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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第4章 3人のダイヤモンドグレード

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60 vs 王海竜(前)

戦いの途中で切るのもなんなので、一気に2話更新します。 1/2

 竜、それはあらゆる生物よりも強靱な肉体と生命力を持つ。

 羽が生えていたり蛇のような形状であったりと様々だけど、共通しているのはひとつ――デカイ。

 僕らが遭遇した王海竜もまた、ご多分に漏れずデカかった。


 ぬらりとした体表。鱗は僕の手のひらほどもある。

 首が長く、胴はずんぐりむっくり。足はなくて巨大なヒレが六枚ある。

 奥に大穴があって、海につながっているみたいだ。

 見上げるほどのサイズ。胴から上に伸びた首だけで20メートルはある。


 顔に赤い目が4つ。

 ヒゲも4本だ。

 獰猛な牙を剝き出しにして、すでに僕らを敵と認識している。



『ヴォゥヲゥヲゥォゥゥゥゥゥゥゥゥゥ』



 咆吼。

 鼓膜を持って行かれたかと思った。僕の身体が2センチくらい縮んだようにすら感じられた。

 すぐに悟る。この生命体には勝てない。僕はここで食われて死ぬのだと。

 目に涙がにじむ。


「うおおおおおおおおおおお!!」


 対抗するようにロンが吠える。

 その声で僕らは自我を取り戻す。

 心臓がすごい勢いで鼓動を刻む。危ない。僕は戦う前から負けるところだった。


 でも、そのわずかな隙で十分だった。

 王海竜はこちらが体勢を立て直すのを待つ気もなければ義理もないのだ。


「……ジェド!!」


 ロンが叫んだときには遅かった。


 ひとり、我に返るのが遅かったのはジェドと呼ばれた男だ。

 ロンと同じく分厚いカイトシールドを持っている。


 ジェドは、盾を構えようとした――けれど、遅かった。


「!?」


 口を開いた王海竜。

 発せられたのは――海水。

 超高圧で発せられた鉄砲水。


 海水砲撃は、ジェドに触れるや、彼の命を奪い去った。

 当たり所があまりにも悪かった。

 海水にまみれてピンク色のしぶきが舞う。

 その場に倒れる。


「ジェドぉぉおおおお!!」

「前を見ろ! 次は俺たちだぞ!!」


 倒れたジェドから止めどなく血が流れ出る。

 だけれど、誰も動けない。

 圧倒的な強さ。

 これが竜だ。竜なんだ。


「プライア様、治癒魔法を……」

「なにを言うんです。もう間に合うわけがないでしょう」


 女性の魔法使いが申し出ると、セルメンディーナが斬って捨てた。


「しかし、セルメンディーナ……」

「プライア様、蘇生魔法は使ってはいけません。ジェドを蘇生させても血を流しすぎています。この戦闘では使い物になりません。蘇生魔法1回で、致死性の重傷を数回治せるんですよ。全員が無傷で勝てるわけがありません」

