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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第4章 3人のダイヤモンドグレード
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59 青海溝(5)

「いや、でもその、ローグはもうふたりも」

「ローグは固定のメンバーではありませんので、ノロットさんがパーティーに入られるのでしたら入れ替えを行えばよいだけです」


 え、ええ〜。そんな、無理矢理な。


「ノロットさんほどの才能ある方と組めればすばらしいことだと思うんです。それに……私、ノロットさんとなら、いいパートナーになれるんじゃないかな、って……」


 パートナー……。

 パートナー!?

 それってアレですか、“もう一歩先のふたりの関係”ってことですか。パーティーメンバー以上恋人未満なパートナー関係ですか。い、いや、ひょっとしたら恋人以上ということもワンチャン……?


「……ノロット様、そろそろお休みになりませんと」

「ふぁっ!?」


 すっくと立っていたリンゴに僕はぎくりとする。リンゴの接近に気づかなかったのはプライアも同じだったみたいだ。


「あ、セルメンディーナが起きちゃう——ノロットさん、是非考えておいてくださいね」


 見る者すべてを虜にするような笑顔を浮かべると、プライアは立ち上がって去っていった。

 ほえー……かわゆいのう。かわゆいのう。


「……ご主人様」


 真冬の夕暮れどきみたいな冷たい声に僕は背筋をぴんと伸ばす。


「くれぐれも、妙なお誘いに乗りませんよう」

「わ、わかってるよ……」

「ほんとうですか」

「アレでしょ。社交辞令ってヤツでしょ」


 僕が言うとリンゴのほうが「え?」という顔をした。


「まあ、さ。僕なんかを本気で誘うわけないもんね。プライアさんほどの人ならローグだって選びたい放題だろうし」

「あの……ご主人様、プライア様がその場の戯れで誘いをかけてきたのだと?」

「だから、わかってるって」


 僕とパートナー……って、ねえ。釣り合わなさすぎるもの。あんなキレイな人。

 いいなあ。あれほどキレイだったら、人生楽しそう。あ、いや、親に捨てられるとかそういうショッキングな過去もあるか。


「僕が、向こうのパーティーメンバーがあれこれ言うせいで気弱にならないよう、励ましてくれたんだよ。やっぱりいい人だね、プライアさん」

「あの……ご主人様。それは違うと思いますが。ご主人様はもう少しご自身の価値をおわかりになったほうが……」

「価値?」

「……いえ、なんでもありません。今日はもうお休みになったほうがよろしいかと思います。睡眠は冒険に必要なものですから」

「そうだね。今日はもう寝よう」



   ×   ×   ×


「……ノロットはもう寝たかァ?」

「はい。ぐっすりとおやすみです」

「ったく、こいつァ、まァたリンゴにひっついて寝てやァがる」

「わたくしとしてはこれ以上ないご褒美タイムです」

「お前ェさんも甘やかすンじゃァねェよ。ヨダレもぬぐえ。……だが、今回のことはちっとばかしひやっとしたな」

「……やはり、モラ様のお見立て通りでしょうか」

「うゥむ、まだはっきし“こう”とは言えねェが……プライアのヤツ、なんか“裏”がある感じがするなァ。これでノロットが魔法に詳しくねェことはバレたしな」

「狙いはなんでしょうか。もともと先方は、ノロット様を『翡翠回廊』『煉獄門』を踏破した“魔法に詳しい冒険者”と見ていた。それが、詳しくないとなったら……」

「パーティーに引き入れる意味なんざねェよな。まァ、アレがただのカマかけだとしてもだ、魔法の知識を欲しているのかもしれねェが」

「……先方のパーティーは十分戦闘力があり、この遺跡にはトラップがありません。魔法の知識は必要ないのでは?」

「それァ俺っちたちが知っているのはその程度しかねェからな」

「と、おっしゃいますと?」

