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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第4章 3人のダイヤモンドグレード
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54 青海溝(1)

「ゲオルグ様、お耳に入れたいことが」

「なんだ」

「やはりプライアはノロットに接触したようです。“友好的”な話し合いに終わったと見てよろしいかと」

「ふん、そうか」

「すべてはゲオルグ様のお見立てどおりでございます」

「……世の中、そううまい話があるわけではない。それに気づくには、あの小僧は若すぎる。『翡翠回廊』も『煉獄門』も運が味方して踏破できたんだろう」

「仰せの通りかと。プライアに出し抜かれるのであれば所詮その程度の男だったということでしょう」

「甘い香りは人間をおびき寄せる……そして、食う」

「まこと、恐ろしい女です」

「準備をしろ、セバスチャン。忙しくなる」

「はっ」


「プライアもノロットも、この俺の駒に過ぎん。



   ×   ×   ×



 準備のために与えられた期間は3日だった。とにかくプライアは遺跡に行きたい気持ちが前のめりになっているらしく、セルメンディーナたちが「せめてオークションが終わるまでは」と押さえつけていたらしい。

 オークションは終わった。プライアは今すぐにでも「63番ルート」に挑みたい。

「極めつきの遺跡バカだァな」とウチのカエルが言っていた。まったく同意だけど、僕としてはプライアの気持ちがすごくよくわかるだけに複雑である。


 プライアが言うには、僕らが遺跡について再度資料に当たる必要はないと。遺跡内部のレクチャーは遺跡に入りながらでもできると。

 遺跡についてプライアたち以上に詳しい人間はいないと自信を持っていたし、実際、冒険者協会に行って聞いてみても似たような返事があった。

 ただそれでも、僕らが100%プライアを信じることはできない。僕らなりに3日間で調べることにした。


 あ、そうそう。

 僕らの能力についてはまだ話していない。モラの存在についても。

 あと「どうしてもきつかったらすぐに引き上げる」という言質も取ったので、なにかあったらすぐに逃げ帰ろうと思う。


 食料や備品の購入。

 資料の確認。

 そんなことをしているだけで3日なんてあっという間に過ぎた。




「おはようございます。体調はいかがですか?」


 遺跡に挑む朝、プライアと合流した。


「体調はいいですよ。ちょっと寝不足ですけど」

「まあ」

「遺跡が楽しみで、興奮しちゃって……」


 僕もたいがい遺跡バカだと思う。


「そうなんですか! 私もなんです!」


 プライアがうれしそうに手を叩いた。

 ヤバイ。僕ら気が合いすぎ。これはもうなんていうかアレだよ。ふ、ふ、ふたりはもう……仲良しだよ。違うよ。言わなきゃだよ。「僕たち気が合いますね。どうです、遺跡から戻ったらディナーでも」みたいなことを。言えないよ。言えるかよ。僕は奥手なんだよ。わかってるよ。意気地なしだよ。


「……どうしました? なにかブツブツとおっしゃって」

「い、いいえ、なんでもないです。これがマップです」


 僕はセバスチャンからもらった「63番ルート」のマップ複製の、さらに複製をプライアに渡した。念のため原本――原本だけど複製――も渡す。お互いのパーティーがバラバラになる可能性はゼロじゃないからね。

 セルメンディーナたちが複製同士を確認する。問題なし。当然だよ、お金を払って業者に頼んだんだもん。自分たちでやるには時間が惜しかった。


「では参りましょう」


 僕らはグレイトフォール下層に位置する「青海溝列車」の停車場(ステーション)にいた。

 グレイトフォールにやってくるときに見た海上列車だ。

 あのときはまさか4日後にこの列車で伝説級遺跡に挑むことになるとは思わなかったよ……。


「プライア様だ」

「きゃーっ!」

「プライア様ー!」

「セルメンディーナ様も、相変わらずお美しい……」

「どうぞご無事で!」

「女神ヴィリエのご加護がありますように」


 どこで話を聞きつけたのか、停車場には多くの人が見送りに集まっていた。

 どうやらプライアのファンらしい。プライアは「青海溝」に軸足を置いて活動しているし、「地元の英雄」みたいなところがあるんだろうか。

 彼らのパーティーの後ろから、こそこそと列車に乗り込んだ。


 4両編成。

 1両目は機関車で、動力装置と反重力装置が積まれている。

 2両目から4両目は客車で、冒険者が乗り込む。

 僕らは1両目を貸し切りにしていた。

 各車定員は20名となっております。


 さて、パーティーの組み合わせだけど、


・ノロットパーティー


 ノロット……リーダー、マッパー、索敵、解錠

 (モラ)……魔法攻撃、魔法防御、状態異常治療、魔法解錠

 リンゴ……荷物運び(キャリア)、近接攻撃

 エリーゼ……近接攻撃、外傷治療 (ただし軽度)


