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68 リンキン少年冒険団(3/4)

すみません、前中後で3話で終わるかと思ったのですが終わらず……4話構成としました。

 洞窟を塞ぐようにブロック塀。入口のドアはぼろぼろになって倒れている。

 ドアの上には古代ルシア語でなにかが彫られているけれど、僕にはほんの少ししか読めない。

 実は最近、ちょっとずつ古代ルシア語も勉強しているのだ。魔法を使わなくとも石碑や道しるべに使われていることもあるから。


「監視」という文字……だったはずだ。


 監視……洞窟の奥でなにを監視しているんだ? いや、監視者が住んでいた場所……? 一応山の中腹だし、ここ。

 ほえー、と物珍しげに壁を見つめていたナナに聞いてみる。


「この山って、ずっと昔に砦だったりお城があったりした?」

「ううん。聞いたことない。ね、ラッキー」

「知らない」


 ふむ。じゃあなにが「監視」なんだろ。

 まあいい。

 とりあえず朽ちたドアを横にどかす。パッと見ではトラップはない。

 ドアの風化具合を見るに、かなり時代が経っている。少なくとも100年以上か。であれば物理トラップは経年劣化によって無効化されているはずだ。

 さっきラッキーが踏んだようなトラップ……仕掛け? あれは魔法トラップということになる。物理トラップに比べればかなり手が込んでいるものと言えるけど、手をかけなければいけないほど重要ななにかがここにあるのか?


「中の様子を見てみるから、ここにいてくれる?」

「えっ、やだ。いっしょに行く」


 ナナは首をふるふると横に振った。


「……さっき約束したよね? 僕の指示に従う」

「…………」

「したでしょ、約束」

「それじゃあ、1分だけ」

「……5分」

「わかった」


 なんで僕が譲歩しなくちゃいけないんだろうか……と思いつつナナとラッキーを残して先に進む。

 トラップがもし仮にあった場合、ふたりを連れていくのは危険なんだよね。


 すん……とニオイを嗅ぐ。

 うーん。あまりニオイがしないな。

 実は探索を始めてからずっとニオイを嗅いでいるんだけど、空気が奥へ奥へと流れているのでこちらにニオイが流れてこないのだ。


 僕は王海竜の鱗を3枚取りだした。入口からぽいぽいと奥に向かって投げると、ほんのりと中が明るくなる。

 ……執務机? 壁際に机が1つ。その隣にはベッドがあった。

 反対側の壁に戸棚が1つ。ただ棚板が朽ちている。載せてあった長く大きな木箱が斜めになっていた。

 奥の方は……水瓶がある。炊事場だろうか。


 戸棚の横、壁には剣をかけておく場所があって、錆びついた槍、チェーンメイルも置かれてある。

 ブーツは腐ってぼろぼろだ。


 監視者。なるほど。武装兵がいたのか。

 どこかの国の兵士が滞在する場所だったのかもしれない。


 入口と左右にはブロック塀があるけれど、奥は洞窟の剝き出しの壁になっている。

 つまり、ここが終着点だということを示している。


「…………」


 妙だな……。


「おお、すげー。廃屋じゃん」


 冷静に観察していたら僕の横にラッキーが立っていた。


「あのねえ……さっき言っただろ。待ってろって」

「約束したのはナナで、俺じゃない。財宝に一番乗りー!」

「あ、おい!」


 ラッキーがどかどか入っていく。


「あーあ。ラッキーに出し抜かれるなんて、詐欺師もまだまだだね」

「いや、出し抜かれるとかそういうのは……っていうかラッキー、元気じゃないか……」

「危険がないってわかったから元気になった」

「まあ危険はなさそうだけども」


 監視所であれば、室内になんらかのトラップがある可能性は少ないだろう。生活空間にトラップが仕掛けられていたら落ち着かないじゃない?

