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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第4章 3人のダイヤモンドグレード
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58 プライアの話

 プライアパーティーは、基本的にローグの2名が交代で番をするらしい。「ウチらは戦闘力外だからな」と寂しげに笑っていたけど、やっぱりふたりは固定のパーティーメンバーではないから扱いが悪いみたいだ。

 ネコミミじゃないローグの人は僕の視線に気づいて小さくうなずいてみせた。「あんまり遠くにいくなよ」という意味なのか「ちゃんと警戒しているから大丈夫」という意味なのか「お互い大変だな」という意味なのかわからないけど、なんとなく僕らの間に生まれたシンパシー。


「一度ノロットさんとお話ししたかったんです。でもふだんは……」

「ああ、パーティーメンバーの方々がうるさいですよね」

「申し訳ありません。失礼が過ぎまして」

「いえいえ。僕が未熟な冒険者だというのは間違いないですし」

「そんなことは――ノロットさんは謙遜が過ぎます。行きすぎた謙遜は逆に悪印象ですよ」

「えっ。悪印象ですか……」

「あ、その、私には好印象ですが……」


 あわてて言い直すプライア。

 聞いた? 好印象だって! ならいいや。「謙遜のノロット」で行こう。得意技は「行きすぎた謙遜」。


 僕とプライアは2パーティーから離れた中間地点あたりに移動した。

 壁を背に並んで座る。

 カンテラではなく僕が持っている蛍光石(ライトストーン)を地面に置く。

 モラが作ったやつだけど、ライトストーン自体は珍しいものではないのでプライアも驚かない。


「あの……それでお話とは?」

「――やはりノロットさんは私のことが嫌いですか?」


 ……え?


「こうやって話しかけるのはご迷惑……ですよね」

「そっ……そんなことないですよ! 迷惑なんてあるわけないです。もっと話したいくらいです。た、ただ僕がちょっと会話とか得意じゃないし、あのー、その、プライアさんとかすごくきれいだから緊張するというか」

「え? そ、そんな、私なんて全然……きれいなんか、じゃないです……」


 小さく縮こまるプライアと僕。

 いやいや、きれいだしカワイイし、おいおい、そんなふうに照れてるところも最高じゃないか。


「こんなことを聞くのは立ち入った質問かもしれませんが……どうしてノロットさんは『魔女の羅針盤』をそこまで必要とするのでしょうか?」


 あー、やっぱりそこ気になるか。気になるよねえ。


「すみませんが、ちょっと話せないですね」

「そう、ですか……失礼しました。私のパーティーメンバーが、『ふつう、魔女の羅針盤の使い道なんてない。なにか特殊な使い方で悪いことを企んでいる』といったことを言っていたので」

「え、ええ!?」


 そんなふうに思われるのか。

 たしかに、僕だって「魔女の羅針盤」に大金をはたいている人がいたら「こいつなにかあるな」って疑うよなあ……。

 プライアが僕に直接聞いてきたのは、常識的に考えれば僕がよほど疑わしい行動をしていたってことかもしれない。好意的に考えて。


「ええと、あの、そんなに変な使い方じゃないというか……どうしても僕たちには探さなきゃいけない魔女がいるってだけなんですよね」

「あれほどの大金を払ってでも?」

「あれほどの大金を払ってでも、です」


 言うと、プライアはほっとしたようだった。

 パーティーメンバーに話して僕の擁護ができると思ったのかもしれない。


 それから僕らはいろんな話をした。

 プライアは僕よりずっと年上のはずなのに、見た目も若いからだと思うけど、気楽に話せるのが不思議だった。

 信じられないくらいきれいだし。

 そう、僕はどんどん彼女の魅力に吸い込まれていき、口にするのだ――どうでしょう、戻ったらディナーでもいっしょに……。


「私はエルフですが、やはりノロットさんもエルフが“海”にいると変だと思います?」

「そうですね。エルフは森の番人というイメージがありますから」

「実際そうなんですよ。生まれ育った森にずっと籠もっているエルフばかりです。私は……捨てられたのです」

「え?」

「大火事になりまして。私の家は、珍しく大家族でした。お父様とお母様は私を連れて行くことはできないと……家の召使いだったセルメンディーナに託して別々に逃げたんです」

「そんな……ひどい」

「ひどいですよね。私も最初はそう思っていました。でも今になれば……当然の選択だなと思います。エルフの長老だった父は、一族だけでなく村全体を統率しなければならなかった。足手まといになる赤子を置いて行けと村人たちに命令する立場にあった。率先して我が子を捨てなければならなかったんです」

