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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第4章 3人のダイヤモンドグレード
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52 プライア(1)

 エリーゼが欲しい、と言ったゲオルグに僕は胡乱な目を向けて、当のエリーゼはまんざらでもないように「まあ」とか言って口元を隠し、リンゴは小さく手を握りしめてガッツポーズをした。


「えー、でもぉ、あたしそういう誘いに簡単に乗る女じゃないっていうかぁ」


 エリーゼがうれしそうに僕の腕に手を添える。


「ご主人様、決まりですね!」


 僕の耳元で興奮気味にリンゴがささやく。


「そ……そうだね、うん、まあ」

「なんだ、いいのか? ではエリーゼをもらおう」

「………………へっ!? ちょっとノロット? ちょっとちょっと、じょ、冗談だよね? あたしがいなくなったら寂しいよね?」

「えっと寂しいとかはない、かな」

「え……」


 すっ、とエリーゼの顔から血の気が引く。本気? ウソだよね? と目で言ってくる。


「なら決まりだな。エリーゼを置いてお前らは出て行け」

「ええと、違います」

「あ?」

「僕は冒険者ですからね。『63番ルート』、踏破してきましょう」


 ゲオルグだけでなく、リンゴも驚いていた。

 一番驚いたのはエリーゼかもしれない。ていうか驚くんかーい。驚くくらいならまんざらでもない態度取らないでよ。




 セバスチャンからマップを受け取って僕らは部屋を出た。


「あ、あれでよかったの? ノロット……それにモラも」

「おォ、俺っちは構わねェぞ。どのみちこの町じゃァ、『魔女の羅針盤』を入手してから遺跡に潜る予定だったしな」


 モラがマントの中でもぞもぞしながら言った。

 その予定はあったけど、伝説級遺跡に潜るつもりはもちろんなかった。


「でもノロットは、あたしがいなくなっても寂しくないみたいに言ってた」

「あー、うん。僕、両親が誰かも知らないし、兄弟もいないから。あんまり寂しいって感覚がわからないんだよね」

「えええ!? そんな理由?」

「そうだよ?」

「……ひどい。あたしのことなんてどうでもいいのかと思った」


 むしろ信用ないな、僕が。


「さっきは、エリーゼのおかげでいろいろ助かっちゃったし。グレイトフォールに来るまでの間、治癒魔法の練習もずっとしてたよね? そんな人を置いていったらさすがに寝覚めが悪いよ」

「う。バレてたの……? 恥ずかしいんだけど」


 バレバレだって。

 他の乗客に治癒術師を探してはしきりに話しかけに言って、呪文を必死に覚えてたじゃないか。

 自分でわざと転んで擦り傷作って治癒魔法をかけていたんだよね。

 自作自演というヤツだ。


「だから、エリーゼ自身が望むならまだしも、僕が勝手にエリーゼの未来を決めるようなことはしないよ。大体エリーゼだって断るでしょ、僕が勝手に決めたら」

「……わかんないよ」


 あれ? 断らないの?


「ノロットが、あたしといっしょにいたくないと望んでるなら……あたしはいっしょにいられないよ。一度好きになった人に、冷たくされるのは、つらいよ」

「あ……う、すみません。そういうつもりはなかったんだけど」


 面と向かって「好き」とか言われると困る。こちとら女性経験皆無の15歳冒険者なのだ。


「ご主人様。こういう態度を女が取る場合、あらかじめ印象づけておいていざというとき相手に決断させないようにしているのです。予防線の張っているのです。言いづらい場合はわたくしが言います。お任せください」

「オートマトンは黙っててくれる?」

「黙りませんよ? ノロット様のおそばにいる者の務めですから」

「あらそう? ノロットがタキシード着た姿、かっこよかったなぁ~」

「くっ」


 オークション会場のことは、確かにエリーゼしか知らないからね。

 ……いやいやリンゴさん、恨めしげにこっちを見ないでください。


「ご主人様。今後は様々な晴れの舞台が予想されます。この町でひとつ、公の場で着るようなお召し物を購入されては……」

「イヤです。僕はもう着ないよ、着たくないよ、あんなの」

「しかし……」

「イヤです」

「しかし……」

「ずいぶん食い下がるね!?」

「おィ、お前ェらのんきにそんなこと話してる場合じゃァねェ。『63番ルート』について情報を仕入れなきゃなんねェンだぞ。それも超特急だ」


 そうだった。

 ゲオルグの出した条件は「63番ルート」を攻略すること――“2週間以内に”。

 ゲオルグに言わせると最短距離を進んでも踏破に4日程度かかるらしい。何度も遺跡に潜り、少しずつ踏破を進めたゲオルグでそうなのだから、僕らが初見で行くとなれば1週間はかかるだろう。

 となると、グレイトフォールでの事前調査は1週間程度しかかけられない。


「ていうかさ、そもそもおかしいんだよね。どうして僕らがもう一度踏破しなくちゃいけないのか」

「どんな遺跡かもまだわかりませんし、ゲオルグというあの男がどのように踏破したのかも教えてくれませんでしたね」

「あの男、いけ好かないんだよねー」


 あれ、その“いけ好かない男”に誘われてちょっと喜んでませんでしたっけ、エリーゼさん?