 それでも違和感はあるんだけど……さっきのトラップの位置もそうだし、この監視所にも違和感があるんだ。


 僕とナナも監視所に入った。

 僕は真っ先に執務机に向かう。机の上にはなにもない。抽斗を開けてもなにもない。きれいさっぱり持ち去られている。

 一方、戸棚にあったデカイ木箱にとりかかっていたラッキーだったけれど、釘打ちされているようで開かず、ふてくされて隣にある武器へと向かう。

 僕はベッドを確認する。なにもない。ホコリが積もってて汚いけどね。

 奥の水瓶も……カラッポだ。見事なものだ。

 ただ炊事場には乾ききった野菜らしきものが転がっている。錆びた包丁もあるし、手鍋もあった。手鍋の中は茶色く干からびたなにかが入っていた。ニオイは嗅がないでおこう……。

 調味料もあるね。岩塩、胡椒の粒、それに僕も見たことのない瓶詰めの……オイルだろうか。


「ねえ、詐欺師」


 ナナが失礼な肩書きで僕を呼ぶ。

 彼女がいたのは僕のすぐそば——竈の前だ。かなりしっかりした石造りで、巨大な鍋が置かれてある。こちらも同様に、干からびたなんらかの物体がある。

 ナナは竈を指差した。


「これ、変じゃない?」


 竈は黒くすすけていた。炭や灰が残っている。

 かなりの火力を出せそうだ。スペースは大きい。

 僕はにやりと笑った。


「——気づいた? ナナは、冒険者に向いてるね」

「べ、別に詐欺師に褒められてもうれしくないし」


 だから詐欺師は止めぃ。うれしそうな顔して。


「ちなみになにが変なのか、ナナの考えを教えてくれないかな」

「ここ、室内じゃん。室内に竈はないでしょ」

「でも台所なら屋内にあるよね? 竈を置くよね?」

「ううん、そういうことじゃない。ここは洞窟の中でしょ? しかも行き止まり。こんなところで火を焚いたら部屋中煙っぽくなるよ」

「そのとおり! よく気づいたね」


 いい読みだ。ほんとうに冒険者向きだよ。

 僕の違和感のひとつは、それだ。


「気づいたのはそれだけ?」

「……えっ?」

「実はもう“ふたつ”、この台所セットにはおかしいところがあるんだ」

「なになに? わかんないよ」

「人差し指を口でくわえて濡らしてみて」

「はむっ」

「ぼ、僕のじゃないって。自分のを」


 人差し指を立ててみせた僕のをナナがいきなり口でくわえてきた。

 舌が当たってちょっとドキドキしてしまった。

 なにやってんだ僕は……5歳くらいも年下の相手に……確かにナナはかなりカワイイほうだとは思うけども……。

 ナナは自分の人差し指をくわえる。


「ひゅふぁふぇは」

「濡らすだけでいいから。——すーすーするよね? これはさ、風がどちらから来るかがわかるんだ」

「ああ、すーすーするほうが風上ってことね」

「どっちから風は来てる?」

「入口のほうから来てる」

「変じゃない?」

「なんで? ——あっ」


 ナナは気づいたようだ。

 そう、洞窟の入口からずっとこっちに風が流れている。

 だからこそ僕は「別の出口があるはず」とにらんでやってきたのだ。

 にもかかわらず、ここはどん詰まりである。


「詐欺師! ここ! ここに風が来てるよ!」

「あのねぇ、詐欺師は……」

「すごい? あたし、自分でわかってすごいでしょ?」


 目ぇキラキラしてる。まあ、いいか。もう僕は詐欺師で。


「そうだね。この“竈”に空気が流れ込んでる」

「……なんで?」

「それは——」


 もうひとつの違和感とつながっている。

 なぜ、執務机やベッドの周辺にはなにも残っていないのに、台所周りは野菜や調味料や包丁などが残っているのか——。

 持ち去るのを忘れたのか。まあ、そうかもしれないね。でも机周りはきれいさっぱり荷物を運び出している。計画的に撤退したのは間違いない。それなのに料理が入った手鍋を残していくだろうか?