「…………」

「そう、理解できても、心は納得できていませんけれどね」


 重い話だった。


 プライアは、親に捨てられたことで森がイヤになり、海を目指したのだという。

 海に囲まれたグレイトフォールにやってきたのは偶然でもなんでもない。

 そしてプライアは、冒険者としての生活をスタートした――。


「ノロットさんはどうして冒険者に?」

「僕ですか? 聞いても面白くないと思いますけど……」

「あら、それでしたら私の話なんて面白いどころか不愉快でしたでしょう」

「あっと、いえ、そういうわけじゃなくて退屈というか」

「ノロットさんのお話は、なにを聞いても面白いです」


 抱えた膝に頬を載せてこちらをのぞき込むプライア。

 も、もう~そんなふうにお願いされたらなんでも話すしかないじゃないか~。


 僕はここに至る経緯を――モラのことは適当に誤魔化して話した。

 これまでにもモラを省いて経歴を話す機会は何度もあったので、その辺の作り話は僕の中できっちりできあがっている。


「ノロットさんはムクドリ共和国での冒険者認定証をお持ちなんですか?」

「ええ、プライアさんはグレイトフォール?」

「せっかくですから見せ合いっこしましょうか!」


 ぱん、と手を叩いたプライアは顔を輝かせていた。

 見せ合いっこだって? いったいなにを見せちゃうのかな~?


「私のはこちらです」


 もちろん冒険者認定証である。

 カードを僕も取り出し、プライアと交換する。


 前にも言ったと思うけど、冒険者認定証はカードタイプだ。

 金属でできていて、縦5センチ、横8センチ程度。

 僕のものも、プライアのものも同じ、真鍮製。

 で、僕らはジュエルグレードなので、グレードに相当する宝石が――ダイヤモンドが、埋め込まれている。

 表面には名前と、発行した冒険者協会名が記載されている。

 年齢とかも書いていない。

 ただ、それだけといえばそれだけだ。


 特徴としては偽造ができないように魔法がかけられていて、ほんのりと白く光る。


「この魔法って偽造防止なんですかね?」


 プライアの冒険者認定証も僕のものと大差ない。大体同じくらいのサイズのダイヤモンドが埋め込まれていて、発行はヌルシエカ帝国グレイトフォール市冒険者協会。


「……そうですよ」


 わずかの溜めがあってからプライアが言った。


「紹介状の署名とか、お金に換えてくれるプレートも同じように偽造防止の魔法がかけられていますよね」

「ええ……そうですね。同じ系統の魔法だと聞いています」

「これが発動用のスペルなんですかね?」


 僕はカードを裏返す。

 そこに刻まれているのは何語だかわからない文字だ。

 ちなみにモラも読めないし、リンゴはもちろん、僕がこれまでに出会った誰もが読めないと言っていた。これには冒険者協会の人も含めるのだから驚きだ。


「そう、だと言う人もいますね。完全に解析が終わっていないので」

「……解析、って?」

「『青海溝』は海底炭鉱だったじゃないですか。そしてここには当時使われていたであろう採掘用機械が眠っている」

「ああ、そうですね。展示もされていました。失われし技術(ロストテクノロジー)ですね」

「太古の魔法技術でこの冒険者認定証も作られているんです」


 え、そうなの?

 だからか。「解析が終わっていない」っていうのは。

 冒険者協会は解析が完全に済んでいないものの、なんとか使いこなしている。

 これら特殊な魔法を組合(ギルド)魔法と呼ぶのだとか。


 太古の昔は、今よりもはるかに魔法技術が進化していたという。

 戦争によって失われたとも、天変地異によって失われたとも言われている。


「青海溝で接収できる機械や、設計図は非常な高値で取引されています」


 それが「青海溝」をトレジャーハンターが訪れる理由、というわけ。

 お金にならない機械を集めて財宝(トレジャー)ってのも変だよね。

 一応、機械や設計図に価値があるってことは知ってた。

 どうして価値があるのかという理由は初めて知ったけど……。


「ふふ。ノロットさんはほんとうに遺跡に潜ることが目的になっているんですね」


 これは遠回りに「遺跡バカ」と言われたのかな?


「そ、それはプライアさんも」

「私もそういった面がないとは言いませんが、もちろん打算もありますよ? ゲオルグはひとりで踏破したがゆえに、設計図しか持ち出していません。ですが設計図しかなかった、というのはあり得ないと思いませんか?」

「他にも金目になりそうな機械とかがある、と……?」

「金目、と言われてしまうとちょっと……と思いますが、でも、そうですね。おっしゃるとおりです。私たちは人数が多いですから、彼らに支払う金額も大きいですし。背に腹は替えられないという事情もあります。……呆れましたか?」


 むしろ好感度アップだった。

 情熱とか信念で潜られるより、理由がはっきりしているほうがわかりやすい。

 僕だって「魔女の羅針盤」を握られているからこんな高難度の遺跡にやってきたわけだし。


「よかった……嫌われてしまったらどうしようかと。ノロットさんは純粋な方ですし……あまりどろどろしたことは話さず、遺跡にかける情熱に訴えてお誘いしたのですが」


 これやっぱり、遠回しに「遺跡バカ」って言われてるよね?

 僕、「魔女の羅針盤」っていうはっきりした理由があるんだけど! あるんだけど!


「パーティーの維持にそんなにお金がかかるんですね」

「ええ……大所帯ですから。安全性を最優先にしないとセルメンディーナが遺跡に向かうことを許可してくれないのです」

「大変ですね」

「ええ……。あ、そうだ! ノロットさん、もしよければ――この探索が終わったら私のパーティーに入りませんか?」


 ほう……って、ええ!?

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