「俺っちたちの知らねェ“なにか”がこの遺跡にあるかもしれねェッてことだ……3人のダイヤモンドグレード、それに失われし技術(ロストテクノロジー)か……」

「“なにか”、でございますか」

「頼むぞリンゴ。気がついたことがあったら俺っちに言え」


「はい。ノロット様は……“あの方”のご子息ですから……」


「…………」

「…………」

「……そンな裏設定あったっけかァ?」

「いえ、なんとなく言ってみたかっただけでございます。そういうふうに考えるとテンションが上がりませんか?」

「上がらねェよ」

「うふふ、ご主人様の寝顔、ぺろぺろしたい……」

「止めとけ。絶縁されるぞ」


   ×   ×   ×



 翌朝——と言っても時計が朝だと指しているだけだけど、すっきりと目覚めた僕らは「青海溝」の探索を進める。

 ほんのちょっとプライアと目が合うと、彼女は小さく笑って見せた。

 んもう! かわいすぎない? ぼ、ぼ、僕、昨日のお誘い本気にしちゃうぞ? しちゃうぞ? 社交辞令なんてクソ食らえだ!


「シーゴーレムですね」


 リンゴは僕を守るように前に立つ。

 その後ろ姿はここが海底洞窟の奥地だということを忘れてしまうほどにパリッとしている。毎晩僕らが眠っている間に、簡単な汚れ落としをして、破れた部分も繕うみたいだ。

 まあ、僕のマントとかも洗ってもらっちゃってるのでありがたいとしか言えないところ。


 シーゴーレムとの戦い方は、昨日の1回の戦闘でみんなコツをつかんだらしい。

 直接攻撃でダメージを与えられるツムやエリーゼは攻撃をするが、他のメンバーは魔法攻撃の準備が整うまで臨戦態勢を維持という感じ。

 昨日の半分ほどの時間でシーゴーレムは倒れる。


「ん……ちょっと待って」


 そのとき僕は妙なニオイを嗅ぎ取った。

 ロンとツムが倒れたシーゴーレムをつついて、なにか宝石でも隠していないかと探っているときだった。


 僕らがいたのは相も変わらず巨大な通路だった。

 左右に細い坑道が枝分かれしている。

 クズ石炭の山があちこちにある。


「どうされましたか?」

「えと、ちょっと嗅ぎ慣れないニオイがあって……」

「ゲオルグの地図ではこのまま直進のようですが」


 僕はプライアの差し出した地図を確認する。確かに彼女の言うことは正しい。

 でも僕の鼻は嗅ぎ取っていた——そう、初めてリンゴに会ったときのニオイに近い。

 機械油のニオイ。


「この細い坑道からニオイがするんです」


 僕はひとつの坑道を指した。

 人ひとりがやっと通れるほどの狭い坑道だ。


「早く先に進んだほうがいいんじゃないのか」

「藪をつついて蛇を出してもなあ」


 プライアパーティーから反対があったけど、


「ちょっとだけ見てきていいですか?」


 僕は無理を言ってひとり、中に入った。


 カンテラの光を掲げる。光が届かない先は、塗りつぶしたような漆黒だ。

 いや、光が届かないんじゃない。

 すぐそこにクズ石炭が山になっていて、石炭の漆黒が光を吸っているんだ。

 手袋をはめて石炭をどけていく。そこには——。




「なんだ、これ……?」


 みんなでそれを囲んでいた。

 僕がクズ石炭の山から——隠されるように置かれていたそれは、両手で抱えるほどの大きさの、「箱」だった。

 宝箱の類じゃない。

 鉄製の箱だ。錆びついている。

 レバーやスイッチみたいなもの、計器がいくつか、そしてコップのような形をした金属が取り付けられている。


「……音、通信……しか読めませんね」

「え、プライアさん、この言語読めるんですか!?」

「断片的にですが」


 箱の側面に書かれていた文字は、僕はもちろん、リンゴもモラも読めないものだった。

 ギルドカードの背面に書かれていたアレによく似ている。


「ということはこれも、過去の機械なんですかね」

「間違いないでしょう。重いようですし、帰りに持って帰るのがいいかもしれませんね」

「ねえ、ここになにかはめこむような穴があるけど?」


 エリーゼが指差したところは、確かに、なにかがはめ込まれていたような跡がある。


(魔法宝石みてェだな)


