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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第4章 3人のダイヤモンドグレード

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53 プライア(2)

 プライアの提案、それは僕とプライアが手を組むこと。

「63番ルート」を力を合わせて踏破すること。


「あのー……僕、グレイトフォールに来たばかりでちょっとよくわかってないんですけど。『63番ルート』って“なにが問題”なんですか?」


 すると、プライアのおつきの面々がざわつく。ひそひそする。僕のほうを怪訝な目で見る。

 おいおい。もうちょっと隠れてやろうかー? 見えてるよー?

 あとリンゴさん、にらまないでね-?


 いや、だってさ。変だよね。

 ゲオルグは僕に「再踏破」を依頼するし、プライアは協力して踏破しようと言う。

 1回踏破されたんでしょ? マップもあるよ?


「止めなさい。ノロットさんに失礼です」


 ちょっと真面目に怒ったように、プライアがおつきの人たちに言った。


「ノロットさんはオークションのためにグレイトフォールにいらしたということですよね? でしたらご存じないのも当然だと思います。順を追って説明しますね」




 プライア先生による「青海溝」講座が夜更けにスタートした。

 見ているだけでも目の保養になる美人なので、大歓迎だよ。


「まず『青海溝』ですが、これは海底に存在する洞窟と、太古の昔に利用されていた地下炭鉱との混成による大遺跡となっています。過去にほぼ石炭は採掘されましたが、以降の地殻変動により、希少鉱物が露出しており、それを狙った鉱物専門冒険者(ジュエルハンター)が多くいます」

「遺跡としての特徴は地下炭鉱ということですか。であれば炭鉱図が残っていそうですね」

「おっしゃるとおりで、大まかな炭鉱図が存在しています。先ほど申しましたとおり地殻変動で変更はありますけどね。そして炭鉱図に記されたルートごとのナンバーが、『青海溝』遺跡の遺跡名として現在も呼ばれています」


 そこまでプライアが話すと、エルフの女性が誇らしげに言う。


「プライア様は『青海溝』で最も多くの遺跡を踏破された方なのですよ。マスター(クラス)の遺跡を7つ踏破しているのです」

「7つも! すごいですね」


 僕が素直に感心すると、その女性は「そうだろう?」みたいな感じのドヤ顔をしていた。

 マスター級というのは伝説級の次に難しいと言われている遺跡だ。

 7つっていうのはすごい。

 その功績を評価されてプライアはダイヤモンドグレードなのだろう。


「セルメンディーナ……恥ずかしいのでそういうことは言わないでください。ノロットさんは伝説級の遺跡を2つも踏破されているんですよ」


 そのうち1つは、遺跡を造った張本人といっしょだったからなんとも言えない。


「あれ? ってことは、プライアさんはグレイトフォールで長く活動しているんですか?」

「はい。11年目になります」


 11年! ということは少なくとも冒険者になれる最少年齢が14歳なので、プラスすると最低でも25歳以上!

 よかったねえ、エリーゼ。

 この場で最年長の女性じゃないよ!


「……な、なによノロット」


 僕の視線に気づいたエリーゼが微妙な顔をする。

 失礼な。祝福の視線を。


「さて、説明の続きをしますね。――炭鉱図があるために『63番ルート』の存在は広く知られていました。しかし、350年もの間、誰も踏破することができませんでした。なぜかおわかりになりますか?」

「トラップ……じゃ、ないですよね。炭鉱にトラップなんて仕掛けてあるわけがない。ということは……」


 なんだかすごくイヤな予感がした。


「……モンスター、ですか……?」

「そのとおりです。『63番ルート』にいるモンスターは、近郊でも最強種と呼ばれる“王海竜”を始め、熟練の魔物専門冒険者(モンスターハンター)も倒すことは難しいと言われる、サウザンハンズ、シーゴーレム、エルダーバットといったモンスターの巣窟になっているのです」


 無理だ。これは無理だ。踏破は無理だ。

 相手が強いモンスターなら、僕らに勝ち目はない。

 王海竜のニオイがわかってどうするっていうの?

 頼みの綱はリンゴだけど、リンゴがひとりで竜種を――生物最強と呼ばれる竜を――倒すのはさすがに無理じゃないか。

「黄金の煉獄門」でもゴーレム、倒せなかったし。


「……私が考えるに、ノロットさんは魔法の知識がおありなのでは?『魔剣士モラの翡翠回廊』、『黄金の煉獄門』、ともに魔法を主体とする遺跡です」

「そのとおりです。竜を相手に戦うのは、ちょっと無理ですね……」


 どうしよう。ゲオルグの依頼、こなせないじゃん。

 今から断ろうかな……「魔女の羅針盤」も大事だけど命も大事だし。


「そこで協力してはどうかと思ったのです。私たちはこう見えて、戦闘力が売りのパーティーです」


 そうか、プライアの提案は「協力」だもんね。

 プライアが言うと、おつきの中の男が「筋肉バカって言われた」「バカ、事実だろ」「違いない」とか言っている。


「プライアさんも、ですか?」

「私は治癒術師です。蘇生魔法も使えます」

「そっ……!?」


 蘇生魔法!?

