼルズに肩入れしてるんだ――とかいろいろわかったけどそんなことはどうでもよくて。

 そのとき僕は、「石化治癒くらいどうでもなる」みたいなことを言っていたとある人物の発言を思い出したんだ。


「モラ!」


 僕は目の前におじさんがいることも気にせず、旅の仲間の名を呼んだ。


「も、モラ……?」


 おじさんがわからない顔をすると、


「モラ! 出てきて!」

「なんでェ」


 とひょっこり金色のカエルが僕の肩から顔を出したのでおじさんは目を剥いた。


「治癒系魔法は下手くそだけど、石化なら治せるよね」

「お前ェ、本気か?」

「本気」

「ったくよォ……お前ェは人がいいっつうかなんつうか……」


 ぽりぽりとあごをかいたモラは、


「だが、まァ治せらァ。早くその治療院とやらに連れていけ」

「え――え?」


 わからない顔でいるおじさんに僕は重ねて言った。


「タラクトさんを治療します――信じられないかもしれませんけど、どうせ今日明日死ぬなら、僕らにやらせてください。それと僕らのことは……ちょっとは目立っちゃいますけど他言無用です。あと、もしうまく治療できたら、なんでもしてもらいますよ」


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