 とか話しながらホテルのエントランスに戻ると、ホテルマンのひとりがこちらへやってきた。


「ノロット様でいらっしゃいますか? ホテルのラウンジで、ノロット様にお越しいただきたいという方がいらっしゃって……」

「……誰がですか?」

「プライア様です」


 今日はほんとうに、ダイヤモンドグレードの冒険者に縁がある日らしい。




「ノロット様、こちらです」


 そう言って手を挙げたプライアは、優雅に座っていた。


 美しい……。

 エルフは美形が多いというけど、プライアは抜きんでている。だって彼女のおつきもエルフが1人いるんだけど、それよりずっとキレイだもの。

 混じりけナシの金髪は店内の明かりに照らされて妖しく輝き、額の下の柔らかくカーブを描く眉も同じ色だ。

 瞳はエメラルドグリーン。宝石をはめ込んでもこれほど美しくはないだろう。

 きめの細かな肌。控えめながらも完璧に整った唇。

 信じられない。作り物めいた雰囲気さえある。


 こっちのリンゴも負けずに美人だけどね。プライアのおつきは10人くらいいたけど、リンゴを見た瞬間、身なりを整えたからね。

 ただ美形といっても方向性が違う。

 リンゴは取っつきにくい美人。「高嶺の花」というか、「孤高の変態」というか。

 プライアは温かく包容力のある美しさだ。エルフって線が細いのに、包容力を感じる。不思議だ。


「ご主人様、今なにかわたくしの悪いところを心に思い浮かべませんでしたか?」


 言い替えよう。「勘のいい変態」だ。


「遅い時間に、申し訳ありません」


 時刻は夜の11時を回っている。

 オークションやってゲオルグに会ってとかやってたんだもん、それくらいにはなるよね。

 ラウンジに人影はほとんどない。


「あの……なにかご用ですか」

「用がなければ、お声をかけてはいけませんか?」

「えっ!? あ、い、いや大丈夫ですけど……」

「なんて、冗談です」


 くすくすと笑う。なにこのエルフ。死ぬほどカワイイんですけど。


 ひょっとしたら僕と同じくらいの年齢なんだろうか?

 あー、いや、でもエルフって確か長命なんだよね。見た目は若いけどエリーゼより全然年上ってこともありうる。


「ノロット様は、『魔女の羅針盤』がご入り用なのですか」

「そうですね……やっぱりプライアさん――プライア様にもわかりますか?」

「わたくしのことは“様”などと呼ばれなくて結構ですよ」

「それじゃあ、僕のほうも」

「わかりました。――そうですね。ノロット“さん”があれだけの金額を払ってでも必要とされていることは、あの場にいた誰でも理解したと思います」

「『魔女の羅針盤』ってそんなに希少なものじゃないって思ってたんですけど、探してみると全然見つからなくて」

「材料となる『悪魔の心臓』が近年少ないと聞いています。悪魔系モンスターの数が少ない周期に当たるためですね。次に増えるのは10年後でしょう」


 そんな周期があったのか。

 10年後……。

 遠いなあ。まあ、モラのカエル歴700年にくらべたら短いけど。


「プライアさん、ひょっとして『魔女の羅針盤』のありかに心当たりが?」

「いえ、それは残念ながらわかりませんね」

「そうですか……ではどうして僕を呼んだのでしょう? まさか、冒険者同士の懇親会ってわけじゃないですよね」

「それも楽しそうですが、ご推察の通り別の用事があります。ノロット様は今、ゲオルグと会われていましたよね」


 隠すこともないだろうし、僕はうなずいた。


「『63番ルート』の踏破を依頼された。違いますか?」

「そうです。よくわかりましたね」

「ええ……この数日は『63番ルート』の話題で持ちきりですから、グレイトフォールは」


 そりゃそうだよね。「黄金の煉獄門」を踏破後のストームゲートだってずっとその話題ばっかりだったし。


「ノロットさん、ひとつ私から提案があります」

「提案?」


 プライアは整った表情を引き締めた。


「私と手を組みませんか。力を合わせ、ともに『63番ルート』を踏破しましょう」


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