 それってめちゃくちゃすごいじゃない。

 国にひとりいればいいというほどの希有な才能だって聞いたことがあるよ。


「プライア様! どうしてそのような大事なことを言ってしまわれたのですか!」


 セルメンディーナが血相を変える。

 あ、マジで使えるんだ。


「そ、そうですよプライアさん。そんなこと言わないほうがいいですよ……ヘタしたらさらわれますよ」

「セルメンディーナ、ノロットさんも、ありがとうございます。ですが私はさらわれません。強い仲間がいますしね。それに――私から協力を持ちかけておいて手の内を明かさないのはアンフェアではありませんか?」


 なるほど。

 そんなことされなくても、にっこり笑顔で「お願い?」っプライアに言われたら「任せろ!」って言っちゃいそうだけど、僕。


「……あのー、たぶん、そんなにお役に立てないと思いますよ。プライアさんも言ったじゃないですか。僕らは魔法知識に寄ってて純粋な戦闘力と言われると……」

「そんなことはありません。ノロットさんは謙遜をされています。魔法知識だけでも十分です。」

「いやいやほんとに。僕らはたいしたことないんですから」

「たいしたことがない人に、伝説級の遺跡を踏破することはできません。なによりいいことには、私たちの目的は一致しているじゃないですか。踏破しても財宝があるわけでもないから、内輪もめもありませんし」


 そうかなあ……。そうなのかなあ……。

 わからない。

 でも、僕らだけで「63番ルート」を踏破するのは無理っぽいってことはよくわかった。


「あの……なんでプライアさんも『63番ルート』を踏破したいんですか? ないんですよね、財宝。ゲオルグさんもどうして僕に再踏破を依頼したのか不思議だったんです」

「ゲオルグは理由を言わなかったのですか? そうですか……簡単なことではあります。ゲオルグは『63番ルート』を確かに踏破しました。ですが、“再現性”がないのです」


「再現性」というのは「一度誰かが踏破したあとに他の者も踏破できるか」ということだ。

 たいていの遺跡は、最奥の部屋に、外へとつながる別ルートが存在する。それがないと遺跡を造った本人も外へ出るのが大変だからね。

 遺跡を踏破すれば最奥の部屋で別ルートを発見できる。その別ルートを教えることで、他の人間も最奥へ行くことができる――“再現性”がある、ということだ。


 問題は「青海溝」だけど「63番ルート」は元はと言えばただの炭鉱だ。

 外へとつながるショートカットなんてない。

 だから“再現性”を求めるなら他の人間も同じようにイチから踏破しなくちゃいけない。


「ゲオルグさんは僕に、踏破の証明をして欲しいってことなんですかね。あれ? でもさっきプライアさん、『確かに踏破した』って言ってましたよね。確証があるんですか」

「『63番ルート』の最奥にあった、いくつかの設計図をゲオルグが持ち帰ったからです。炭鉱に関する施設の設計図です」


 海底炭鉱は、かつての時代にあり、現代にはないという失われし技術(ロストテクノロジー)によって運用されていたらしい。

 その設計図は、かつての技術を知る術として高値で取引される。


「他のルートから採取された資料に『63番の設計室に設計図を格納した』との記述がありましたからね。ゲオルグが『63番ルート』の最奥にたどり着いたことは間違いないでしょう」

「なるほど……。彼は正面突破で最奥にたどり着いたんですか?」


 だとしたら竜を倒したんだろうか。竜種の中でも上位竜である王海竜を。


「いえ……違います。彼にパーティーはありません。たったひとりで遺跡に挑むのです」


 とんでもない答えが返ってきた。


「ひ、ひとりぃ!?」

「ゲオルグの羽織っている毛皮を見ましたか?」

「……白い毛皮ですよね。マントみたいな」

「あれはマジックアイテムです。雪豹の幻影(スノー・ファントム)と呼ばれ、発動させるとその者の気配を遮断し、ニオイをなくすというものです。足音にさえ気をつければ誰にも気づかれず最奥まで行くことができるというアイテム」

「ひぇー……」


 ぶっ壊れ性能だなあ、それ……。


「ゆえに、ゲオルグはパーティーを組みません。そしてマジックトラップがあるダンジョンにも潜りません。『青海溝』はゲオルグにとって好都合の遺跡だったというわけです」


 そりゃそうだ。

 王海竜がいても、向こうがこっちに気づかないなら怖くないもんね。


「……でも、プライアさんの理由は? どうして『63番ルート』に? ゲオルグさんに頼まれたから?」

「彼は私には頼みませんでした」

「あれ、そうなんですか」

「彼はわかっていたんでしょう、私には言う必要がないと。私なら“言わなくても勝手に挑戦する”だろうと」

「勝手に挑戦する……?」


 プライアはにっこりと笑った。

 春になって不意に咲いた、一輪の花のようだった。


「どうして私が『63番ルート』に挑戦するのか? 利益も名誉もないのに……。答えは簡単です。悔しいからです。先に、ゲオルグに踏破されてしまった。『青海溝』は私が誰よりも詳しいと思っていたんです。『63番ルート』を最初に踏破するのは私だと思っていました。思い上がりもいいところです……過信していたんです。1日経てば1日分、彼に後れを取っているんです。悔しさは募る一方で、毎日が苦しいんですよ。だから『63番ルート』に挑戦したい――」


 そうして彼女は改めて僕に申し入れた。


「ノロットさん。私のパーティーだけでは力不足です。お願いします。協力して『63番ルート』を踏破しませんか」


 僕が拒否する理由はなにひとつなかった。


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