「…………」


 セルメンディーナが押し切った。

 女性の魔法使いは真っ青な顔で唇を噛む――ひょっとしたらジェドと、個人的にも仲がよかったのかもしれない。

 蘇生魔法はとんでもなく魔力を使うのだろう。モラを見ていれば想像がつくけど、魔力を使い果たしたらプライアも気絶するのかもしれない。


「せええええい!!」


 前線はすでに動いていた。

 ツムが走り込んでいく。がら空きの王海竜の腹に槍を突き入れようとするが、直前に王海竜が下に向けて海水砲撃。すんでのところでツムや横に転がって逃げる。

 そこへ駈け込んだのがエリーゼだ。そして同時にニャアさんが鉄球を放つ。

 ふたりの攻撃は見事にヒット――するものの、跳ね返された。


「っく!? 硬すぎでしょ、こいつ!!」

「ダメにゃあ~~、まるで当たった感じがしにゃい」


 鱗が弾いたようだ。

 竜鱗はなまなかの金属よりはるかに硬い。


『――仇敵を貫く矢よ、ここに至れ――』


 そこへ魔法使いふたりが詠唱を重ねる。

 発現した魔力の矢は王海竜の顔面に迫る――が、王海竜の肌に触れる前に雲散霧消した。


「なっ……」


 魔法使いが絶句したときだ。


「バッケロイ! 竜相手に直接魔法が効くわきゃねェだろォが!!」


 モラが声を上げた。

 ぎくりとして魔法使いがこちらを見る――マントからモラが出てきて僕の頭に載った。


「てめェらそろいもそろって竜と戦ったこともねェのか!! 竜鱗に傷いれるにゃ魔法銀(ミスリル)かダマスカス、それにオリハルコンの武器しか通らねェぞ!」

「そ、そうだったのか……っていうかお前はなんだ!?」

「じゃかァしや! 魔法は一種しか通らねェ! どれが通るかはわからねェから順繰りに試すンだよ! 純粋魔力の魔法だけァ絶対に通らねェ!」

「は、はいっ、わかりました!」

「リンゴ! 俺っちをあのデカブツのところまで連れてけ!」


 モラがリンゴに飛び移った。


 総力戦だ。

 武器は、槍の刃を取り替えられるツムがミスリル製のものに交換したが、ニャアさんやロンはそういった武器はナイフしか持っていなかった。

 一方、セルメンディーナの装備は弓だったため、鏃がダマスカスとミスリルのものとを数本ずつ所持していた。

 エリーゼは武器がないので待機だ。


「ううう、聞いてないわよ、そんな武器制限があるなんて……」

「しょうがない。僕だって知らなかった」

「知ってるモラがおかしいのよ」


 魔法使いは順番に精霊使役の魔法を唱えていく。

 水、ダメ。土、ダメ。氷、ダメ。電気、ダメ。木、ダメ。


「まさか……」

海底(ここ)で一番相性悪い、これなの……?」


 効いたのは、火炎魔法だった。

 放たれたファイアボールは王海竜の鱗に触れるやあぶくを立てて肉を焼く。


『アアアアアアァァァァ』


 魔法が通っている。

 叫び声がこだまする。僕らの声が一切聞こえなくなるほどにうるさい。


 精霊使役の魔法は、魔法を使用する環境によって効果が左右される。

 砂漠の真ん中で水の魔法は使えないし、水中では火を使えない。

 ここは海底で湿度も高い。

 火炎や炎熱魔法を使うのに、まったくもって向いていない。


 それでも、通じる魔法が火炎系ならば使うしかない。

 魔法使いは数発撃っただけで肩で息を切らし始めた。

 もともと魔法は、何度も何度も繰り返すことに向いていない。

 ましてや精霊使役の効率が悪い場所ならなおさらだ。


『――深淵に棲む呪王ゲライアスよ、お前ェさんの力をこの身に貸せィ。昏きまどろみのごとき朽ちた扉を開け。業の深き者へ世の理を阻む石の呪いを――』


 モラの詠唱が戦闘の騒音を割って響く。

 聞くだに鳥肌が立つようなその詠唱は、呪術に連なる魔法だ。

 リンゴが走り込んでいく。

 王海竜の口から海水砲撃が発射される。

 リンゴが走り去った一歩後ろを、撃ち抜く、撃ち抜く、撃ち抜く。


 跳躍した、メイド。


 王海竜の背中に到達するや、モラの身体から灰色の煙が噴き出す。

 煙は王海竜の皮膚にまとわりつく。


『ォォォオオオオオオオオ』


 石化だ。

 効いている。

 王海竜の肌の、一メートルほどが灰色になる。


 でも致命傷にはならない。身体全体からすれば、石化範囲はほんの一部だ。


「なぁるほど――そこを叩けってわけね」


 僕のそばにいたエリーゼが走り出す。

 ツムに気を取られていた王海竜の死角から、エリーゼは石化した部位へと大剣の一撃を叩き込む。

 石が削れる。

 そうか――石化によってむしろ硬度が低下しているんだ。

 さらに、竜鱗が剥がれた肉体には直接攻撃が効く。


「滅びなさい……!」


 セルメンディーナが引き絞った弓から、ダマスカスの矢が発射される。

 王海竜の首に突き刺さる。深くはない。だが、刺さる。

 彼女は続けて二射、三射と放つ。


『アアアアアア』


 王海竜がセルメンディーナを捉えた。

 弓を構えていた彼女は、回避行動ができない。

 竜の口から海水砲撃が発射される――。


 鈍い金属音が響き渡る。

 しぶきが白く飛んで彼女たちの周囲が一瞬見えなくなる。


「っぶねぇなあ……このトカゲ野郎が」

「ロン!」


 カイトシールドでロンが海水砲撃を完全防御した。


鋼鉄の身体(メタルフィジクス)の魔法を使った。俺は動けねえが、水ごときに負けることもねえ」


 見ればロンの身体が鈍い金属の光沢を放っている。

 身体を鋼鉄のように固くする防御系の魔法だ。初めて見た。

 移動は大幅に制限される。でも、固定砲台の防御ならお手の物だ。


 そこからは僕も参戦した。

 パチンコにつがえた爆炎弾丸(フレイムバレット)をすべて使い切る。

 王海竜の身体は炎、石化、直接攻撃によって血まみれになっていく。


 行ける。倒せる――。

 そう、思った。


「……なん、だよ、これ……」


 ツムが絶望的な声を漏らした。


 王海竜の周囲に展開する、青色の魔法陣。


 本来、こういった魔法陣を利用するのは、僕が持っている回復のスクロールであったりとか、固定型の魔法装置だ。

 でも、利用するのは人間だけじゃない。

 ごく少数のモンスターは魔法陣を展開することで、使えるんだ。



 魔法を。



『――――――――』


 王海竜の口が開かれる。声なき声で叫ぶ。

 魔法の効果はすぐに現れた。


 凍りついたんだ。


 この空洞全体が、凍りついたんだ。


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