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トレジャーハントに必要な、たった1つのきらめく才能  作者: 三上康明
第4章 3人のダイヤモンドグレード

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51 ゲオルグ

 最高級のホテルだった。

 そのホテルに出入りしているのは上級貴族とすこぶる儲かってそうな商人くらいしかいないんだもの。

 ゲオルグはやっぱお金持ちなんだね。

 僕に勝つためだけに5,000万ゴルド払ったんだから当然か……。

 や、もしかしたら彼も魔女を探していて「魔女の羅針盤」がどうしても欲しかったとか?


 ないなー。ないない。

 僕だってモラみたいな境遇にならなきゃ「魔女の羅針盤」なんてものの使い道、思いつかないもの。


 僕ら一行は——僕は当然タキシードじゃなく旅装に着替えているわけで——ホテルのフロントに不審者扱いされながらもようやくゲオルグの部屋まで案内された。


「来たか」


 これまた室内も贅を尽くしたものでございました。

 シャンデリアに絨毯。アンティークっぽい巨大なテーブルには大量の花が活けてある。


 ソファにどっかと腰掛けているゲオルグは、その部屋のきらびやかさにも負けてない。

 マントみたいな毛皮をここでも背負っている。白い毛皮……なんの動物だろ。

 その下はシャツしか着てないけど、パッと見るだけでわかるくらい高価そうな布地だ。


 彫りの深い顔。

 射貫くような目。

 よく見ると右の唇に傷痕がある。


 髪は短く刈り込んでいてくせっ毛なのか暴れている。

 精悍な顔つき、引き締まった身体。

 冒険者っていうより、歴戦の猛者って感じがするけど……。


「ぞろぞろ引き連れてくるとはな」

「ひとりで来いとは書いてなかったので」

「ふん。座れ」


 王様みたいな態度だった。

 とりあえずゲオルグの意図がわからないのでこちらも警戒して座る。

 モラはマントの中だし、エリーゼは僕の隣、リンゴはソファの背後に立った。

 なにかあったらモラは最大の魔法を放つからその隙に逃げろって言ってた。

 “なにか”、ってなんだよ……。

 不安になる。


 逆にゲオルグの座るソファの裏手には、執事みたいな人が直立不動していた。

 オークション会場で金貨を持ってた人だ。


 しかし、まあ……正面に座ると、ゲオルグの迫力がすごい。

 オーラが出てる。

 ああ、こういうのが一流の冒険者ってやつなのかな。


 パチン、とゲオルグが指を鳴らした。

 すると執事が盆に載せてあるものを持ってくる——。


「魔女の羅針盤でございます」


 羅針盤というものがある。東西南北を針が指してくれるというアレだ。

 これも見た目は同じ。

 手のひらサイズより二回りくらい大きい。

 半球のガラスがかぶせられていて、中には針が浮いている。


 でも——存在感が違う。

 禍々しい気配が漂っている。

 針は一方向を指さず、あっちを指してはこっち、とふらふらしている。まだ指すべき魔女を指定していないからだ。


「お前に頼みたいことがある」


 僕らの視線が「魔女の羅針盤」に釘付けになっていると、ゲオルグがいきなり切り出した。


「達成すればこいつを——『魔女の羅針盤』をくれてやる」


 僕は息を呑んだ。

 この人、自分の言ってることがわかっているんだろうか?

 5,000万ゴルドだよね? さっき払ったんだよね? 10人以上の生涯賃金をあわせた金額だよ? それを「依頼を達成すればくれてやる」?


「……どうも話がうますぎるように感じます」

「黙れ」


 ひぇっ。

 精一杯の僕の抵抗を「黙れ」一言で斬って捨てられた。


 ……と思ったら僕の背後から殺気が発せられる。

 リンゴさん? ケンカ売らないでくださいよ? ゲオルグの目の前にいるの僕だからね? 向こうが動いたらまず真っ先に僕がやられるからね?


 ……とか思ってたら向こうの執事からも殺気が発せられる。

 ただ者じゃない物腰だ。

 メイドvs執事。

 止めて!

 争いはなにも生まないよ!


「黙れじゃないわよ。アンタの言うことが、うさんくさいのが悪いんでしょ」


 ひょあー! エリーゼさん、いきなりぶっ込まないでよ!

 ちらとリンゴを見ると、「お前にしてはよく言った」みたいな顔してる。そういうところで結託しないで。


「……なるほど? お前みたいな小さいガキがダイヤモンドグレードなんてなにかの間違いかと思ったが、パーティーメンバーに恵まれたようだな」


 余計なお世話です。

 小さくないですしね。

 ガキじゃないですしね。15歳だもの。


「だが言っておく。魔女の羅針盤を持っているのは俺だ。発言を許可するのも、俺だということだ」

「それはまあ……そうですね。依頼の内容、聞くだけ聞きますよ」

「黙れ」


 ひぇっ。




「俺の依頼はひとつだけだ。『63番ルート』を踏破してこい」




 ……え? それってあなたが踏破したんじゃあないんですかい?

 と思っているとゲオルグは勝手に話し出した。


「ここに俺がマッピングしたものの、複製がある」


 執事みたいな人が紙を持ってくる。

 テーブルに広げると、美しく描かれたマップだった。


 広い……それに、長い。


「こちらは複製でございます。ゲオルグ様の描かれた原本はさらに美しい仕上がりとなっております」


 マジかよ。マッピングって遺跡の中で描くからふつう走り書きになるんじゃないの?


「セバスチャン、余計なことを言うな」

「はっ。失礼いたしました」


 マジかよ。執事さん、セバスチャンって言うんだ。ザ・執事ネーム。


「…………」


 僕は依頼を受けるべきか迷う。

 だって、そんなにうまい話ってある?「63番ルート」のマップがある。でもってすでに踏破した人間がいる。同じルートをたどって踏破してこいという。

 それだけで5,000万ゴルドを支払った「魔女の羅針盤」をくれるというんだ。

 市場価値はその1/100だけど。


「断っても構わん。であれば、このアイテムが手に入らんだけだ。ああ、そうだな……あるいはそっちの女と交換でもいいぞ。俺は美しい女には目がない」


 なっ……。

 リンゴと交換にするだって?


「なんという名だ? ああ、そうか——言っていたな。確かエリーゼと」


 ダメだ。リンゴは渡せない!


「……え?」


 エリーゼ?


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