 推測したのは、“違和感を隠すため“ではないかということ。

 ナナが言ったように、“ここに竈があっても不自然ではないよう”に台所であることを主張している。これみよがしに。



 なにかが隠蔽されている。



 僕は確信に近い思いを抱いていた。

 竈をのぞき込む。

 ふつうなら竈の中をのぞき込んでも、煤で真っ黒だったらそれ以上は調査しないよね? 暗い洞窟の奥ならば、煤の黒さは闇を隠蔽するのに役に立つ。明かりを向けても光を吸収してしまうからだ。

 洞窟の壁があるのだからここは行き止まり。

 竈の中に、空洞があって——まさか“洞窟の奥”につながっているとは思わないだろう。

 スペース的にも匍匐前進で奥へ行くことができるはず——。


 さて、ナナになんと説明するべきだろうか。

 変なこと言うと「奥に行きたい!」と言い出しかねない。

 財宝がある可能性は捨てきれないけど、それ以上に僕はヤバイものがありそうな気がするんだよね。

 だって「監視所」だよ? 財宝を監視するわけじゃないでしょ。

 僕はこの山から外を監視しているのかと思ったけど、今では“逆”じゃないかって思ってる。

 この洞窟の奥にあるなにかを監視していたのだ……と。

 そうなると入口のトラップも、外敵の侵入を防ぐのではなく、中からなにかが外へ逃げ出すのを防ぐためのものではないかという気がしてくる。

 兵士が時間を稼ぐ隙に入口を塞ぐ……それは命がけの任務だ。


 妄想しすぎかな。

 まあ、一度ちゃんとした探索の手を入れたほうがいい。それにはトレジャーハンターではなく魔物専門冒険者(モンスターハンター)が向いている。

 ここを出たら冒険者協会に連絡しよう。

 とりあえずナナとラッキーには適当なことを言って……。


「よおし! ここを俺たちの拠点にしよう! 俺が将軍(ジェネラル)ラッキーだ!」


 ラッキーは錆びついた兜と錆びついた剣を装備して、執務机のイスにふんぞり返っていた。

 よくもまあ、そんな錆びたものを頭にかぶれるなぁ……。


 そのとき、


「——ラッキー」


 呆然と、ナナが言った。



「その人だれ……?」



 ラッキーの背後——背後にはブロック塀しかない。

 ブロック塀から半身が現れていた。

 青い半身。

 死霊(レイス)だ——。


「は? ……あ、ああ、あああああああ!?」


 レイスはラッキーを抱きすくめるように動いた。僕はとっさにパチンコを構える。レイスに物理攻撃は通じない。でも魔法なら倒せる。魔法弾丸(マジックバレット)なら。

 でも、今撃てばラッキーを巻き添えにする。最悪殺してしまうかも——。


「ぐ、うぐ、ぐぐぐ!?」


 ラッキーが青ざめる。苦しそうに口から泡が漏れる。


「きゃあああああああ!?」


 ナナが叫んだのも無理はない。

 ラッキーのいる場所の反対——最初にラッキーが取り付いていたデカイ木箱。

 みしみしみしと音を立てて木箱が破られていく。中から、骨だけとなったモンスター、スケルトンが出てきた。

 スケルトンは、骨だけの身体のどこに力があるのか、木箱を破壊しながら室内に降り立った。手には錆びついたショートソードを手にしている。


 無音だった。2歩で間合いを詰めると、ショートソードをナナに振り下ろす。

 震えるナナは動くことができない。


「逃げろぉぉおお!」


 僕はナナの身体を横から押し倒すように回避した。地面に転がる。


「ナナ、ナナ! しっかりしろ! 動けるな!? 逃げるんだ!!」

「だ、ダメ……う、動かない、足が……」


 無理に立ち上がらせようとすると、その場にぺたんと座り込んでしまうナナ。

 完全に腰が抜けたというヤツだ。


「あ……傷、それ……」


 完璧に攻撃を回避することはできなかった。

 僕の左腕はばっくり斬られて血が流れている。正直、自分でも引くほど出ている。


「かすり傷だ」


 スケルトンがこちらを振り向く。殺る気満々といった顔だ。

 レイスは相変わらずラッキーを苦しめる。


 戦えるのは、僕ひとり。


「……ナナ、身を低くして、頭を抱えてて」


 だけど——こんなところでのたれ死ぬわけには、いかない。

 アンデッドモンスター2体に、僕は告げる。


「供養してくれるなんて思うなよ。僕は、トレジャーハンターだからな」


 パチンコを握りしめた。


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