・プライアパーティー


 プライア……リーダー、外傷治療、蘇生

 セルメンディーナ……中距離攻撃、魔法防御、状態異常攻撃

 男2名……防衛(タンク)、近接攻撃

 男1名……中距離攻撃

 男2名……索敵、解錠、魔法解錠、マッパー、トラッパー、荷物運び

 男1名……魔法攻撃、状態異常攻撃

 女1名……中距離攻撃

 女1名……魔法攻撃、状態異常治療、魔法防御



 うーん、この。

 圧倒的な力の差。


 ちなみに他の方々の名前は聞いたけど一度では覚えられなかった。

 人間だけじゃない。

 セルメンディーナはエルフだし、他に男に2人亜人がいる。

 年齢は20代から30代と言ったところだろうか。防衛を担当している男の人が最高年齢らしく、みんなから「隊長」とか呼ばれていた。

 ちなみに防衛は、敵の注意を引きつけて攻撃を受け止める役だ。


 プライアが「戦闘力が売り」と言っていたのがわかる。

 人数的に10人のパーティーっていうのも多い。10人もいると仲違いやパーティー内で派閥ができたりするから大変なんだよね。

 でもそれを、プライアというリーダーが完璧な求心力でもって支えている。すごいことだよ。




 列車が動き始める。

 揺れが全然ない。線路の継ぎ目でガクンと揺れるくらいで。


「うわあ、すごいよノロット」


 エリーゼが子どもみたいにはしゃぐ。

 おいおい、21歳。


「おお、すごい!」


 僕もそんなことを言ってしまった。いいの、僕はまだ15歳だから。

 なにがすごい、って、線路の上を走ってるのは当然として、線路がさ、ちょっと海水に浸かってるんだ。

 そこを走って行くから、シャァァァと水しぶきがあがるんだよ。

 すごくない!?


「あら」


 くすくすとプライアに笑われる。無邪気に喜び過ぎたみたい。

 プライアパーティーの皆さんは眉をひそめている。

 わかります。「こいつと組んだのは失敗だった」と思ってるんですよね。


「ノロットさんはローグなのですか?」

「そう、ですね。大体そんな感じです」


 僕の手の内も明かしておいたほうがいいかな。

 隠すほどのことでもないし。


「僕は鼻が利くんです」

「……?」


 わからない、という顔で小首をかしげるプライア。

 くっそー、そんな顔でもカワイイ。美人は特だよ。


「索敵とかトラップとか、ニオイで判断するんです……って、わかりにくいですよね。まあ、それは遺跡に入ればわかるんじゃないかなと」

「ではそのときのお楽しみ、ということですね。ノロットさんが若くして偉業を成し遂げた秘訣を是非知りたいです」


 若くして偉業を成し遂げた秘訣だって!

 うぇへへへ。まあねえ。教えてあげないこともないけどねえ。

 どうです、遺跡から戻ったらディナーでも……。このセリフ、練習しておこうかな。


「ノロットさん、では『青海溝』の遺跡内についてですが、より詳しくはセルメンディーナが教えてくれます。すみません、私、乗り物に乗るとすぐに眠くなっちゃうので……」


 言いながら、寝た。早すぎィ。

 プライアは横に座るセルメンディーナの肩に寄りかかって寝ている。

 くっそー、寝顔もカワイイぞ。


「ではご説明します」


 他のメンバーと同じ「こいつと組んだのは失敗だった」という雰囲気を若干漂わせるセルメンディーナ。

 彼女はいろいろと説明してくれた。

 遺跡の構成。他のルートにどんなモンスターが出るか。この列車は特に深い遺跡に潜ることが多く、ジュエルハンターたちは違うルートを選択することが多い、とか。


 しばらくすると列車は滝の隙間をすり抜けて、暗闇に入る。

 暗くなる。

 滝音が遠ざかる。

 地中に入っていく。

 元は炭鉱用のトロッコ線路を、再利用しているみたいだ。


「――以上となります。なにか質問はありますか?」


 セルメンディーナの説明は終わった。


「あの、ひとつ気になってたことがあるんですけど」

「なんでしょう」

「『青海溝』はずいぶん昔に海底炭鉱として栄えたわけですよね。どうして、掘削は終わったんですか?」


 これは僕がずっと気にかかっていたことだ。

 そもそも、海底炭鉱として稼働していたのは1,000年以上も前らしい。

 当時の記録はほとんど残っていない。


「埋蔵石炭が枯渇したからでしょう」


 当然でしょう? みたいな顔をしている。


「でも今はジュエルハンターが潜るくらいに多くの鉱物が産出しているんですよね」

「地殻変動がありましたから」

威容を誇る大瀑布(グレイトフォール)もその一環だと?」

「いえ、グレイトフォール自体は海底炭鉱を使っていた当時からあったはずです」


 海底炭鉱が――グレイトフォールが再発見されたのは300年ほど前だ。

 航海中の船が流され、たどり着いた。

 当時は内海の陸地に、炭鉱の施設も残っていたらしい。


 グレイトフォールに展示室があった。

 残された炭鉱施設の一部を展示していた。

 錆びついた設備。フジツボみたいな貝をくっつけていた。

 海の中で稼働していたんだろうか。


「でも、おかしくありませんか? 海底炭鉱を放棄した人たちはどこに行ったんでしょう。グレイトフォールの位置を誰にも教えなかったんでしょうか?」

「その経緯はわかりません。記録に残っていませんから」


 そう。記録に残っていないのだ。

 セルメンディーナの言うことは理解できる。僕がああだこうだ言っても所詮は推測の域を出ないってこと。


 でも、記録がないからわからない、では思考停止じゃないか?

 それになんだか、この、海底炭鉱を放棄した――事実は、とてつもなく重要なことのように思えてしかたがなかったんだ。




 海上列車は30分ほど走ったところで停まった。

 広々とした空洞だった。

 カンテラがあちこちに焚かれているのでそこそこの明るさがある。


 冒険者たちが降りていく。

 僕らも列車を降りた。


 看板があった。


 ――11,12,17,38,98ルート

 ――6,24,25,26,48,51ルート

 ――29,30,63ルート


「63番ルート」だ。

 さあ、「青海溝」に乗り込もう。


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