 モラがこっそり教えてくれたので、僕は道具袋から魔法宝石(ガーネット)をひとつ取り出した。

 実はこの魔法宝石は、「黄金の煉獄門」の最奥にあったものの一部だ。

 魔術師ギルドに半分は提供したけど、残りの半分はパーティーで山分けにしたのだ。

 モラの魔力補給に使えるから、僕らは持っていて意味があるしね。

 一応10個ほどある。


 僕が魔法宝石をその穴に置くと——サイズはちょっと合わなかったけど、その機械は、


『——ガガッ……ピィー…………ザザザザ…………』


「音が出た!」

「怖いにゃ」

「なんのための機械なんだこれ」


 僕らはそれからあれこれいじってみたけど、他に特筆すべき反応はなかった。

 遠距離でも声を飛ばすことができる機械ではないか——というのがプライアの推測で、僕もその辺が妥当な気がした。


 なぜ、こんなところにこの機械があるんだろうか。

 ここに至るまで、「63番ルート」はただの洞窟に近かった。整地されている海底洞窟、である。

 炭鉱に眠っているという太古の機械は見かけていない。

 冒険者がすべて持ち出したのではなく、どうやら最初からほとんどなかったようだ。

 これほど大きな海底炭鉱を、なんらかの動力もなく掘っていくのは難しいはずだ。

 であれば、ここを引き払うときに機械も持ち出したと言うほうが正しいかもしれない。


 なにがあったんだろう。ここに。

 機械を持ち出して逃げた人々は、どんな事態に直面したのか。

 僕が見つけたこの音が出る機械は、なぜこんな場所にあるのか。


 よく見ると、僕が入った横穴は、穴の上に「×」の切れ込みがあった。

 明らかにこの機械を“隠した”のだ。

 誰がなんのために? この機械はなにができる?


 稼働中の海底炭鉱から人々は撤収していく……なにかの事件があったせいだ。どんな事件かはわからない。それでも、ここにいる全員が——これほど巨大な炭鉱ならば数百人はいたはずだ——納得して立ち去るほどのなにか。

 しかも彼ら全員が、海底炭鉱について口を閉ざしている。

 いったいなにがあったんだろう? カチャカチャと機械をいじってみたけど、最初に音が出たきりでもう反応はなかった。


「ねえ、ノロット。あっちのパーティーはずんずん先行ってるけど」

「はっ」


 我に返った。とっくにプライアたちはこの場を離れていた。


「お前ェはよォ、遺跡が好きなのはいいが、探索の途中に妄想こいてんじゃねェよ。モンスターがいたらどうすんでェ」

「うっ……ごめん。先を急ごう」




「63番ルート」の探索は順調だった。

 いよいよ明日には最奥に到達するだろう、というところまで来ていた。

 こう思うと「黄金の煉獄門」よりはるかに楽、のような気がしてしまうけれども、それはプライアパーティーに負うところが大きい。

 彼らは大口を叩くだけあって、どんな敵にも勇敢に立ち向かうし、切り伏せていく。まあその勇敢さは、大ケガをしてもプライアが治癒できるという安心があるおかげだろうね。


「広いな……」


 その空洞は、最奥の手前に位置する巨大な空間だった。

 天井も見えない。

 曇っている真夜中に外に出たらこんな感じかもしれない。


 これまで以上に、そこは潮の香りがしていた。

 ぴとん、ぴとん、と水が滴っている。

 たぷん、たぷん、とどこかに海流が打ち寄せている。


「“来る”……」


 誰が言ったんだろうか。

 誰も言わなかったのかもしれない。

 みんなが“そう”感じただけかもしれない。


 でも、そう言う以外なかった。「来る」と。


 巨大な気配がこの空間に立ちこめる。

 すぐさま全員が臨戦態勢に入る。

 これまでの戦闘が、準備運動に過ぎなかったのだと知る。

 これから起きる戦闘こそが「63番ルート」の最大の脅威なのだ。


 暗闇に、赤い目が四つ光る。


 生物の頂点に君臨する種族——。

 王海竜が姿を現した。


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